戦乱の世の中において和平は長くは続かない。
どの国も表や裏で生き残るためにぶつかりあっていた。
裏切りは日常茶飯事。一国が消えるだけで戦況は大きく変化する。

「戦じゃ・・・」
「折角この国も平和になると思っていたのに・・・」
「皇子と姫の結婚があと少し早かったなら・・・」
「死にたくない奴は逃げろっ!大軍が通るぞ!」

黒いローブを羽織った青年がのんびりと歩いていた。

「そこの黒い兄ちゃんも早く・・・」

そういった村民は青年に違和感を感じた。
全身黒を纏っていて、髪も瞳も黒い。肌だけが異様に白かった。

「あぁ、お構いなく・・・。
・・・貴方もお気をつけて・・・」

そういって青年は馬の行軍の中へ消えていった。
数時間後、そこに残ったのは荒れた土地と落馬したらしい兵士が一人・・・


死神に出会った騎士


各地で勝鬨が上がる。
血と涙が流れ、誇りと命をかけた戦いが連鎖的に続いていく。
誰もが名誉を勝ち取るため敵に向かっていった。
その戦場に不釣り合いな青年が歩いていた。
黒い髪に黒井瞳、黒いローブを纏い、ただ肌だけが白い。
あまりにも異様な光景にある者は目を止めて驚いた。
しかし、すぐに現実に戻っていく。
ある者は完全に存在を無視して通り過ぎていく。
稀にこの得体の知れない青年に刃を向けて来る者がいた。
青年に刃が触れる瞬間兵士の首に一閃が走る。
一瞬にして兵士の首が飛んだ。

「・・・愚か者が・・・。
私に刃を向けなければもう少しだけ長生きできたものを・・・」

青年は無表情に言い放ってまた歩き出した。
青年の手には大鎌があった。
血を吸い、それは日の光を浴び鈍く光っていた。


「・・・まだ落とせぬのかっ!」

砦の中に一喝が響いた。
伝令兵は身を縮ませた。

「しかし・・・味方への損害が・・・」
「私が落とせと言ったのだ。
・・・使えぬ・・・」

チッと総指揮をとる騎士は舌打ちをうった。
戦女神と呼ばれる彼女は眉目秀麗の美人であった。
誰もが見惚れるほどの美貌であるがその表情は常に険しい。
そして戦女神の名に違わぬ功績をあげている。
しかしその戦略は冷酷で、けして兵の為と思えるものではない。

戦の終わりの合図が告げられる。そろそろ日も傾いている。

「全軍撤収だ。夜に改めて軍議をする。全員に伝えろ」
「・・・畏れながら・・・」
「なんだ」
「謎の黒衣の男の目撃情報が報告されています」
「敵か?」
「・・・いえ・・・特に争う意志は見られないと・・・」
「間諜か・・・」
「間諜が・・・戦場のど真ん中に現れますでしょうか」

女騎士は少し目を細めたがそれだけだった。

「・・・意図は分からぬが・・・ほっておけ・・・」

そして砦の出口向かって歩き出した。

「・・・あのどちらへ・・・」
「少し休む」


有無を言わせず女騎士は戦場を後にした。
部屋に入ると思わずため息がもれた。
何故早く終わって欲しい戦に限って終らない。

「・・・忌々しい・・・」

この乱世では夢をみることもできないらしい。
そんな時代早く終わってしまえばいいのに・・・。
ふと窓に目をやった。

「・・・・。」
「・・・俺が見えるのか?」

部屋の主よりも主らしくそれは部屋に馴染んでいた。
あまりにも馴染みすぎて驚けなかった。

「・・・お前か・・・報告にあった黒衣の男というのは」
「・・・さぁ・・・?知らない」

女騎士は黒衣の青年をじっとみた。
顔は造形のように整っているが生気がない。
まるで人形のようだ。

「ここに来た目的はなんだ?私の命か?軍の情報か?」

女騎士は剣を抜き黒衣の青年に突き付けた。
青年は動じず短く答えた。

「お前の願いを叶えてやろう」

青年は初めてうっすら笑った。

「・・・願い・・・」

・・・一瞬だけ、望んではいけないものを望んでしまった。
その考えをすぐに消し去る。

「あるんだろう・・・?」
「・・・貴様何者だ」
「何者でもない。お前の敵でも味方でも・・・」

女騎士は怪訝そうな目をした。
敵でも味方でもないのが一番怪しい。

「だが願いは必ず叶える。
・・・男の元まで連れていって欲しいのだろう?」
「な・・・」

何故こいつがそんな事を・・・。
しかしこれ以上戦を長引かせる事も得策ではない。
叶えて貰えるなら利用してやろう。

・・・フン、と女騎士は鼻で笑った。

「お前、強いのか」
「強い」
「・・・ならば・・・明日の戦、私をあの男の元へ連れて行け」
「・・・誓約成立だ・・・」

黒衣の青年はその場から消えていった。


「明日の戦、小細工はなしだ。全軍敵本陣へ総攻撃をかける」

軍議の場は動揺した。
緻密な策を得意とする彼女が最もよしとはしない策である。
兵の数もこちらの方が多いし、愚策ではないわけだが・・・。
女騎士の視線に場はまたシンと静まる。

「異論は認めない。私も出る。
明日をこの戦に終止符を打つ。以上だ」

そういって女騎士は場を辞した。

「・・・おっ畏れながら・・・」

女騎士が部屋を出る前一人の兵士が頭を下げた。

「・・・本当に・・・よろしいのでしょうか・・・?」
「何がだ?異論は認めぬと言ったはずだ」
「しかし・・・」

兵士は伏し目がちに歯切れが悪い。言わんとする事はわかった。

「よい、・・・そんなもの今更何になる・・・」
「ですが・・・姫ッ」
「私をそのように呼ぶなっ!」

部屋の視線が彼女に集まる。
誰の視線をとっても言わんとすることは感じられた。
・・・そのような事言われなくても自分が一番分かっている。

この戦がどれほど理不尽で、意味のないものであることも。
そして、それをすることを許してくれた周囲の気持ちも。
女騎士はそのまま部屋を出て行った。

「・・・明日、全てを終わらせる・・・」
「全て・・・か」

いつの間にか黒衣の青年が背後にいた。

「・・・あぁ・・・最後だ・・・」

闇の向こうには明日の戦場が広がっている。
青年は薄く笑った。



翌日両軍戦場に並んだ。
どちらもそのままぶつかる気であろう。

「・・・さて私をどうやって向こうまで送る気だ?」

開戦を前に馬の上から女騎士は尋ねた。
黒衣の青年はその横にいる。

「戦場を真っ直ぐ突っ切る。ついて来るなら俺の後ろにいろ」
「わかった」

しばらくして開戦の合図が戦場に響いた。
両軍、中央に向かって走り出す。

「・・・では行くか」

青年は歩き出した。

「この中を進むのか」
「・・・あぁ・・・道は作る。ついて来い」

そういうと黒衣の青年は走り出した。
その速さは並の人間ではない。
女騎士は慌てて馬を蹴った。味方の前線まで来て青年は言った。

「止まれ」
「・・・?」

青年は敵の前線の前まで来て大鎌を出した。

「何をするつもりだ?」

敵もいきなり現れた青年に一瞬怯んだ。

「散れ」

青年は鎌を一閃した。
信じられない光景を見た。青年の前方遥か遠くまでの敵が吹っ飛んだ。

「・・・は?」

騒がしかった一瞬戦場がシンとなった。

「行くぞ。奴はあの砦にいるのか?」
「あ・・・うん」

戦場にぽっかりと開いた道を青年と女騎士は進みだした。

「・・・お前何者だ」
「何者でもない」

青年と並びながら馬を進める。人が群がってきたらまた鎌を振った。
その威力は異常である。
二人はただ敵本陣に真っ直ぐ向かっていった。



「・・・随分と派手に荒らされたな・・・。何者だ?バケモノ?」

敵側の総大将は年若い青年だった。
若くして戦に出て功績を上げているため周囲から注目されている人物である。
性格も明るく、誰にでも親しく接するので周囲からは慕われている。

「報告しますっ敵総大将が砦の前にっ」
「・・・は・・・?総大将・・・?」

戦は始まったばかりだ。
周囲も味方で包囲されている。
その中に敵大将がいるなんて信じがたいことだが・・・。
青年がと砦の前を見ようと歩き出した時、思いきり砦を守る兵士が吹っ飛ばされた。

「・・・なっ」
「・・・ここで良いのか?」
「あぁ助かった」

突然の黒衣の青年と敵総大将の女騎士の登場に周囲は騒然とした。
青年も面食らった。
見た感じ、影武者でもなく多分本人だ。

「討ち取れぇ!」

多くの兵士が二人向かって走り出した。

「おい、待て、テメェらっ!!
迂闊に近寄ると・・・」

「頼む」
「あぁ」

女騎士の指示で大鎌が周囲に向けて振られた。
砦の中の兵士が一気に吹っ飛んだ。
やがて三人だけ砦に残る形となった。

「・・・なっ」
「さて・・・貴殿との一騎討ちを所望する」

馬から下り、女騎士は優雅に笑んだ。

「・・・お前・・・その後ろの奴・・・」
「・・・妬いたか?
貴様より遥かに使えるぞ」

スラリと剣を抜いて言った。

「私はあまり待てる方ではないのでな・・・受けるか否か・・・。
返答がなければ強制的に消すことになる」

総大将の青年ははぁ・・・と短い息を吐いた。

「どうしてお前はそうせっかちなんだ。
どうせならもっと戦を楽しもうぜ。
っていうか俺の生きる道があんたを倒す以外にはないわけ?」
「その通りだ。
貴様を倒すためだけに時間も兵も割いてはいれないからな・・・」

青年はしぶしぶ剣を抜いた。
二人は剣を構える。

「そんなに焦らなくても俺がいつかあんたを解放してやるよ。
もう少し待てっろ。
それにもう戦場に出るな。・・・あんたの居場所じゃない」
「・・・待つ?何百年まてば良いというのだ冗談じゃない。
・・・私のためになりたいのならば私に殺されろ・・・解放される」

二人の距離が一瞬にしてつまる。
素早い剣戯が繰り出された。

「・・・へぇ・・・強くなったな」
「貴様のお陰だ、感謝しよう」

・・・こいつを殺せば・・・夢から解放される。
迷いは・・・ない。
青年騎士の一瞬の隙をみて女騎士は彼の胸に剣を渾身の力で突き立てた。
生ぬるい血が掛かる。

「・・・これで悪夢が終わる・・・」

・・・だが、別の悪夢の始まりだ。

「・・・」

青年が女騎士の名前を紡ぐ。

「これで満足か?」
「・・・あぁ」

静観していた黒位の青年が歩いてきた。

「ではその命俺が頂こう」
「好きにしろ・・・死神」

黒衣の青年はニヤッと笑った。
・・・予想よりも遥かにつまらなかったが・・・

大鎌を女騎士の首にあてる。
その時、倒れた青年騎士がニヤっと笑んだ。

「・・・テメェに・・・こいつはやらねぇよ・・・。こいつは・・・俺のだ」
「・・・っ」

女騎士が地面に膝をついた。
体が動かない。

「・・・俺も総大将だ。
いくら好きな女のためとはいえ国までやるわけにはいかなくてな・・・かなり卑怯だが毒を使わせてもらった・・・」

初めて首に微かな痛みを感じる。

「・・・貴様・・・っ、どこまで私を・・・」
「お前に・・・悪夢は見させねぇ・・・」

女騎士は前方に倒れた。
息絶えた二人を見下ろして死神は舌打ちをした。
初めて目をつけた魂を取り逃がした。

「・・・姫っ」
「隊長・・・っ!」

やっと両軍の兵士達が砦に集まり始めた。
違いの総大将が死んだのだ。戦どころでは無い。
死神は興味なさ気に砦を後にした。
死神を呼び止める者はいなかった。


二人の死をもって両国は同盟国となった。
それは戦から三日たった日のこと。



ーあとがきー

ン回目の誕生日おめでとう。倖呼!!
君のために書いたはいいけど完全に私の好みの話になってしまったよ。ごめん!
(後悔はしているが反省はしていない)

来年こそはグッと来るものを書いてあげたいと思います。
また地元に帰って来たら連絡ください。うどん食べませう(ぉ)

2007.11.11 月城チアキ

本当君は奇跡的な日に生まれてるから奇跡的に誕生日覚えてるんだ。

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