悲しそうに外を見ていた少女
塀の上を歩いていた自分に微笑みかけてくれた

それが、出会い


死神と出会った猫


そろそろ木から葉が消える時期。
また一つはらりと木から葉が落ちた。
公園のベンチには誰も座っていないように見えた。
しかし、良く見れば黒衣をまとった青年が座っていた。
何をするわけでもなく、何を考えているわけでもなく
ただ、その黒い瞳は遠くを眺めていた。

ふと青年の視界に一匹の猫が入った。
彼と同じ黒い毛皮をまとった猫。
公園で遊んでいる子供から避けられ、時にはいじめられ
今日は、誰もいないのでどうどうと真ん中を歩けれる。
どこからか視線を感じた。
その猫の動きが止まる。
視線はある一方向を向き、じっと見つめる。
青年も猫に視線を移す。


間。


青年は薄く笑ってかがみ、猫を招くように人差し指を動かした。

「俺が見えるのか?」

猫は鳴きもせずただ、青年の方に近寄った。
そして、青年の前に座る。

端から見れば主人と使い魔。
青年はまたベンチの背もたれに寄りかかる。
そして猫を見下ろした。

「・・・面白い。
殺したい奴を言え、殺してやる」

猫は無言で方向転換し、公園の入り口まで歩いていった。
青年もそれについていく。

久しぶりの仕事のようだ。

豪勢な住宅街を一匹の黒猫が歩く。
人々は気味悪がって近づこうとはしなかった。
自然と黒猫を避け、真ん中に道が開く。
猫は、慣れた様子でその真ん中をあるいていった。

青年もそれに続く。
人通りも薄れてきた。
ここの奥にはここらで一番金持ちの家がある。
その敷地は広く、豪華さを見せびらかしているように無駄なオブジェが並んでいる。


「・・・・あっ・・・・」

その人通りのない道に、白いワンピースを着た女の子が歩いていた。
髪の毛は色素の薄い金髪で長い。少し癖があるがそれはそれで似合っている。
肌も白い。まるで太陽の前に出たことがないみたいに。

彼女は猫を見て嬉しそうに笑う。
猫もその子を見つけると駆け足で彼女に近寄る。
彼女はしゃがんで猫を撫でた。
猫も嬉しそうに喉を鳴らす。

青年は黙ってそれを見ていた。
少女がふと前を見る。
でもまた視線を猫に戻した。

奥のほうから誰がが呼んでいるような声が聞こえた。
少女は肩をビクッと震わせそして急いで猫から離れる。
別れに手を振って少女は早足で戻っていった。
猫の背中が少し悲しく見えた。


その日から彼女の周りで異変か起きた。

始めは、長い間自分の教育係として付き添っていた男だった。
とにかく厳しい人だった。
どうせ外にも出られないから勉強なんてしたって無意味だと思うし、この部屋からほとんど出ないのだから礼儀作法なんかも無意味である。
そういっても、少しの間違いだって許してはくれなかった。
『将来のため』が口癖だった。
でも、自分でも知っている。将来なんてないことを。
だから嫌いだった。

今日はいつもと違う人が起こしに来てくれ、一日中自分の世話をしてくれた。
彼は?と問うと、身内に不幸がありまして。と皆そろって言葉を濁した。
それから、彼の姿は見ていない。


次に医者だった。
私は、生まれつき体が弱かった。
だからずっと同じ医者に見てもらっていた。
外出の許可をくれなかった。いつ病気が治るのかも教えてくれなかった。
私は歩けるのに、走れるのに。
考えられるのに、物がかけるのに。
普通の人と全く同じなのに外出許可は出なかった。
『もし、外で倒れでもしたらどうするのです?私は貴方の体が心配で・・・』

嘘吐け。

そんなこと思ってもいないことくらい知っていた。
私なんか死ねば良いのに・・・。どうせこの十数年間そう思いつづけてきたのだろう?
今日は新しい医者が来た。
私は思いきって外出許可を求めた。
彼は私にこう行った。

『家の庭くらいなら出ても良いでしょう。でも辛くなったらすぐに休む事。』

ほら、外に出ても大丈夫じゃない。
既にもう何度も秘密で外に出ているのだから、そんなことは知っていたのだが。


次に父親だった。
朝から家は騒々しかった。
家人がなにも言わずとも雰囲気と嫌でも彼らの会話の中から聞こえてくる。
父が死んだらしい。

外出許可を得た私は、少しずつ家の中を歩いて回っていた。
十数年間もこの家に住んでいるのに、ほとんど何がどこにあるかなんて知らなかった。
だから少しずつ覚えていくようにしている。
すれ違う家人達は皆暗いような顔をしていた。私の前では無理に笑顔を作っているがバレバレだ。
いつも厳しい母は狂ったように泣き叫んでいた。
この家は、父のビジネスが成功し、ここまで裕福な家になったのだ。
彼がいないのならば、後は朽ちていくのをみるだけであろう。

父はあまり家には帰ってこなかった。更に私にもあまり会いに来なかった。
小さい頃誕生日は両親と一緒に過ごしたい。と我が侭を言った事がある。
父に『ふざけるな』と怒られた。あれほど怖い経験をしたのは今までで始めてだった。
それから彼には何も言わなくなったし、さらに昔より自分を訪ねてくる回数も減った。

どうせ家族よりも仕事の人だ。
年に一度の誕生日には大金を贈ってきたらしい。
私の目に入るわけでもなく、教育係からそれを聞いた。
嬉しくともなんともなかった。
父が死んだ事に全く悲しみはなかった。
私の中では生きていても死んでいても他人同然だったから。


次は母親だった。
父が死んだことにより彼女は大変狂い出していた。
私が物心ついたときから父とは仲があまりよろしくなかったらしい。
母は父の財産目当てでこの家にきたみたいだ。
とりあえず、離婚は避けるために彼女は私を表面上で可愛がり、最高の教育をさせた。
父とは違い毎日顔を見せに来てくれたし、出来る限りの我が侭も聞いてくれた。
でも、そんな彼女の笑顔は・・・・

小さい頃部屋にいるのがたまらずこっそり抜け出した時がある。
その時偶然彼女の部屋の前を通りすぎた。
彼女の声が聞こえる。

『あぁ、あの子は金と私をつなぐものなの。
あの子が死んだら私は用無しよ。直ぐに離婚させられてまた苦しい生活に逆戻り。
だから、なんとしてでも生きていてもらわなくちゃいけないの。
あの人に私がなにもしてないみたいに、ちくられないようにいっつも会いに行って、笑顔で会話してあげているのよ?
偉いと思わない?』
『・・・・・・・・』

その日から彼女の笑顔は偽者になった。
だから心の底では嫌っていた。それも知らずに、彼女は私に笑いかけてくる。
私が生きていないと彼女は困るらしい。
そんな事は知ったことじゃない。
私は、我が侭を言うのを止めた。

彼女は消えた。
父と言う金づるが無くなったから逃げたのか、それは知らない。

『家族』と呼べる人はいなくなった。

今後は私の世話は家人が続けてくれるらしい。
金を管理している人が慈善でこの家に残ってくれた。
またこの家には大金が残っていた。
私は、自分が死ぬまで自分の世話をして欲しい事と、自分が死んだらその金は世界中の貧しい人のために使ってくれ。と頼んだ。
人の良い家人達は頷いた。
これが偽者の頷きであっても知らない。
私が死んだら勝手にしてくれ。それが今の思いだった。

人間とは裏表があり、付き合いは難しい生き物だ。
それに対して動物は良い。
最近猫と友達になった。不吉だともいわれる黒い猫。
私は別に嫌いじゃなかった。

こんな身近な人が次々いなくなってもあまり気落ちしないのはこの猫のおかげかもしれない。
自分の唯一の癒しの存在である。
名前は黒いから『クロ』と名づけた。安易だが悪くは無いだろう。
もう五月蝿く言う教育係もいない。
どうどうとクロを部屋に招く。

幸せだった。

その夜は多分今までで一番楽しかった夜かもしれない。
明日は家人に頼んでクロの餌や家を用意してもらおう。
とりあえず、今日は自分のベッドの上で寝かせた。
これからクロと一緒の生活の事を思うと楽しくてしょうがない。

「・・・・・あれ?」

塀の上、丁度始めてクロと出会った場所に黒衣を纏った青年がいるのに気づいた。
私はそこを凝視する。

誰なんだろう?泥棒かしら・・・・

しかし彼はなにもするわけでもなく塀の上に座って、ただ遠くを見ていた。
別に泥棒が入ったってしばらくこの家で暮らしていけるだけの余裕はあるだろう。
庭のオブジェを売ればたちまち遊んで暮らせる額になる。

彼女はベッドに入る。
そして電気を消した。

彼女はもう目を開ける事はなかった。


翌日、家人は皆黒衣を纏って葬儀に参列していた。
その中には黒猫もいた。
この家の主人達はもういなくなった。
近所では『何かの呪いであろう』と噂になっていた。
当たり前であろう、主人達とそれに使える家人2名が亡くなったのだから。

青年は昨日と変わらぬ塀の上でその様子を無感動な目で眺めていた。
そろそろこの物語も終わるだろう。
ふと先ほどまで参列している人ごみの中にいた猫が塀伝いにこちらに向かって歩いてきていた。
こちらを睨んでいた。
威嚇もしていた。

今にも飛び掛りそうだ。
青年はそれでも無表情だった。
まるで猫には興味がないようだ。

・・・・何故、少女を殺した・・・・

猫はそういっているようだった。
だから青年は答えてやった。

「・・・・俺は死ぬ間際の奴には興味がない。
お前についていけば面白そうだったのでついていった。それだけだ?
彼女を殺ったのは俺ではない。
あれはただの寿命だ」

今まで猫の言う通りに、教育係、医者、父親、母親・・・・と殺していった。
猫もやっと愛する少女の元に辿りついた。
しかし、時は遅く彼女は死んでしまった。

「・・・俺を恨んでも仕方ない。
それはもう決まっていた事だ・・・・」

少女を乗せた霊柩車が門を出ていこうとする。
猫はそれをみて走り出した。

多分、猫とはもうお別れだろう。
青年は立ちあがって、塀の上からその様子を見ていた。

彼女を乗せた霊柩車は走っていく。
そして、突然急ブレーキを踏んで止まった。

キキィーと言う急ブレーキ音と共に微かにドンと鈍い音が混じる。


周りでざわめきが起きた。
霊柩車の前には血を流して倒れている黒猫が横たわっていた。

青年はそれを見届けて、塀から降りた。
彼が見えるものはいない。
人ごみの中をすり抜けて彼は歩いていく。

・・・・次は何をして楽しもうか。

青年に名はない。
しかし、人間達は自分の事をこう呼ぶ。
『死神』と。

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