死神と出会った子供


そこは山に囲まれた深い谷にある街だった。
街の周りを囲むのは傾斜の急な丘。まるで大きな壁に囲まれているようだ。
そんな丘に囲まれた街はどこか異様な物があった。
無意味に目立つ金を基調とした豪華で大きな邸、それを囲むようにある、崩れかかった民家。
極端な光景を作り、広がるその街には近寄りがたい雰囲気が立ちこめていた。

青年はその街の中を平然と歩いていた。
どうやらこういうところをスラムというらしい。
路上の至るところにゴミが散乱していた。中には死体もあったかもしれない。
それはもう区別もつかないほど所々に積もっていた。
鼻につく嫌な腐臭はとうになれてしまった。
ある者は路上に倒れ、ある者は焦点の合っていない目でその辺をさ迷い歩いている。
そこにある光景は亡者の住処と言うに相応しい。
遠くから喧騒や、子供の泣き声が聞こえる。時には銃声も悲鳴も聞こえた。

彼らの着ている服は破れて原型をとどめていないものが多かった。
そして、彼らは異様なくらい痩せていた。

彼らに比べ、青年は綺麗な服を着ていたし、痩せ型ではあったが彼らみたいに極端なものではない。
明らかに青年はその場で浮いていた。
黒髪、黒い瞳、黒いコート。
世間一般にその服装は人の中にいると浮いている。
しかし、異様にこの空間にはしっくりとあっていた。
浮くことには変わりないが。

青年は変わらない歩調で歩き続ける。
ある者は、青年に手を伸ばして助けを請うた。
しかし、青年は目もくれず歩みを進めた。
ある者は、ナイフを片手に青年に襲いかかってきた。
しかし、青年はその刃をかわしそのまま歩みを進めた。
その者はその場に倒れこんで動かなくなった。
その者のナイフを誰かが奪った。そして、動かなくなった男を刺してどこかに消えた。

彼は立ち止まりもせず歩き続けた。
うめき声が耐えず聞こえるその空間に異様な空気を散らして。

街の中心に来てもその光景は変わらなかった。
目の前には広く開けた土地と教会だったものがあった。
白い教会の壁には紅い染みが沢山残っていた。
入り口の扉は既になく、中はあらされていて、かつての面影はもうなかった。
半分がなくなった女神像が寂しくそこに立っている。

「・・・ねぇ」

青年の背後からまだ幼さの残る声がした。
その言葉に青年はこの街に入って初めて立ち止まった。
青年は口元に少し笑みを作った。しかしそれはまたすぐに戻され、無表情に戻る。
青年は後ろを振りかえった。
そこにいたのは六、七歳くらいの少年だった。
痩せ細っていたし、着ているものは周りにいるもの達と変わらないが、その瞳に写る意志の強さが印象的だった。

「・・・なんだ」
「あんた死神だろう」

風が吹き、二人の間を抜ける。青年の黒いコートが少し揺れた。

「・・・だったら?」

青年は肯定も否定もしなかった。
ただ、少年の言葉を聞く。

「全てを終わらせてくれ。
ここにいる人全員殺してくれよ。
出来るだろうっ!?」
「・・・・・」

青年は何も言わずまた歩き出した。
少年はその後をついていった。

「見れば分かるだろう?この街の酷さを。
ここに大人はもう自分の事しか考えてないっ。生きる為ならなんだってする。
ここの領主だって、自分の私腹を肥やす為に働ける者は全てこの土地でない山奥につれていって、死ぬまで働かせる。
そこの教会だって俺の小さい頃はまだ神父さん達がいて、守ってくれたんだ。
・・・・でもその人達も全て殺された」

その日から、この街は死んでいった。

「もう、生きている意味なんてないんだよっ。
だから全て終わらせてくれっ。
ここは・・・地獄だ」

青年は歩く速度を緩める事はなかった。
少年は何度も何度も青年に訴えかけた。
それでも青年は歩みを止めなかった。


ついに青年はその街を出て、草原の中を歩いて行った。
その先にあるのはどこまでも続く、少し急な斜面。

「どこ行くんだよ」
「・・・終わりを見に」
「・・・・終わり?」
「・・・あぁ、お前の願いは叶えよう」

初めてみた青年の微笑。
青年の顔は整っていてその笑みは美しかったが、うすら寒いものを少年は感じた。

「・・・本当に死神なのか?」
「あぁ、やはり子供だな。
見ただけで気づいた者は初めてだ。
・・・・面白い」
「どうやって殺すんだ?」
「・・・気になるか?
時期に分かる」

死神は丘を登っていった。この丘を登れば国境にでる。
そこを抜けられるものは一流の階級の者。
それ以外は殺される。
少年はそれを知っていた。
しかし、この死神の事が気になった。どのようにあの腐敗した街の者達を殺すのか興味があった。


丘の上までついた。
死神は歩みを止めて、向こうに見える、大きな山を見つめた。

「・・・・来る」
「・・・来る?
何が・・・・?」

少年が首を傾げた瞬間、どこからか地響きが起こった。
立つのも辛いような大きな地震。
少年は思わずしゃがみこんだ。死神はそれを苦とするわけでもなく平然とした顔で立っている。
死神の視線の先は既に山から、向こうの山と山の間にある谷に向けられた。
少年は自分の目を疑った。ありえない光景が目の前に広がる。
今自分の目に写っているものは現実なのか・・・・。

それはほんの数分の事だった。
土砂を含んだ、水が向こうの谷からこっちに向かって流れていた。
その流れはとどまる事を知らず、むしろ途中の木や岩を巻き込みますます大きくなっていく。
そして目の前を通過した瞬間、眼下に広がっていた街は一瞬にして消えた。

「・・・・・」

少年は息をするのも忘れて、その光景を呆然と眺めていた。
腐敗した街が、今大河に飲みこまれ、そして一瞬にして消えた。
あそこにいた者達で生き残っている者はいないだろう。
少年は無意識にがくがく震えていた。
自分が死神についてこなかったら今頃・・・・
考えただけでも寒気がした。

地震が起こって、何分が経っただろうか。
その場所が大きな湖になるまでそう時間はかからなかった。
二時間近くかけて登った丘ももうその高さは五分の一もないほどになっている。

死神はその光景を面白そうに見ていた。

「・・・お前がやったのか・・・」

少年はポツリと呟いた。

「いや、立派な自然現象だ。
向こうの山の奥では連日大雨が降り、そのせいで山の一部が崩されて向こう側に流れるはずの水がこちらにきた。
本当偶然とは時に素晴らしいものをみせてくれる」

死神は淡々と語った。

「・・・あんた何しにここに来た?」
「俺はこれが見たくてここまで来た」

酷いスラムがあるらしいのでそれも消える前に見ておこうと思った。
あまり、いいものではなかったけど。
そして茶色ににごった不気味に大きな湖。
一瞬にして街が飲みこまれるのは圧巻だった。これは長く生きていても中々お目にかかれないだろう。


しばらく湖を見ていた死神だが、踵を返してまた歩き出した。

「・・・おい、どこに行くんだよ」
「こんなところに用はない」
「ちょっと待てよ!
本当にあんたがやったんじゃないのか!?」

死神は歩みを止めた。

「あんたは・・・・っっ」
『脱国者め!!』

少年ははっとして声をした方を向いた。
次の瞬間、銃声が鳴り響いた。
死神が横を見るとそこには二人の警備員が銃を構えて立っていた。

「・・・全く油断も隙もない。偶然洪水には免れたようだったが残念だったな」

警備員達はそう言い残して去っていった。
少年はその場に倒れた。
胸から赤い血がどっと溢れていた。
死神は無表情で少年を見下ろしていた。

「・・・何で・・・あんただけ助かるんだよ」

あの警備員達には死神は見えていないようだった。

「いいことを教えてやろう。
死神が見える者は近いうちに死ぬんだ」

それは死神自ら手を下す事もあれば、自然災害もある。勿論、自然死もある。
とにかく死神が見える者は近々死ぬのだ。

「・・・だから・・・あいつらは・・・」

少年は自嘲した。
死神は踵を返して歩き出した。
青年の手に大鎌のような物が握られているのが見えた。
やっぱり、彼は死神だったのだ。
そこで少年の意識は途切れた。

丘の向こうには素晴らしい景色が広がっていた。永遠に広がる草原と山。
そしてその中を走る一本の道。

死神は眩しそうに遠くを見た。
次はあの道を辿っていこうか・・・・・


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