檻の中のお姫様



何故かこの世界は、パソコンや通信機器はとても発達しているのに車などの交通手段は整っておらず、汽車と馬車以外動くものはない。
ここがまた夢の世界といえる理解不能なところだ。
雅の思考でそう思いながらタスクは汽車に揺られる。
アルファーノ家は中央の城の下にある高級住宅(といっても馬鹿広い庭を持った城)にある。
中央まではゼルフ家から電車で小一時間。
駅でシルバ、カイと別れ先に城に行ってもらい、タスクは待ち合わせの場所へと向かった。
高級ショップ街を歩いているが、かなりブランド物の服を身に付けた人たちが歩いている。

「やー、こういうところにくると昔を思い出すねぇ」

暢気そうにシークルは呟く。彼等は小学校時代に学習した『スリ』の実習の時のことを言っている。

『丁度二十万盗んで来い』

その実習はスリの技術としても、人を見極める技術とも養われる。
この場所は金持ちが集まるところで札の十枚や二十枚盗まれたってなんの感情も抱かない人たちが大勢いる。
その中にある喫茶店にタスク達は入った。

「いらっしゃいませ」

流石、高級喫茶店。
ウェートレスの服装も高価なものだ。しかも美人ばかり。
思わず見とれてしまうタスクと裏腹にコルトはさっさと中に入り受付をすませてしまう。
今思えば雑用は皆彼等に押し付けてしまっていて全く何もしていない自分に気づく。
真面目に決められたリーダーの仕事をやることだけなら誰にだって出来るのだ。
だったらリーダーとは何をすれば言いのだろうか。

その答えをタスクはまだ見つけてない。
とりあえず迷惑にだけはならないように、雑務は人以上にこなしているのが現状だ。
他にもしなくてはいけなくては沢山あると思っているが、思っているだけで行動に移せないところがもどかしい。

あと一歩の勇気が足りない。

「こちらの席になります」

素敵ウエートレスさんが案内してくれたところは結構人目につきにくい場所だった。私とコルトは礼を言って席に座る。

「・・・シークル。少し頼んでもいいですか?」
「何?」
「アリス姫の様子を見てきて欲しいんです。
一応以前もここで話を聞いたけどやっぱり外には一人で出たことがあまりないらしく人混みに迷っていたらしくて・・・一応のためです。彼女もお付きの目を盗んでこっちにきています。もしここで見つかっては仕方ないですから・・・」

シークルは頷いて笑って一礼をした。既に役になりきりか?

「お任せくださいませ、ヒメ。」
「その格好で行くなよ。」

コルトの指摘どおり私達の格好は結構庶民的。
もし、貴族の娘に庶民が声をかけたところを親にでも見つかれば、勿論裏で暗殺されることも考えられる。
シークルは分かってる、といった表情で、トランクを持って出て行った。
タスク達は彼を見送り、簡単に紅茶とお菓子を注文して一息ついた。

・・・話すことがない。

タスクは視線だけでコルトをみる。
彼は元々無口な方であまり饒舌に話している姿を見たことがない。
というか、彼はタスクのことをあまり良く思っていないのであろう。
態度やオーラからそれがひしひしと感じられた。
色んな思考が頭をよぎり、余計に話せなくなってしまう。
喋らないわりにはこういう時間が凄く苦手なのがタスクである。

しかし、今日はコルトが珍しく口を開いた。

「ヒメ、少しいいか・・・?」
「何でしょう?」

ウェートレスが紅茶を持ってきた。私はそれに口をつけながらコルトの話に耳を傾ける。

「何故、俺をお前の護衛に付けた?」

タスクは一瞬目を丸くした。そんなことを気にしていたのか。
話やすい、私のことを好いている、そんな事は男を相手にした場合タスクの脳で自動的に排除されていた。
あるのは、個人の得意、不得意。それをふまえた結果はいうまでもない。

「貴方が一番綺麗で変装が上手いからですよ。」

タスクはいとも当たり前のことのように言った。

「・・・。」
「当初このアリス姫役は貴方にしてもらおうと思っていたんですが、シークルが私に推薦するもんから私になったんです。
別に断る理由もないですから私がやりましたが、何も決まらなかったら貴方にやってもらってました」

コルトの目が細くなる。少し怒気も含んでいる。
彼は綺麗な故に昔から女装する度、騒がれていた。だから女装の類のことを彼の前では禁句。
リーダーとなるため上位十人隔離されて授業を受けていたタスクはそんなこと知る由もない。
しかし、なんとなくコルトの事情を読めたタスクは一つ咳払いをした。

「でも、一週間ですし、変わってもらうことはないでしょう。念のためです」

コルトは慎重にタスクのことを分析していた。
それもタスクは気づいている。
はっきりいって彼はまだタスクのリーダーだとは認めていない。
シークルやパスラン、今の段階ではシルバも認め始めているように見えるが、コルトから言わせれば人に頼ってばかりの弱い人間。
少し能力が高いだけでタスクはリーダーには向いていない。
当初コルトの出した答えはこれだった。いや、彼だけじゃない。他の者もそう考えているだろう。
学校にいた頃、カイ以外の四人は同じクラスで仲も良かった。彼らの考えなど手に取るように分かるようになっていた。

タスクを分析してみると、内で色々考え、外に出すのはその三分の一だ。
自分のことを棚にあげているがそもそもカリスマ性というものがない。
あの聖女のように。

タスクはコルトの考えも分かっていた。
むしろ、嫌いオーラを出してくれた方がこちらとしてもやりやすい。
笑顔で、内心何を思っているか分からない方が余計に性質悪い。
だから、タスクも心を決めて口に出した。これ以上仲が悪くなる事はないだろう。
彼とはお互い必要以上に干渉する事はない。

「私からも仕事するにあたって一つ宜しいですか?」

コルトは無言だ。タスクは肯定ととり話す。

「私は貴方を高く評価しています。貴方はリーダークラスの才能を持っているでしょう。
何故そこまでの力を持っていてリーダークラスにならないのかが不思議なくらいです。
でも、決まってしまったものは仕方ありません。
私は貴方の上の立場です。
私は貴方に必要なだけの力しか求めませんし、貴方に深く干渉しようと思ってないし、貴方もそのつもりでしょう。
私の事を嫌っているのは分かっています。もうチームは決まってしまったのでお互い言い環境でやりましょう」
「何が言いたい」

コルトの冷たい言葉にタスクはつまる。
しかし落ちついて話した。自分の感情を上手く言う事は苦手だ。

「リーダーとして貴方の命だけは絶対に守ることを約束します。
ですから・・・私のことを認めなくてもいいですけれど、仕事に関する指示だけは聞いてください。理不尽なことは言いません」
「そのつもりだ」

これもまた冷たく返されタスクは下を向いた。
やはり嫌われているのか。男は嫌いだが、人としてコルトという人はタスクは嫌いではなかった。むしろ憧れる。
もし、いつかゆっくり話ができる機会があれば少し話してみたい。
きっと面白い事が聞けるだろう。

タスクはまた紅茶に口をつけた。そして、目の前にコルトがいることを忘れてふと思った事をつい口に出してしまった。

「・・・やっぱり、こういう店って、紅茶だけでも高いんですね。
これくらいのなら普通に自分で作れるのに?」
「・・・は?」

突然のタスクの呟きにコルトは不意をつかれた。
まさか彼女がこんなことを言うとは予想もしなかった。
あそこまで冷たく当たってもう自分の前で話すことはしないと思っていたのに。
タスクは意外そうにこっちを見たコルトに気づき頬が熱くなるのを感じる。

「いや、・・・なんでもないです。ただ、いつも朝飲んでるやつと同じ味がしたので・・・」

コルトは急いでその場を取り繕うタクスをみて何も言えなくなった。
朝何もないところでこけていたところを見ると、しっかりしているように見えるが、本当はタスクは相当の天然らしい。
コルトは曖昧に返事を返す。

「まぁそうだな。最近のインスタントでも本物に近くなっているからな。」
「そう・・・ですよね。」

・・・っていうか何口に出しちゃっているんだろ私。さっき必要以上は干渉しないとか言ったばかりなのに。
あぁ、絶対コルト私のことアホな奴だって認識してるだろな。・・・いや元々されてるのか。
と、心の中で永遠と自分を責めてみても何の意味もない。無駄なネガティブ思考である。

コルトが視線を上げた。
タスクもそこをみると、先日あったばかりの少女が立っていた。その後ろにはシークル。

「アリス姫、無事に保護できました」
「あの・・・よろしくお願いします」

多分コルトの綺麗な顔に驚いたのだろうか。彼女も少し緊張気味である。タスクは立ち上がった。

「お久しぶりです。アリス様」
「いえ・・・今回はよろしくお願いします」

流石貴族の娘。礼儀作法も礼の角度まで完璧だ。
私はここにいる人達でも紹介しておこうと椅子の横に立つ。

「まず、貴方を案内してくれた人がシークル。
引き続き駅まで送ってくれるので何かあったら遠慮なくいってください。
そしてこちらがコルト。
あと三名ほど裏の方で控えております。まず他にばれることはないと思っていてくださって構いません」
「・・・えっと・・・男性の方ですよね」

コルトを見て、アリスがおずおずと呟く。
コルトの眉がぴくりと動く。一応怒りは抑えているが、なんとなくそれがひしひしと感じられた。
まぁ一般人なら仕方ないだろう。

「私達は変装のエキスパートなんです。だからどんな顔でも体系でもお任せください。
さて、時間も惜しいですしさっさと着替えてしまいましょうか。シークル、馬車の方は?」
「荷物はつんである」
「分かりました。では、しばしお待ちを」

タスクはトランクをアリスに渡した。

「奥に個室が用意されているので着替えてしまいましょう」
「はい」

多分、こういう危険なことをしたことがないのだろう。アリスの表情は好奇心半分不安半分だ。
タスクは精一杯の笑顔でアリスと付き合った。
個室に入って、アリスの分の服を渡す。

「庶民風のもので悪いんだけど、これを着ていれば八十パーセントばれる心配がないんです」
「いえ、むしろ手伝ってもらえるのに贅沢はいえません」

タスクはアリスの着ている服を受け取りそれを着て少々化粧をする。
良く見れば顔が似ているので工夫次第ですぐに同じ顔が出来上がる。タスク自身も当初はこれに意味もなく驚いた。

「・・・凄い」

どんどん自分と近くなっていくタスクにアリスも感嘆の声をあげた。

「慣れですよ。慣れちゃえば誰だって出来ます。アリス姫も少しお化粧しちゃいますか?」
「わっ・・・私ですか?」
「えぇ大丈夫、後悔はさせませんよ」

ということで無理矢理彼女を座らせ、軽く化粧をする。
やはり、変わるものだ。少しいつもより大人っぽくなる。

「・・・よし、これで大分印象が変わったわ。頑張って彼といい思い出作ってきてくださいね」

アリスは心からの笑顔でいった。

「ありがとうございます。
本当に・・・何とお礼を言っていいものか」
「いえいえ、仕事以前に貴方の話を聞いて心から助けてあげたくなりましたし・・・。
さぁいきましょう。彼が待ってますよ」

タスク達は部屋を出た。所要時間約五分。

コルトとシークルの前に現れた二人は見事に入れ替わっていた。同じ顔が二つあるといっても過言ではない。

「ヒメ。少し遊びましたね」

アリスの顔を見てシークルが言う。

「・・・すいません」

私は、素直に否を認める。今はアリスの見た目よりも時間だ。

「まぁ、いいですけど。アリス姫の方も美しくなりましたし。
・・・では、参りましょうか」
「はい。皆様、お世話になります」

シークルが丁寧にアリスの手を引いて店を出て行った。礼儀作法はゼルフの基本中の基本。
彼女達を見送って私はシルバに聞く。

「・・・シルバ達からの連絡は?城で変わった事は?」
「城をあげてのアリスの大捜索してるらしいが。そろそろ来るだろう」

・・・それって目茶目茶ヤバいじゃないですか。シークルには厳重に送ってもらわないと・・・。

「私達も早めに行った方が良さそう・・・。
店を出ましょう」
「・・・あぁ・・・」

私達が着替えている最中にコルトも少し着替えてきたらしい。
既に超美形の紳士だ。それにアリスの高級な服をまとったタスクを並べると全く違和感がない。
・・・これだからお姫様は羨ましい。
通常のタスクと彼を並べるとおかしな二人組ができあがる。
タスクは気持ちを切り替え、アリス姫になりきる。

これは演技、これは演技、雑念は全て捨てるのよタスク・・・。
むしろこの人綺麗だからフロートの男装と思えばなんともないわ。

そう自分に何度も念じてコルトの腕をとった。この瞬間が一番緊張する。
学校で一番嫌な時間だったのが男を交えての演技実習だった。
丁度店を出たころ、捜索隊の一員となったシルバとカイの馬車が店先に止まった。
馬を引いているカイも中から降りてきたシルバも立派なスーツを着てかっこいい。
この三人で既に身内ながら惚れ惚れしてしまう。

「お探ししましたよ、アリス様」

シルバの言葉にタスクは当惑しながら答えた。
ここから既に始まっているのか・・・。

「ごめんなさい、私が無理を言ってしまったばかりに、皆様にご迷惑を・・・」
「さぁ、早く城へ参りましょう。主様が心配なされております」

馬車に乗った私はとりあえず一息。

「シルバ・・・ここで演技する必要がどこにあるというのだ」
「一応、城行く前の予行練習ということで」

コルトの指摘にシルバが軽く答える。彼はもうノリノリのようだ。
それにのってしまった自分が少し恥ずかしかった。


城に向かう途中、タスクはぼんやりアリスの事を考えていた。
本当ならメイクせずにさっさと出したかったのだが、彼女には今回特別な思い入れがある。
本当に彼を好きだからこそ、こんなに大胆な事が出来たと彼女はいう。
いつもは親に従って何も言わない『良い子』なのだ。

彼のことを話すアリスの表情は写真で見る以上に美しく、可愛かった。
タスクは始めに何気なくゼルフに頼んだ理由を聞いた。
そしたらアリスから返ってきた言葉はこうだった。

『・・・親が・・・私の婚約者を見つけてきたらしいのです。
もし、結婚するところまできてしまえば彼とはもう連絡も取れません。
それどころか私は外にも出られなくなってしまう・・・。
ですから、最後に思いっきった事をしてみたくて。』

その表情は切なげだった。
ゼルフ内では恋愛は自由だ。裏世界のことを他言しなければ表世界の人と付き合うのも自由だし、ゼルフを出る事も出来る。
その逆もできるが、その際表世界の住人はほとんど敷地内で一生を過ごしてもらう事になる。
一部の人は別だが、身分もほとんどないし、反対する親もいない人が多い。
アリスは他に話をする中で多々謝った。
家にいるときはあまり自由がないらしい。
いつも侍女が控えており、一人になれることが少ない。
父親がとても厳しい。きっと、タスクがアリスとして家に帰った時叱られるだろう。と。

それに比べゼルフは自由だ。
一人一人に部屋が与えられ、仕事以外は街に出るなり自由に行動。その代わり責任は自分にあるが、好きな事をできるには変わりない。
そのことを考えタスクはアリスに同情してしまった。
きっと、狭い檻の中でじっと耐え忍んできたのだろう。
彼とも会いたい気持ちを精一杯押さえてきたのだろう。
そして、別の婚約者と一緒になる事もちゃんと受け入れているのだろう。

こうなると女の友情は強い。

「大丈夫です。私のチ−ムはとても戦力になる人ばかりなんです。
絶対ヘマは起こしません。ゆっくりしてきてください」

タスクは力強く言った。アリスもそれに励まされるように頷く。
アリスに笑顔が戻ったところでタスクが旅行の予定なんぞを聞いてみた。

「・・・で、どちらに行かれるんですか?」
「彼が一度行ってみたいと行っていたのですが、ディアマンテまで・・・」

・・・ディアマンテ・・・。

アリスとの会話を思い出していたが、タスクの顔が少し険しくなる。
たしか、フロートもそんなことを言っていなかったかしら。
フロート達の任務は、ディアマンテ最大の裏組織の不正をとりしまり、重要なハードディスクを盗んでくる事。
そして、それに関わっている裏人物の名を挙げて捕らえる事。
多分関わる事はないだろうが、それでも少し不安になってくる。
アルファーノ家がその裏組織の常連の名に上がっているからだろうか。

どっちにしてもあまり良い予感がしないのは何故だろう。


その時馬車が止まった。
外を見ると、大きな城門に沢山の家人達。
家の入り口まで続く真っ直ぐな百メートルの道のりを隙間なく埋めていた。
言うまでもなくお帰りなさいませコールだろう。

「・・・嘘だ・・・」

まさかここまで凄い家だとは思ってもいなかった。
たかが娘の学校帰りに家人一同が並ばなければいけないなんて阿呆らしい・・・。

カイが馬車の扉を開ける。
コルトが先に下りて、タスクに手を貸してくれた。タスクはコルトの手を取り、前方を見る。
流石にこの訓練はゼルフではしたことなかった。
表情を冷静に保ち、顔の筋肉を精一杯使いなんとか百メートル歩き終えた。
シルバが家の戸を開けてくれる。
そしてすれ違いざまに耳打ちしてくれた。

「・・・お疲れ様でした」

いや、本当に疲れたわ・・・。

家に入っても緊張はとけなかった。
何とゴージャスなシャンデリアと共に迎えてくれたのは険しい顔をしたアリスの父親、ガルク・アルファーノだった。

「お帰り、アリス・・・。今まで何をしていたんだ?」

低い声が室内に響く。部屋の重力が一気に重くなったようだ。
私はこの役を引き受けた事をこれほど後悔した事はないかもしれない。

・・・ごめん、やっぱり変わってもらっても良いですか?コルト。

タスクが何も言えず黙ったままでいると彼はこちらによってきた。

「何をしていたと聞いている!」
「あ・・・」

怖気づいて声が出ない。彼から目が離せない。その時、隣にいたコルトが口を開いた。

「何やら町の中で不審な男達に囲まれていたところを見つけました」
「なんだと」

彼の視線がコルトに移る。その時やっと金縛りから解けたような感覚に陥った。
コルトは重みのある詰問をなんなく答える。
ここまで嘘を並べられるのは長くゼルフで培われた成果。
彼に至っては専門は変装。
人を欺いて必要な情報を聞き出すのが得意分野にある。

私は不安そうにコルトとガルグを交互に見る。

その時背中を軽く押してくれる感触があった。
視線だけ後ろに回すとシルバがニコリと笑っている。
やっといつもの調子に戻れる感じがした。
やはり、一人よりも仲間の存在が大きく感じる。

「まぁ、そういうことなら仕方あるまい。アリス、身の回りには気をつけなさい」
「はい、申し訳ありません。父上」

ガルグは急にタスクの肩を掴む。その強さにタスクは少しよろめいた。

「本当にわかっているのかっ!?
貴様は今月末に結婚するんだぞ?自覚があるのかっ!?この婚約は我がアルファーノ家にとって大切なものなんだ!!」

恐ろしい剣幕で怒鳴るガルグにタスクは必死に自我を保つ。怖いけど、さっきよりは大丈夫だ。

「・・・はい」

小さな声で返事をするとガルグは興味をなくしたようにアリスを突き飛ばした。大理石に倒れ、朝よりも倍痛みを感じる。

「わしが許可する以外の外出は許さん。わかったな」

そう言い捨ててガルグは奥に入っていった。
タスクは何とか起き上がる。

こいつ・・・アリスの事を何だと思っているわけ?

激しい怒りが湧きあがるが、ここは深窓の姫を演じなくてはならないため、文句の一つも口に出せなかった。

「大丈夫ですか、アリス様」
「・・・大丈夫です、ありがとう」

今日はこんなのばかりだ。
アリスはシルバの手を借りて立ち上がった。まだ痛む体を動かし部屋に向かった。

護衛にはシルバとコルトがついてくれるようだ。
見ない顔だが、それでも美形なので家人達はガルグが新しく雇った者だろうとしか見ず誰も疑わない。
部屋に行き、タスクはソファに腰を下ろした。まだ打ったところが痛む。
シルバがアリスの部屋を眺めていった。

「へぇ、凄いガラス細工の量」

アリスの趣味は綺麗なガラス細工を集める事だった。
そのため、部屋には沢山の作品が飾られていた。タスクはそれらを少しみて俯いた。
あまり、ガラスで出来た物は好きではない。

「ヒメもこんなの集めてるの?」
「いいえ、あまり好きじゃないの。
ガラスは・・・割れるから・・・」

タスクは暗くなりつつある外を眺めて考えた。
アリスの笑顔がなくなってしまったのはこの家のせいだ。
父親は元よりあれだし、母親は死んでしまってもういない。家人も他人行儀。
さっき、外出禁止を食らってしまった。アリスにとってはこんなところただ立地条件の良い牢獄でしかない。

『こんなにたくさんの宝石に囲まれて、こんなに綺麗な服に囲まれて、こんなに素敵な家人達に囲まれて・・・
どうして、不幸を嘆く事が出来ますか?』

タスクと別れ際にアリスが言った事である。
その表情は自嘲にも救いを求めるようにも思えた。それをタスクは今でも鮮明に覚えている。
今このオスポンドでトでもスラム街はある。
そこでは飢え死ぬ人はいないが、それでも今日の食事があるかないかの人々がたくさんいる。それに比べれば私達は幸せ過ぎるのだ。

アリスも、タスクも、そして雅も。

「ヒメ、どうした?
気分悪い?」

ずっと俯いて色んなことを考えてしまっていたため、きっとそう見えたのだろう。タスクは首を振る。
そうえいば、この城について事前に調べた時に気になることがあったのだ。
シルバなら少し話せるかもしれないと、タクスは聞いてみた。

「・・・あの・・・この城にレイス・コレクションがあるかも知れないって事はご存知ですか?」

シルバだけではなくコルトもその言葉に反応した。

「レイス・コレクションがあるのかっ!?」

シルバは嬉々としてタスクの隣に座った。目は物凄く輝いている。コルトもこっちによってきた。
この話題に反応しないゼルフの者はほとんどいない。

「・・・本当にこの城にあるのか?」
「少しここにくる前に城の事など調べていたらそんな情報がありました。
いつか裏に流す物だと思われますが、あるらしいことは耳にしてます。
・・・これは凄い私的なことで反対されたらいかないのですが・・・誰か後で一緒にこっそり見に行きませんか?」

タスクの提案に二人は少し驚いた。
いつも生真面目な彼女の提案としては少し意外な事だ。
人を変えてしまうほどレイス・コレクションとは『怪盗』である彼等にとってこれほどにない貴重な物なのである。

「行くに決まってんじゃん。こんな機会滅多にないんだから」

コルトも頷いた。
まさかここまで二人がのってくれるなどとは思っていなかったタスクはあまりの呆気なさに少し気が抜けた。

「・・・では、今夜にでも探してみましょうか。パスランに一応確認してもらいますので」

こうして怪盗としての初仕事をすることになるとは思いもしなかった。


   

[★高収入が可能!WEBデザインのプロになってみない?! Click Here! 自宅で仕事がしたい人必見! Click Here!]
[ CGIレンタルサービス | 100MBの無料HPスペース | 検索エンジン登録代行サービス ]
[ 初心者でも安心なレンタルサーバー。50MBで250円から。CGI・SSI・PHPが使えます。 ]


FC2 キャッシング 出会い 無料アクセス解析