全ては動き始める



半日掛けて汽車に揺られてディアマンテについた。
流石観光都市。人の量が半端でない上に皆観光客ばっかりだ。
タスクは用意された馬車に乗り、そのままホテルまで出発した。
馬車ではガルグと一緒だった。彼はいつになくご機嫌のようだ。そんなに娘の見合いが嬉しいのであろうか。

「・・・アリス、今日会うクリハーツ家のご子息だ。夫になる人だからくれぐれも無礼がないようにな」

タスクは少しだけ驚いた表情をする。がこれも演技。
もうそれは前に聞いちゃったし、顔も正確もほぼ知っているので驚くまでもない。
正直あのアリスには勿体無い奴だ。
写真を一瞥してガルグに返した。

「どうだ?」
「・・・素敵な殿方ですね」
「そうか、気に入ってくれたか」

気に入ってないし・・・と返したかったが、それも喉で食い止める。
この親父の自己中心的な行動にいつまで付き合っていればいいのだろうか。というかこの遺伝子であのアリスが生まれたのが不思議だ。
母の方が相当できている方だとしか思えない。
タスクはディアマンテの外の様子を伺った。
駅前とは変わらずどこもかしこも人が集まっていた。どこからこんなに集まってくるのだろう。と疑問を持つくらいここは年中賑わっている。
そして、この都市のどこかにフロートがいる。
そう思うと胸が痛んだ。
彼女が苦しい時に私は何をやっているのだろう。

「・・・フロート・・・」

誰にも聞こえないくらい小さな呟きだった。

「アリス?気分が悪いのか?」

親父が聞いてきた。タスクは首を振った。

「いえ、大丈夫です。父上」

馬車が止まる。
ついに、ホテルについたらしい。
タスクは今更ながら、なんで断らなかったのか激しく後悔した。
まだチーム員は慣れてきたから良いものの初対面の人と二人きりになるなんて正直勘弁して欲しい。
タスクは逃げる策を必死に考えてみたが、出た案はクリハーツ家の息子と一緒についてきているカイとのすり替え。

・・・これもいつかばれるしな。

っていうか向こうも両親きてるか。
それにカイにも悪いし。
いっそのこと睡眠薬でも飲ませて眠らせてしまおうか、いや、いっそうの事毒殺・・・など、犯罪すれすれの思考を凝らしてタスクはガルグに連れられ中に入った。
案内された部屋には既に向こうの両親と婚約者がいた。名は確かグロン。
どうやって危険を回避するか延々と考えていたおかげでタスクは、両家の両親達のいつ終わるか分からない長話にも楽にたえられた。


「・・・どうだった?シルバ」
「いや、ここの裏集団結構口硬い。
コルトの方は・・・?」
「何か隠しているような感じはしているが中身までは・・・。
都市が都市だ・・・。観光客に混じって取引するのはたやすいし、今回特にヤバいものでも流れてきているのだろう」

こんな会話をしながらでも、端から見れば素敵なお姉さん二人組。
そんな容姿で二人はディアマンテの街中を歩いていた。さっきからナンパしてくる奴等がウザい。
情報調達にはやはり若い女が一番手っ取り早く色んな事を入手できるので、そうしていたのが、なめられるは、移動に邪魔者は出てくるはでここではあまり得策ではなかったのかもしれない。
二人は着替えるため、その辺のめぼしい店を見てまわった。
その辺の喫茶店に立ち寄り二人は情報の整理を始めた。机に地図を広げて、怪しいところにマーキングをつけた。そして地図を睨む。

「・・・ここは、違うな。大したもんがない」
「やはり、この街一番の裏組織の管轄か?」

二人は地図を見て唸る。そろいにもそろって口の硬すぎる連中ばかりだった。
コルトはふと思い出したようにカバンの中からあるハードディスクを取り出した。そして、モバイルにつなぐ。

「・・・何それ?」
「少し拝借してきた」
「お前本当に手癖悪いな。そのうち目付けられるぞ」
「大丈夫、コピーして本物を戻しておいたから」

二人してモバイルを覗きながらハードディスクの中身を見ていると、男の店員が注文を取りに来た。

「いらっしゃいませ、ご注文は?」
『・・・コーヒー二つ。ブラックで』

見事に声がそろった。タスクから命を受けてから眠らずに街を歩き回っていた。
今座っているが、必死に頭を動かさないと眠ってしまいそうだ。
今日の夜が山場なようだから、それまでに情報はなるだけ多く集めなければいけない。
店員はモバイルを真剣に眺めている不審な二人組を怪しげな目で見ながら、ふと地図のマーキングを眺めていった。
勿論裏組織ばかりに目をつけているので賭場とか歓楽街が主である。

「彼女達、賭け事好きなの?」
「・・・まぁそんなもん」

シルバが適当に答える。

「あっ、ここは危ないから行かない方が良いよ」

店員がある大きく丸印のついた賭場を指した。コルトが視線だけそこに移す。

「先日泥棒が入ったそうなんだ。なんか流血沙汰になったらしくて死者も数人でたらしいよ。一人は・・・捕まったんだったかな」
「・・・なんだと?」

どこかで同じような話を聞いた。
二人は顔を合わせて、店員に聞く。

「・・・その泥棒とやらは、何を盗みに?」

店員は周りを見てからこっそりと言った。

「ほら、結構この辺って観光都市っていって明るいイメージあるけど裏ではかなり危険なもの密売してたり地下でオークションとかしてるらしいよ。人身売買とかも。
多分、その裏組織の重要機密を盗みに入った奴等が捕まったらしい。
殺しになるくらいだからかなりヤバいんだろうな・・・。運がないよな、そいつ等も。ここ等で一番ヤバイところに入ったんだから・・・。
じゃ、コーヒー二つね」

店員はそういって行ってしまった。

「今のって・・・」
「十中八苦フロート達の事だろうな。市民もここまで知ってるとは、もう少し尋ねてみる価値ありそうだな」
「・・・やりますか?」
「気は進まないが致し方ない」

さっきの店員がコーヒーとケーキを持ってやってきた。

「素敵なお二人さんにはケーキのサービスです。ごゆっくり」
「・・・まぁありがとう。ねぇ、店員さん」

両方からコルトとシルバの手が伸びる。そして店員に向かって笑顔で言った。

「・・・私達今日の夜色んな所に遊びに行きたいんだけど、なんかこの街危険っぽいし・・・色々教えてくれない?」

コルトとシルバ。通常でも並べばそれなりのオーラが出るが女装+メイクも完璧にすればミスコンに出ても優勝は確実に貰える美しさだ。
そんな二人に両腕掴まれて上目遣いでおねだりされて落ちない男はただの馬鹿だ。
二人の予想通り男は落ちた。

「・・・えっと・・・あっ、じゃあ俺あと五分もすれば仕事終われるからそれからで良いなら・・・。
結構色々知ってるんだぜ?」
「それは頼もしいわ。ありがとう」

店員を放して二人は目を合わせる。これは下手に裏で動きまわるより、安全かつ色んな事が聞ける。
二人はモバイルの内容にまた目を向けた。

「・・・確かここってさっきフロートが監禁されているっていう例の賭場のことじゃないか?」
「・・・・・・。」
「シルバ?」

何かイヤホンに耳を傾けている彼の顔が神妙になってきた。コルトはパスランに言う。

「・・・パスラン、悪いがシルバの聞いている内容を俺にも回してくれ」
『了解。』

聞こえてきたのは男達数人の会話。先ほどシルバが訪ねてきたところで仕掛けてきた盗聴きである。
聞くと同時にコルトの顔も険しくなった。

「・・・パスラン、カイに・・・」
『分かってる。タイミングをはからってヒメに伝えてもらうから』
「お待たせ、どんな情報が欲しい?
あれ、コーヒー飲まないの?冷めちゃうよ」

店員がバイトを終えて来てくれた。二人は笑顔を作って彼を席につかせた。

「貴方を待ってたのよ。じゃ、まずここから教えてくれる?」

今の男達の会話が決定打だった。
今夜が本当に山場になりそうだ。


会場は賑やかなムードに包まれていた。
タスクはその中でカイを隣に適当な食事を取っていた。勿論会話は聞き取れない程度の大きさである。

「・・・とすると、フロートを捕まえたっていう奴らをアリス姫を殺そうって奴等は一緒の奴等って訳?」
「・・・そうらしい。しかも、盗聴器で聞いた話によると、夜十一時あたりにここに襲いにくるそうだ。
あと、本物のアリスの所在もばれているらしい。シークルが警戒しているが・・・」
「この人の多さ予想外だったわ。外に出れば守るものも守れない・・・」

このことを聞きつけてアリスの身代わりをつけたということも多いに設定してあるのだろう。本当に抜かりのない。

「あと、アリスの方だが殺しまではしないらしい。一時監禁という事に・・・」
「末路はどうせ、殺されるわね。
アルファーノ家にはレイス・コレクションも多数あるわけだし取れるところからとろうって分けか・・・」

もし捕まっても殺されやしないんなら奪還という方法もある。
保険がある分まだ少しゆとりがある。問題は十一時。あの息子がどうでてくるかが分かれ道かもしれない。
十一時はギリギリだ。もし先に部屋に訪ねてこられたら少々困った事態になる。

「・・・なら、私は十一時前後に部屋に戻るわ。カイは・・・」
「わざと捕まる気か?」
「・・・・・・。」

カイの鋭い指摘にタスクは黙った。

もし、フロートと同じ所に捕まるのであれば彼女も一緒に助ける事が出来る。その考えは彼にはお見通しだったらしい。
本当に表情自体が読み取れないため、何を考えているか分からないが鋭いところはついている。

「ヒメ、俺がここにいる意味を分かっているのか?」

彼の口調が強くなる。タスクは拳を強く握っていった。

「ごめんなさい。でもアリスが捕まる可能性が高いことくらい分かっているでしょ?
彼女を確実に助けるためにはその方が良いと思うの。
私は大丈夫。護身術もあるし、いざとなったら相当の戦力になるわ。
・・・カイ、貴方には睡眠薬用意してもらいたい。もしもの時は奴を寝かせる。
酒を多少含んでいるようだし自然に寝たってことにも出来るし・・・」
「・・・分かった」
「そうだ、シルバ達はどこにいる?」
「・・・ギリギリまで情報を集めているそうだが、もしものために十一時近くに賭場に行って様子を見ているらしい。もし、アリスが捕まってもそのまま助けにいけるように。」
「・・・流石ね。私が捕まるまでもないってことか・・・」

ふと、背後に人の気配を感じてタスクが振り返る。

「・・・お初にお目にかかります。アリス嬢」

本日初対面の婚約者グロン。タスクは控えめに礼をした。
顔はそこそこ良いが、タスクは既にチームメンバーがメンバーなだけに目が肥えてしまっていた。
こんな奴たいした事はない。隣にいるカイもグロン以上の美形だった。
グロンはカイを睨むように見てすぐに視線を外す。

「・・・本日はこんなパーティまで開いていただき心から感激しています。
ありがとうございました」

グロンはアリスの容姿に満足したらしい。見て取れるくらいご機嫌だ。

「・・・どうですか?一曲踊ってはいただけないでしょうか」

手を出された。これを拒んだらまずいだろう。
一応ダンスの訓練は受けているが、タスクはそれ以前の問題だ。
なんで初対面の男と踊らなくてはならないのだ。つーか男に手を振れるのも嫌なんですけど。
タスクは無理矢理笑顔を作り、グロンの手を取った。
本当に一曲で終わるのだろうか。いや、終わるはずがない。
どこまで理性が保てるか、後に彼女は語るが何よりもこのダンスが一番この仕事の中で辛かった、と。

結局その後五曲踊り、それから三時間雑談。
お酒は少々辛かったが別に弱いわけでもないので頂いた。
少し酔えば多少の緊張もほぐれ、話すのも楽になった。
カイの様子が見えないが一応働いてくれているのだろう。
時計の針はそろそろ十一時を指す頃だった。タスクは見切りをつけてグラスを置いた。

「では、そろそろお暇いたします。楽しい時間をありがとうございました」
「・・・そうですか、では」

丁寧に一礼をしてタスクは会場を抜けた。

一人になったところでパスランに一度連絡を取る。

『・・・どうですか?パスラン。それぞれの様子は』
「コルトとシルバは賭場へ。シークルもしっかりアリス姫を尾行中。今のところ何の変化もありません。
ヒメも周りに気をつけてくださいね。
・・・カイは?」
「そうえいば、見かけてない・・・」
『もしかして今一人ですか!?』
「そう・・・ね。カイには少し用を頼んだし・・・。
そろそろ戻ってきてくれても良いんだけど。パスラン、連絡いれておいて」
『了解。本当に気をつけてくださいね。』

パスランは少し焦る。時計はもう少しで十一時を指す。
こんな大切な時に彼女を一人にしておくなんて攫ってくれといっているようなもんじゃないか。
そんなパスランを知っているのかいないのか、タスクは至って冷静だった。

「大丈夫、もう部屋だから。ここまでこれば少しはアリスの仮面はずせるし・・・。
・・・貴方・・・」

パスランはふと耳を傾ける。声を聞く限りはアリスの婚約者らしい。まぁ彼なら大丈夫だろう。
・・・違う意味での大丈夫の保障ははないのだが。
パスランはこのままタスクとの回線を切ろうとした瞬間だった。他の人の声が司令室の中に響く。

『大変だ、アリス姫が攫われたっ』
「・・・なっ、本当ですか。シークル・・・。」
『悪い、人の流れが激しくて・・・。今から追うから、ヒメは十分注意するように・・・。』
「彼女には多分聞こえてると思いますが・・・」
『今から追う。全員に伝えておいてくれ。』
「了解。」

アリスが攫われたですって!?
その知らせを聞いたときタスクの顔が強張った。

「・・・どうかしたのかい?」
「・・・いえ、少し眩暈が・・・。やはり慣れないお酒は飲むものでないですね。」

不本意だが彼の手を取り、部屋に入った。この時点で物凄く嫌な予感がする。もう少し言い訳を考えておくべきだった。
男を部屋に入れてどうすんのよ、自分。
押し倒されても困るが、そろそろ刺客がやってくるかもしれない。
タスクは周囲に気配を探る。誰もこちらにくるような感じはしない。
自分的には全面対決を予定していた。
実習での武術の方は中々の成績はとれていたし、もしもの時の最強の手を自分はもっている。
が、カイ相手は別に大丈夫だと思うが、婚約者前に殺し屋相手に戦う姫を演じてしまうわけにはいかない。
タスクは自分の愚かさを呪った。やはり酒が回ってきているかもしれない。慣れない事はするものではなかった。

「大丈夫ですか?今お水を持ってきましょうか?」
「・・・すいません・・・。なにやらご迷惑を」
「いえ、これから夫婦になるんですし、これくらいは」

・・・そうか、夫婦・・・。
人事だからこうやってのんびり構えていられるが、本当に自分がこの立場だったらどうなっていただろう。
小さい頃からの男嫌いのせいで『お嫁さん』に憧れた事はないし、結婚自体も全く頭にいれてなかった。
恋人すら作る気はなかっただろう。一人で将来安定させるための確実な手段を選んでいた。

「・・・はい」
「あっ、ありがとうございます」

グロンからコップを受け取り、タスクは一口水を飲む。しかし、すぐにコップから口を離した。

「・・・どうしました?」

男は以前笑顔のまま。
タスクは内心舌打ちした。
こいつ、水に薬盛ってやがる。へらへらしているくせにやることはやるのね。
勿論、ゼルフでは毒を飲まされた時の対処法も教えられている。
が、まさかパーティで毒を盛られるなどということを考えていなかったし、解毒剤は部屋に戻ってから飲む事にしていた。
しかも、状況からして察するにこれは毒じゃなくて媚薬。即効性のあるものだと、そろそろ危険だ。
馬鹿っ、なんで一口飲み込んだのよ。
タスクはコップを机の上に置いた。とりあえず、一刻も早く解毒剤飲まないと。
持病の薬を飲まなくてはいけない・・・そう言い訳を考え立ち上がった瞬間である。
本当の眩暈がタスクを襲った。

「・・・っ。」

即効性のあるやつか。おまけに少量でも効くように出来ているのだろう。

「・・・大丈夫ですか?アリス嬢・・・」

彼はそのまま私を抱きとめてソファに転がした。
タスクは熱くなる体とぼーっとしてくる頭を必死に動かすことに専念する。

「・・・始めは本当にどうしようかと思っていたのだよ、この結婚は。
でも、君なら合格だ。アルファーノ家には宝石以外に美しいものがあったなんて以外だったよ」

耳元で囁かれる言葉にタスクの表情がゆがむ。
頬に手が伸び肩がビクリと動いた。心臓が凄い早さで動いている。彼の顔がとても近い。

「結構薬も気づくの早かったね?
もしかして分かってた?飲んでくれたのは嬉しいよ」

腰に手を伸ばされ抱き寄せられる。自然と声が漏れる。
しかし、そのお陰で彼女の中の危険センサーが最大限に働き、ぼーっとする頭を支えている。

「優しくするからね・・・」

理性の方もここまでが限界だった。
しかし、それがプツンと切れる前にタスクはある気配を感じ取った。
反射のようにタスクは動いた。

「・・・危ないっ!!」

ありったけの力を込めてタスクは彼を突き飛ばす。
ソファから突き落としたといった方があっているかもしれない。

「・・・なっ、貴様何を・・・」

グロンが怒る前に窓のガラスが割れる。
やっと殺し屋さんのお出ましのようだ。
タスクは動かない体を叱咤してソファに捕まりながら立ち上がる。
・・・なんてことしてくれたのよ、この馬鹿男・・・。お陰で大事なところで動けないじゃない。
ソファに捕まる手は震えているし、呼吸も荒い。

「なんなんだ君達はっっ!!」

しかし、彼等の耳には不様に転がった男の怒鳴り声などは聞こえていない。
ただ、タスク一点を見ていた。タスクはパスランに伝える。

「・・・ごめん、薬飲まされた。
カイ・・・呼んでもらえる・・・?どうも・・・できそうにない」

『了解。』

直後にカイが室の中に入ってきた。が、彼が見たのはへたり込んでいる男と、ベランダから出ていく黒い服を着た男の姿。

「ヒメッ!」

カイはすぐにベランダに出るが、その時彼等の姿はどこにもなかった。

「・・・チッ・・・。
パスランこのまま追うが・・・。」
『ここらで一番でかい賭場だよ。
走れば二十分もかからないはず。ヒメは薬を飲まされてて戦力にはなりそうにもないから・・・。コルト達には今伝える。
そうそう、なんか向こうでは大変な事になっているらしいから、その計画を説明するね』
「頼む」

パスランは少し驚いた。ここまで感情のこもった声を出すカイは初めてだ。
怒ってる・・・か、自分のふがいなさを悔やんでいるのか・・・。
それとも・・・


カイがそのままベランダから飛び降りようとしたとき、情けない声が後ろから聞こえた。
振りかえると、自分の腕にすがり寄ってくる男。

「・・・なぁ、アリスはどうなったんだよ・・・。
・・・助けてくれよ。俺を・・・俺も攫われるんだろ・・・。殺されるのか・・・?」

どうしてそういう事になるのか、と問いたいところだが、カイには彼に構っている時間は一秒たりともなかった。
絶対零度の目で彼を見下し、短く告げた。

「貴様のせいで最悪の事態になった。なんてことしてくれた」

今までの彼と明らかに違う。

「・・・ひっ・・・。」
「・・・もしヒメの身に何かあったら・・・
貴様、生きては返さんぞ。」

カイの殺気と怒りにすぐに手を離す。
カイは見向きもせずに躊躇いなくベランダから飛び降りた。


「・・・ん・・・。」

目を覚ましたところは暗闇だった。
身動きが取れなかった。鎖かなんかでしばられているのだろう。女の子の扱いとしては実に不親切だ。
タスクは起き上がって、周りに目が慣れるのを待つ。
恐らくここは敵の本拠地だろう。
カイが部屋に入ってきたのを目にしたから、多分自分を追いかけてきてくれているはずだ。・・・多分。
それにイヤホンさえあれば、パスランのところから自分のいる位置が分かるようになっている。
プライバシーの問題で普段は使われないが、緊急自体のときは話は別だ。
うっすらと闇になれてきたところでタスクは人影を二人見つけた。動いている。

「あの」
「タスクッ!?」

聞き覚えのある声だった。それも凄い久しぶりに聞く声。

「・・・フロート?」
「タスク良かった・・・大丈夫だった?怪我はない?
しかも今この子に聞くところによると、身代わりにお見合いしていたそうじゃない。
何もされてない?」
「フロート、貴方こそ大丈夫なの?
捕まったって聞いてからしばらく経つけど」

涙が出てきた。
彼女のこの自信たっぷりの声を聞くのも何日ぶりだろうか。
今までの緊張の糸が取れて、急に身体から力が抜けた。
嬉しさのため、二人共会話が止まらない。

「何も食べてないだけよ。それ以外はずっとここに閉じ込められていた。安心して」
「出来るわけないじゃないっ。そろそろ死ぬわよ貴方・・・」
「大丈夫よ、誰だと思ってんの。私を。
そういえば、貴方の方こそ大丈夫?ここにきたときかなり弱っていたようだけど」
「・・・媚薬を少々飲まされただけ。大丈夫、もう効果の方は切れてるわ。って後ろにいるのはアリス?」

今までフロートの後ろで話を聞いていただけの彼女が頷いた。

「・・・はい。本日は本当にごめんなさい。まさか見合いの話がもう来ているなんて。今日噂で聞いて驚きました」

声だけでは元気そうだ。タスクは安心する。

「アリスの方も元気そうで何より。大丈夫。この後私のチームの人達が助けに来てくれる予定だから。
そうだアリス。今言っておくけど、貴方ここを脱出したらそのまま駆け落ちするが良いわ」
「・・・え・・・?」

突然のタスクの助言にアリスは何も言えなかった。
フロートは薄く笑う。タスクは人を嫌い嫌いと避けてはいるがちゃんとその人の気持ちや性格を汲んでいる。
そして、しっかりと見極め、それにあった接している。
残念な事に男嫌いのため、それは男には出来ないことが彼女の欠点でもあるが。
何も言えないでいるアリスにタスクは続ける。

「貴方の婚約者にあってきたけど、相当のヘタレね。
というか、馬鹿。妙なところだけ自信があるのは金持ちの馬鹿息子の傾向よ。
そんな奴に貴方は勿体無い。
どんな人かは知らないけど、もしその人さえよければアルファーノ家を抜けて生きたらどうかしら?
『アリス姫』はここで死んだことにして、何の問題もない」

フロートも頷いた。

「タスクの人を見る目はかなりいいわよ。聞いておいて正解じゃない?」

アリスは少し黙っていたが頷いた。

「少し考えてみます」

こんなこと今まで思いもしなかった。
少し外の世界に触れてしまったために、少し我が侭になってしまったのかもしれない。
もうあの家には戻りたくなかった。

「・・・さて、タスクあんたのチーム員はまだこないの?ここの仕掛けそんなに難しくなかったと思うんだけど」
「フロートにすれば、なんでも簡単に見えるわよ。それにしてもここ、見張りはいないの?
こんなに大声で話していてもいいわけ?」

人を閉じ込めている割には、警備が薄すぎる。
やっぱり良家の姫ということでなめられているのだろうか。いや、でもそしたらフロートの説明がつかない。

「・・・パスラン、聞こえる?」

イヤホンに向かって話してみるが、何も反応はない。

「ここは電波通じないのよ。この賭場自体遮断されているらしくてね。
通信手段はネットのみ。これじゃ、集団行動とるのに梃子摺るわけね」
「フロート何か身を守る武器みたいなものはもってる?」
「全部取られた」
「アリスは・・・もってるわけないですよね」
「えぇ」

タスクは一応逃げる算段までは考えているが、どうしてもその際戦闘は避けられないだろう。
流石に丸腰で勝てるとは思っていない。フロートとだけならそれなりに出来るのだが、アリスもいる。

「自力で逃げられると思う?フロート」
「自力で行けるもんなら私はもう逃げてるわ。
この手錠と足枷が厄介ね。本物の鍵か後はパソコン使って直接壊すしか、出る方法はなさそうよ。
なんせ私のモバイル捕まった時に没収されたかねぇ。」
「・・・そっか。じゃ、助けを待つしか方法はない。そういえばグレーブは?」
「多分、タスクが捕まっている事くらい分かっているでしょう。それに合わせてきてくれるんじゃないかな・・・と。」

グレーブの名を出してタスクはふと思った。

「そうえいば、恋人のピンチに何やってんのよ、あんたの彼氏。二日も女の子ほっとくわけ?」
「・・・それは連絡とれないからなんとも言えないけどね。」

フロートはふと見えないところで笑みを浮かべる。
分かってないわね。ただ捕まってすぐ助けにくるなんて面白くないじゃない。
親友がそんなことを考えているとは露知らずタスクはあたりに目を向けた。
背後には大きな荷物やいらなさそうな物が積み重なっている。
ここは物置なのだろう。
窓も奥にあるらしいが、積み重ねられた荷物で塞がっている。正面にドアが一つ。

すっとタスクの目の前を何かが通りすぎた。

「ネズミか」

ふと、タスクにある事が思い浮かんだ。

「・・・ねぇ、ちょっと待って。私達を少し助けてくれない?」
「タスク?」

いきなり、見えないものと話し始めたタスクに二人は首をかしげる。
目線の方向からして明らかに自分達に向けて話されている者ではない。

「う〜ん・・・じゃ、行列のできるケーキ専門店のチーズケーキで手を打たない?
・・・えっ?良い?じゃ、私の言う働きをしてくれたらあげるわ」

見守っていたところ、部屋の中で何かが一気に動く気配が伝わってきた。

「何・・・タスク何したの?」
「・・・まぁ見てれば分かるんだけど。・・・少し多すぎたかな。」

タスクの元に集まってきたのはネズミ達だった。アリスが驚いて一歩下がる。
タスクの前には十匹ほどのネズミが綺麗に並んでいる。

「どうしたの・・・これ。」
「・・・ほら、飴なめた時に『動物と話せるようにしたい』って願ったら、こうなったわけ。
では、貴方達には鍵を持ってきて欲しいの。フロートの手錠のやつ。分かる?」

ネズミのうちの一人が言う。

「当たり前じゃん。どれだけここにいると思ってんだよ。その姉ちゃんがここに来た時鍵みたし。
・・・本当に持ってきたらケーキくれるんだろうな。」

やっぱり、彼等も話せれば可愛いものだ。タスクは笑顔で頷いた。

「丸いの一箱持ってきてあげる。明日の夜八時に裏の路地に置いておくわ。」

ネズミ達は喜びの声をあげて各地に散らばった。勿論、フロート達はこの不思議な光景を唖然と見ているしかない。

「・・・鍵を取ってきてもらうの?」
「えぇ、ちゃんと場所も分かるって。」

タスクは自信満々に笑みを浮かべて見せた。


   

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