闇の中ひたすら真っ直ぐ進む光が一つ。
彼らの光は、消えることなく輝き続ける。
その強い光に誘われて向かった先が、永遠の光でありますよう。
本当の、楽園でありますよう。
++++
限りなく続く砂の大地。
そこには時々風化した岩の山が連なったり、洞窟の中には青く輝く湖があったり。
時々サボテン、時々枯れ木。青々とした草と木の中心にはたっぷりとした水をもったオアシス。
日中火傷するような暑さだが、夜になると凍るような寒さ。
生より、死を強く連想させる砂漠。
そんな過酷な大地をSEVENは心から愛していた。
そしてその大地に住まう屈強なモンスターも心から愛していた。
Nobutunaから夏休みを言い渡され、早速SEVENは砂漠にでかけた。
できるだけ多くの砂漠を見たいと、地図を仕入れ、街を転々とし、3つ目の大砂漠へ先日辿り着いたところだ。
ディアブロスを探し、隅々まで砂漠を走りまわり、日が暮れる頃に砂漠の隅っこにある人1人がやっと通れる穴をSEVENはくぐった。
その穴の向こうは石に独特の絵や模様が描いた小さな世界が広がっていた。
さらにその岩には小さな穴がたくさんあいており、アイルーやメラルーが出入りしていた。
そこはアイルー達の巣であった。
「ただいま〜」
「SEVENお帰りニャ!」
アイルーの巣の一角に敷物がしいてある。そこがSEVENの陣地だ。
砂漠にを訪れたその日、街まで遠すぎたので野宿する場所を探しているとSEVENはたまたまアイルーの巣を発見した。
外で寝るよりはアイルーの巣で寝た方がより安全だろうと思い場所代としてマタタビをあげたら喜んで敷物1枚分の場所を貸し出してくれた。
他のサービスは一切なかったが、マタタビで安全な場所を提供してくれただけでも良しとしよう。
SEVENはお礼を言って一夜を過ごした。
メラル―あたりに何か盗られるかと思ったが、そんなこともなく翌日。
携帯食料で腹を満たしたSEVENが出発しようと荷物をまとめていたら、アイル―が話しかけてきた。
「もう行くのかニャ?」
「うん、おかげで周囲に気にすることなくゆっくり寝れたわ。あんがと!
またここ来たとき泊めてよ」
「それは・・・構わないのだがニャ・・・」
何か言いたそうなアイル―にSEVENは首を傾げた。奥をみれば他のアイル―も穴からちらちらとこちらをみている。
「どったの?俺になんか用?」
「その・・・旦那はどういった理由でこの砂漠にきたのかニャ?」
「俺?
俺は全ての砂漠を回ってそこのディアブロスと対決する夢があるんだけど、今回はこの砂漠のディアブロスと対決しようと思って!」
「なら・・・もう少しこの砂漠にいるつもりなのかニャ?」
「うん、1週間くらいはいるつもりだけど・・・」
アイルーは後ろを振り返り、仲間と何か相談しているようだった。
そして向こうからGOサインがでたらしく、アイルーはSEVENに向き直った。
「もし、旦那さんが良かったら、の話なのだニャ・・・」
旦那に『さん』が付いた。少し間にSEVENの地位が上がった!
「しばらくここに滞在して欲しいニャ。マタタビとかいらないニャ!その代わりといったらあれニャのだが・・・。
ここにキッチンアイルーやオトモアイルー志望のアイル―がいるんだニャ。
そいつらをしばらく旦那さんのオトモにして欲しいニャ」
「キッチンアイル―って・・・何っ!?ご飯もらえるの?俺」
「勿論ニャ!お代もいただかないニャ!味についての保障はしないけど」
おおぅ、デッドオアアライブ!
「オトモアイルーについてもこっちが勝手にサポートさせてもらうから旦那さんは気にせず狩りしててくれていいニャ。
自己防衛はできるし、・・・この辺の案内ならできるニャ」
「マジで!?地図ないから困ってたんだよラッキー!!」
SEVENはマタタビで宿とご飯と地図を手に入れた!!
そんな経緯があり、数日アイルーの巣でお世話になっている。
外に出れば、穴場のアイテム採取場所や大型モンスターの出現場所の案内、帰ってこれば美味しいご飯。
地べたに寝るSEVENを気遣ってか寝床に藁がたんまり引かれていた。
アイルーの歓迎っぷりに少し涙したのは秘密だ。
いやぁ、世界ってあったかい!!
「・・・ねぇ、ディアブロスってここにはいないの?」
作りたてのネコ飯を食べながら、焚火を囲みんで座るアイルー達の中でSEVENは問う。
「そういえば、ディアブロス見たことないニャ」
「ティガレックスとかダイミョウサザミならよく見るんだけどニャ・・・」
「あとハプルポッカ?デルクスもガレオスもちゃんといるし・・・」
湖には当然のようにガノトトスガ生息している。
生息場所としてはどれもこれも間違ってはいないが、ここまでいるのであればディアブロスもいてもいいはずだ。
大好物のサボテンもちゃんと群生しているわけだし。
「うーん・・・なんかいつものパターンじゃないなぁ」
なんというかこの砂漠は違和感がある。
どこの砂漠にもディアブロスが生息しているという自分の先入観が間違っているのだろうか。
「明日ちょっとサボテンの近く見てくるか・・・」
あまり深く考えることは好きではない。
しかし、ここまできて下がるのも嫌であったのでSEVENは考えられる程度で生態調査を行うことにした。
あ、これ夏休みの宿題に出せるかもしれない!
Nobutunaに褒められ、メンバーの笑いを一斉にとる自分まで想像してSEVENはにやりと笑った。
これはちょっと本気にならざる得ない。
そうと決まれば明日の準備をして早く寝るに限る。
武器を研ぎ、アイテムを調合し終えSEVENは早々に床についた。
翌朝、宣言通り早く起きたSEVENは軽く身支度をして、携帯食料を食べた。
ほとんどのアイルーが寝ているため、今日は朝ごはんとオトモなしで向かおうと考えた。
わざわざ起こすほどでもないし、この辺の地理は頭の中に入っている。
長く砂漠にいたSEVENは太陽や星の位置で大体方角も読めるようになっていた。
「よっしゃ!いってきまーす」
小声で出発を宣言し、SEVENは荷物を腰につけ、槍を担いだ。
心配させないように『夕方には戻ります★』と書き置きを残してSEVENは穴を潜った。
「僕も一緒に連れて行ってもらっていいかニャ?」
穴を出たところで後ろにアイル―が一匹立っていた。
ここに来た翌日話しかけたアイルーだ。
「おぅ、見つかっちまったか。
ならば、俺の速さについてこれるかな?」
早速SEVENは槍を取り出し、構えた。
「SEVENトリニティアターック!」
こうして朝日が昇る中SEVENとアイル―は砂漠の群生地に向かって走り出したのだ。
太陽が登りきった頃、緑の集団が前方に見えた。
「よっしついたー!」
SEVENは足を止め、背の高さ以上あるサボテンの陰に入った。
日差しは強く容赦なく照りつける。
額に流れる汗をぬぐい、水筒を取り出し水を飲んだ。
クーラードリンクを飲んでいるとはいえ、水分補給は大事だ。
ディアブロスの頑丈な装備を身に着け、灼熱の砂漠の中にいれば熱中症にもかかりやすい。
「旦那さん早いニャ」
地面からボコッっとアイルーが出てきた。
走り続けてきたのに早いなこいつ。
「へぇ、やるじゃん」
「これでも昔はオトモアイルーだったんだニャ。もう引退したけど」
「マジか。
そりゃがっつり頼りにしちゃう」
汗ばんでいるアイル―にSEVENは水筒を渡した。
「いいのかニャ?」
「どうぞ?」
SEVENは上を見上げた。
サボテンは特に食べられた様子もなく、この辺は荒らされてもいないようだ。
砂にも足跡やディアブロスが出てきたような凹みはない。
少し休憩してSEVENは周囲を歩き回った。
なるべく、内側の影のある部分を歩きながら、SEVENは上を見て歩く。
サボテンにもいろいろな種類があるが、経験からSEVENはディアブロスが好んで食べる葉の種類もなんとなく知っていた。
このタイプはまさしく好物のもの。
「うーん・・・食い散らかされた形跡なしかぁ・・・」
好物のサボテンがなくとも、環境が整っていればディアブロスは砂漠の地に生息できる。
オアシスも近くにあるし、凶暴なモンスターがいても対抗できる力も持っている。
世界に広く分布しているはずだから1砂漠に1匹はいるはずだと思っていたんだけれど・・・。
いつになく真剣に考察するSEVENを見て、後ろを静かについてきたアイル―がぽそりと呟いた。
「・・・昔はいたんだニャ」
「・・・え?」
その言葉にSEVENが振り返る。
アイル―は目を伏せ、俯いた。
「昔はディアブロスも数頭この辺にいたんだニャ」
昔は。
その言葉にSEVENも顔をひそめた。
「・・・数十年前。
『楽園』を作るために、他の場所からモンスターがこの地にきたんだニャ」
「『楽園』?・・・なにそれ」
「・・・それは・・・」
ゴォォォンと地響きに近い音と揺れが遠くから聞こえてきた。
SEVENが顔を上げる。その音にアイル―がいち早く反応した。
「この方角は・・・巣にゃ!!」
「・・・巣って・・・もしかして・・・」
アイルーの向いている方角でSEVENは気づいた。
「大変ニャ。僕たちの巣が襲われているニャ!!」
「なんだとっ!?そりゃ大変だ!!」
突然のことに焦るアイル―にSEVENは冷静にポーチを探った。
「戻るぞ!一泊一会の恩、ここで返すとき!!そりゃ!!」
アイルーの手を取り、戻り玉をSEVENは地面に投げつける。
緑の煙に包まれて1人と1匹の姿はサボテンの群生地から消えた。
++++
一瞬で世界が変わる。みれば、アイルーの巣の中であった。。
他の地のキャンプでなくて良かったとSEVENは内心ホッとしながら、中の様子を確認する。
外から何かに攻撃されているのか、振動が止まない。
上から岩や砂がぽろぽろと崩れ、ぎりぎりのところで保っていることが分かる。
内にこもる破壊音と振動が更なる恐怖をアイルー達に与えた。
SEVENがついたころには既に大半が地中に潜り姿が見えなかった。
そして屈強なオトモアイルー数匹が巣に残って武具を装備したり、武器を担いでいるのが見えた。
「何があったっ!?」
SEVENは彼らに詰め寄り、事情を聞く。
「SEVEN帰ってきてくれたのかニャッ!?ここはもう危ないニャすぐに逃げるニャ!!」
「お前らを助けにきたんだよ。外で何が暴れているか言ってくれ!」
不安の色が隠し切れないアイル―達の間で少しだけ、安堵の色が見えた。
「・・・外でダイミョウサザミが暴れているみたいなのニャ」
「今のところなんとかもってるが時間の問題ニャ。
あのヤドで突き上げられたらここも終わりだニャ。
水鉄砲をなんとかしのいでいるくらいで・・・」
「分かった。
蟹だな。何とかする」
SEVENは改めて自分の荷物をあさる。
回復薬、砥石に、お守り。そして最後に黄色い瓶を取り出した。
「・・・お前らは安全な場所に逃げててくれ。
ここは護る」
「でも相手は・・・」
「ランス使いが護りたいものを護れなくてどうするんだよ。
この盾は飾りじゃないんだぜ」
まぁ、あまり使わないけどね!
なんて不吉な言葉はいわないでおく。
SEVENの言葉にアイル―達が息を詰めた。
「この突進系スタンランサーSEVEN様に任せておきなさい!
そうだ、今夜はカニ鍋がいいなぁ。準備しておいてね」
そういって、SEVENは強走薬グレートを蓋を開けた。
「旦那さん!」
SEVENについてきたアイル―が、ディアブロスの装備を纏って、巣からでてきた。
「おおぅ!お前イかした装備してんじゃん!!
俺とお揃いだな」
「僕も連れて行くニャ」
瞳に宿る炎を見て、SEVENは頷いた。
「・・・よっしゃ、いっちょ暴れてやるぜ!
砂漠のディアブロスの強さを見せてやる!!」
強走薬グレートを飲み干してSEVENは小さな穴から外に出た。
外にでると敵はすぐに発見できた。
紫色の大きなハサミに、大きな二本の角がついたヤド。
ダイミョウサザミ亜種であった。
「・・・へぇ、嫌なタイミングでディアブロスとのご対面だねぇ」
SEVENが苦笑する。
ダイミョウサザミのヤドにできるほど大きな頭骨をもったディアブロスにSEVENはまだ対面したことがない。
それを所持しているダイミョウサザミに嫉妬してしまう。
「俺だってそんな最大サイズのディアブロス見たことないのに!!
嫉妬のSEVENトリニティアターーク!!」
怒りをそのまま槍に託し、SEVENはダイミョウサザミに真っ直ぐ向かっていった。
後ろから笛の音が聞こえる。闘志の音色がSEVENの力を増大させた。
SEVENの槍はダイミョウサザミの中央を突破する。
SEVENの存在に気づいたダイミョウサザミは大きなハサミを振り上げた。
SEVENは笑う。
「今夜はたらふくカニの身を食べれそうだなぁ、おい」
アイルーの巣から離れるようにしてSEVENは巣と反対側に位置取り、相手の気を引く。
槍でしつこく突いて、振り下ろされるハサミを盾で防ぐ。
隙ができたところで突進し、ダイミョウサザミの転倒を狙う。
鮮やかな身のこなし方にアイル―は遠くから目を丸くしていた。
「旦那さん、・・・強いニャ」
盾で防いで隙が出来たところを槍で突く。
シンプルで地味で堅実な戦い方であるのに、SEVENの戦い方は派手で人の目を引き付ける。
重い槍を自由に使い、時に剣であるように、時にハンマーであるように、突いて、凪いで、叩き潰す。
槍という概念にとらわれず、ふざけてAshやBillyの真似をしていたこともSEVENの攻撃の幅を広げていた。
それはいつしか、SEVEN自身の糧となり、新しい槍使いの攻撃の形となっている。
ステップで前に卸されたハサミを避け、そして槍を頭に叩き下ろす。
先程から狙って頭に攻撃を当てていたがそろそろ効果は出てくるはずだ。
もう一度ハサミを振り上げたダイミョウサザミの隙をみてSEVENは槍を突き上げた。
「くらえっ!」
ビクリとダイミョウサザミの体が痙攣し、目を回してダイミョウサザミが倒れた。
「フッ、突進系スタンランサーの真髄をしかと見よ!」
盾と槍を定位置にセット。SEVENは砂の大地を強く蹴り上げた。
「SEVEN王家三大奥義の一つ!SEVENモニュメントアターック!」
敵もハラワタ中央突破。
SEVENの猛攻にダイミョウサザミは悲鳴をあげた。
上から振り下ろされるハサミを盾で受ける。
相手の力を受け流し、片方の手に持つ槍を振り上げた。
パキリとその大きなハサミにヒビが入ったのをSEVENは見逃さなかった。
「おらぁ!ハサミいただきぃ!!」
ヒビに向けて鋭い突きを繰り出す。
弱い部分の一点を突かれた殻のヒビはまし、そして砕けた。
大きなダメージを追い、ダイミョウサザミのが泡を吹きだした。怒っている証拠である。
SEVENは手のひらの中で槍を回して笑った。
「どっからでもかかってこい!」
勢いよく吹き出す水鉄砲を真正面から盾で受ける。
熱い大地に丁度気持ちがよかった。
これが敵から吐き出されたものだと考えるとあまり気分はよくないが。
敵わないと気づいたか、ダイミョウサザミはごそごそと地中に潜っていった。
甲殻種のモンスターで一番厄介な攻撃、突き上げだ。
しかも今怒り時であり、当たったときのダメージは普段のそれをいく。
盾では防げず、すぐにSEVENは槍をしまってあたりをうかがう。
ペイントボールを使用しても所在地を掴めず非常に厄介な攻撃だ。
とにかく狙いを定められないようSEVENは走った。
奥から笛の音が聞こえる。
アイル―が吹いてくれているのだろう。
身体の周囲を何かに包まれた、そんな感覚が全身を覆う。
硬化笛の術だ。
地響きを感じSEVENは走る速度を速める。
「とう!」
砂の地面に飛び込むと後ろから鋭い二本の角が顔をだした。
それはすぐに地面に消える。
「・・・本当は生きてるディアブロスで見たかったんだけどなぁ」
文句をいう間もSEVENは次の回避行動に移る。
その場から動かないことが一番危険だ。
しかし、相手の殺気が自分から遠ざかるのを感じた。
それはSEVENの勘であるが・・・。
「逃げろ!!」
SEVENはアイル―に向かって叫ぶ。
そして強走薬の力をフルに使い走りだした。
「・・・にゃっ!?」
徐々に大きな振動がこちらに向かっているのが分かる。
標的はSEVENではなかったようだ。
すぐに走り出すアイル―。
しかし小さな体では大きな頭骨を避けきるのは難しかった。
・・・間に合えっ!
砂漠で走るのは慣れている。
誰より早く砂の上を駆けSEVENは手を伸ばした。
「走れ、こっちだ!!」
アイル―が大きくSEVEN向かって跳躍する。
SEVENがアイル―の手を掴み、そのまま上に放り投げた。
「おらぁぁ!!」
「旦那さんっ!?」
SEVENの考えた読めてしまったアイル―は空中で体制を整え、SEVENを見る。
・・・駄目ニャ、旦那さん。その下には・・・っ!
鋭い2本の角が砂の下から素早く突き上げられる。
丁度真下にいたSEVENは大きく宙に飛ばされた。
「みゃおおおぉぉぉおおん!!」
「旦那さん!!!」
そのままSEVENは砂の大地に落下した。
「・・・ゲホッ、ウヘッ」
太陽の光に熱された砂は火傷するほど熱い。
痛む体を無理やり起こして、SEVENは起き上がった。幸い追撃はないらしい。
「つぅ・・・、久しぶりに効いたぁ・・・。暴虐の兄妹に挟撃された時並みに効いたぁ・・・」
「旦那さん!!」
アイル―が涙目でこちらに近寄ってきた。
大丈夫、とSEVENが笑顔で返す。うん、まだ大丈夫!
ポーチから回復薬を取り出して飲み干す。
痛みが少し和らいだ。
SEVENは立ち上がり、槍を構えた。
「俺の槍の方が強いこと教えてやんよ!」
めらめらと湧き上がる闘志を胸に、SEVENは槍を構えて走り出した。
邪魔者を排除したダイミョウサザミは当初の目的を思い出し、アイルーの巣に向き直った。
「あいつまだ壊す気か!!」
SEVENの走りはどんどん加速する。
そしてハサミを地面に叩きつけ、ヤドの位置が高くなるタイミングで、SEVENは少し屈み、ダイミョウサザミを後ろから突き刺した。
丁度ヤドの下から頭に向けて真っ直ぐに。
普段かヤドに守られているため、他の部位より柔らかく、槍は予想以上に奥まで進んだ。
どうやら急所を突いたらしく、ダイミョウサザミは声にならない悲鳴をあげ、大きなハサミが天にあげられる。
そして力なく体は、砂を浮かせて地に沈んだ。
「・・・あ・・・」
思わぬ勝利にSEVENは槍を落としてしまった。
どうせ倒すんならかっこいいキメ台詞でも叫んでおけば良かった。実に惜しいことをした。
後ろから涙声で走ってくるアイル―、そして巣から大量のアイル―が出てきて、SEVENの勝利を祝う。
なんとかダイミョウサザミから槍を引っこ抜いて、SEVENは笑った。
「似非ディアブロスなんかに負けられないっしょ!」
その時遠くで聴きなれた咆哮が風に流れて、SEVENの耳に届いた。
SEVENが後ろを振り返る。
時はいつの間にか夕方。
赤い夕日に照らされて、黒い二本の角と大きな翼、独特の尻尾を振るモンスターの黒い影をSEVENは確かにみた。
「ディアブロス・・・」
もう一度強く鳴き、その影は地中に潜っていった。
この地にディアブロスは確かにいた!
++++
ダイミョウザザミから身をいただき、アイルーの巣では宴会が始まっていた。
どこから出してきたか酒もふるまわれ、深夜までその馬鹿騒ぎが続いた。
仲間内でよく騒いでいたSEVENだが、こうアイルーと騒ぐのも悪くないなと思った。
ユクモに帰ったらオトモ達と一緒に騒いでみるか。
騒いで休んでその翌日。
SEVENは自分の荷物をまとめ、立ち上がった。
自分の陣地となっていた布も鞄にいれる。
「・・・SEVENもしかしていくのかニャ?」
「うん、ディアブロスは見つかったからね」
「なんか寂しいニャ〜」
「俺も寂しいけど俺の休みは決まってるからね〜。
もらった休みのうちに帰らないとNobuちゃんはともかく他の奴らがうるさそうだし。
もう少し他の砂漠へ足を伸ばしたいから」
朝食に揃ったみんなに礼をいって、SEVENは小さな穴を潜った。
ここを潜ることもしばらくないのか。
「旦那さん」
『SEVENでいいよ』といってからもこのアイルーだけはSEVENを旦那と呼び続けた。
身にディアブロスの装備を纏って。
「街まで護衛するニャ!」
「おぉ、マジでっ!?じゃ頼むわ」
昼間の砂漠を避け、アイルーの案内で涼しい岩の中を選んで進む。
「旦那さん、旦那さんに会えて僕本当に良かったニャ」
「よせやい!おれもディアブロス装備の仲間に会えて嬉しかったんだぜ」
「・・・旦那さん見てると、昔の旦那さんを思い出して・・・」
ディアブロスの装備を身に纏い、ディアブロスの化身のような。
そんな彼はもういない。
SEVENは笑ってアイルーの頭を撫でた。
洞窟を抜け、光に向かって歩くと、そこには大きな国が見えた。
大きな城壁に囲まれ、山の上には立派な城がみえる。
「おおおおぉぉぉ!スッゲェでかいし、かっこいい!」
「ここが街ニャ。入り口は一つしかなくて、この裏に大きな城門があるニャ」
「分かった!あんがと。
また暇をもらった時ディアブロス狩りに来るから俺のオトモを頼んだぜ!」
「了解ニャ!」
お互い拳を突き合わせ、SEVENとアイル―は別れた。
大きな城壁を眺めるのも飽き、鼻歌を歌いながらSEVENは進む。
反対側に門があるっつーけど広すぎだろこの街。しかもこんだけ広いのに門が1つとかめっちゃ不便!
文句を心の中で呟きつつSEVENは城壁を見上げた。
近くでみると首が痛くなるほど上まで伸びている。
まだ新しいところをみると作られて十年ほどしか経ってないと見える。
大きな城壁、1つの入り口・・・。
・・・『楽園』を作るために数十年前に他の地からモンスターが来たんだニャ。
「・・・・。」
これはまた新たな謎の予感。
もう少し詳しく聞いておけば良かったと思っているうちに城門がみえてきた。
早速SEVENは門をくぐる。
ハンターの身分証明は大体どこの国でもたやすく、ギルドカードを見せればすぐに入国を許可される。
入国当日中にギルドに行き登録をすることが条件であるが、その登録もすぐに終わる。
「お姉ちゃん、ギルドの場所どこ?」
「この道をまっすぐ、坂を上りきった大きな建物だからすぐに分かるわ」
「ありがとー」
SEVENは坂道を駆け上がる。
ギルドの場所はすぐに見つかった。
中に入り、SEVENはすぐに登録を行った。その間にクエスト受注版を眺める。
他のギルドとは少し違う異質さにSEVENは目を細めた。
「・・・なにこれ?」
「SEVEN様〜、登録完了しました」
受付嬢に呼ばれ、SEVENはカウンターに戻る。
「登録ありがとうございます。
あと、SEVEN様にお預かりしている手紙が一つ」
「・・・俺に?」
ギルドの情報網は正確過ぎた。俺がここに来ると見越してここに届けるとは・・・。
ギルド・・・恐ろしい子っ!
渡された手紙の宛先とみるとどうやら俺が猟団の団長Nobutuna様からだった。
日付をみると送られてからすでに1週間が経過していた。
「・・・Nobuちゃんどうしたんだろ。
さてはユクモに残されて1人寂しいんだなぁ・・・まったく可愛いんだから・・・」
封を開いて中を確認する。
そこには1つのクエスト依頼書と地図。そして『面白いモンが届いたから冒険してこい!』とNobutunaからの一言が同封されていた。
面白いモンときいてSEVENが心躍らせないわけがない。
既にこの地のディアブロスを確認したし、次の地へ移ってもよかったSEVENは早速依頼文と、地名をみて、地図を確認する。
「・・・あり?」
その地名は聞き覚えがあった。
「お姉さん、この街ってどういう名前だっけ?」
「世界の楽園『ユートピア』です!」
「・・・・。」
事件はユクモで起こってるんじゃない!楽園で起こっているんだ!
ここまで集めてきた情報を合わせると、どう考えてもいい雲行きではなさそうだが・・・。
考えるのをやめ、とりあえず腹が減ったのでSEVENはご当地名産を食べようと売店へ足を運んだ。
腹が減っては戦もできないって、偉い人・・・いや違うその辺のjackが言ってた気がする。
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