夏休みも終盤に差し掛かった頃。
今宵も渓流で飲み明かしたNobutunaは朝日を拝んでから、集会場へ戻り、温泉に入り自宅への帰路についていた。
完全なる朝帰りである。
勿論受注したクエストは『渓流素材ツアー』であり、これといった戦利品もない。
ちょっとガーグァを驚かせて卵を失敬させていただいたが。

自宅の階段を昇っている最中、Nobutunaはとあることに気づいた。
・・・なんか、良い匂いがする。
ユクモ村にきてからはNobutunaは1人暮らしで、朝からご飯を作ってくれる親しい人物はいない。
人の家に勝手に上がり込む野郎共は夏休みという名目でユクモ村から蹴散らせたので、現在Nobutunaの自宅に上がり込むような人物などいないはずだが。
一瞬他人の家かと思ったが、どう見ても自宅である。
煙突を見れば煙も上がっていた。
確実に、誰かいる。

泥棒かとも思ったが、盗みに入り飯を作る泥棒なんているわけがない。
MHDメンバーが夏休みで留守にしているということは今ではユクモ村に知れ渡っているからいないと見込んでの空き巣だろうか。
例え間違えて入ったとしてもある程度の生活臭はさせているので気づかないことはない思うが・・・。
残った酔いを一瞬で醒まし、Nobutunaは背中にある太刀の位置を確認した。
もしものことを考え、静かに扉の前に立つ。

呼吸を整えて、扉を思い切り開けた。

「・・・・お?」

部屋の中の光景を見てNobutunaは身を固まらせた。
すぐには理解できず、他人の家に乗り込んでしまったのではないかと錯覚するほど異様な光景に開いた口が塞がらない。
中にいた人物たちは顔見知りなものの・・・

銅像と化したNobutunaを見てその中の1人が笑みを浮かべて口を開いた。

「あらNobutuna君。
朝帰りとはいい趣味してんじゃないの〜」
「・・・え、あの・・・
なんで俺の家に・・・」
「あ、Nobutunaさん、お帰りなさい!
あまりに遅いんで台所借りて勝手にご飯作っちゃいました!」
「・・・ド、ドウゾ・・・」

段々事態を理解してきた頭が驚きから恐怖へと感情をシフトする。
Nobutunaの背中を変な汗が伝う。

・・・なんだ、これ?

今日何の日だっけ?誕生日?エイプリルフール?ドッキリ?
とにかく目の前の光景が異常というか信じられなさすぎてもう一度部屋を確認した。
間違いない、俺の家だ。

俺の家のはずなのにこの事態はなんだ。

MHD女性メンバーが

イ ン ナ ー 姿 で 自 分 の 家 で 寛 い で い る !

とかどういうことなんだっ!?

え、何?もしかしてギャルゲー的なあれ?
あれだと仮定しても、素直に喜べない。ていうか全く喜べない。
女性陣の背後にはがっつりシスコンで屈強な兄弟の血の付いた武器を担いでいる亡霊がなんとなく視えるのだから。
手を出したら最後、各自の得意とする武器で叩き斬られるか切り刻まれるか刺されるか潰されるか・・・Nobutunaは考えるのをやめた。

自分の家のはずなのに入り口に結界が張ってあるように上がれない。というか動けない。
今日は集会場で泊まろうか、そこまで考えたところで、奥にいるLamiaが口を開いた。

「そんなのところに突っ立ってないで上がりなさいよ。
自分の家でしょ!」
「・・・え、ハイ」

とりあえず入室の許可がでたので促されるまま中に入り、とりあえず背中に担いだ太刀を立て掛けアイテムポーチを棚の上に置く。
しかしNobutunaは座れなかった。
至る所で彼女達が寛いでいて、Nobutunaの収まる場所がないからである。
恐らくNobutunaを待ち続ける間に空間に慣れてしまったのだろう。
基本的に、蝶よ花よと愛でられ大事にされ続けた彼女達に遠慮という価値観はなかった。
あとは個人の経験と価値観に大きく委ねられる。
自分の家にも関わらず身の置き場のないNobutunaの姿があまりにも気の毒に思えたのか、机の前でちょこんと座っていた睡蓮が口を開いた。

「・・・あの、Nobutunaさん。良かったらこちらにきて朝ご飯でもいかがですか?
さっき出来たので温かいうちに・・・」
「ア、アリガトウゴザイマス」
「今Nobutunaさんの分よそってきますね!」
「アリガトウゴザイマス」

睡蓮ちゃんマジ天使。Sakuraさんマジ女神。
お言葉に甘えて有難く睡蓮の隣に座らせてもらった。
出来立てのご飯は久しぶりに見るご飯味噌汁おかずの揃うまともなものであった。
男の一人暮らしだと中々ここまでできない。
Ashやミスター羨ましいなぁ、チクショウ。
手持無沙汰な彼女たちの視線がNobutunaに突き刺さる。・・・た、食べ辛い。

「・・・えっと、みんなはご飯食べられたんですか?」
「はい、お先にいただきました」
「・・・ソウデスカ・・・」

そういえば敬語とか久しぶりに使ったな、と現実逃避しながらNobutunaは女子の手作り朝ご飯を有難く完食した。

「ゴ、ゴチソウサマデシタ・・・。とても美味しかったです」
「そう言ってもらえると嬉しいです!」

確かに美味しかったが味を噛みしめている余裕などなかった。
なんか歓迎してもらっているようだがこの空間に張り詰める空気はなんだ。
せめて朝帰りじゃなければまだマシだったかもしれない。
せめてモンスター討伐後ならいくらかマシだったかもしれない。
徹夜明けだというのに全く眠気が襲ってこない。

ご飯も食べ終えたところで、CarryがNobutunaの前に座った。

「さて、本題に移りましょうか」
「・・・えっと、何か・・・?」

Nobutunaは姿勢を正した。
相変わらずの良い谷間だが、そこに視線を移してはいけない。何があってもだ。

「夏休みに入ってからもう1ヶ月以上経つんだけれど、誰からも何の連絡も来てないの。
Nobutuna君のところには来てないかとちょっと訪ねてみただけなんだけど・・・」
「・・・いや、俺のところにも連絡来てないけど・・・。
ギルドからの連絡もないし、死んでるってことはないんじゃない、かな・・・?」

まぁ未開の地に行ってるBillyとかは分かんないけど。
そういうのは猟団長である自分のところにも届くと思うが、家族にも勿論知らせられるのではないだろうか。

「・・・そう・・・。ったく、出て行ったきり音沙汰ないんだから!」

Carryが腕を組んで軽く舌打ちする。
しかしそう思っているのはCarryだけでなく、他の面子も同じようだ。
Nobutunaはダラダラと変な汗を流しまくった。

・・・お前ら・・・戻ってくるまで連絡の一つでもよこさないと死ぬぞ。
せめてお土産は買ってこい。

「分かったわ、ありがとう。
何か連絡がきたら教えてね」

そういってCarryは立ち上がった。
それに合わせて他のメンバーも立ち上がる。

「・・・えっと、それだけ?」
「えぇ」

それだけで、俺の家に大集合したの?
自宅に居ながらこんなに肩身の狭い思いしなくちゃいけなかったの?

女性陣が去っり、Nobutunaは床に転がった。
一気に疲労と眠気が体を襲う。

怖かった。物凄く怖かった。
男が一度は憧れるハーレムがこんなに恐ろしいものだとは知らなかった。
あの空間にいるくらいならアルバトリオン1人で行った方が精神的に楽だ。

そのまま寝ようとしたところで呼び鈴が鳴らされた。

「旦那さん、手紙ですニャ!」

ギルド直轄のポストアイル―だ。
差出人を見るとRikuだった。
どうやら前に送った手紙を見て、とある王国に4人が集まったらしい。
AshやRikuはともかくSEVENとBillyに手紙が届くとは思わなかった。
文面は数行だが、相変わらず楽しくやってるということは読み取れた。
Nobutunaの手紙に応じた上で、律儀に返信するところがなんだかんだで真面目だと思う。

「なんていうかねぇ・・・。
欲しいのはRikuじゃなくて他の奴の手紙なんだけど・・・。
誰も得しねぇよ」

とりあえずBASの安否は確認が取れた。
心配しているようだったし伝えようかとも考えたが、更に彼らの立場が悪くなるような気がして報告は別の機会に持ち越すことに決めた。
Nobutunaはそのままベッドに寝転んだ。
とりあえず今は睡眠が欲しい。

・・・そういえば、さっきここにTharrosさんとFIVEさんが寝ころんでいたような気がする・・・・。

・・・・・・・。

・・・ヤベェ。落ち着け、とりあえず落ち着け俺。
槍でハラワタ中央突破された上で、頭をすり潰される前に落ち着け俺。

++++

一応ユクモ村の専属ハンターということでメンバーがいない間Nobutunaは毎日ギルドには顔を出していた。
他のハンターでは倒せない難易度の高いクエストは全てNobutunaに回ってくることになっている。
クエスト版を眺めるが最近クエスト自体が減っていた。
夏の暑さでモンスターもへばっているのか、それともただ単に個体数が減ったのか・・・。
始めのうちは平和でいいことだと思っていたが、最近それが偶然ではないような気がしていた。

「今日も目立ったクエストなし、か」

煙管の煙を吐き出し、Nobutunaは来た道を戻る。
今日は何をしようか。
そういえば、主に農場を弄っているRikuもいない事だし、久しぶりに農場の整備でもしてみるか。
ふと、カウンターのギルドマネージャーの視線を感じ横を向いた。
大きなとっくりを片手にギルドマネージャーはしゃっくりをした。
顔が赤い。酒の匂いを漂わせているのはいつものことだ。
朝から酒とはいいご身分だ。

「おぅおぅ、チミチミィ。
今日も武器を振るわず帰るつもりか?
背中の太刀が泣いておるぞぃ?」
「武器を振るおうにも相手がいねぇじゃねぇか。
害のないモンスター倒すなんて趣味じゃねぇしな。
いいじゃないか、平和で」
「・・・そうじゃのぅ
嵐の前の静けとならねばいいが・・・」

ギルドマネージャーはグビッと酒を煽った。

「・・・のぅ?若いの」

その瞳に何か意味深な物を感じNobutunaが目を細める。

「・・・そうだな」

このギルドマネージャーをただの酔っぱらいと侮ってはいけない。
しかし、その瞳から思考を読み取るのは難しい。
どうせロクでもないことを腹の中に持っているのだろうなということだけは理解できる。

「じゃ、俺は農場にいるからなんかあったら呼んでくれ」
「いやー、頼りになるのぅ。流石MHDの猟団長」

関わると本当にロクなことにならなそうなのでNobutunaはさっさと集会場を後にした。


農場に向かうためにそのまま集会場の階段を下る。
村長に挨拶をして次の階段を下ろうと横の温泉に目を向けると見かけない一匹のアイル―が浸かっていた。
どうやらネコタクアイルーで仕事でここにきたようだ。
気持ちよさそうに浸かっているのをみて、そういえば猫って水嫌いだよな。という思考まで辿り着いた。深追いはしないことにする。

「旦那さんはここのハンターさんかニャ?
ここのハンターさんは最高ニャ。こんな温泉に入り放題ニャんだから!」
「あぁ、本当にここはいいとこだ。
少しいけば渓流のスゲェ景色もあるしな。そこで飲む酒といったら・・・この世の天国だな!」
「旦那さん、イケるクチだニャ!」
「いやいやいや・・・よせやい!」

世間話に華が咲く。
Nobutunaは居座るつもりで、温泉に足だけつけた。
これだけでも十分に気持ちがいい。
観光地はこういった出会いもあるから面白い。
ネコタクアイル―がNobutunaの装備を見て目を細めた。

「旦那さん、それって上位装備ニャ?
背中の剣も業物とみえる・・・」
「お、分かるか?これ最近鍛えなおしてもらったんだが・・・」
「となると、この村の専属ハンターさんかニャ?」
「あぁ、一応そうなるな」

ネコタクアイル―は少し黙って、Nobutunaを見上げた。

「専属ハンターさんなら・・・」
「なんだ?」
「僕見たんだニャ・・・。
さっきユクモ村に連れてきた商人のお客さんとギルドマネージャーが深刻な顔をして話をするのを!
その後2人は難しい顔をしたまま渓流の奥へ歩いて行ったんだニャ。
あれはただの商人じゃないニャ。事件の臭いがプンプンするニャ!」

アーッ!とかそういう意味じゃなくて?Nobutunaは突っ込むのをやめた。
知らない方が幸せなこともある。

・・・しかし・・・。

「ギルドマネージャーが・・・深刻な顔してねぇ・・・」

先程の意味深な表情はこのことに関係があるかもしれない。
Nobutunaは湯から出た。

「貴重な情報ありがとな。
いいとこだからゆっくりしてくといいさ」
「お気遣い有難いニャ、旦那さん」


Nobutunaは晴天の空を見上げた。
確かに天気はいいが、どことなく重い空気が蔓延しているような気がする。
どこか見えないところに暗雲が立ち込めているような。
まさに嵐の前の静けさ、といったところか。

妙な胸騒ぎがする。
ギルドマネージャーは何か知っているようだが素直に教えてはくれないだろう。
また、その背後にあるものが大きすぎた場合、自分一人では太刀打ちできない可能性もある。
夏休みも残り2週間。
Nobutunaは集会場に踵を返した。
念には念を入れ、だ。
長い休みが少し短くなっても文句はないだろう。そろそろ仲間恋しくもなっている・・・はず。
ポストアイル―に2通の手紙を渡しNobutunaは闘技場に向かった。

「ほぅ、お前がティガレックス討伐とは珍しいな」

たまたまいた教官が声をかけてきた。
Nobutunaはユクモの笠を被りなおして太刀を手に取った。

「腕が鈍ると困るんでね・・・」

自分が本気を取り戻すにはティガレックスくらいが丁度良いだろう。
闘技場の門が開かれる。目の前には牙をむき出しにし大きく吠えたティガレックスが1体いた。

「・・・さて、存分に楽しませてくれよ」

磨き抜かれた刀身がNobutunaとティガレックスの顔を映し出す。
Nobutunaに向かって大きく跳躍したティガレックスの体を避けその尻尾に一太刀を浴びせた。

++++

それから1週間後。
Nobutunaは今日も今日とて渓流で一杯飲むために素材ツアーに赴いていた。
渓流はいい。何処で飲んでも美しい景色と月が歓迎してくれる。
危険なクエストも張り出されていないし、まさに飲んだくれるのにもってこいな場所だ。

滝を後にし、ススキ林がある大河の畔まで出る。
Nobutunaはそこで大きなジンオウガを見つけた。

「・・・おいおい、ジンオウガの目撃情報なんて聞いてねぇぞ。
しかも結構デカいじゃないか」

アイテムも装備も手を抜いてきたわけでもないが、素材ツアーと狩りに来るのでは気持ちが全然違う。
勿論お互いに何事もないに越したことはないので、Nobutunaは近くの岩に隠れ、ジンオウガの様子を伺った。
そうだ、ちょっと月見ポイントが被ってしまっただけだ。俺たちは争う必要なんてどこにもない!
と、心の中で叫び、ジンオウガが去るのを待つ。

ジンオウガは落ち着きなくその場をウロウロ動き周っていた。
しきりに首を動かしている。
何かを探している、というよりは・・・

「何かに、怯えている・・・?」

渓流の王として君臨するジンオウガは全てのモンスターを自ら退けるほどの風格と力を持っている。
しかも銀冠レベルのジンオウガならその力も比例して大きい。
見た目から深い傷を負っているようにも見えない。

ならば、何に怯えている?

その時、大河から強い風が吹き付けた。
Nobutunaは思わず目を閉じた。

「・・・・っ」

その時ジンオウガが強く発光した。

「・・・なんだ?」

ジンオウガはじっと大河の奥、上空を見つめて何かを威嚇している。
Nobutunaも視線の先を見つめるが、そこには美しく輝く星しか見えなかった。
しばらく威嚇していたジンオウガだが、発光をやめそのまま渓流の奥に逃げてしまった。

「・・・なんだぁ?」

もう一度大河から強い風が吹く。
その風に乗って何かの咆哮が聞こえたような気がしてNobutunaはもう一度星の輝く空を見た。

・・・さっきのジンオウガは、この風に、あの咆哮に怯えていたのかもしれない。

銀冠サイズのジンオウガに遭遇したこともあり、絶景を肴に酒を飲む気も失せてしまったNobutunaはキャンプへと踵を返した。
その表情は硬く、足も自然と早足になる。

最近のモンスター討伐依頼の激減はこのことが起因しているのかもしれない。
世界の変化にはモンスターの方が敏感だ。
あのジンオウガの怯えよう。ジンオウガがあれならば他の大型モンスターも何かしら感じているのだろう。
自分より大きな存在を。

『さっきユクモ村に連れてきた商人のお客さんとギルドマネージャーが深刻な顔をして話をするのを!』

アイルーの言葉を思い出す。
2人は渓流の奥へと歩いて行った。
そういえば、最近下位クエストも渓流でのクエストはふつりと消えてしまった。
あっても卵やキノコやタケノコの採取クエストばかり。
こうして上位素材ツアーに来ていても見かけるのはジャギーやガーグァなど雑魚ばかりだ。

胸騒ぎが大きくなる。
また強い突風が渓流の木々を揺らした。

++++

ネコタクに乗って集会場に戻ったNobutunaはベランダから渓流を眺めているギルドマネージャーの姿を見つけた。
その方角はまさにジンオウガが見つめていたのと同じ場所。
集会場に人の姿はなくただ松明の光だけがぼんやりと室内を照らしていた。

「・・・ギルドマネージャー」

Nobutunaが近くまで歩みを進め、話しかける。
ユクモ村の専属ハンターとして、聞いておかねばならない気がした。
Nobutunaの目を見てギルドマネージャーが目を伏せた。
彼からは珍しくアルコールの臭いがしなかった。

「こんな夜更けにどうしたかのぅ。
また渓流に酒飲みにでかけていたんじゃないのか?お?
その瓢箪の中身減ってないと見えるが・・・わしへにプレゼントか?」
「渓流の奥で、何を見た?」
「・・・・ほぉ・・・・」

ギルドマネージャーは顎に手を当て、ヒゲを撫でた。
Nobutunaを上から下まで見定める。

「チミこそ渓流で何を見た?」

Nobutunaは素直に答えた。
ここで隠しても得することは何もない。

「銀冠サイズの上位ジンオウガが何かに怯えている姿。
あれはハンターやそその辺にいるモンスターにではなかった。
もっと遠くにいる大きな存在・・・、おそらく古龍級のモンスターに」

これでもG級ハンターとしてやってきたのだ。
何度か古龍と出会えば知識がなくても勘で分かってくる。

ギルドマネージャーはニヤリと口元を上げた。

「チミらを専属ハンターにして良かったのぅ」

ユクモ村にある異変が古龍の仕業であるという結論に至った推察力。
古龍の仕業であると知りながら真実を求めにやってくる度胸。
そして討伐することを可能とする強さ。

・・・少しこの若者を舐めていたかもしれない。

ギルドマネージャーは中に戻りカウンターの定位置に軽やかに座る。
その動きにはギルドマネージャーが現役だった頃の俊敏さを彷彿とさせた。
ただの酒飲みジジイに格を下げるのはまだ先かもしれない。
酒瓶に体をもたれ掛け、煙管に火をつける。
一服してから、ギルドマネージャーは煙管で目の前の椅子を指した。

「そこに座り」

ギルドマネージャーのいつもと違う声音に、緊張感が走る。
Nobutunaは指された椅子に静かに腰かける。

「チミが言う通り。
巷のモンスターが静かになったのは渓流の奥深く『霊峰』という場所に現れた古龍、アマツマガツチが原因じゃ」

初めて聞くモンスターの名前だ。
ギルドマネージャーが手元にある巻物を取り出し開く。
その姿をみてNobutunaが反応した。

「・・・龍!!」
「フォッフォッ!
ユクモの文化にいち早く慣れ和の文化を知るチミなら竜といえば鳥の姿よりこの蛇の形の方がしっくりくるじゃろ。
そうじゃ、とある東の地方で神や王のシンボルとされる・・・ここでは嵐龍と呼ばれておる。
こいつがアマツマガツチじゃ・・・」
「・・・こんな龍が、本当にいるのか」
「先日大変な目に合いながらも本物を見てきたからのぅ、・・・存在する。
その啼き声は雷雲や嵐を呼び、また竜巻を起こす力も持っている。
風を操るクシャルダオラなんて非にもならんのぅ。
体も大きいし・・・その存在自体が謎に包まれておる。
わしも今回アマツマガツチを見てここに戻ってこれたのも奇跡じゃ。
乗った飛行船は跡形もなく潰された」
「・・・どうしても、倒さないといけないのか?」

ギルドマネージャーはNobutunaをちらりとみた。
東の国で龍は尊い神としての扱いを受けている。その信仰も厚い。
その文化に詳しいNobutunaとしてはそんな龍を倒すことにためらいがあるのだろう。

「・・・まだここらから確認できないが、アマツマガツチは徐々にユクモ村に近付いておる。
近い将来、渓流を含めユクモ村にアマツマガツチの侵攻があるじゃろう。
ワシはギルドマネージャーとしてその侵攻を食い止める義務がある。
勿論、専属ハンターのチミにもじゃ」

・・・といってもNobutunaには同等の実力を持つ仲間が8人おり、Nobutunaが行かずとも他のメンバーに頼むことも可能だ。
全員龍に拘りがあるというわけでもなさそうだし。

「・・・チミが仲間に与えた夏休みもそろそろ終わるじゃろ。
全員揃ったところで討伐を頼もうかと・・・」

その時、強風が集会場を襲った。
クエスト受注書が風に煽られ室内を飛び回る。
室内と照らしていた明かりが全て消えた。
月明かりが照らす室内で、床に散乱した紙がやけに白く目に入った。

「・・・時間はあまりなさそうだな」

Nobutunaが苦笑した。
ギルドマネージャーも息をついた。
Nobutunaの責任感の強さは付き合う中で知っていた。
この男は自分の中の禁忌を冒してでも、1人でも、挑もうとするだろう。
ユクモ専属ハンター猟団MHDのリーダーとして。

「そのようじゃな。
でもチミ1人に行かせるのは許可せんぞ」
「・・・あー・・・、そのことなんだが・・・」

その時、入り口からバタバタと足音がこちらに向かってきた。

「ったく、手紙まで出しといて家にいないとか何様だ、うちの飲んだくれはっ!?
どうせまた渓流にでもいって一杯やってるとしか・・・」
「・・・うーん、ていうかユクモ村前と違わないっ!?
空気が重いっつーか・・・何?この風の強さ。台風でもくんの?」

バタンと勢いよく集会場の扉が開く。

「ちーす!お姉さん渓流素材ツアー大人2人!」
「なんか暗くないか?夜間営業はしなくなったの?集会場」

ガルルガ仮面を被ったFaltと金剛装備を纏ったjackが集会所に乗り込んできた。
久しぶりに見る顔と声にNobutunaは懐かしさを堪えきれず破顔した。
そういえば猟団組んでから1週間も顔見ないことはなかったなぁ。

「・・・よぉ、久しぶり。
懐かしいもん着てんじゃねぇか!!」
「あ、ここにいたかNobutuna」
「ガルルガ仮面さんじょーーーい!!ってね!」
「・・・チミら2人、その装備没収ね」
「ゲッ、ジジィ・・・。えっと、あの、そのっ、この仮面は下位装備なんで見逃して欲しいっていうか!
なんなら下位装備までグレード下げるから許して欲しいっていうか」
「没収」
「賄賂として好きなお酒買ってあげるから見逃してー!!」
「没収!!!」

ギルドマネージャーは素早い動きでFaltのガルルガ仮面を剥ぎ取った。

「ギャーッ!?なんて恐ろしいことすんのこのジイさん!!
やめてーっ、エッチーィ!!」
「・・・暗くて見えないから落ち着いてタオルでも被ってろ」

素顔を見られることを極端に嫌うFaltは、温泉客用のバスタオルをjackに被せられなんとか落ち着いた。

戻ってきた途端騒がしい奴らだ。
Nobutunaは思わず噴き出した。
お蔭で伝説の龍を討伐する恐怖も一気に吹き飛んでしまった。

「・・・まぁそういうことで3人揃ったし、これでいいだろ?」
「・・・そうじゃな。
明後日飛行船を飛ばす手配をしておこうかのぅ・・・」
「何だ?どこか行くのか?」
「なになに?Nobutunaさん遅めの夏休みでもとるの!?
何処にバカンス?」

Nobutunaはギルドマネージャーから渡された巻物を2人の前に差し出した。

「お前ら帰ってきたところ悪いが、夏休み最後の思い出に俺と一緒に伝説の古龍を狩りに行かないか?」

見たこともない龍にjackは興味深そうに眺め、Faltは目を輝かせた。

「まぁ、Nobutunaが行くっていうなら行くしかないな」
「行くぅ!絶対行くぅ!!」
「決まりだな。
ならギルドマネージャーあとはよろしくな」
「・・・分かった」

夜も遅いので3人は集会場を後にする。
久しぶりに家に帰る2人の後姿をみてNobutunaは苦笑した。
全身から嬉しさが溢れている。
いやいや、これも青春かな。

しかし2人に限らず伝えなくてはいけないことがある気がしてNobutunaは首を傾げた。
・・・何か、何か・・・。

「・・・あっ!!」
「どったの?Nobutunaさん」
「・・・ふ、二人とも」
『・・・?』
「お土産とか・・・買ってきた??」

どうせ家族に連絡もなく今日この日まで来てしまったのだろう。
気を利かせてお土産を・・・・・買ってくるわけないよね。ですよねー。
jackもFaltもNobutunaの言わんとすることを察して目を逸らせた。
そういえば、家に何の連絡もしていなかった。
鍵とか絶対開いてないし、連絡もしてないし、お土産とかないから完全に締め出されるよな・・・・。

「・・・えっと、今晩泊めてくださいお願いします」

気持ちが分からんでもないNobutunaは2人の願いを聞き入れた。

「別にいいけど、日が明けたらちゃんと帰れよ。
明後日アマツマガツチ狩りに行くんだから」
「・・・うん、分かってる。それまで生きてたら一緒に行くわ」
「生きてたら・・・な」

古龍以前にクリアしなければいけない難題クエストが出来てしまった2人はこの世の終わりのような表情をしていた。
気の毒なような気もしたが「そういえば何だかんだでリア充だなこいつら」と気づいたNobutunaは同情するのを止めにした。
連絡もお土産も忘れたこいつらが悪い。自業自得だ。
明日夜明けと共に追い出そう。そうしよう。

リア充はもっと苦しめばいいと思う!!(`´∀`´)キリッ

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