「・・・兄さま」

最近ちょいちょい深夜に出かけている自分に気づいたのだろう。
B社を立ち上げて数ヶ月後、深夜を過ぎ、明け方に近い時間に帰ったBillyをTharrosは迎えた。
おそらく一睡もせずに待っていたのだろう。
Tharrosは何も言わずじっとBillyを見つめた。

「・・・ただいま」
「おかえりなさい」

Billyは表情を変えずTharrosを真っ直ぐ見つめた。
もう、色々覚悟を決めたようだ。聞きたいことは色々あるだろう。
なんとか隠してきたつもりであるが、一緒に住んでいるからにはどうしても隠しきれないことはある。

Tharrosは少しずつ気づいてしまったのだろう。
ある期間から物の少ない自分の部屋に様々な書類が溜まっていくのを。
自分が深夜にこっそり外出しているのを。
知らない人と連絡を取り合っているのを。

日常の生活を送っていれば、このような変化はないはずだ。
Billyは目を瞑って少し考えた。
自分たちのしていることは危険なことだという認識はある。
できればTharrosを巻き込ませたくないと思っていた。
しかしそれも限界であろう。

「Tharros、寝てないのか?」

Tharrosは静かに俯いた。
Billyは荷物を担ぎ直して家に入った。

「・・・少し長くなる。大丈夫か?」

Tharrosはもう一度頷き椅子に座った。

BillyはB社を立ち上げたこと。それに至った経緯。協力してくれる仲間がいること。
大事なところを短い言葉で掻い摘みTharrosに伝えた。
TharrosはじっとBillyの言葉を聞いていた。


全てを話終えたBillyにTharrosは言った。

「兄さま。私にも手伝わせて」
「・・・Tharros・・・」

Tharrosの目にはすでに決意が込められていた。
Tharrosの運動神経も、いざという時の戦闘力もB社のチームに入れるには申し分なかった。
しかし妹を危険な目に合わせたくないというのも兄の心情であった。
できれば裏社会のことなど知らずにいて欲しい。

Tharrosの決意は固まっているようで、否定などしても揺らぐものではない。
昔からそうだ。芯が真っ直ぐで一度決めたことは絶対折らない。
頭の中で色々葛藤し、最後にBillyは折れた。
TharrosはTharrosの生きたいように生きればいい。
それを支えることが、彼女に対して自分のできることだとBillyは思っている。ていうかそれしかできない。

「・・・分かった。だけど条件がある。
これはお前が望んだことだ。お前が全ての責任を請け負うことになる。
もし、何かあってもそれは自分で解決しろ」

Tharrosに言いながらも、その言葉は自分に返ってくるようだとBillyは思った。
例え妹でも、状況次第では切り捨てることも考える。
公私混同は絶対にしない。

「分かっているわ、兄さま」

Tharrosは当然のように承諾した。
自分やGoodmanに何かがあったとき、ちゃんと1人で生きていけるように。
Billy家の教育方針だ。そしてTharrosもそのように育っていた。
もし何かあってもTharrosは助けを求めることもしないし、助けられることを望まない。
それが良いのか悪いのかBillyにも分からない。
あとは、Tharrosが他人と関わっていく中で自分の価値観を変え成長するのを見守るだけだ。

こうしてTharrosはB社の一員となり、後にRikuと共に行動することになる。

++++

「なら、Tharrosさん。
俺ちょっくらいってくるからここは任せたよ」
「分かってる」

いつも別れる時は少しだけ不安になる。
Tharrosの実力は分かっているつもりだし、肉弾戦なら恐らく彼女の方が強い。
それでも一応、とRikuは付け足した。

「危険だと思ったらすぐに逃げてね」
「大丈夫」
「あと、俺を呼んでね。すぐに助けに行くから」
「Riku、心配しすぎ」

Tharrosに窘められてRikuは少し困った顔をする。
別に『はじめてのおつかい』くらいなら俺だってこれだけ過保護にはならない。
ここは上流貴族の家が軒を連ねる高級住宅街。
そして、現在地は裏社会をしきる重鎮の1人の自宅の庭の隅。
勿論襲撃に備えて、見張りやら番犬やらがうろうろいる。
そして任務はこの屋敷の主の暗殺。
『はじめてのおつかい』とは比べ物にならないくらい危険なお仕事だ。
もし失敗すれば軽く命はない。最悪B社の存続も危険になる。

「なんか、ここ犬もいるしさ・・・やっぱりTharrosさんここで待っててくれた方が・・・。
終わったら逃げるタイミング教えるからさ。俺乗っけてくれれば・・・」
「うるさい、さっさと行け」

今度は睨まれた。
はぁい。と返事をしてRikuは頭をかいた。

「・・・なるべく早く帰ってくる」
「そう思うのなら5分で片付けてこい」
「・・・ちょ、5分とか厳しすぎるわぁ・・・。
・・・まぁなるべく頑張る」

そういってRikuは音も立てずに木の上に登る。
そして器用に木から木へ飛び移っていった。
獲物は左端の部屋にいるという情報だ。
カーテンが閉まっていて中が見えないのが問題だが、さて、どうしようかねぇ。

Rikuを見送ってTharrosも行動に移った。
打ち合わせ通りに罠を配置しに向かう。
基本はRikuのスナイパーライフルでターゲットを暗殺し、逃げるだけという簡単なお仕事だが、もし見つかっってしまったり、ターゲットが現れなかった場合のために予備的に罠を設置するのがB社の基本だ。
罠の発動はRikuの指示にて行われる。
Rikuが様子を観察している間、打ち合わせ通りに罠を仕掛けるのがTharrosの主な仕事であった。

周囲は暗いがさらに影を探してTharrosは移動する。
途中人が近くを通ることがあるが、動かずじっとしていれば意外に見つからないものである。
しかし、この屋敷は面倒なことに犬が配置されているため、いつもより行動に気を付けなければいけない。
屋敷の隅に言われた通り罠を設置し、仕事が終了したTharrosはRikuを探した。

ターゲットの部屋の位置が分かっているため、その対角線上にいるRikuを目を凝らして探した。
視力は元々良い上、今まで仕事をしていた勘でRikuのいる位置は大体予想がつく。
微かな光を受け、反射しているスナイパーライフルを確認した。
じっと部屋の中を伺っているらしい。残念ながら部屋はカーテンが閉まっていて中は見えない状態にある。
ベランダにも見張りが2人。

TharrosはRikuにこちらの情報を伝えた。

「・・・Riku、仕事終わった」
「ん〜、ありがとうTharrosさん。
こっちはねぇ。・・・どうしようかな〜。わりと警備が厳重なんだよね。
カーテン分厚くて中の様子も分からないし。
見張りいるから中にいるとは思うんだけど・・・」

それだけ分かっていて行動に移らないRikuにTharrosが少しイラついた。

「罠使う?」
「ん〜・・・どうしようかな。」
「出てこないなら、私が囮に・・・」
「駄目。
ちょっと待って、もう少し楽に行ける方法考えるから。
今回犬もいるから見つかったらそう簡単に逃げられないと思うし。
奴ら匂いも嗅げるし覚えるし、追跡されたらたまんないからねぇ」
「犬は3匹でしょ。のしてしまえば問題ない」
「流石Tharrosさん。
獣も銃もTharrosさんの前では雑魚だねぇ」

Tharrosはムッとした。
こっちは真剣に話しているのに、Rikuの声音は比較的のんびりしている。

「Riku、5分経過したわ」
「・・・まじかー。
約束の時間過ぎたねぇ」
「まだ動かないの?」
「動けないんだよ。近くに人いるし・・・。
この位置じゃ見張り倒せても中にいる人まで弾は届かないからね」
「ならその人を引き付ける」

自分の位置からRikuの指している見張りが見えた。

「え、・・・いや、まだ駄目だよTharrosさ・・・」

Rikuの言葉と同時にTharrosは石ころを見張りに向かって投げた。


「・・・?なんだ・・・」

石ころが落下した微かな音に気づきRikuの近くの見張りが動く。
Rikuは血の気が引いた。

自分の中で戦略プラン、実はまだ立ってないんですけど。

流石にそれをいうとTharrosがブチ切れそうなので心の中に閉まっておく。
そして頑張れ俺、Rikuさんならできる。絶対できる。と頭をフル回転させ今後の作戦を練った。
賽は振られてしまったというか石ころは投げられてしまったし、もう時間もさして残ってないわけだが。


Tharrosの投げた石ころを拾い、見張りは周囲を見渡した。
特に変わったところはない。
しかしこんなところに突然石ころが・・・?
見張りは一匹犬を呼ばせ匂いをかがせた。

Tharrosは目を細める。・・・バレてしまうだろうか。
Tharrosがそっとその場を移動した。
隠れられるところを探して周囲を見渡す。
屋根など高いところにいけばベストだろうが・・・。

登れるところを探してTharrosはそっと移動した。
周囲と犬と見張りと背中は壁伝いに慎重に動く。

周囲の微かな変化に気づいたのか犬がこちらを向いた。
気づかれたか!
Tharrosは逃げるために壁を離れ静かに駆け出した。
その瞬間注意力が低下する。
壁の死角になっていた見張りに気づかず鉢合わせてしまった。


「・・・っ!!」
「おっ・・・こりゃぁ・・・」

大柄の男がTharrosに気づく。

「招かざる客だなぁ・・・どこのどいつだ」

体格に似合わず素早い動きでTharrosに近付き、Tharrosの腕をひねりあげた。
瞬時に握られたトンファーが地面に落ちる。

「・・・いたっ・・・」
「・・・お?ネズミかと思っていたら子猫だったか。
銀髪に金の瞳・・・顔も整ってやがる・・・。
しかも手練れのトンファー使いとなりゃ・・・こりゃ珍しい」
「・・・はな・・・せっ」

無遠慮な視線がTharrosに注がれる。
そのまま宙づりにされ、Tharrosは痛みに顔を歪めた。


『・・・Tharrosさんっ!?』

不穏な会話の流れにRikuは思わず声を荒げた。
こちらの通信が向こうに知られてしまうのもマズいのだが、反射的になものは仕方ない。
Tharrosのいた方向に視線を移すがそこにTharrosの姿はなかった。どうやら死角に入ってしまったらしい。

Rikuは舌打ちをして起き上がった。
すぐに助けにいかなくては。
幸い騒ぎにもなっていないようだし、上手くいけばことを荒げずに助けることができる。

『・・・Riku』

イヤホンの向こうから抑揚のない低い声が聞こえた。
Rikuは動きを止めた。

『Tharrosはいい。Rikuは仕事を続けろ』
「Billyさんっ!?」

BillyがTharrosを大事にしているのは知っている。
この状態でBillyがそのようなことを言うことが信じられなかった。

『最優先はターゲットの暗殺だ。
できない状態であれば仕事を中断して帰ってこい。命令だ』
「何言ってんだよ、Billyさんっ!
そんなことできるわけ・・・」
『Tharrosは望んでRikuについていった。勿論危険な仕事だということも分かっている。
でもRikuは違う。俺が頼んだ。
俺は、Rikuの安全を保障する義務がある』
「・・・・。」

Billyの声が震えているのは通信状態が悪いわけではないらしい。
Rikuは苦笑した。
全く、素直じゃないねぇBillyさんは。
いっそ隣にいるだろう赤髪みたいに『なんとしてでも、Tharrosを助けろ』っていってくれた方がこちらとしては有難いのに。

Rikuはやれやれと息を吐いた。

「了解したよ、ボス」
『・・・・。』

ふつり、と回線が切れる音がした。
Rikuはもう一度息をついた。

「本当困った兄妹だわぁ。
振り回される俺のことも少しは考えてほしいって話」

Rikuはターゲットがいる部屋をじっと見つめた。
ターゲットの暗殺、かつTharrosさんを助け自分も無傷で帰宅する。
遠まわしにそう言われている気がする。というかそうしなければ帰れない。

「俺には荷が重すぎてなんか吐きそう」

奥で犬の鳴き声が聞こえた。
時間もあまりないらしい。こちらの侵入に気づかれるのは時間の問題だ。
ターゲットに移動されては今までの計画が台無しだ。
ポーチの中にある物品を確認し、Rikuはライフルを構えてターゲットの部屋を覗く。
気持ちを落ち着かせて、素早く引き金を2発引いた。

++++

「Billy・・・」

回線を一旦切り、Billyは目を瞑って深く俯いた。
拳は震え、強く握りすぎて白くなっている。
直に血も滲むだろう。
一緒に状況を聞いていたAshが目を伏せた。

重い沈黙が室内に落ちる。

しかし、しんみりするのはBASじゃない。

「・・・まぁ、なんていうか。
Rikuもあれはあれでやるときはやる男だし、
‥・・射撃の技術は俺も認めてるっていうか・・・
いつもへらへらしてるし、存在自体よく分からないけど、別に馬鹿な奴じゃないし、大事な時には考えて動くし、
Billyに負けず劣らずTharrosに過保護だし・・・」

Billyはゆっくり顔を上げた。
Ashは笑って首を傾げた。

「たまには頼ってもいいんじゃねぇの?
まぁ、Rikuだからねぇ」
『はぁい』

同時に言って、2人は噴出した。

「確かに、Rikuに限ってそんな心配いらなかったな」
「だいぶ買ってるんだな」
「まぁね」

B社はRikuなしでは成り立たないとBillyは考えている。
射撃の腕は勿論、知力、判断力、度胸、恐怖心。
大切なものをRikuはバランスよく持っている。
Rikuにかなり拒否されたが、粘り続けた甲斐があった。

「・・・さて、帰ってくる2人になにか作りますかね」

Ashがカウンターに入り、動き始める。
Billyは再度回線を繋げた。

++++

眉間のど真ん中を撃ち抜かれ、見張りの二人は同時に横たわる。
外の異変に気付いた中のボディガードが大きな窓を開いた。
ベランダに着地したRikuとボディガードの目が合う。Rikuがすかさず拳銃の引き金を引いた。

「悪いけど俺の姿を見たら死ななくちゃいけないんだよね。ごめんね」

ボディガードはそのまま後ろに倒れていった。
死体となって戻ってきたボディガードに中にいた人物たちは騒然となる。
Rikuは分厚いカーテンを強引にくぐり中を改めた。

いた、ターゲットの重鎮だ。

その間わずか3秒。拳銃でターゲットの眉間、心臓を狙い何発か打ち抜く。
そして拳銃の弾を素早く入れ替えた。
突然現れた黒いコートに身を包んだ、金髪の男に周囲は怯んだ。
しかし我に返り、拳銃取り出しRikuに向け構える。

「2丁拳銃とけむり玉、そしてド派手な特攻はあいつの専売特許なんだけど、今回は緊急事態ってことで許してよね」

躊躇いなくけむり玉を投げつけ、そして拳銃の弾を1人ずつにお見舞いする。
2つの拳銃から放たれる弾はけむり玉で視界の見えない中でも正確に当たっていった。
人数分発射したところでRikuは外に飛び出した。
ついでにとSEVENからもらった新作の改造品を部屋の中に投げつけておいた。
一拍して、強烈な刺激臭が室内を襲う。
できる限り遠くに逃げたRikuだが、その異臭に顔をしかめた。

「・・・くっさ・・・
恐ろしい威力すぎんだろドスこやし玉・・・。
どうやったらこんなもん作れんの?」

むしろ、開発中SEVENがこの臭さにどう耐えていたのか気になる。

銃声と異臭に屋敷全体が騒然としている。
窓からあふれる煙に身を隠しながらRikuは屋根の上まで登った。
サイレンサー付きの銃で、屋根の見張りをあらかじめ倒しておく。

「・・・Billyさん、聞こえる?」
『うん、聞こえてる』
「今ターゲットは倒したよ。
Tharrosさんの居場所教えてもらえる?」
『・・・Riku、』

イヤホンの向こうで躊躇うBillyの姿が想像できた。
Rikuは素早く言い放った。

「Billy、時間ないんだけど。
Tharrosさんに発信器つけてるんでしょ。早く」

Rikuの声に怒気が混ざっている。
普段ここまで感情を露わにしたRikuは初めてだ。

『・・・東の、一番端の方』
「分かった」

ターゲットの部屋とは反対のようだ。
Rikuは屋根の上を走り抜けた。

++++

そのまま、近くの部屋にTharrosは閉じ込められた。
手と足は縛られていて身動きが取れない。
動けないこともないが、見張りに屈強な男が2人。とても手足を縛られた状態で対抗できそうにもなかった。
しばらくすると仲間と思われる男たちが5人ほど部屋に入ってきた。

「で、迷い込んだって子猫は・・・こいつか?」

真ん中にいるのはどうやら幹部の一人らしく一際高そうなスーツに身を包んでいる。

「泥棒にしては随分綺麗な顔してんじゃねぇか」

顎をもたれ、顔を上に向けさせられる。
Tharrosはふいっと顔を横に向けた。
可愛くねぇな、と後ろから声が漏れるが、幹部は笑った。

「いやいや、可愛いじゃねぇの。
少しは抵抗してもらわないとこっちも楽しくないからなぁ」

幹部はしゃがんでTharrosとの目線を合わせた。

「さて、質問だ。
どこの誰に言われてここにきた?仲間はいるのか?」
「・・・・。」

Tharrosは顔を背けたまま黙り込んだ。

「さっさと吐いちゃえば嫌な思いはせずに済むんだけど嬢ちゃん」
「・・・・。」

黙ったままのTharrosに、幹部は大きなため息をついた。

「・・・一応紳士的に対応したんだが、気に食わなかったようだな。
良い声で啼いてくれよ、子猫ちゃん」

周囲の下品な笑い声。
Tharrosはキッっと幹部を睨みつけた。

トンファーがなくても・・・・。
Billyに体術も習っていた。
一瞬にして両手足を縛っていた縄を解き、寄ってきた幹部の顎を下から蹴り上げた。

「・・・ぐわっ!!」

そのまま幹部は尻餅をつく。
追撃に移ろうとしたが、後ろの2人に抑えつけられた。

「・・・・っ」

元々の力の上に体重が加わり、Tharrosの力ではびくともしない。
圧倒的な力の前にTharrosは唇を噛んだ。
敵わない、どうしても、敵わない。

「・・・・何すんだ、小娘っ!!」

怒りの形相に変わっていく幹部。

「泣きわめいてももう許さないからな」

Tharrosは腕の力を抜いた。
もう自分の力ではどうすることもできない。

『俺を呼んでね。すぐに助けに行くから』

Rikuの言葉が脳裏をよぎる。
今となっては遅いと思う。
Rikuはちゃんと止めていたのに。私が言うことを聞かなかったから。
つ、と一筋の涙が、Tharrosの頬を伝った。

「・・・リ、ク」


大きな爆発音が屋敷中に響き渡った。
男達の動きが一瞬止まる。
Tharrosだけが状況を把握していた。
恐らく屋敷の隅にしかけた爆弾をRikuが起爆したのであろう。

「なんだっ!?何が起こってい・・・」

後ろの窓ガラスが盛大に割られ、人影が室内に飛び込んでくる。
そのままの勢いでRikuは幹部を蹴り倒し、拳銃でTharrosを抑えている2人を撃ち抜いた。

「ちょっとあんたらー、うちのボスの妹君になにしてくれちゃってるわけ?
ないわ、まじないわー。
何かあったら俺が怒られるんだし、本当やめてもらえるそういうの?」
「な、なんだ貴様は・・・っ」

なんとか復活した幹部はRikuに向かって叫んだ。
しかし先程の覇気はない。完全にビビってしまっている。

「あんたに名乗るほどの名は持ち合わせてないっていうかー・・・
きっとうちのボスが後で地獄の何よりも恐ろしい仕打ちをしにやってくると思うから・・・
先に地獄で待っててもらえる?」

そういって容赦なく引き金を引いた。
後ろにいる男たちにも弾は流れ、そして室内は静かになった。

ふーっと息をついてRikuは拳銃をしまいTharrosに向き直った。

Tharrosが口を開く前に、Rikuが力の抜けたようにバタンとTharrosの前に膝をついた。
そしてTharrosを強く、痛いほどに抱きしめた。
意味が分からずTharrosは行き場のない腕を宙でパタパタ動かすだけだ。
そろそろ苦しくなってRikuを軽く叩くと、我に返ったようにばっとRikuは離れた。
暗くてよく見えないが、多分顔は赤くなってたと思う。

「え、あ・・・ごめん、本当ごめん。
なんていうか安心してついうっかりっていうか。
えっと本当にすいませんでした」
「・・・Riku・・・」
「・・・Tharrosさん、でも本当良かった。無事?なにもされてない?」
「・・・Riku、なんで・・・」

兄さまに止められていたはずじゃ。
RikuとBillyとの会話の途中でTharrosはイヤホンを耳から振り落とした。
この会話があることを敵に知られてはいけないと判断して。

RikuはTharrosの言葉に首をかしげた。

「なんでって?
助けにくるっていったじゃん。
まぁTharrosさん呼んでくれなかったけどね」
「・・・・。」
「・・・さて、混乱に乗じてさっさと帰りますか。
帰る手段奪われたら大変だしねぇ。
さ、立てる?」
「・・・呼んだ」
「・・・お?」
「呼んだ、Rikuを・・・呼んだ」

喧騒に紛れる微かなTharrosの声を聞きとってRikuは苦笑した。

「これでも最速で助けにきたんだけど・・・遅くてごめんね。
許してもらえる?」

Tharrosは無言でRikuに抱き着いた。
やれやれとTharrosの背中を撫でてRikuは息をついた。
とにかくTharrosが無事でなによりだ。
・・・て言うか早く逃げないと本当にヤバいっていうか・・・。

よくいうよね。家に帰るまでが遠足です、って。

++++

「ただいま」

いつもならTharrosが先に店に入るのだが、今日はRikuの後ろに隠れるようにして店に入る。
『Bar 夢を抱きしめろ』
店名から溢れる厨二臭。勿論オーナーはAshだ。

店内にはBillyとAshが2人が定位置に座っていた。

「おかえり〜」

Ashがカウンターに2人分の軽食と飲み物を用意する。
Billyも黙って迎えた。
Rikuは黒い手袋を脱ぎながらヘラッと笑う。

「ちょっと派手にやらかしたけど、まぁなんとか片付いたよ。
Tharrosさんもほら無事だったし」
「・・・・。」

Rikuに促されて、後ろからちょこんとでてきたTharrosは俯いたままだ。

「兄さま・・・ごめんなさい」

小さく謝ったTharrosの頭をBillyは撫でた。

「俺はいいからRikuにお礼言って」
「・・・・。
Riku、ごめんなさい。・・・それとありがとう・・・」

いつになく素直なTharrosにRikuは頬をかいた。
別にいいのにお礼とか。
少し腰をかがめてTharrosと目線を合わせる。

「いや、いつも危険な役を任せちゃってるからねぇ。
俺の方こそ礼をいいたいくらいだよ。
もっとリスクの低い作戦考えるから、これからもよろしくね?」

Rikuの言葉にTharrosは顔を上げた。

「・・・でも、私がいたら迷惑じゃ・・・」

足手まといになるのは嫌だった。
そうなるくらいなら、行かない方がましだ。
Rikuはきょとんと首を傾げた。

「なんで?
俺は色々助かってんだけど。
・・・ねぇ、Billyさん」
「Tharrosが行きたいなら行けばいい。
何かあっても自己責任だけどな」

Billyの相変わらずの態度にRikuとAshは苦笑した。
そんな態度だといつか嫌われて泣くことになるんだぞー。
お兄ちゃんの下着と一緒に洗濯しないでとか言われて、1週間軽く凹むことになるんだぞー。

「・・・・だってさ、Tharrosさん」
「・・・ありがとう」

TharrosはRikuの頬に手をあて、そして反対の頬に軽くキスをした。
その瞬間、ビシッっとRikuとBillyが固まった。
Ashはおー、とひとりごちて完全傍観者の体制をとった。触らぬ鬼神に祟りなし。

「・・・お?・・・おっおっ?・・・」

Rikuの顔はみるみるうちに青くなり、BillyはBillyで表情筋が引くついている。
どうやら2人ともリアクションを取れずにいるようだ。
気持ちは分からんでもない。
分からんでもないが、第三者からすればこれほど面白いものはない。
ていうかせめてBillyのいないところでしてやれよTharros。

色々満足したらしく、Tharrosは奥の部屋に入っていった。
残された3人はこの微妙な空気の中、コメントに物凄く困った。
言いたいことは色々あるのだが、どれもこれも口に出せる雰囲気じゃない。

1分間ほどの沈黙のあと、やっとAshが口を開いた。

「ま、まぁRikuも突っ立ってないで、一応軽食作ったから食ってけよ、な?」

まさかこんな事態になるとは思ってなかったから、Billyの隣に食事用意しちゃったけど。

「お、おう・・・ありがと・・・」
「まぁ色々あったけど無事に終わって何よりだなBilly」
「・・・そうだね」

えーっと。なんとか会話を続けようとするAsh。
先程のショックから未だ立ち直れていないBillyとRiku。
意を決したようにRikuはBillyの隣に座った。

「・・・えーと・・・Billyさん・・・。
Tharrosさんは今後も連れて行ってもいいんだよね?一応」
「Tharrosに行く気があるなら、構わない」
「あの・・・その・・・捕まってた間Tharrosさんには何もなかったようだから・・・多分」
「え?」
「お?」

Billyが真顔で聞き返した。
Rikuの体がビクリと飛び跳ねた。
・・・え、なんかあったの?
俺詳しいこと知らないんだけど、一応突入した時は未遂だったような気がするけど。

「・・・Rikuは、何もしなかったの?」
「・・・お??」

Billyの問いにRikuが首を傾げる。
俺?俺なんかしたっけ?
あぁ、と思い当たる節をみつけAshがカウンターから乗り出した。

「・・・おい、Riku。『安心してついうっかり』Tharrosに手出したんじゃねぇの?」
「・・・え・・・?
・・・・・・・・あ。」
「したのっ!?」

予想外のRikuの反応にAshがビビった。
見かけによらず本当にやる男だ。逆に見直した。

思い出したらなんかもう色々ありすぎて、Rikuは眩暈がしてきた。

「いや、別に・・・あの・・・安心しすぎてその・・・」
「その?」

真顔で地獄の底から響くような凄味のある声でBillyがRikuに問い詰める。
ヤベェ、泣きそう。もう逃げたい。死にたい。

「ディープキス、したのよ。ね、Riku」

後ろからTharrosの声がした。どうやら着替えて戻ってきたようだ。

『・・・はぁっ!?』

2人はTharrosとRikuを交互に見る。

「ちょ、Rikuまじかよそれ。お前いくらなんでもうっかりすぎるだろ!
うっかりでやっていいことと悪いことが・・・」
「Tharrosさん何言っちゃってんのー!!
違うでしょ、全然違うでしょうっ!!真顔で冗談言わないでよ!!
2人とも本気にしちゃうでしょーっ!!
もう、俺心臓が何個あっても足りないんですけど!!」
「え、違うの?」

Tharrosが困ったように首を傾げる。

「むしろ正解が見当たらないんですけど!
そんな可愛い顔で困った顔して首傾げられても駄目。
違うもんは違うでしょーっ!!
ねぇ、2人とも一応聞いてたでしょっ!?」

必死に同意を求めるが、2人は同時に答えた。

『いや、聞いてはいたけど見てないし』

確かにな。
どこから説明していいか混乱するRikuに、Billyが優しく肩を叩いた。

「Riku、Billy家には交際を認めるにあたって、俺とGoodmanの同時討伐という家訓があってだな」

+最後にTharros本人が出てきてそれを倒してクリアとなる。
なんという無理クエ。
ていうか、それクリアできる人いるの?

Rikuの隣に座って、飲み物を飲むTharrosにRikuが呟いた。

「ねぇ、Tharrosさんいい加減俺で遊ぶのやめてくれない?
もう本当怖いんだけど。色々と。
俺のガラスのハート修復不可能なくらい粉々になってんだけど」
「なんで?私は本気なんだけど」

AshはBillyの背後に阿修羅が見えたのを確認した。
Billy兄妹に弄ばれるRikuに幸あれ。


結局3人は日が昇るころまで飲みあかし、Rikuが立ちあがった。

「流石に疲れたから帰るわ―。
またなんかあったら連絡頂戴Billyさん」
「うん、よろしく。
・・・あ、Riku」
「なに?」
「・・・Tharrosのこと、ありがとう」

やっとデレたな、と思いつつRikuは笑った。

「兄妹揃って気にし過ぎ。
クールでかっこいいBillyさんもいいけど、たまにはTharrosさんに優しくしてあげないと本当に嫌われるよ」
「ん、それはいい」
「なんで?」

Billyは少し笑っていった。

「だってRikuが甘やかしてくれるだろ?」
「・・・お?」

そういう問題じゃないんだけどなーと思いつつもRikuは言った。
本当に折れない兄妹だ。
もう少し人生適当に生きてもいい気がするんだけれど。

「まぁ嫌われた時は話聞くくらいなら付き合うよー」
「付き合うついでに一発殴らせてくれたら最高なんだけど」
「お、おおぅ・・・。それは勘弁」

そうして今日も夜が明ける。

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