「社長、社長、起きてください」
「・・・うーん・・・」
「起きないと、朝食を食べ損ねてしまいますよ」
「・・・車で食べる」
「・・・そのつもりで起こしているんですけど」
「・・・マジで?」
「マジです」

社長と呼ばれた銀髪の若い青年はキングサイズのフカフカのベットから上半身を起こした。
枕元に置いてある時計はすでに出社時間ギリギリを示していた。

「うぅ・・・もう少し早く起こしてくれてもいいじゃない、姉さん」

姉さんと呼ばれた女性はベッドの前で腕を組んだ。
元々巨乳だが、胸元を強調したスーツのおかげでもはやそこにしか目がいかない。

「起こしたって起きないくせに。
さ、さっさと顔を洗って着替えてください」

部屋に視線を移せば、透明なガラス張りの机の上にブランド物の高級スーツが1着おいてある。
高級なもので溢れている部屋とは正反対の襟が伸びたTシャツにジャージ姿で、社長もといjackはベッドから這い出した。
寝起きでぼさぼさの頭を掻きながらよろよろと洗面所まで歩き出す。
その間、姉さんと呼ばれた美人秘書Carryはjackの鞄の中身を整える。
その動作も慣れたものであり、jackが顔を洗い歯を磨き着替えているうちに出社の準備は整っていた。

「さ、行きますよ社長」

jackの襟とネクタイを整えCarryは微笑んだ。
いやはや頼もしい姉さんだ。

「・・・分かった、Carry」

Tシャツ、ジャージから、高級スーツへ。
軽く梳いた髪はたちまちシルクのように艶のあるストレートの銀髪へ。
長い銀の睫毛に彫の深い整った顔立ち。
すらりと伸びた身長としっかりとした骨格が男性としての美しさを際立たせる。

Carryから渡された書類を見ながらガラス張りのエレベータを下る。
貴族街から少し離れたところに日夜問わずネオンの眩しい土地がある。
貴族とは違う、庶民から生まれた裕福層が住む第二の都市。
高層マンションが立ち並び、金を惜しみなく使い込まれたその地はまさに地上の楽園と言ってもいい。

朝日は顔を出してすでに数時間が経っており、ほんのりと街を温めている。
豪華絢爛な貴族街から荒れたスラム街全てを映し出す。
もう見慣れた景色を見下しながら、jackは息をついた。

「いかがでしょうか?社長」
「まぁ、いいんでない?任せた」
「分かりました」

エレベーターがチンと最下層に着いたことを告げる。
扉の向こうには黒塗りのリムジンが扉を開けて待っていた。

「本社まで」

Carryが運転手に告げて中に乗る。jackも後に続いた。
中には朝食が整えられている。

「さて、今日も働きますかぁ・・・」

バスケットに盛られたパンを手にとってjackが大きな欠伸をした。
この街で十本の指に入るの大企業『兜イ塵王』の社長jackの朝は大体こんな感じで始まる。

++++

世間が浮かれ喜ぶ休日の前日のアフター5.
どこかの世界では『花金』と呼ぶらしいが、とにかく休日前の仕事が終わった瞬間、粉塵王の社長といえども喜びはひとしおだ。
何処の誰か分からないおっさん達との会合や面談など仕事かと嘆いたことがあるが『面白くないことを仕事というのですよ』とCarryにいわれ妙に納得したものである。
確かに面白いだけというならそれは趣味だしなぁ。
趣味の延長線で企業したが、その先は面白くないことばかり。
うーん、世の中は上手いことできている。

光の度合いにより黒と銀に輝るメタリックの携帯電話が鳴る。
その着信音を聞き、jackは口元に笑みを浮かべた。
すぐに携帯電話を取る。

「どうしたの、ノブちゃん?」
「おぅ、jack。この後暇か?うち来れねぇ??」

兜イ塵王の社長になって、自分にこんな砕けた口の聞き方をする奴は減った。凄く減った。

「構わんよ。すぐ行く。
良い酒用意しといてね」
「流石社長。
うちの良いお得意様ですわ。じゃあとでな!」

ぱたんと電話を切ってjackはネクタイを緩め、掛けておいたスーツのジャケットを取った。
扉を引くと待機していたCarryが顔をあげる。

「ちょっと、ノブちゃんのところ行ってくるわ。
今日は帰らない・・・かな?」
「・・・全く・・・分かりました」

Carryが立ち上がった。

「・・・仕事、ですか?」

少し声のトーンを落として言うCarryにjackが面白そうに首を傾げた。

「どうかねぇ?
ただ飲みたいだけかもしれないし」

廊下で会釈する部下に軽く手を振って、足取り軽くjackは社内を歩く。
エレベーターに乗り、しばしの無言。
Carryが真っ直ぐ前を前を見たままjackに言う。

「・・・少し・・・、社長に耳に入れていただきたいことが一つ」
「なに?」

短く呟かれたCarryの言葉にjackはつい、と目を細めた。

++++

「お邪魔しまーす」
「いらっしゃ〜い」

テンションの上がりきらない低音ボイスがjackを招き入れる。
店先から異質な雰囲気を醸し出しているが、中に入れば完全に異世界が広がっている。
居酒屋『侍』。
侍を愛し、和を愛する店主Nobutunaが仕切る和風居酒屋だ。
勿論出されるものは日本酒!・・・だけとは限らないが、店主の独断と偏見で集められたありとあらゆる『美味い酒』が楽しめる。
料理も『醤油』や『味噌』を使用した独特のしょっぱさが癖になる和風料理が出てきて一部のファンから絶大な支持を集めている。

店の中には数人の客が、酒を肴に花金を謳歌していた。
店主Nobutunaはカウンターの定位置で煙管を噴かせている。
『店内では自分のありたいように過ごす』が店主のこだわりであり、店主もそのように過ごす。
ちなみに主に仕事をしているのはどこから雇ってきたのかアイル―という料理猫達だ。

働け。

客の中に知り合いがいないことをざっと見たjackはカウンターのNobutunaの前に座る。

「今日は貸し切りじゃないの?」
「貸し切りにしたいところだが、花金は稼ぎ時なんだよなぁ・・・。
残念ながら世間は上手いこといかないの。
パトロンがもっとお小遣いくれたら、いつでも貸し切りなんだけど・・・」

ちらりとjackを見るNobutunaの頭を叩く。

「もっと真面目に働けや」
「これでも物凄く真面目なんだけどなぁ」
「面白くないことを仕事というって姉さんがいってた」

ふぅ、と大きく煙を吐いてNobutunaは笑った。

「そりゃ真理だ」

とりあえず、ほい。と日本酒一合どんとNobutunaはjackの前に差し出した。

「じゃ、ちょっと・・・」
「おっ・・・」
『かんぱーい!』

仕事の後の、しかも週末の酒は格別なもんだ。
少し酔いも回ってきたところでjackは盃を揺らしながら呟いた。
周囲もいい感じに出来上がっている。
そろそろ話しても問題ないだろう。

「Faltは来るの?それとももう行った?」
「Faltは今遊びに行ってる。後で来るよ。
そういえば玩具壊れたとかいってた」
「マジかよー。丁寧に扱ってくれよなー」
「あいつは遊び方が半端ないからなぁ・・・」

それでもただ1つの物を長く使ってくれているだけ有難いというか・・・。
とりあえず、帰ってきたらげんこつだな。とjackは呟く。
Nobutunaは苦笑いをして、スッと真顔になる。
目を細めてjackにいった。

「・・・jack、次の仕事のことなんだけど・・・」

Nobutunaの雰囲気の変化を見てjackも真面目な表情になる。
自分に仕事の話が回ってくるとは珍しい。
一応話は聞いているが、本当に聞いているだけだ。
主にサポート役として徹しているため、自分を頼るのはNobutunaではなく主にFaltの方であるのに。

そのとき、気配もなく冷たい金属の棒の先が頭に当てられた。
カチャリと金属がこすれる音。振動も直に冷たさと共に頭に伝わってくる。

「なになに?
おいらに内緒で次の遊びの話?
仲間外れは、嫌だなぁ・・・?」

子供の様に無邪気だが、ねっとりと纏わりつくような恐怖を感じる声音。
無機質な金属から伝わる冷たさに背筋にヒヤリとしたものが流れる。
ゾクリと背に立つ鳥肌。
決して大きくないが圧倒的な存在感を与える闇。

Nobutunaが感情を消した目で視線をあげる。

BAN!

凍った空気が一気に溶かされた。
徐々に周りの音が戻ってくる。

「いやいやいや、遅くなって悪いとは思ったけど俺抜きで話進めちゃうとかやめてよー!
お仕事だったんだからね!」

ケラケラと笑ってFaltがjackの隣の席に着く。
NobutunaがFaltの分の盃を渡す。

「面白くないことを仕事っていうってjackの姉ちゃんが言ってた」
「Carryさんが!?ウホォォォォ!!!
そりゃ世界の真理だな。間違いない」
「お前の真理はおっぱいか!」
「おっぱいが真理とか最高じゃない!!
ねぇ、Nobutunaさん!!」
「違いねぇ!」

救えない。
jackは大きく息をついた。

3人揃ったところで改めて乾杯をし、盃を煽る。
ここに来るようになって、酒の強さは増すばかりだ。

「で、仕事の話?Nobutunaさん」

Faltが喜色を浮かべてNobutunaに問う。

「お前が来ちゃうるさくてしょうがねぇ。
後だあと。」
「えー。
お預けプレイとかNobutunaさんのドS!!」
「ドMのお前にはたまらんだろ」
「我々の世界ではご褒美です!」

Nobutunaさん勘定〜!という声にNobutunaが重たい腰をやっと上げた。
そうだ、働け働け。


それからいつものくだらない雑談を繰り広げ、最後の客を見送ったNobutunaは暖簾をもって店の中に戻ってきた。

「よーし、これで店じまいだ。
お前ら片付けたらもう帰っていいぞー!残り物の魚持っていけー!!」
『お疲れさまニャ!!』

こんな店主でも素直に従うアイル―達が微笑ましいというか涙ぐましいというか・・・。
うん、一発殴ってもいいと思うよ、本当に。

さて、とNobutunaは定位置に腰を落ち着けた。
新たに煙管に煙草を詰め火をつける。
ふー、と大きな煙を吐き出し、2人に向き合った。

「そろそろ、本題に移ろうかねぇ」

ガラッっと店の扉が開いた。そういえば鍵を閉め忘れていた。
流石に邪魔も2,3回入るとなると当人達の機嫌は悪くなる。

「オイコラ、閉店してんぞ。暖簾見ろ!!・・・ったくこれだから素人は・・・」

怒鳴ったNobutunaに客はヘラリと笑う。

「そんな冷たいこと言わないで下さいよぅ。
僕ここの年中フリー顔パス持ってるんですから」
「俺だってプライベートとかあるんだからな」
「常にそこで飲んだくれてる姿しか見たことないんだけど」

閉店したにも関わらずSkyは堂々と店に入り、棚から好きな酒を何本か手に取って、カウンターの中に入りNobutunaの隣に座る。

「さ、大事な話なんでしょう?
進めて、進めて!」

勝手にコップを取って酒を注ぎ始める。
ついでに冷蔵庫からつまみを拝借。これでしばらくは持つ。
自分の好きな空間を作り上げたSkyは何のことなくNobutunaに言った。

こいつタイミングを計ってきやがったな、と3人は心の中で思った。

怒るのも面倒くさくなったNobutunaは息をついて口を開いた。

「んじゃ、次の仕事の話をさせてもらおうか・・・」

jackは目を細めて、Faltは目を輝かせて、Skyは口元に笑みを浮かべてNobutunaを見る。
Nobutunaは懐から一枚の写真を取り出して机の上に置いた。
3人はそれを覗き込む。

「こいつは・・・」

Faltが首を傾げる。Skyが「へぇ・・・」と頷いた。jackは「あ、」と言葉を漏らした。

「まだ表だって被害はでていないようだが、直に悪の種になるだろう。
今回のターゲットはこいつ。
・・・理由は、jackが一番分かってるんじゃないか?」

Nobutunaの言葉にjackが頷いた。

『・・・耳に入れていただきたいことが、一つ』

Carryの言葉が脳に蘇った。

++++

どこかで日付の変わりを告げる鐘がなる。
悪を断ち切る銃声が響く。

「ガルルガ仮面、さんじょーい!!」
「もー!!なんで毎回こう追いかけられないといけないのよっ!」

とある貴族街、とある屋敷。裏庭。
満月の下庭を爆走する2人の影。

「ったく・・・今回私たちがいなくてもいいんじゃないの。」
「別にいいじゃん。暴れられるならなんでも」
「良くないわよっ!
こんなことならもう少し話良く聞いておけば良かったわ・・・私の馬鹿・・・っ」
「心配しなくてもLamiaちゃんのことは俺が守るぜ?」
「自分の身の心配も、守ってくれることへの安心感もこれっぽっちもないわよ!」

次々と追手を拳銃で倒していく。
月の光に当てられ、多くの影が2人の行く手をふさいだ。

「チッ、きりがないわね・・・」

Lamiaは立ち止まって背中に担いだサブマシンガンを構えた。

「邪魔なのよっ、その道開けなさい!!」

けたたましい銃声を高らかに響かせLamiaは前方の敵を一掃した。

「キャー!Lamiaサン素敵ー!!」
「Faltサン、マジキモい。」

白い目を相方に向け、血に染まった道を2人は走りだした。
目的のない、ただ暴れるだけのこの時間。
対照的に静かな屋敷の中にちらりとFaltは視線を送った。
助けはいらないと言われたけど・・・本当に大丈夫だろうか。


日付が変わるころ、豪華なリムジンがとある屋敷の前に止まる。
門番が近づくと、扉が開けられ高級なスーツに身を纏った若い男女2人が降りてきた。
そのまま、アポイントメントもなく屋敷に有無を言わせず入る2人。
家人は何とか引き留めようとするも、その人物を見て手荒な行動には移せなかった。

ちらりと男が門番を一瞥すると、門番は言葉も出せず口をパクパク開閉させる。
そしてその後に続く女ににこりと微笑まれ、その口も動かなくなる。

2人はそのまま進み、たくさんの家人を引き連れながら、大理石の大広間を抜けて屋敷の奥に入る。
一度訪れているこの屋敷の中は、下調べのお蔭もなくくまなく把握している。

騒げども家人は2人を止められずに、2人は屋敷の最深部、主の部屋の前まで辿り着いた。
2人は武器も持たずその身一つでここまで来た。
誰とも争うこともなく、血を一滴も流さず・・・。
外では銃声と喧騒が聞こえる。
男の方が主の部屋の扉を目の前にして、その凛々しい表情を崩す。

「・・・まさか、本当にここまでこれるとは・・・。流石姉さん」
「まぁ・・・世の中、美貌と地位とお金ですよね!」
「・・・否定したいが、できないな」

Carryは扉のノブを持ち、力を込めた。

「さぁ、社長。
始めましょうか。我が社の裏切り者に、制裁を」


「全くどうなっているんだっ!?
ネズミ2匹に何故こんなに惑わされているっ!?」

部屋の中では屋敷の主がヒステリックに叫んでいる。
主の机には馴染みの兜イ塵王の製品、生命の粉塵の袋が数個置かれている。

「誰だっ!?
無礼m・・・」

突然の来客に、同室にいた部下達は揃って拳銃を2人に向けた。
怒鳴る主だが、来客をみて主は言葉を失った。
部下達も驚きの表情を隠せないでいる。すぐに拳銃を下したものもいた。
おどけたように両手をあげたjackに、主はすぐに部下達に拳銃を下させた。
jackは目を細めて、口角をあげる。
どんな女性もとろんととろけさせる甘い微笑。軽く腕をあげて部屋の主に挨拶をする。

「夜分遅くにすまないね。
少し、君に用事があってね」
「jack・・・社長・・・」

外の喧騒が遠く聞こえる。
主の頭は混乱するばかりだった。
とにかく、目の前にあの、あの株式会社粉塵王社長jackがいることが信じられない。
ボトリと軽い音を立てて主の机の上にある粉塵の袋が床に落ち、絨毯を白く染めた。

jackは笑顔を絶やさず部屋の中に入ってきた。
そして机の上にある粉塵の袋を一つ手に取る。

「机の上に飾ってくれるなんて、そんなに粉塵が好きだとは・・・嬉しいねぇ・・・」
「え、えぇ。そりゃjack社長の正規の大発明ですから!
勿論夢に出てくるほど私としても生命の粉塵を愛してやまないわけです。
粉塵を愛するものでなければ粉塵を売れませんからねぇ・・・!」

そう話す主の顔をjackは眺め、微笑んだ。

「うん、それは社長として誠に嬉しいことだと思うよ。
でも嬉しくないことが一つあるよね」

jackは生命の粉塵の袋の口の紐を取る。
そして床に中身を落とした。
絨毯が白い粉で染まる。

「・・・中身、違うんじゃない?」
「はい?」

主の表情が笑顔で固まった。

「粉塵を作った俺が見間違うはずないじゃない?
これ、中身違うよね?」

部屋に緊迫した空気が漂う。
Carryの鋭い視線が主の部下達を牽制した。
女性の身でありながら、強い覇気を放つ彼女に部下達は動けずにいた。
その身一つでjackを支え、会社を立ち上げここまで大きくした。いわば粉塵王の頭脳。
只者であるはずがない。

jackは袋の淵についた白い粉をぺろりとなめた。

「・・・あ、」

周囲がjackの行動に小さな言葉を発した。
すでに詰んだ主の足はガクガク震え始めている。
jackは気にせず続けた。

「・・・粉塵はその絶大すぎる効果故に『依存性のある白い粉』なんて呼ばれたりもする。
まぁそれはそれで揶揄ってくれて構わないとは思うんだけれど・・・。
本当にご禁制の品、『依存性のある白い粉』に中身をすり替えて売ってもらっちゃ困るんだよねぇ・・・
会社としては。
俺としても」

自分の研究は自分の探究心の赴くまま、誰の為でもなく己の為に行っている。
それが誰かの為になったり、誰かを傷つけたりしてもそれは自分には関係のないことだ。
研究をする過程がjackにとって大切で、自分を満たすものであり、そこから生まれた物に関してjackは興味がなかった。
そしてその無関心な中で偶然作り出された物が生命の粉塵。
ロクな物を生み出さない自分の研究で珍しく誰かの為になったもの。

粉塵の有用性に気づき人々の為に広めようとしたCarryを見て、興味がないながらも協力しようとは思った。
jackの1人の世界が急に広がった。
今でも生命の粉塵に対する愛情はCarryほどではないが、jackにもそれなりに自覚と誇りが生まれてきていた。

それを汚されるのは、正直いい気分ではない。

「もしかして、本物の生命の粉塵、しばらく見てない?
みせてあげようか?」

jackは懐から生命の粉塵を取り出し袋の紐を取り部屋に粉をばらまいた。
ミクロの粉は空気中に分散し、キラキラした光をあげて部屋中に拡散した。
これが本当の生命の粉塵。
空気より軽く、粉はまとまって地面に落下しない。
粉塵数袋をを部屋にまききってjackはベランダの窓を開けた。

「・・・ところで話は変わるけど、散弾や拡散弾って何でできてるか知ってる?」
「え?」

ベランダに出て柵によしかかり、jackは笑う。

「生命の粉塵を愛してやまない貴方に問題です。
散弾、拡散弾、生命の粉塵。共通点はなーんだ?」

瞬間外から大きく、鈍く響く銃声が聞こえた。
jackとCarryの姿がベランダから消える。

「・・・なっ!」

急いで追おうとする主と部下の目の前に映ったのは撃ち込まれた拡散弾の弾。
部屋の床に着弾したと同時に、小さな爆発を起こす。
そしてその爆発は部屋にまかれた粉塵と反応し、部屋を屋敷を巻き込む大爆発を起こした。

上手く着地したjackは窓から漏れる炎を見上げて「おー」と素直に歓声を上げた。

「・・・まさか粉塵爆発の研究してる途中に生命の粉塵が出来たとか粉塵王の社長としては口が裂けても言えないよねぇ・・・」
「禁句ですよ、社長」
「分かってますって」

2人はそのまま月明かりに照らされた庭を歩く。
表も同じように騒がしかった。
きっと粉塵王から派遣された部下たちが突入をしているところであろう。
偽粉塵はこの世から姿を消す・・・はずだ。
今後疑わしきものは全て取り締まる予定だ。

「・・・で、今回取り上げた『依存性のある白い粉』はどうするんですか」
「うーん、サンプルとしてとっておいて」

胡乱気な目で見上げるCarryに、jackは苦笑した。

「まさか、危ないことに使いませんよ。
例えばさー。
どんな手段を用いてもとることができない痛みを緩和させる薬とか、作ってみようかな・・・。
とか思ってみたりしてね」
「・・・jack・・・」

ご禁制の品に手を出すのは癪だが、現在の研究ではそれが限界だ。
でもそれで痛みが取れ、安らかに死ぬことができるのなら・・・
ロクな物しか生み出さない自分が好きなことをして、それが人の為になるのなら・・・
それはそれでいいのかもしれないと思えるようになってきた。

暴れに暴れて最後のド派手な一発をかましてくれた2人の姿はない。
恐らく粉塵王の社員に見つかる前に撤退したのであろう。
きっと『侍』にいけば、何食わぬ顔をして酒を飲んでいるに違いない。

「社長、スーツに汚れが」

jackのスーツについてしまった白い粉を見てCarryが顔をしかめる。

「まぁ、良いじゃない。頑張った証拠じゃん」
「粉塵王の社長がそれでどうするんですかっ!!
帰ったらすぐにクリーニングに出さないと!!」
「・・・えー・・・。もちろん『侍』寄ってからだよね・・・?」

情けない顔をしたjackにCarryは大きくため息をついた。

「・・・・まぁそれくらいの寄り道なら許可します」
「うん、それでこそ俺の秘書だね」

用意してあるリムジンを家に帰してそのまま徒歩で『侍』に向かう。
まぁ30分もあればつくでしょう。

しかしこの高級ブランド物スーツを着た俺を見て奴らどんな顔をするだろうか。
いつもジャージかよれよれのTシャツにジーパンだからなぁ。

そんなことを考えながらjackは夜の道を足取り軽く進んでいった。

++++

「ねぇ、Nobutunaさん」

4人が帰ってくる前、『侍』の中には、NobutunaとSkyの2人が待機していた。
Nobutunaは相変わらず定位置で煙管をふかしている。
リンゴのカクテルの入ったグラスをくるくる回しながらSkyは問う。

「今回も、それに今までも。Nobutunaさんの仕事の内容は俺でも苦労して手に入れた情報。
それも一握りだけ。
そんな希少な情報をNobutunaさんはどうやって手に入れてんの?」

Skyはいつも口元に笑みを浮かべている。
長い前髪で目は隠れていて、その瞳に何が映っているかNobutunaは知らない。
2人しかいない室内は、静かでそれを茶化す誰かも存在しなった。
Skyの質問にNobutunaは少し考え呟いた。

「なんていうか・・・、
悪いことはお天道様がちゃんと見てるってこった」
「・・・は?」

意味不明なNobutunaの言葉にSkyは真顔で返事してしまった。
本当に理解ができない。
Skyの反応に満足してNobutunaは盃をあおった。
今日はいい満月だ!

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