その火の粉は黄金に輝き。
その鱗は深海のような藍。
俺はそいつに虜にされた。
雲より高くそびえる古塔。
誰が何のために作ったかは分からない。
完成してから長い年月が立ち、人々から崇められていただろう時代を過ぎ、やがてギアノスが群れをなし、そうしてゆっくり朽ちていく。
そんな建物がなんとなく魅力的でjackはたまに足を運んでいた。
特になにをするわけでもない。
たまにヤマツカミやら、希少種の火竜が飛来するやらという噂がちらほらあるが、そんなモンスターに会いたいわけでもない。
ただ、この空間が好きなのだ。
中に入れば蔦が周囲を覆い何かと湿っぽい。
手入れされていない建物には容赦なく蜘蛛の巣が張り巡らされている。
倒れた石像は倒れたまま、過去の栄光からただの石へと成り果てている。
たまに、ギアノスやガブラスの遠くから響く。
遠く人から忘れられた悲しい存在。
しかし、そうまでされても圧倒的な存在感が時に人を引き付ける。
古龍が飛来する塔。
まだお目にかかれたことはないが、こんな場所だからこそ、そのような言い伝えがあるのだろう。
jackはゆっくりとした足並みで、古塔を登っていった。
時々差し込む太陽の光が心地よい。
空から毒を振りまいてくるガブラスを軽くスルーしてjackは長い回廊をひたすら登る。
時々隙間が開いていたり崩れている道に注意しながら。
高い高い雲の上、そのまた向こう。
大昔の人はどうしてこのような物を作ろうと思ったのだろうか。
費用、人件、材料、時間
今のような便利な道具も開発されてない時代。
それを考えると途方もない。
上を見上げる。幾重にも続く回廊。
頂上は遥か高く。
やっと部屋に通じる入り口が見えてきた。
この塔に入って何時間経っただろうか。日が随分高くなっている。
相変わらず湿っぽい室内空間をjackは歩く。
この場所には流石にモンスターはいなかった。
そして光の指す入り口をくぐると塔の一番上に立つ。
強く、冷たい風がjackの長い銀髪をさらう。
太陽の光は強いが地上にいた時よりも少し寒い。
「やっとついたな」
jackは頂上からの絶景を眺めるために塔の淵まで歩く。
そしてそこで適当に座った。
少し疲れたので手持ちのこんがり肉Gをかじる。
運動後の肉は格別だ。
風の音だろうか。ジャリッ、ジャリッっと砂の動く音が聞こえる。
割と規則正しい。
そしてその音はどんどん大きくはっきり聞こえ、まるでこちらに向かっているような。
何気なくjackは後ろを向いた。
「・・・え・・・」
手に持つ肉を落としそうになった。
全身を覆う美しく色を変える藍の鱗に銀を含んだ立派なたてがみ。
獣でありながら飛行するために進化した大きな翼。光る金の瞳。
自分の後ろには身の丈ほどの炎妃龍、ナナ・テスカトリがいた。
・・・多分、ナナ。
噂には聞いていたがjackは実際にお目にかかったことがない。
古龍の飛来する塔とか完全にデマだと思っていたが、本当だったのか。
ていうか・・・俺今日1人だし、古龍と戦えるほどの装備も道具も用意していない。
じっとこちらを見つめている彼女と目があった。
不自然に固まってしまった肉を持つ方の手が手前にあったのでjackは思わず差し出してしまった。
「・・・えっと・・・食べる?」
俺の食べさしだけど。
・・・流石に自分でも、これはないわー。と内心突っ込んだ。
見詰め合い一拍。
そして動き出したのはナナだった。
咆哮でこちらを威嚇する。
jackは素早く後退し、肉をしまう。代わりに腰に佩いている双剣を構えた。
ナナ・テスカトリがこちらに向かって突進する。
・・・と、そんな感じでいくと思っていた。
俺の脳内では。
予想外にナナはjackの出した肉に興味を持ったらしく匂いをかぎにさらに近寄っていた。
jackの背中に変な汗が流れる。
え、これどんな展開?
炎妃龍は常に噴煙をまとっており、近づくだけでも火傷をすると聞いたことがある。
しかしどれだけ近寄っても、熱気は感じられず、ついにナナはjackの差し出したこんがり肉Gの匂いを嗅ぎ始めた。
その距離20cm。
未だかつて戦闘以外でナナ・テスカトリにこれだけ近寄れたものがいようか。
緊張と、恐怖となんやかんやでjackの手は震える。
口からは立派な牙が4本口腔内に収まりきらず顔を見せている。
これで食べられたら俺の手首も一緒に食いちぎられてしまうのだろうか。
ぺろりとナナが肉をなめる。
全身に鳥肌がたった。怖い。超怖い。
どうやら肉の味を気に入ったらしくナナはこちらをじっと見つめている。
動物というかモンスターと会話した経験のないjackは焦りながらもナナに向けて肉を差し出した
一応食べてもいいというサインなのだが、通じるだろうか。
流石に床に置くというのも心苦しかったためだ。
・・・・さぁ、どう出る!
大きな牙を左右にのぞかせながらも、ナナは遠慮がちに、jackの肉を小さくちぎって食べた。
その綺麗な食べ方にjackは少し驚いた。
大きな尻尾が後ろでぶんぶん揺れている。
・・・喜んでいるとみて、いいのだろうか。
jackは思いきって肉を適当に裂いてナナに渡す。
普通の動物でも人の手からエサは食べないがこのナナはすんなりjackの手からエサを食べた。
しかも噛むことはない。
アイル―やプーギー以外の動物と触れ合う機会が今までなかったjackは一気にテンションが上がった。
超可愛い!
全長っていうかまず高さが俺より大きいけど、ていうか立ったら目線が一緒なんだけど、牙も腕半分の太さと長さを持っているけど、押し倒されたら軽く爪が骨まで食い込みそうだけど、怒ったら火傷とかのレベルじゃないけど、
超可愛い!!
生意気言うアイル―より可愛い!
可愛いので、ちらほら垣間見える凶器は見えなかったことにする!
jackがたてがみに触れて撫でると、甘えたようにすり寄ってきた。
古龍と呼ばれる稀な存在がこんなに人懐っこくていいのだろうか、と心配しながらもjackはよしよしとなでてやった。
尻尾と翼がパタパタ揺れる。その場にしゃがめば炎妃龍という名の通り気品溢れる古龍の姿。
このギャップが正直たまらん。
「なんと例えればいいんだろうなぁ、お前。
犬でもなし、猫でも・・・うーん、しいて言うならライオン?」
肉球もちゃんとある。おそらく近づかれても気づかなかったのはこれのせいだろう。
ナナの全長が大きいのでそれなりに力もある。
加減されたタックルも尻尾びったんも甘んじて受け入れた。だって可愛いもん。
少し盲目気味になりながら、半日たっぷり潰してナナと戯れてjackは帰った。
++++
「・・・なぁFalt」
「なんだいNobutunaさん」
「あれなんだけどさ」
Nobutunaの言葉にFaltは「みなまで言うなよ」という視線を送った。
いわゆるMHDのレギュラーメンバーNobutuna、Falt、jackはよく一緒に狩りに出かける。
しかし、ある日を境に、jackの様子が少しおかしいことに2人は気づいてしまった。
狩った獲物を真剣に見つめて、真剣に捌いている。
素材を剥ぎ取る行為なら別段不思議に思うこともなかったのだが、jackの行動は明らかにおかしかった。
「うーん・・・切断面が美味しそうに見えたんだけど、やっぱりグラビモスの肉はダメかー」
中まで硬化が進んでしまっている。
「どうしようNobutunaさん。jackなんかいってるんだけど」
「肉って・・・ハンターやめて肉焼き職人にでもなるつもりなの?
グルメの道にでも行こうというの?
それともモンスターの肉専門の店でも開くつもりなの?
株式会社粉塵王社長では飽き足らず・・・やっぱり偉い人の考えることは理解できないわ」
jackが一つのことに熱中すると一定ラインまでこだわり続ける傾向にあることは長年の付き合いで知っていた。
この状況でとりあえず、変なタイミングで変なものにハマってしまったことだけは理解できる。
2人の視線に気づきjackが立ち上がった。
「あぁ、悪い。クエストも無事達成したことだし帰るか」
「いや、・・・別にいいんだけど・・・どしたの最近?」
Faltの問いになにが?とjackは首を傾げる。
「なんか、クエスト行く度行く度素材とは違うようなところ剥ぎ取ってるようにみえるんだけど・・・」
「それにケルビとか食用肉やたら剥ぎ取ってるよな?どうしたの?肉不足?」
だからと言って、モンスターの肉はねぇわ。
あー、とjackは口元に手を当て目をそらした。
その微妙な表情の変化を2人は見逃さなかった。
「なっ!!jackお前なんか隠してるだろ!!
しかも、割と良いことだとみた!!」
「え、なになになに、良いことっ!?
仲間内で隠し事は禁物だぞー!共有してこその良いことなんだぞー!
“ほうれんそう”って大事なんだぞー!」
「いや、別に・・・そんなんじゃねーし」
「そんなんってどんなんだよ!」
「そうだぞ、ちゃんと言ってくれないと伝わらないんだよ」
これか?これかっ!?
と小指をたてて突っかかってくる2人にjackは頭を押さえた。
「んなわけねーだろ。
ちょっと、肉が要りようになっただけ・・・」
「モンスターの肉はいらねぇだろ」
「だって、あいつ何好きか分からねぇし・・・」
その言葉に2人がさらに熱くなった。
「え、今流行の肉食系っ!?肉食系な感じっ!?」
「だからといってモンスターの肉ってヤバいだろお前」
「・・・確かにそうだとも考えたんだが・・・普通にギアノスとか食ってそうだし・・・」
・・・どんだけワイルドッ!?
流石のNobutunaとFaltもドン引きした。
ギアノスって食用だっけ?食べるとこある?ハンターでも緊急時以外さすがにねーよ。
「いやいやいや・・・jackさん。
彼女のことを考えるならやっぱりケルビくらいにしておきなよ。
最高だぜ、ホワイトレバー」
「いや、ここはポッケ村らしくポポノタンでいくべきじゃねぇか?」
2人の肉談義に花が咲きそこで会話は終了となった。
jackは2人の会話を中途半端に聞きつつ、やはりケルビが妥当か。となんとなく思っていた。
++++
それから月に2回ほどjackは生肉をポーチに、あとは果物などを詰めて古塔に向かうようになっていた。
頂上に行けば、空から待ち構えていたようにナナが降りてくる。
静かに着地し、軽やかにこちらに走ってくる。
勿論、突進のようなスピードではなく、jackに近付くにつれ、減速し上手い具合にぴたりと止まる。
全身堅くて鋭い鱗に囲まれているが、たてがみだけは唯一ふわふわしており、jackはそのあたりを中心に撫でてやる。
ナナがごろごろと気持ちよさそうに喉を鳴らした。
やはり、柔らかい肉が好みなのだろうか。
数種類の草食動物の肉を持ち寄ってみたが、食べる勢いを観察しているうちにケルビが一番いいように思えた。
基本的に肉食らしく、果物はあまり食べていない。
来るたび新しいものを持ち寄ってjackは好物を調べるようになっていた。
だって、こいつ可愛いし。
人間の食べ物や調理済みの物は動物にはあまりよくないとのことで調理前の物を基本与えることにした。
まぁ、この大型モンスターの消化器と小動物の消化器を一緒にしてはいけないと思うが。
おそらく人間よりも発達しているだろう。
この辺はアイル―に聞いた方がいいのだろうか。
jackの研究は進む。今なら謎の古龍、ナナ・テスカトリの生態本1冊出せる気がする。
ぽかぽかと気持ちの良い陽気にjackは思わず欠伸をした。
気持ちよすぎて眠ってしまいそうだ。
それを見たナナはjackの隣にごろんと寝ころんだ。
じっとこっちらを期待した目で見ている。
それは丁度ソファーの背もたれのようだ。
もしかして、俺によしかかれって言っているのだろうか。これは眠たい俺の勝手な解釈だろうか。
そう思いながらjackはナナの背中によしかかった。
鱗で表面は固いが、生き物特有の柔らかさと温かさが伝わってくる。
ナナを見れば満足そうにこちらをみていた。
「・・・少し寝てもいい?」
問えば返事の用に鳴き声が返ってくる。
目を閉じたjackに習うようにナナもそのまま目を閉じた。
「じゃ、また今度来るからな。
元気にしてろよ。くれぐれも他のハンターの前で油断したとこ見せるんじゃないぞ」
貴重な古龍は常にハンターの獲物になる。
これだけ人懐っこい古龍がいるとは今でも信じられないが、自分みたいなやつばかりが存在するなんてありえない。
ナナはjackの頭に自分の頭を摺り寄せた。
jackの頬が緩む。
本当に動物って可愛いよなー。
これがティガだったらティガでも可愛いとか思うのだろうか。・・・不思議だ。
顔が離れた瞬間ナナと目があった。
すっとナナの顔が近くなる。
ナナの口とjackの口が触れ合った。
jackは少し驚いた顔をしたがすぐに笑顔に戻る。
「全く・・・お前は本当に可愛いな」
一瞬、人間だと錯覚してしまうくらいに。愛しい。
++++
「今回も古塔にいかれるのですか?・・・1人で?」
「あぁ」
いつもは呼び止められないのだが、今回だけはギルドの受付嬢も流石に声をかけた。
jackは苦笑して答える。
まぁ、・・・恰好はともかく持ってるものが持ってるものだしな。
目立つ上に、騒がれたくもないので朝早くにjackはクエストを受注し、1人で古塔に向かった。
流石に鎧型の装備では合わないだろうと思いギルドガードも着てきた。
長い回廊を登りきる。
体が慣れてきたのか歩く速さも早くなったし、疲労も少なくなったのが分かる。
今日の装備は軽いのでそのせいもあるのだろう。
逸る気持ちを抑えて、塔の一番天辺まで進む。
いつもより少し早い時間だから彼女はまだ来ていないだろうか。
塔の頂上についたjackを冷たい空気と風が迎える。
太陽がいつもより低い位置に見える。
周囲を見渡してもナナの姿は見えなかった。
少し早く来たもんな。そう思いながらjackはその辺の倒れた柱の上に腰かけた。
正確に待ち合わせをしているわけでもないので今日確実に来るとは分からない。
これで来なかったら俺凄い阿呆みたいなんですけど。
持参した大荷物を眺めながらjackは息をついた。
しばらく冷たい空気と登っていく太陽と塔から眺める絶景を楽しみながら過ごしていると、どこからかバサバサと翼で風を切る音が聞こえてきた。
jackは立ち上がって、周囲を見渡す。
下からすっと現れたのは、太陽の光を浴びてキラキラ輝くナナの姿であった。
「おはよ。今日は俺の方が早かったみたいだね」
いつも待ち伏せていたように出てきたが、今日は確実に自分の方が早かった。
少し優越感を感じながら、jackはナナが降りてくるのを待つ。
風圧に髪をなびかせ、持参した荷物を背中に、jackはナナに近づいた。
「変わらないようで何より」
いつものようにすり寄ってくる頭を撫でてやる。
ごろごろと喉を鳴らすのは気持ちのよい証拠であろうか。
陽気なリズムで尻尾も揺れている。
ひとしきり撫で終えたところでjackは後ろの荷物を差し出した。
「・・・まぁ今日は食べられないものなんだけど。
俺からナナちゃんへプレゼント」
差し出されたのは赤いバラの大きな花束。
ナナは目を丸くして、そして目を閉じで花の匂いを嗅ぐ。
jackは反応を静かに見守っていた。
やはり、食べ物の方が良かっただろうか。
人の心が理解できているのか、ただ単にフィーリングが合うだけなのか。
人の感性を押し付けるつもりはないが、知能の高い動物だとみて、今日は綺麗なバラを持ってきた。
自分の目からみて、この赤い大輪は気品溢れるナナにとても似合うと思うのだが・・・
ナナ自身はどう思っているのだろうか。
「・・・うーん、やっぱり肉の方が良かったかな・・・」
いまいち反応が薄い。
ナナは首を振り、礼を言うようにjackにすり寄った。
「少しは気に入ってくれた・・・ならよかったけど・・・」
いつもより少し大きい声で鳴いてナナは礼をいう。
それからいつものように何をするわけでもなく塔の上でのんびりと過ごした。
今日は早く来たからいつもより長く。
さらさら揺れるたてがみを撫でながらjackは呟いた。
「あーあ、女の子だったら超美人だと思うんだけどなぁ。残念」
ナナがこちらを向いて、笑ったような気がした。
++++
「あっjackさーん!」
「んー?どしたSEVEN」
集会場でいつものようにNobutuna達を待っていると別のクエストに行くらしいBASの3人に出会った。
「Faltから聞いたけど肉食系の彼女できたんだって?どうどう?美人?」
・・・なんか否定しないうちに話が変なところにいっているような気がする。
「うん、超美人。ヤベェ美人。できれば家にお持ち帰りしたいくらい可愛いんだけどさー」
スペース的な問題がね。
と、適当に答えたらSEVENの目がさらに輝いた。
「お持ち帰りとか!!流石社長」
「え、それマジなの社長?Carry大丈夫なの?」
思わぬ話題にAshも食いついた。
それでもjackは適当に流す。
人の噂も75日。
その場その場のテンションで生きてる集団だ。いつしか風化されるであろう。
「今度紹介してよー!」
情報を集めようと食い下がるSEVENにjackが微笑した。
「絶対ヤダ」
これは古塔での2人だけの秘密。
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