ある国にとても美しい姫君がおりました。
その姫君は悪い魔女の呪いの魔法で、醜い獣の姿に変えられてしまいました。

それは、とあるお伽話と似た話。



「ねぇ、jack」
「なんだい、姉さん」

暖かい昼下がり。
本日の狩りを早々に終えて帰宅した2人はお互い思い思い好きなことをしてのんびりと過ごしていた。
暇にかこつけてデコりすぎたネイルを乾かしながらCarryが話かける。
部屋の隅で粉塵を調合しようと、竜の爪をすりつぶしているjackはCarryの問いに顔を上げた。

「あんた、・・・最近彼女ができたって、本当?」

jackの手元が狂い、ボフンッという爆発と共にすり鉢の中身がはじけ飛んだ。
竜の爪は拡散作用があり、時にボウガンの弾にも使用される。
調合方法を失敗すれば調合者も怪我ではすまないため、取り扱いには注意が必要なものであった。
スキルがないと調合は難しく燃えないゴミの量産確実だ。

「・・・・えっ!?は??・・・なんていった?」

調合に失敗したことよりもCarryの発言に驚いたjackは聞き返す。
・・・彼女が、どうしたって?

「だから、最近彼女ができたって噂があるけど、どうなのよって聞いてんのよ!
私何も聞いてないんだけど!」
「どうなのって、できてるわけないじゃない。
姉さんが知らないのも当然でしょ、だっていないもん」

いないもんは伝えられるわけがない。

器が壊れていないか確かめjackは最初から調合を始めた。
少し勿体ないことをしてしまった。

少し動揺はあったものの、さらりとかわすjackをみてどうやら本当にいないことをCarryは悟る。
なんだ、別に焦ることはなかったのか。
爪に息を吹きかけ、手を伸ばす。うん、完璧。
綺麗に彩られた爪を満足そうに眺めCarryは机を片付け始めた。
ふと机の上に見慣れない藍の鱗が置いてある。

「なにこれ?」

藍の鱗なんて珍しい。
一目見ただけでは、どのモンスターのものか分からなかった。
触れば、固くもなく柔らかくもなく。
しかし、それは絶対的な強度を持っていた。
装備にすればいいものができあがるだろう。
ランポスにしては強度があり、イャンガルルガにしては鮮やかな青であるし、リオレウス亜種にしては硬さが足りない。

「ねぇ、jack」
「なんだい姉さん」

生命の粉に竜の爪を加える。
今度こそ失敗しない。

「・・・これ、なんの鱗?」

顔を上げたjackの手元がまた狂った。

「・・・粉塵の調合率だだ下がりね。粉塵王ともあろうお方が」
「姉さん、もう調合中に話しかけないでくれる?」

jackは燃えないゴミをすり鉢の中からかきだした。
粉塵の調合に失敗したの、最後いつだっけ。
大きな背中は丸くなり、哀愁が漂っている。
地味に凹んでいるらしく、Carryも少し罪悪感がした。いや別に悪いことはなにもしていないはずだが。

「・・・で、何の鱗なのよ」
「・・・えっと・・・」

jackの返答が遅れた。顔を見れば目が泳いでいる。
Carryは目を細めた。
jackに近寄り鱗を突きつけ答えを求める。
浮気がばれた夫の心境に近いものを感じるのは何故だろうか。

「え、なに?これ珍しいの?天麟レベル?」
「別に、ただの鱗だと思うけど・・・」
「なんの?」
「・・・えっと・・・なん、だったかな・・・」
「少なくとも、私は見たことないわ」
「・・・・。」
「jack、」
「・・・‥‥なに?」

視界全体にjackの顔が入るまでCarryはjackに近付いた。
近すぎる、とjackは少し後ずさる。
少し視線を下げると魅惑的な胸の谷間が見れるベストポジションなのだが、高確率で殺されるので視線は下げない。
何があってもだ。

「なにか私に隠してることない」
「別に」
「じゃ、これは何?」
「・・・忘れた。誰かにもらったんだったかな」
「誰に」
「忘れた」
「jack」

相変わらず嘘が下手だな。とCarryは思う。
しかし、そうと見抜けてもjackは重要な部分は最後まで隠し通した。
隠しきれないと分かっていても、最後まで自分の口から本当を言わない。
どれだけ攻めても一線を越えることができない。
本当に不器用だとCarryは思う。
だからこそ、愛おしくなる。

「・・・まぁいいわ。
でも大事な物なんでしょう?」

Carryはjackの手に藍色の鱗を乗せた。

「・・・机の上においておいたら捨てちゃうわよ。
まぁこれだけ綺麗なら私のネイルデコレーションの一部にしてあげてもいいんだけど」
「やめて、それだけはやめて!!」

必死に両手で包むくらいは大事らしい。
何の鱗か知らないが、大層なことだ。

Carryは飽きてjackから離れた。
忌々しいが分からない物は仕方がない。

自分が思い通りにいかないのはとても悔しいことだ。
でも、思い通りにいかないjackが悔しいくらい好きなのだ。

++++

今日もホワイトレバーを持参し、古塔に向かった。
頂上に着くとすぐに空から出迎えてくれる彼女にjackは熱い抱擁を交わす。
古塔にちょいちょい探索に来ていたjackは偶然頂上でナナ・テスカトリに出会った。
全身美しい藍い鱗に覆われ、虹色に光る翼を広げ舞い降りる姿は炎妃龍の名前にふさわしい。
凶暴な牙や爪を覗かせながらも、上品な立ち振る舞い、気品あふれる姿はその辺のモンスターと一線を引いていた。
それでいて人懐っこい彼女にjackは完全に魅了されていた。

「久しぶり〜。
中々これなくて悪かったな〜。」

首回りを抱きしめて、たてがみに顔を埋める。
見た目よりもふわふわしたそこは顔を埋めると気持ちがいい。
ナナの見た目にも慣れてきて、今では躊躇いなく触れるようになってしまった。

Rikuの言葉を借りると、ナナなんてちょっと大きい猫ッスよww

甘い声でグルル・・・と鳴くナナにjackはホワイトレバーをプレゼントした。
なんだかんだいってやはりこれが一番美味しいらしい。
人間もモンスターも変わらないんだなーと思う。
ティガだってポポ大好きだし。

ナナはお礼の代わりにjackにすり寄り、それからjackの手からホワイトレバーを食べ始めた。
初めて会ったときにも餌付けしたのだが、一気に食べると思ったら、器用に噛み切って少しずつ食べてる。
骨も残すし、大きな牙があるにも関わらずjackは噛まれたことがない。

「ナナちゃんが賢いのか、古龍自体が賢いのか・・・」

かれこれ数ヶ月の付き合いになっているが、付き合う度に、ナナの知能の高さが見えてくる。
思考としては人間に近い。
・・・もしかしたら人間の言葉も分かっているのではないかと思うほどに。

手でも舐めてくるのかと思うとそうでもないし。
必要以上に甘えてこないのも動物らしくない。甘噛みすらしないし。いやしてもらっても困るのだが。
ホワイトレバーを食べ終わったナナを見るとドヤ顔である。
その辺の雑魚モンスターと一緒にするなということであろうか。そういうことにしておこう。

「・・・お腹いっぱいにならないかもしれないけどごめんね。
そんな大量に持ち込むわけにもいかないし。
割とレアなんだよねぇ、ホワイトレバー」

流石にこれだけのためにケルビ狩りに出かけるのも気が引ける。

「さて、今日は何をしようか」

ゆっくりと太陽の日に暖められ、暖かくなりつつある古塔の頂上で、jackは適当に座って呟いた。
こうやって一緒にいられるだけで、とても癒される。



途中、ナナはjackを置いてどこかに飛び去ってしまった。
こちらをじっと見ていたので、巣に帰ったわけでもなさそうだが、何があったのだろうか。
焦ることもないので、jackはしばらくその場で待った。
10分もしないうちにナナが戻ってきた。
口に咥えているのは、どうやら花のようだった。

それをjackに差し出す。

「え、くれるの?俺に?」

それは見たこともない、青い薔薇。
確か色素だったかの関係で絶対に作られないと聞いていたんだが・・・。
こんなものが存在したのか。
ナナが持ってきたということは、どこかに咲いているのだろう。
ナナの鱗の色をそのまま映したような綺麗な青い薔薇をみてjackは微笑んだ。

「へ〜、ありがとう、嬉しいよ。すんごく綺麗」

それにしても綺麗な色だ。
家に持ち帰ったら姉さん驚くだろうなぁ。

頬を撫でると、気持ちよさそうにナナが目を瞑る。
とても素直で優しくて。


ナナによしかかって背中を撫でながらjackは問う。

「そういえば、ナナちゃん彼氏はいないの?俺がテオなら絶対ほっとかないんだけど」

・・・テオ自体も希少だから出会いもないのかもしれないけどね。

ナナはふるふると首を横に振った。
あれ、フリーなのか。
勿体ない。凄く勿体ない。世の中に生息するテオの見る目が理解できない。

「なら、しばらく俺が貰っておこうかな。
彼氏ができたら・・・まぁ寂しいけど譲るしかないかねぇ。
あ、一応紹介してね」

ナナがのっそり起き上がった。
今まで勝手に動くことなかったのに。
何かご不満なことでもあったのだろうか。
ナナはjackの目の前まで移動してきた。
座っているので、見降ろされる形になる。
凄味のあるこの風景も、今ではもう慣れてしまった。
むしろ可愛くて仕方ない。

「・・・?どうしたの?」

ナナがおもむろにjackにキスをした。
・・・本当に可愛いなぁ、こいつは。
ちょっと自惚れてみてもいいかなぁと思った瞬間、目の前でけむり玉が弾けたように白い煙が上がった。

「・・・え?・・・なに、これ?」

俺、今日けむり玉とか持ってきてないけど。

++++

魔法が解ける時は決まってそう。
どんな強力な魔法も王子様のキスで解けてしまう。


煙が晴れた時にはナナの姿は消えていた。
焦ったjackが視線を下に移すと、ナナの代わりに1人の女の子がjackを見上げていた。

「・・・?
・・・・???」

どゆこと?

流れるような鮮やかな紺色の髪はナナの鱗を溶かしたよう。
丸くて金色に光る眼は、困惑したjackの顔を映している。
肌は陶器のように整っていて、腕も足もすらりと伸びて
胸は・・・うーん、ちょっと判断しにくいけど大きい方だと思う。
姉さんが規格外すぎて、普通がよく分からない。

「・・・?」

女の子の方も何が起こったか分からずjackの瞳に映った自分の姿をじっと見ていた。
それから自分の髪や手や足を確認する。

jackも突然のことに反応できずただただ女の子を眺めるだけだった。
凄く可愛いけど、誰?
どこから来たんだ。
ナナはどうした。

しかし、問いは返ってくるはずもなく、しばらく無言で2人は現状把握に努めた。

jackは色々考えてはみたものの、どう考えても1つの答えしか出なかった。
とても非現実的ではあるものの、非現実的なことが実際目の前で起こってしまったのだから仕方がない。

「・・・もしかしなくても、ナナちゃん?」

いつものように名前を呼ばれて女の子の顔が明るくなる。
擬人化とか本当二次元だけにしてくれ。マジで。
いやでも普通に可愛いけどナナちゃん。

名前を呼ばれたのが嬉しかったのか、ナナはそのままjackに飛びついた。

「・・・え・・・や・・・あの、ちょっと・・・」

モンスターの姿では抱擁など全く抵抗がなかったものの(むしろ自分からしていた)、生身の女の子となれば話は別だ。
突然の抱擁にjackの頭は一気に機能を停止した。
顔もそのまま火のついたように赤くなる。
たまにCarryが酔って絡んでくることがあるが、それとこれとは別問題だ。
獣の姿そのままにすり寄ってくるものだからさらに手が付けられない。
嬉しいような、気まずいような、恥ずかしいような
色んな感情が入り交じり、jackは眩暈がした。
爽やかな色気と紳士的態度で女性ファンを魅了している粉塵王社長の肩書がガラガラと崩れ去っていく。
ヤベェ、なんかもう死にそう。色んな意味で。
誰か助けて。

「jack、」

初めて聞く、可愛らしい声。
なんだ、人の言葉も話せるのか。
思わず彼女の方を見ると、ナナはふんわりと笑う。
あ、なんか、凄く、可愛い。

「大好き」

いつもは見降ろされてる視線が、今は下にある。
上目遣いで言われてしまえば、落ちない男はいないわけで。

「えー・・・あー・・・」

口元を抑えて言葉を濁していた、jackだが、彼女の真っ直ぐな視線に耐えきれなかった。

「お・・・俺も、デス」

可愛いものには、巻かれた方がいい。

++++

「あら、jack。どうしたのこれ。綺麗じゃない」
「あぁそれ?特別に作ってもらった」

高価な箱に入っていたのは青い薔薇のネックレス。
薔薇の素材は見たこともない、藍色の何か。おそらくモンスターの鱗であろうか。
独特の色彩を放っているそれは、普通のアクセサリーと一線を引いていた。

「でも女性用じゃない?
誰かにプレゼント?」
「・・・まぁね」

ギルドナイトに身を包み、身なりを整えたjackは笑う。

「え、ちょっと本当に彼女?」
「さぁ?それはちょっとどうだろう・・・。
でも、素材くれたのが彼女だからさー、ちょっとお返しがてらにね。
作ってみたというか作ってもらった。
想像以上に良い出来で、俺も驚いているよ。
じゃ、行ってくる」

箱を畳んで胸にしまう。愛用の双剣を腰につけてjackは家の扉を開けた。


「ちょっと、もー。なにそれ少し嫉妬じゃない?」

残されたCarryは苦笑しながら呟いた。
帰ってきたら自分も何か買ってもらおうか。



いつものように古塔にいけば彼女が出迎えてくれる。
地上に降りた瞬間、ナナ・テスカトリから少女に変わった彼女はまっすぐjackに向かって走り飛びついた。
それにも慣れてきたjackはそのまま受け取り反動で一回転する。

「・・・今日はいいもの持ってきた」

彼女の白い肌に、青の薔薇は映えるだろう。
そっと彼女の前に差し出すとナナの目が驚きで丸くなる。
そしてjackを見上げた。

「プレゼント。
喜んでくれると嬉しいんだけど・・・」
「嬉しい!」

彼女の笑顔にjackも笑った。
嗚呼、なんか一生、古塔通いは辞めれそうにないなぁと心の中で思いながら。

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