「あの、ハンターさん。少しお頼みしたいことが・・・」

家を出てすぐにBillyはユクモ村の村長に呼び止められた。
村長は1枚のクエスト受注書をBillyに手渡しす。

「ギルドから先程聞いたのですが・・・・」

渡された受注書を見て、Billyの眉が少しだけ動く。
村長はそんなBillyの反応を伺っていた。

「一流ハンターと名高いMHDの方々にどうかお頼みできないかと・・・」

Nobutunaなら少し笑って軽く了承しそうだな、とBillyは思った。
この自分の無反応具合、一拍毎に村長の顔に不安の色が濃くなっていることが分かる。
頼んだ相手を間違えたとでも思われているのだろうか。
そんな顔されても・・・。俺やらないとは一言もいってないんだけど。

「・・・あの、」
「あぁ、分かった。受注する。・・・早い方がいいか?」
「えぇ、一刻の事態を争っていると聞きます」

ふーん、とBillyはクエスト内容と依頼文をもう一度見直した。
別に、1人でいってもいいのだけれど・・・。
それぞれのメンバーの予定を頭の中でめぐらす。

「・・・分かった。ちょっと1人誘いたい奴がいる。
流石に準備も必要だし、昼までには出発するから、待ち合わせに少しこの椅子借りていいか?」
「ありがとうございます。ご武運を。
この椅子は好きに使っていただいて構いませんわ」

村長は丁寧に礼をして、ギルドへの階段を上がっていった。
恐らくギルドに報告しにいくのだろう。
そしてBillyは家へ戻る。集会場へ行くよりそちらの方が早そうだ。
ついでに装備も整えておこう。

++++

「ヤベー、寝坊とかまじないわー」

太陽も十分に昇りきったころに起床したRikuは、集会場へと走っているところであった。
クエストは朝に張り出され、条件の良いものから受注されていく。
少しでも出遅れると、残っているのは条件の悪いものばかり。
基本ソロで活動しているRikuにとっては、朝のクエスト選択が狩りに出かける上で重要な仕事だった。

集会場へ続く階段を上がろうとしたとき、ふと横に目をやるといつも村長が座っている椅子に1人の男が座っていた。
メンバーの中でもプレイスキルが高く、『職人』『暴虐』という称号を欲しいがままにしているMHD界のイケメソ担当。
見知った顔にRikuは思わず足を止めた。

ウホッ、いい職人。

向こうもRikuに気づいたのか上着の内ポケットに手を入れ、1枚の紙を取り出した。

「一狩り、行かないか?」
「・・・・・・。」

オタクとして生まれたなら、売られたネタは買わねばならぬだろう。
Rikuは頷いてBillyと集会場に向かって歩き出した。


「いいのか、ホイホイついてきて」
「Billyさん、どうでもいいけどそのネタどこで覚えてきたの」
「ちょっとMADで」

全く、これだからニコニコはやめられない。
気持ちが分からんでもないRikuはそれ以上詮索せずアイテムボックスの中から必要な物を取りだす。

「まぁいいけど・・・でも珍しいねぇ。Billyさんが誰かを狩りに誘うなんて」

基本自分と同じソリストタイプでBillyも誘いがなければ基本1人で狩りにいくことが多かった。
まぁ大体Billyは誘いがあるからほとんどパーティで行くんだけど。
BillyがRikuの後ろで壁に背を預けて何か考え事をしているみたいだった。

「頼まれごと。少し厄介みたいだから」
「へー・・・闘技場でイビルジョーね」

確かに厄介だが、イビルジョーくらいBilly1人でもいけないことはないだろう。

「Riku、一番いい装備で頼む」
「大丈夫だ、問題ない」
「絶対ガチだからな」

自分の返事が適当だと思われたのだろう。Billyに念を押された。

「・・・どしたのBillyさん。そんなにヤバいの?」

それとも早く倒したいのだろうか。
それともちょいちょい弾切れを起こす自分に対しての警告だろうか。
まぁソロではそんなことしないけどね。

「あと長期戦になりそうだから、弾もそれなりに持ってきてね」
「了解」

2頭クエだっけ?たしかにジョー2頭はBillyさんでもきついわなぁ。
Billyの要望をききながら素直にRikuはアイテムを揃えていく。
雇い主に、逆らうべからず。
たまに悪乗りをしたBillyは危険すぎる。暴虐の槌がいつこちらに標的を変えるか分からない。
時にイビルジョーよりも恐ろしい。

アイテムボックスを締めて売店で弾を補充。
調合分ももって準備は完了。

「ごめん、待たせたね」
「別にいいけど、そんな装備で大丈夫か?温泉も、ドリンクも飲んだ?
まさか激運とかついてないよね」
「まさか、今日ソロ予定だった俺がそんな甘いことしてるわけないじゃん」
「・・・ならいいけど」

そして2人はクエスト受注して闘技場に向かった。

++++

『お疲れ様です!!!』

2人を見た瞬間、闘技場の門番が物凄い勢いで挨拶をしてきた。
何かいつもと違う空気を感じる。
隣のBillyも真剣な面持ちで、闘技場に入っていった。
Billyから誘われた時から嫌な予感はうっすらしていたが・・・。
門の前で何かに気づいてBillyが止まる。

「Riku、こいつをみてくれ・・・。こいつをどう思う?」

親指で闘技場の中を指され、Rikuは何気なく覗いてみた。

「・・・・!?」

イビルジョー特有の細くて長い足が目の前をのしのしと通過していった。
なんていうか、なんていうかだ。
Rikuは言葉がでなかった。

喉まで「すごく、大きいです」の返しまで出かかっていたのに。
大きな門の奥からはイビルジョーの足しか見えなかった気がする。
気のせいだろうか。
大きいというか、すごく大きいというか、なんかもう大きいとかいうレベルで表せないくらい大きい。
金冠レベルと並べても最小サイズと思えるくらいに。

「あの、Billyさん・・・これって・・・」
「うん、闘技場でイビルジョー討伐クエ」
「今、足しか見えなかったんだけど」
「先日ギルドで捕獲したらしい。シビレ罠2つに麻酔玉5個でやっと捕獲できたんだって」

それだけ大きいということだ。
普通2個で効く麻酔玉を5個も使うって普通のモンスターより2倍は強いということになる。
アイテムボックスの中をごそごそしながらBillyは答える。
流石にギルドもヤバいと思ったらしく、回復薬から補助アイテムまで中にずらりと並べられていた。
イビルジョーの全体を見て、言葉を失っているRikuにBillyは村長から聞いたこぼれ話を淡々と話す。
Rikuにとってはいらない情報かもしれないが。

「あまりにも巨大で珍しかったから少し研究しようかってことになって捕獲してここまで持ってきたらしいけど、昨日うっかり目覚めたみたいで。
誰にも止められないし、ここで飼ってたティガとかレウスとかナルガとかジンオウガとかに相手させてみたけど傷を負わせるどころか餌になったみたいで。
・・・んで、俺らに依頼が回ってきたわけ」

この闘技場全体に漂う異臭は奴らの成れの果てだろうか。
そういえば、よく分からないモンスターの残骸があちこちに落ちている。
凶暴すぎるイビルジョーの檻に入って片付けられる強者なんていないだろう。
やっと巨大なイビルジョーに慣れてきたRikuは、はぁと大きなため息を吐いた。

「・・・自業自得でしょそれ。
そんな危険なやつなんで殺しておかなかったのか不思議だねぇ。
現場に出ない偉い人の考えることは理解できないわぁ。
っつーか・・・そんなモンスターに勝てない相手を人間が倒せってか?
俺には理解できないよ」

どうやらボヤいているのは自分だけらしい。
Billyの表情をみれば少し楽しそうにも見える。
確かにこんなイビルジョー、一生をかけて探してもお目に掛かれることはないだろう。
お目に掛かりたくもないが。
仕方なくRikuもBillyに習ってアイテムボックスの中をみた。

「何この回復薬の量。死ぬまで頑張れってやつ?
鬼人薬グレートに、硬化薬グレートまで入ってるし。
ギルドのサービスっぷりが異常ww持ってこなくてよかったわぁ損した」

有難く、とアイテムを根こそぎ持っていくRikuの隣でBillyが鬼人薬と硬化薬を飲んだ。
最後に強走薬グレート。ついでにアイテムボックスの中に入っていた鬼人笛と、硬化笛を吹いた。
Rikuの体にもその効果が現れる。体が軽くなったような気がした。
RikuもBillyに習って薬を飲む。
あんなでかいイビルジョーの攻撃、ガンナー装備の自分がどれだけ耐えれるか考えたくもない。

「・・・なんでBillyさんこのクエスト受注したの?
分かってたの?こんなでかいイビルジョーがいたこと」

Rikuがボウガンの弾を装填しながらBillyに尋ねる。

「うん」
「なんで、俺を誘ったの?」

確かにこの巨大なイビルジョー、Billy1人でクエスト達成は難しいと思う。
別に人を誘うのは構わない。自分も誘われて嫌なわけじゃない。
逆に問題とするのなら、何故自分しか誘わなかったということだ。
こんなイビルジョー、2人でも危険すぎる。いくならば4人で行くべきだ。
メンバーの前で言うつもりはないが、MHDメンバーは誰をとっても手練ればかりだ。
どのモンスターを目の前にしても狩れない敵はいないと思わせるほど個々のスキルは高い。
門の前に立ったBillyは少し後ろを向いた。


「Rikuとなら倒せる気がして」
「・・・・お?」

それは少し期待している、と、とってもいいだろか。
メンバーの中でも狩りスキルの高いBillyにそう言われて嬉しくないはずがない。
Rikuは少し俯いた。

「よ、よせや・・・」
「あと、Riku以外二日酔いで今日動けないと思うし」
「・・・・お、お??」
「俺はあまり飲まなかったから今日もわりと普通なんだけど。みんな昨日色々やらかしてたからな・・・」
「え、・・・え・・・それ・・・」

Rikuの背中に嫌な汗が流れる。
イビルジョーの大きな咆哮が闘技場内に響き渡った。

「よし、行くか(`・ω・´)キリッ」

先に入っていったBillyを見送ってRikuは呟いた。

「ないわー・・・、まじないわー」

飲み会とか普通に聞いてねーし・・・。
俺だけハブとかまじないわー。
はぁ、と息をついて額に手を当てる。
いや、泣いてねーし。全然泣いてねーし。これ目にゴミが入っただけだし。
一気に落ちたテンションのままRikuは先に入っていったBillyを追いかけた。

++++

闘技場に入ってすぐ、Billyはイビルジョーと対峙した。

巨大なイビルジョーは体だけで闘技場の半分を占めていた。
闘技場がこんなに狭く感じるのは初めてだ。
凶暴なモンスターとの対戦を想定して作られている頑丈な施設内もあちこち壊れている。
イビルジョーが本気を出したとき、こんな檻すぐに壊されてしまうだろう。

ハンマーを構え、まずは頭をとハンマーを上に構えたが、巨大すぎるイビルジョーの頭は遥か上に位置していた。
Billyの身長とハンマーを合わせても届かない。
Billyは舌打ちし、そのまま足元へ走る。
面倒だが、転ばせてから頭を叩く以外方法はなさそうだ。
Rikuを誘って本当に良かったと思う。
近接武器でこのイビルジョーの討伐は骨が折れる。
ハンマーに力をためて、イビルジョーの足の下で回転する。
足にダメージを受けて、イビルジョーがたじろいだ。
咆哮の後に、体を回転させる。
そのまま移動してBillyを敵に見据えた。

だらだらと垂れる涎が厄介だと思いつつ、Billyはイビルジョーから目を離さずハンマーを構えなおした。


「ヤベェでかい。Billyが蟻のようだ」

Rikuは間近でみるイビルジョーに口をひきつらせた。
なんていうか、本当に「大きい」以外の感想がでない。
先に奮闘しているBillyのなんと小さいことか。
足元でちまちまやっているということは頭に届かないのだろう。

Rikuは攻撃のギリギリ届かないところでヘビィボウガンを展開させた。
・・・回避性能もう少しつけておくべきだったかな。
攻撃をよけきる自信がない。
苦笑しながらRikuはスコープを覗いた。
とりあえずBillyさんの補佐でもしますかねぇ。
装填済みの通常弾が勢いよく飛び出した。

2人の攻撃の甲斐あって、早々にイビルジョーは転倒した。
すぐに武器をしまって頭に駆け寄る。
そして同時に大きな爆弾をジョーの頭周囲に設置する。

設置している間同じことを考えていたとお互い苦笑しながらも手は休めない。
できるだけ早く爆破してしまわないと直接頭にダメージが与えられないからだ。
最後に小タル爆弾を設置して準備完了。2人はその場からすぐさま離れた。

イビルジョーが起き上がろうとした瞬間、いくつもの爆発が頭部を襲う。
顎に生えた牙が欠け、イビルジョーは悲鳴を上げた。
その間にも数発2人はダメージを与えておく。
イビルジョーの筋肉が隆起し始め、体の色が変化し始める。
いつみても、嫌な姿だねぇ。
スコープを覗きながらRikuは思う。勿論手は休めない。

ゴオオォォォオオオ!!

闘技場を震わせるほどの振動。
びりびりと、空気の振動に当てられながらも、イビルジョーからは目を離さない。

「怒ったよー!(・ω・)」
「無視かーい!(^ω^)」

特に意味もなく2人で言ってみる。
本人この場にはいないんだけどね。

少しできた心の余裕。
ここからが本番と、2人は目を細めた。



ここまで大きいと流石に遊ぶ余裕はどこにもない。
元々狩りの最中遊ぶことをしなに2人は淡々とイビルジョーと対峙し続けた。
部位破壊をしても涎を垂らしても、まだまだ元気なイビルジョーに2人もいい加減疲れてきた。
Billyが3つ目の強走薬グレートを飲む。
こちらは増強剤使ってやっとというところであるのに、捕食もせずイビルジョーは元気なものだ。
Rikuもあまり動かないにしろ体力は徐々に奪われていっているのが分かる。
隙をみて携帯食料を食べているらしいが弾の焦点がたまにずれている。
人である限り集中力を無限に保ち続けるのは難しい。
疲労を忘れたふりをして、Billyはまた足元に向かって走り出した。

ぐん、とイビルジョーが一歩大きく踏み出した。
普段とは違う行動にBillyは思わず後ろを振り返った。
この行動は・・・

「Riku!!」

Billyはすぐに頭に向かって走り出した。
アイテムポーチからアイテムを数個取り出す。

「・・・げ、うそでしょ・・・!!」

イビルジョーの目の前で弾を撃っていたRikuはスコープを覗きながら苦笑した。
すぐにヘビィボウガンを畳むが間に合わない。
目の前には巨大なイビルジョーの頭が来ている。

「捕食とか・・・、まじないわ」

そのまま体当たりを受け、地面に落下する。イビルジョーの捕食ダメージは通常より大きいといわれる。
何かこちらに向かって言っているBillyの姿がうっすら見えた。
このままキャンプ送りかーちょっと予定外かも。
最初のダメージで体がうまく反応しない。

「・・・・っ」

Rikuは痛みに顔をゆがめた。
Billyはすぐに生命の粉塵を使う。そして次に怪力の丸薬を口にした。
短時間だが、即効性のある丸薬はBillyの体に昂揚感をもたらした。
ハンマーを握る手が強くなる。
捕食中ということもあり、あんなに高かった頭が今は目の前にある。
攻撃したいけどできない歯がゆさを丸薬の効果に上乗せする。
今なら、全ての物を粉砕できそうだ。

「Riku、悪いけど自力で抜けてね」
「・・・は?」

イビルジョーの上から不吉な声が聞こえた。

「でも体力ヤバかったらいってね、粉塵使うから」
「・・・お?」

「あたま、・・・もらったっ!!」

太陽の光が遮られる。
Rikuの頭上に無表情のまま力をためてハンマーを振りかざすBillyがいた。

「え、うそ・・・、Billyさん・・・やめ・・・っ」

暴虐と化したBillyのハンマーがRikuの頭のすぐ上を通過して、イビルジョーの顔面に直撃する。
衝撃と共に、イビルジョーの骨やら歯やらが砕ける音が聞こえた。

「・・・・っ!!!」

何が怖いかって、Billyさんだ。捕食されかかっているというのにジョーが段々可愛く思えてきた。
頭のすぐ近くを彼のハンマーがひゅんひゅん飛んでいくため、Rikuは下手に起き上がれない。
流石にスタンプはないものの、横殴りからの回転。
容赦なく叩きこまれるそれに巻き込まれたら、頭蓋骨陥没とかそんな生易しいレベルじゃないだろう。
多分、頭部終了のお知らせ。
しかも無表情で淡々と行うもんだから、恐怖以外の何物でもない。
Billyの暴虐を迫力のあるローアングルからたっぷり見ることのできたRikuは早く乙りたいと心から願った。
この生殺しな感じ。いっそ殺してくれ。

お蔭で捕食ダメージは最小限で済んだし、イビルジョーに大ダメージを与えられたわけなんですが。

なんとか捕食体制から抜けだし、Rikuは回復薬を飲む。
もう最悪すぎる。帰りたい。
丸薬の効果の切れるまで暴れちぎったBillyは効果が切れると同時に少し距離を置いた。

「・・・もう少しのはずなんだけど・・・」

Billyの表情を見て、Rikuはボウガンの弾を装填しなおした。
一息ついてBillyはまた足に向かう。
Rikuもスコープを覗いて、イビルジョーの頭を狙った。

イビルジョーの頭で大きな爆発が数回起きる。
徹甲榴弾。音爆弾の効果もあり、頭に当てればスタンの効果も発動する。
あれだけBillyに殴られていればもう少しだろう。
Billyが足元でイビルジョーを殴り続けている合間にRikuは徹甲榴弾を打ち続けた。
執拗に足を叩かれ続けイビルジョーがよろめく。
Billyはそれを見逃さず軸足に溜めの入ったハンマーを叩きつけた。
イビルジョーの体が傾く。
Rikuは焦らず体の軌跡を予測して頭を狙った。

「とっととダウン起こせっ!!」

爆発と共にイビルジョーは一瞬気を失った。

「Billyはん!!」
「Rikuよくやった」

転倒と同時に頭に辿り着いたBillyは元々がっちり溜めていたスタンプをお見舞いする。
Rikuも弾を変えしゃがんで、連射し続けた。

ビクンとイビルジョーの体が大きく痙攣する。
Billyは大きく陥没した頭にもう一撃スタンプを叩きつけた。
もう一度、イビルジョーは痙攣し、そして体を弛緩させた。

Billyは目を細めて、ハンマーの先を下ろす。
・・・やった・・・のか?
Rikuもスコープから目を離した。

闘技場の上から歓声が沸き起こった。
この闘技場の責任者達だろうか。
全く人が死にそうな思いで戦っていたというのに見物とは楽なものだ。
でもやっと戦いの終了の実感が沸いてRikuはその場で寝転がった。

「・・・ははっ・・・。
ないわー、まじないわ。本当ないわ。
もうこのクエストやりたくない」
「やりたくてもできないけどな」

頭の上にBillyが立っていた。
先程のような無表情ではなく、うっすら笑っている。
手を差し出されて仕方なく起き上がる。
疲れたからもう少し転がっていたかったのだが。
頭や防具についた砂を払い落としながらRikuはBillyに尋ねた。

「Billyはこのクエストまたやりたい?」
「うーん、せめて頭の届くレベルなら考える。
けどしばらくはいいや」

流石に足だけ攻撃するのはつまらんわ。
さいですか、とRikuは苦笑した。
俺は、もう絶対勘弁だけどね。


闘技場の管理人やギルドスタッフに礼を言われまくれ、謝礼金を分捕りまくり、この後食事でもと言われたがそれは断った。
強走薬の効果も切れ、2人は帰りのネコタクにそのまま寝ころんだ。
しばらく動ける気がしない。
ユクモの温泉は体力回復効果もあるが、この疲労をどこまで回復してくれるだろう。
明日は家で引きこもり決定だ。

++++

集会場に付き、そのままふらふらと温泉に向かう。
2人共のろのろと服を脱いで、無言で温泉に浸かった。

「あー、気持ちいい・・・。」
「・・・・。」

やっと一息ついて、タオルを乗せなおすRiku。体中ボロボロだ。
筋肉痛がじわじわと体を襲っている。
隣のBillyを見れば目を閉じたまま何も言わない。
目を閉じてじっと温泉に浸かっていた。ヤダ、Billyはんたら超イケメソ。
強走薬グレード3本も飲んで時間いっぱい戦い続けたのだ。
職人といえど限界だろう。

「ねぇ、Billy」
「なに?」

・・・寝てなかったらしい。

「お疲れさま」

疲れたついでにオトモアイル―に頼んで酒を持ってきてもらった。
特別好きなわけでもないが、なんとなく飲みたい気分になったのだ。
Billyがあまり飲めないことも知っていたが、一応自分だけ飲むのはあれなので勧めておく。
Billyはなんて返そうか一瞬迷ったようだが、結局Rikuの盃を受け取った。
アイル―がにこにこと2人に酒を注ぐ。

「なら、今日の狩りにかんぱーいにゃ!」
「かんぱーい」

Billyも少しだけ盃を上げてくいっと飲む。

「良いね―職人。良い飲みっぷり!」
「旦那飲めるクチかニャ!?ぐいぐいいくニャ!!」
「・・・いや、俺はそんなに・・・」
「良いじゃん、Billyはん。どうせ明日1日体動かないって。
飲んでも支障ないよ」
「そういうわけでも・・・」

『おーい、Billy、Riku〜!』

後ろから声が掛かって振り向けばいつものメンバー達が柵の向こうから手を振っていた。

「なに?2人して酒盛り?俺もまぜろやー」
「は、まだ飲むの?二日酔いは??」

Rikuが露骨に嫌な顔をすると「サムライは飲んでも飲まれないんだよ〜」と軽い口を叩きながらNobutunaが脱衣所に向かって歩き出した。
「俺も混ぜて〜♪」とNobutunaの後にぞろぞろと他の面々もついていく。

一気にユクモの温泉は宴会会場となった。
番頭さんは苦笑しながら今日は大目に見てやるにゃ。と呟いた。

「も〜Billyさんの家いってもいないんだもん。
昨日の今日で狩りとか凄すぎるわ〜。
どんだけ頑丈な肝臓してるの」
「いや、俺は昨日そんなに飲んでないし」
「・・・飲んでないのにチルノ歌えちゃうBillyはん最強すぎるわ」
「あれは別。」

どうやら昨日は変な方向に盛り上がっていたらしい。
Rikuは苦笑しながら言った。

「昨日の今日で飲み会とかしちゃうあんたらの方がないわー」

するとAshとSEVENがRikuの頭を勢いよくお湯に沈めた。

「ちょっと、なんなのいきなり!!!」
「今日何の日か忘れちゃうRikuさんないわー」
「まじないわ―」
「凄いウザいんですけどこの人ら。いっぺんジョーの捕食喰らってこい」

カラカラとNobutunaが笑って言う。

「今日という日は何があっても飲まにゃいかんでしょう」
「は?」
「今日はBillyの誕生日だぜ?」

「おめでとー!Billyはん」
「よっ、職人!!いいぞ、職人!!」
「キャー、ビリーサンカッコイイー!!ダイテー!!」

男だらけの黄色い歓声が飛ぶ。全く持って嬉しくない。

「・・・そうなの?」

RikuがBillyに聞き返すとBillyも苦笑していった。

「そうなの」

それは知らなかった。
知っていたとしても、おめでとうという言葉をかけるくらいしかできないけど。

「そりゃ、知らなかった。おめでと」
「ありがとう」

照れたようにBillyが笑って盃をあおった。

「一番、Billy!!
『Billyのパーフェクト狩猟教室』歌います!!」

「いいぞー!!Billy!!!」
「やったれBilly!!!」
「Billyさんステキ〜!!!」

またもや変な盛り上がりを見せ、中々今夜はお開きになりそうもない。
風呂入って即行寝ようと思っていたRikuの考えは早々に打ち砕かれた。
みんな酒のペースだけは異様に早く温泉ということもあり、2時間後の光景なんて考えたくもない。
ゆでダコになった酔いどれ男9人しかもほぼ全裸でタオル1枚とか最悪すぎる。
もし明日、ユクモ村にアルバトリオンやらアマツマガツチとか襲来したらどうするつもりなんだろう。
多分、全員死亡フラグ。逃げられるかどうかすら危ういレベル。
ないわ〜と軽くぼやいたRikuの隣にそっとSkyが寄ってきた。
何事かと思えば、SkyがRikuの手を掴んで高く上げた。

「2番〜。Rikuさんが『ブラック★リックシューター』歌ってくれるそうですぅ〜」
「はぁ?Skyお前・・・」

「Rikuも飛ばすなぁ〜やったれ!」
「よっ、Riku!!TKB48!!」
「キャータンクトップステキ〜!!」
「まだ、許さないからな!!」
「絶対許さないからな!!」

何がだ。

「じゃ、Riku、マイク渡すわ」

空になったとっくりを渡されRikuは開いた口がふさがらなかった。

「え、Riku歌えないの?歌うよね?」
「・・・お?・・・お??」

Billyがにこりと笑った。
・・・多分、酔いが回ってきたのだろう。こんなBillyの笑顔見たことないし!

「Billy様のいうことは?」
『ぜった〜〜いい!!』

もう、逃げれないよ!

今日何度いったか、ないわーと呟きヤケクソでRikuは立ち上がった。
酔いもそこまで回っていなくて凄い、なんか1人凄い虚しい気分だけど。
その辺にあったとっくりを掴んで中身を一気に全部飲み干した。
おぉぉ!!と周囲から歓声が上がる。

「2番Riku、『ブラック★ロックシューター』いきまーす」



次の日、目が覚めたあとの後悔といったら。
ないわ〜、まじないわ〜。

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