「最近出没するようになった雷狼竜、ジンオウガを倒してほしい」

その依頼こそ、俺らがユクモ村にきた理由。


ポッケ村からユクモ村に越してから2ヶ月が経とうとしていた。
着なれたユクモ装備に身を通し、新しく作った太刀を担ぎ煙草を加えて外に出る。
村の至る所から温泉が湧き出て独特の香りが村を包みこむ。
温泉を目的にきた観光客やハンターたちが行きかう中、Nobutunaはのんびりと村の中心部に向かう。

村の中心の枝垂桜の下が彼女の定位置。
目が合ったNobutunaは彼女に会釈した。

「おはようございます、ハンターさん。
リオレイアを討伐されたと聞きました。
既に立派なユクモ村のハンターですね」

ユクモ村の村長は若い女性の亜人であった。
穏やかな笑みを浮かべユクモ村に滞在するすべての人をこの場所で見守っている。
来た頃騒がしくてどうしようもなかった俺らを親切に迎えてくれた珍しい人だ。
まぁ、やらかし過ぎた時は眼だけ笑っていなかったが。

彼女の賞賛を聞いてNobutunaは苦笑して頬を掻いた。

「いいや、まだ全てのモンスターを倒しきれてない。
下位レベルじゃ俺らもその辺のハンターと変わらないよ」
「いえ、リオレイアを討伐してくださるだけでも大きな貢献ですわ」
「まぁ前のところにもいたしなぁ。ちょっと攻撃パターンとか違ってたけど。
それに、頼まれたジンオウガもまだ倒していないし」

その言葉に村長は顔を曇らせた。
温泉の名所として名の知れたユクモ村だが、ジンオウガのせいで最近客足が減ってしまったという。
村の活気を失ったと、村長は肩を落とした。

「まぁまだ姿を見せないんなら仕方ないんだけど・・・」
「・・・さきほど、ギルドから知らせがありました」
「・・・うん?」

村長は一つの依頼書を差し出した。

「ジンオウガが、渓流に現れました」

すがるような悲痛な視線に、Nobutunaは目を丸くした。


ジンオウガ。
巨大な大きな狼を模したモンスターで電光虫を使い帯電することから雷狼竜と呼ばれている。
一度蜂蜜採取をしたとき出会ったが傷を負わせたところで逃がしてしまった。
その時武器も弱く徹底的なダメージを与えられなかったことも敗因の一つであるが正直強かった。
もう一度戦いたいのはこちらの方だ。

「どうか、お願いですハンター様。
ジンオウガを倒してください」

Nobutunaは煙草の煙を全て吐き出した。
そして笑う。

「与えられた恩をきちんと返すのが侍ってもんだ
俺らみたいなどこ知れずのウルサイ猟団を笑顔で迎えてくれたのはネコバァと村長だけだよ。
滋養強壮のある温泉は入り放題。
家も農地の用意してもらって、好きに暴れさせてもらって・・・
あんたらには返せないほどの恩がある」

Nobutunaは村長のクエスト受注書にサインをした。

「それに俺、個人的にここ好きだし。
ここがすたれてなくなるのは嫌だな」
「・・・ハンター様」
「これが終わったら祭りかねぇ・・・」

年に一度、ユクモ村で大きな祭りをやると聞いた。
その前にジンオウガの脅威が消えれば安心して楽しむことができるだろう。

「はい、討伐も記念して、盛大にやらせていただきますわ」
「・・・いや、別にそこまでしなくてもいいんだけど・・・」

俺は、美味しい酒が飲めればそれでいい。

「じゃ、夕方ごろぼちぼちいきますわ」

少し時間があるため、太刀でも研いでおこうか。
こちらを向いているネコタクのアイル―に手を振った。

「旦那、どこか行きますかニャ?」
「夕方また来るわ。
渓流に連れて行ってくれ」
「予約しときますニャ」

村長は口を引き締めて頭を下げた。

「よろしくお願いします」
「まぁ、善処はするけど・・・。
そう畏まって頭下げるなって。
それにお礼も討伐した後でいい」

美しい蒼碧の鱗。体に淡い光を纏い渓流を駆ける美しい獣。
獰猛な視線に見降ろされた時の恐怖と少しの昂揚感。
遂に、奴が現れた。
Nobutunaは薄く笑った。

++++

日が沈み、月が丸く輝き始めた。
ネコタクを下り、礼を言う。
静かな夜の渓流にNobutunaはオトモと共に降り立った。

「満月の夜・・・か、たまらんなオイ」

いっそこのまま絶景を肴に酒でも飲みたい気分だ。

「ご主人、ジンオウガが先ですよ」
「まだ何も言ってねぇだろうが」
「顔に出てますよご主人」
「うるさいな。行くぞ」

笠を被りなおして、Nobutunaは渓流の奥へと歩き出した。

夜の渓流は圧巻だ。
月の光に照らされ、水は光り、紅葉した木々はそのまま花になる。
闇の中鮮やかな色彩を描き出す渓流はそのものが芸術だ。
大きな滝の下から煌々と地を照らす満月を眺め満足してからNobutunaは渓流を下った。

あぁ、酒飲みたい。すごく飲みたい。
俺ここで酒飲んで暮らしたい。
隠居場所はここだな。と脳内で思いながら歩みを進める。

どこからか大きな咆哮が聞こえる。
Nobutunaは目を細めて、顔を上げた。
周囲を歩いていたガーグァがビクリと震えて走り出した。
それを横目で眺めながら渓流を下る。
心拍数が少しずつ上がって行くのが分かる。
懐から煙草を出し、咥えた。

もう一度咆哮が空気を揺らす。

煙草に火をつけ大きく吸った。

渓流を下り、大きな川に合流する手前。
一面のススキが月の光に照らされ黄金に輝き、その間に電光虫が光幻想的な風景を作り上げる。
目を凝らせば見える、奥にのっそりと動く巨大な影。
美しい蒼碧色の鱗に、うっすらと自らの体から溢れる光。
小さな顔が上がり、Nobutunaを見据えた。
バチバチと二本の角が瞬いた。

綺麗だ。

単純にそう思って、一拍見詰め合う。

咆哮のため、息を吸うのと、Nobutunaが背中の太刀に手をかけるのは同時。
大きな咆哮が渓流中に響き渡った。
キィィィンとNobutunaの背で鉄が鳴る。
美しく研がれた刃が月明かりに照らされて鋭く光る。

巨体がこちらに向かって突進してくる。冷静に太刀を構える。
タイミングを見定め飛びながら刃をおろす。

すれ違いざま交わした視線。
相手の、闘争を宿した瞳に静かに笑う。

今夜は熱い夜になりそうだな。オイ。

煙草の灰が落ちて冷える。
突進後、前足を軸に方向転換、ジンオウガはこちら狙いを定めて大きく跳躍。
前足を振りかぶる。

「・・・え、お?・・・おいちょっとやめ・・・」

構えた刀を一度降ろしてそのまま回避。
自分のいた地面が巨大な足と鋭い爪にえぐられる。
ひやりとした瞬間、自分の上に大きな影ができた。

「うおっ!」

反対の足がNobutunaに向かって振り下ろされる。
ぎりぎり避けたが、体勢を崩した。尻から地面に倒れる。

「・・・くっそ」

近くでみたらジンオウガの頭は自分の頭の遥か上に位置する。
その高い位置からじっとり見下され、観察される。

さて、どうやって殺してやろうか。
ぎらぎら光るジンオウガの視線に、Nobutunaは苦笑した。

「やる気だねぇ・・・」

つぅ、と頬に汗が流れる。
このギリギリの恐怖がたまらない。

狙いを定めきったあと、大きな巨体が跳躍する。
もう一度大きな足が振り下ろされた。
Nobutunaはすぐに起き上がり、その場を離れる。
もう一発。
ひらりと避けて後ろ足に突き刺し振り上げる。
動くジンオウガに合わせて頭に太刀を振り下ろした。
堅い鱗に刃を止められNobutunaは舌打ちする。
やはり切れ味が足りないか・・・。

ポッケ村で集めた名刀はこちらにくるとき没収されたしなぁ・・・。

以前の名刀を思い浮かべて苦笑する。
まぁ、・・・これだけ上等な素材ならきっと良い太刀が作れるだろう。
良い電流をまとった、美しい。

バチリと電流をまとった球がこちらに向かって飛んできた。
それを回避し、Nobutunaはジンオウガに近付く。
ジンオウガと戦ったことはこれが初めてではない。
俺だって少しは学習してんだ。

あの時これに当たって眩暈がおこり、危うく死にかけた。

もう一度頭に振りかぶり、ジンオウガが仰け反った。
そのチャンスを見逃さず鬼神斬りに入る。

流れるような太刀筋の乱舞は確実にジンオウガにダメージを与えた。

「悪いね、俺も負けられないし」

背中に一度太刀をしまう。
ジンオウガは一度後ろに下がり、体を光らせた。
電光虫を集め、自分の力にする蓄電行為。
Nobutunaは走り、太刀を抜いた。
蓄電が完成してしまえば少し厄介だ。

何度か攻撃を与えるが、怯ませるまでには至らなかったらしい。
Nobutunaの足元が強く光る。
反射的に後ろにとんだ。

瞬間、強い光と共にジンオウガが包まれた。
その力の圧に体ごと飛ばされる。
空中で体制を整え着地し、ジンオウガを見据えた。
淡い光に包まれ、収まりきらない光が溢れてバチリと空気中で弾ける。

Nobutunaはアイテムポーチを探った。
体力がなんとなく不安なので回復薬取り出して煽る。

仕切り直し、か。

口を拭い、太刀をもう一度握り直し相手を見据える。

一拍。

相手がこちらに向かって跳躍するのと避けるのは同時。
着地地点で振り返る。
お互いの視線がぶつかり合う。
帯電状態になったことで、ジンオウガの動きも早くなっている。
小さな隙を見計らないながらNobutunaは素早く攻撃を繰り返した。
角が光り、電流が溜まっている。
あの角を破壊することができたら・・・。

攻撃をかわし、隙ができたところで、頭を狙う。
よく観察すればちょいちょい隙ができるらしくコツが掴めてきた。

「そらよっと!」

太刀を振り下ろす。
角が片方かけた。
ジンオウガが仰け反り、帯電状態が解ける。

「・・・よっしゃ」

追撃に爪に攻撃する。危ないものは早々に破壊しておくものだ。
目に怒りを宿し、ジンオウガはNobutunaを見た。

「・・・・っ!?」

尻尾を前方に薙ぎ払ったと思えばふわりと空中に浮かび見事な一回転。
Nobutunaの上に影ができる。

ヤベェ・・・

本能で危ないと思いつつも、宙に舞ったジンオウガから目を離せない。
月の光に照らされ、鮮やかに光る、その鱗の美しさ。
空中で踊るような、軽い、しなやかな動き。

太刀を持ったままであるので回避できてもたかが知れている。
Nobutunaは太刀を構えた。
ただでは転ばねぇ!!
タイミングを合わせて切り下がり。
長い尻尾が地面に強く叩きつけられる。

Nobutunaの目の前に巨体が振ってきた。
にわかに光る背中が目の前にある。
弾けた水も気にせずNobutunaは近寄り太刀を振り上げた。
これはチャンス。

竜を描くよう、流れるような鬼神斬り。
ジンオウガで作った太刀には雷竜が乗り移るだろう。
それはきっと夜の闇によく映え美しいだろう。

起き上がったジンオウガはNobutunaと距離を置き、蓄電を行う。
刃こぼれは剣士の恥。すぐに研ぐこと。大吉。
どこかで聞いたようなフレーズを思い出して、Nobutunaは砥石を取り出した。
そのお告げに従うわけでもないが、刃がこぼれていては、いざという時の決定打に欠ける。

電気を溜め終ったジンオウガが大きく咆哮する。
太刀をきらりと光らせ、Nobutunaは太刀を構えた。

「お互い、ラストダンスを洒落込もうじゃねぇか」


鋭い一閃で尻尾を叩き斬り、着地した軸足に太刀を突き刺す。
突進した頭に太刀を振り下ろした。
完璧に計算尽くされた攻撃。
武器が、防具が変わっても狩りのセンスは自分の物だ。

ノッてしまった自分を止めるものは何もない。
大きく口を開けてとびかかってきたジンオウガに太刀をまっすぐ突き刺した。
最後の視線がかち合う。

「・・・・。」

ジンオウガの喉から鳴き声とも息とも取れない音が小さく漏れた。
ジンオウガから光が弾けるように消える。

太刀を抜くとジンオウガの体は崩れた。
刃についた血を払い、鞘にしまう。
周囲がいきなり静かになり、そして徐々に虫の音が聞こえてくる。

残されたのは、逃げ道をなくした体の熱と、ジンオウガの死体。
Nobutunaは目を閉じて祈る。

お前は俺の愛刀として、世界と戦うことになる。

剥ぎ取りを終えて、一服しようと煙草をとりだしたら、オトモアイル―達がやってきた。

「旦那さん本当にやっちまったニャ〜!」
「当然だ。
ほら、お前ら酒だ酒」

オトモアイル―2匹は顔を合わせて苦笑した。

「まぁジンオウガ討伐したということで大目に見るニャ」

大きな瓶を担いでアイル―達がやってくる。
酒を護るために、戦闘中はアイル―達に端の方にいてもらっていた。
それもこれも、この瞬間のため。


丸く輝く満月に、宝石を散りばめたような星。
黄金に輝くススキに、電光虫が照明のように瞬く。

「狩りの後、これに勝る贅沢があるかってもんよ」

盃を渡され、透明な酒がアイル―から注がれる。
盃を一つ、ジンオウガの躯の前に置いた。丸い月が盃に写る。

「なら今日のクエスト達成に、」
『乾杯!』

掲げられた盃。大きく煽って、もう一杯。
喉を通ると熱い液体が胃まで流れ込む。

村に帰れば祭りだと村長がいってきた。
みんなで騒いで飲むのもいいが、一人で飲むのも乙なものだ。
夜も深くなり、冷たい風が頬を撫でる。

「旦那さん、頬怪我してるにゃ」
「・・・え、マジで?」

真剣すぎて気づかなかった。

「男が一つ上がったニャ、かっこいいにゃ!」
「・・・本当に?よせやい!褒めても何もでねぇぞ!!」

クツクツ笑って、Nobutunaはもう一杯酒を煽った。

++++

祭りの夜。
夜になっても光の消えない村の外れで9人は酒を片手にいつもの雑談をしていた。

「でもさー、Nobutunaとっととジンオウガ倒すとかないわー」

昼の祭りの中心で担ぎ上げられたNobutunaにメンバー全員笑いながらも驚いた。
しかし、ジンオウガ討伐の話は聞いていなかったということで抜け駆けということになる。
とりあえず一通り捏ね繰り回されて今に至る。
キツイ酒をメンバー1杯ずつ。
正直、何このご褒美。とか思ったけどちょっと飲めないふりをするのが一番賢い。
Nobutunaは相変わらず盃片手に笑う。

「まぁねぇ。
でも村長の頼みとあっちゃ断れないでしょ」
「えー、オイラも戦いたかったぁ。
Nobutunaさんの背中は任してくれるんじゃなかったの〜」
「曲射を封印してくれたら考えてもいいぞ」
「え、それは無理」
「でも新手のモンスターだぞ。何かあったら・・・」

jackが苦笑していう。

「別に初めてってわけでもないさ。
負ける気なかったし・・・オトモもいたし・・・。
・・・なによりアイツとは1人で戦いたかったからな」
「何その独占欲ー!嫁はティガだけにしておいてよ」
「いや、あいつは嫁じゃなくて天敵・・・」
「おい、これからマガティガみてもこいつ1人に行かせようぜ」
「邪魔しちゃ悪いもんな」
「ヤメテー!2人きりにしないで!!
あいつの愛重すぎて俺死んじゃう!!」

どっと笑いが起こる。
とりあえずユクモ村に滞在するための条件はクリア。
今後ものんびりと自分の技量を高めることができる。

「まぁ村長の頼みなら仕方ないけどこれからは誘えよ」
「リーダーがいないと俺ら始まらないっしょ!」

とてつもない馬鹿ばっかの集団だが、それが何よりも愛おしい。

「よーし、明日はハチミツ採取に行こうと思うんだが一緒に行ってくれる奴募集!」

『・・・・・。』

「え、あれ・・・?」

Faltが咳払いを1つする。

「じゃ、皆の者。
村の脅威ジンオウガも倒したということで・・・
改めましてこれからのMHDの発展を願って、かんぱーい!」
『乾杯ー!!』
「え、ちょ、誰か行こうぜハチミツ採取・・・」

Nobutunaの隣においてある太刀がバチリと光った。

「・・・お前は行ってくれんのか。ありがとな」

薄く笑って、そっと太刀を撫でる。
蒼碧の鱗で作られたそれは闇の中淡く光っていた。

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