「お兄様、それとって」
「はいよ」
「はい、SIXおかわりどーぞ。
どうよ、久しぶりに作ったSEVENスペシャルは!!」

『最高。』

SEVEN一家、もしくはSEVEN王家、またはNUNBERSと呼んだ方がいいだろうか。
彼らは脊髄反射で生きている節があり、一緒に住んでいるとはいえお互い自由に暮らしていた。
全員共通してハンターの職にいるが、SEVEN以外は基本ソロプレイが中心で、MHDメンバーでも時々しか見かけない。
会話をするなんて稀である。

そして家族内であっても数日見かけないということもざらにあった。
かといって仲が悪いといえば、そうでもない。
お互いの意見を尊重した結果がこうなっただけだ。。
勿論有事には3人揃ってちゃんと対処もする。

そんな3人が珍しく朝食に顔をそろえた。

勿論食事当番なんて決まっていない。なんとなく料理の得意なSEVENが今日は全員分の食事を作ることになった。
作りたてのふわふわのパンケーキにSIXが朝農場から採ってきた蜂蜜をかける。
甘い香りが部屋を包む。
席に着き、3人は手を合わせた。

『いただきます。』

それからは無言でパンケーキをつつく。
3分の2ほどつついたところでSEVENは唐突に言った。

「ヤベェ!!美味すぎる。俺天才なんじゃないのっ!?このままレストランでも開くか!!」
「なら蜂蜜の巣箱も拡張しないとな」

SIXが最後の一切れを食べ終え、SEVENに答えた。

「お金余裕で足りないっしょ。しばらくアカムとウカムの往復ね」

器用にケーキを切り分け、口に運びながらFIVEも言った。

「俺熱いのヤダな」
「俺寒いの嫌だわ」

『・・・・・・。』

「あ、そういえば昨日洗濯物干したまま取り込んでなかったわ。ヤベェ」
「朝、霧出ていた気がする・・・確実に濡れてるね」
「うわっ、超最悪・・・」

『・・・・・・。』

「・・・行商人の半額日今日だっけ?」
「昨日生肉持ってきてたぜ。思わずまとめ買い」
「マジでっ!?買い損ねたわー最悪」

『・・・・・・。』

「・・・あ、そういえば・・・」

Ashあたりが一緒にいたら確実にブチ切れそうな会話である。
勿論3人の頭の中にレストラン云々という記憶はすでに残っていない。
今その時をその時の感情で生きているのだ。それがSEVEN家の人々。

「皆に重要なお知らせがある。」

SEVENは改めて、2人に向き直った。
次の言葉が発せられる前に3人のフォークが動く。
中央に積み上げてあったパンケーキの最後の一切れに、3つのフォークが刺さった。

「で、重要なお知らせって何?お兄様」
「FIVEまだ自分の皿に残ってんじゃん」
「足りませんー。FIVEはゆっくり朝食を食べたい派ですぅ」
「2人ともこれ俺が作ったんだけど。俺食べるべきじゃないかなぁ?そうじゃないかなぁ?」

仕方ないので3等分することにした。

「コホン、では改めて重要なお知らせ。
今日SEVEN王家の設立者、すなわち中の人の誕生日である!!」

おー、と2人は手を叩いた。

「よって、本日は3人でディアブロスを狩りに出かける!!
9時に集会場集合ね!遅刻厳禁。忘れものしても取りにいかない。
夕方から誕生パーティを開くから今日1日は絶対予定を作らないこと!!」
『はーい』

3人で出掛けるのだから集合場所を集会場にする必要はないのでは?という突込みをする者は誰もいない。

今日こうやって3人朝食に揃ったことも偶然ではなかったのだ。

++++

「はーい、番号」

9時。集会場。
3人はクエスト受注掲示板の前に集まった。

「FIVE」
「SIX」
「SEVEN。はい、みんないるねー」

ONEからいないので少し曖昧な感じになってしまうが気にしない。
勿論、突っ込む者もいない。

「えー、今日は先程言ったようにディアブロスを狩りに行きます。
どうせなんで、ディアブロス、ディアブロス亜種の2頭討伐クエストを受注しておきました。
えーと砂原の昼。これで必要となるものは?はい、FIVE」
「こやし玉です」
「はい正解〜。こやし玉の所持は狩りの基本!!
捕食された時、モンスターが合流した時投げると安全に狩りを遂行できることができます。
時にお守りとして活躍もするので要らないと思っても必ず持っていきましょう。
はい、他に。SIX」
「上質な黒巻き角です」
「はい、正解。
これはもうお守りの基本ですね。ディアブロスを狩ったという証拠!
もう常に携帯して自慢しましょう。
さて、他にも大タル爆弾G、戻り玉などなど。ちゃんとポーチに入ってる?
はい、確認して―。今確認してー。
なかったらそこのアイテムボックスでちゃんと補充してくること。
忘れて狩場で泣いても知らないからねー」

勿論突っ込みは(ry)

「はい、じゃ皆大丈夫なようなので、ネコタク待ってるから早速いくよー。
トイレは大丈夫だね。俺に続いてきてね〜。迷子にならないように」
『はーい』


「・・・クーラードリンクとか・・・音爆弾とか・・・
他に言うことあるだろ・・・」

3人の背を見送り、たまらず掲示板前にいたハンターは突っ込んだ。

++++

砂原。
草原とオアシスそして砂漠の3地形が同時に存在するフィールドである。
日中と夜間の温度差が激しく、過酷な環境で生きるモンスターは鱗が固く、そして特殊な生態を持っていることが多い。
今回クエストに選んだディアブロスもその1頭だ。
大きな胴体に長くて太い尻尾。頭には鋭い角。巨体を支える太い足は、その体に似合わない脚力を誇る。
その体から繰り出される突進や突き上げはどれも攻撃力は高く、油断をすれば簡単にキャンプ送りになってしまう。

太陽の光も強くなってきて、周囲の空気も乾燥してきた。
覆い茂っていた草も短くなり、ついにはまばらになってくる。
砂と赤土、岩が世界を作る砂原。

「つきましたニャ!」
「あんがと」

SEVENはアイル―に礼をいって別れた。
上位クエストにおける案内の適当さはどうなんだろうか。
たまにマップを短縮できて有難いこともあるのだが、どうせならキャンプまで連れて行ってくれればいいのに。
しかも3人ばらばらである。

SEVENは周囲を見渡した。
ディアブロスが良く出現する砂漠である。
数分の間に太陽の光で蒸され、汗が幾重にも垂れてきた。
クーラードリンクを飲み、SEVENは狩りの準備を整えた。
そして2本の腕を高く上げる。

「よっしゃ狩るぞー!!!」

大好きなディアブロスとなれば、やる気も普段の10倍だ。
SEVENは灼熱の砂漠を駆け出した。


しばらくしてデルクスとは違う砂の移動を見つけた。
SEVENは背負っている槍を手に持った。
気持ちが高揚しているのが分かる。わくわくが止まらない。
砂の移動が止まる。。
SEVENは槍と盾を構え、そしてそのまま走り出した。

砂の下から振動が徐々に大きくなる。構わずSEVENは突進を続けた。
丁度震源の中央に差し掛かると同時に、砂の中からディアブロスが地上に出てきた。
砂を被りながらSEVENはランスでディアブロスの足2本を突いて、止まる。
突然の攻撃にディアブロスが怯んだが、すぐにこちらを認識した。

音爆弾に匹敵すほどの咆哮。
思わず耳をふさいでしまう。
SEVENは笑った。こうでなければ面白くない。


砂漠の方角からディアブロスの咆哮が聞こえた。
FIVEとSIXが同時に顔を上げた。
どうやらSEVENが合流したようだ。

「チッ俺様が一番乗りしようと思っていたのに」
「・・・・。」

2人とも武器を担ぎ直して走り出した。
オイシイところを持って行かれるのだけは避けたい。
そして折角来たからには、思う存分楽しみたい。


大好きなモンスター相手とあって、SEVENの動きは軽快だ。
そして真っ向勝負で戦いたい。
ディアブロスの突進を左に避け、後ろを振り返る。
ディアブロスはもう一度狙いを定め、SEVENに向かって走り出す。

「よーし、勝負だ」

下半身に力を込める。重心を低くして盾を構えた。
使いこまれたそれは、多くのモンスターの攻撃をうけて、いろんな傷がついていた。
何よりも信頼できる、自分の相棒。

ガキンという衝突音と共にディアブロスの突進が止まる。

「・・・っ」

勢いと砂で少し後退したが、ディアブロスの突進は止められている。
ぎちぎちと、SEVENの盾が震える。
力と力の勝負。
いつもは高い位置にある顔が目の前にある。
こちらを睨むディアブロスと目があった

「喰らえ、氷結弾!」

ディアブロスの頭に氷が弾けた。
その弾は休むこと知らず、とめどなくディアブロスを襲う。
たまらず仰け反るディアブロスの頭に爆発が起きた。

大きな角が1本折れる。

「よっしゃ角いただき!」
「今のは私っしょ」

背後から聞こえた声にSEVENが叫んだ。

「・・・ちょっ、俺の角になにしてくれてんのーっ!?」

ボウガンを構えた2人が新しい弾をリロードしている。

「じゃ、もう一本は俺のだ」
「いや俺のだね!」

やっと到着した2人にほっとしながら、痺れた腕を振って槍と盾を持ち直す。
どうやら怒りを勝ってしまったらしい。砂漠全体に響く咆哮。
咆哮の余韻が消え、ディアブロスは3人を睨みつけた。


「突進系スタンランサーの実力見せつけてやるわ!
SEVEN三大奥義、SEVENトリニティアターック!!」

突進したSEVENはこちらを向いたディアブロスの頭に槍を叩きこむ。
スタンスキル宿した槍は頭に攻撃をすれば眩暈を起こすことができる。
それに気づいたFIVEは、ボウガンの弾を入れ替えた。

「そういう勝負か!!」

スコープを覗いて慎重に頭を狙う。
身に纏うは上品な漆黒のブナハ。綺麗な長い金髪、白い肌。西洋の人形を思わせる綺麗な容姿。
しかし手に持つのは轟竜素材を用い、攻撃力のみを重視した轟弩。
大きな反動と共に繰り出されたのは徹甲榴弾。しかも速射。
ブレも計算され、カーブを描いて飛んで行った弾2つはディアブロスの頭に直撃し、大きな爆発を引き起こした。

「うわっ、熱うぅぅぅ!!ちょっとFIVEー!!
その弾人が近くにいるときは使用しないでくださいって説明書に書いてあったでしょーっ!?
そこ大事!超読んどいてー!!」

ディアブロスの側にいたSEVENが爆発に巻き込まれ悲鳴を上げる。

「そういう勝負なら俺も!」

ヘビィボウガンを畳んで、SIXはディアブロス向かって走っていった。

「おらぁ!!」

そのまま背中にあるヘビィボウガンで、ディアブロスを直接殴る。
・・・が、元々そのような用途で使う武器ではないため、与えるダメージは極僅か。
蹴るのとどちらが効果的であろうか。
突然の軽い攻撃にディアブロスもSIXを一瞬真顔で見つめた。
その眼は『何か用?』と語っている。

「・・・え、いや別に・・・」
「SIX来るぞー!!」
「・・・あ??」

視線の先で盾を構えたSEVENの声にSIXが我に返る。
ディアブロスはまだ攻撃態勢に入っていないが・・・。

嫌な予感がして、SIXは咄嗟にヘビィボウガンについているシールドを展開した。
2つの弾がディアブロスに当たった。一拍おいて激しい爆発を起こす。

「うおっ!!
FIVEテメェ、徹甲榴弾は人が近くにいるときは使用しないでくださいって説明書に書いてあっただろ!!
まじふざけんな巻き込まれたどうすんだバカッ。ガンナーの紙装備なめんなボケ!
ヘビィボウガンのリスクの高さ異常すぎんだぞ!」
「ドM乙」

ディアブロスの攻撃は一撃一撃が重いのでハメられたらすぐにキャンプ行きだ。
ヘビィボウガンはフットワークも重くなるので立ち回りは他の武器より慎重にならなければいけない。
たまらず仰け反ったディアブロスをみて、次はSEVENが悲鳴を上げた。

「いやぁぁああ!!!角もう一本折れちゃったぁぁあああ!!
大切にとっておいたのにぃぃぃ!!
ちょっとFIVE自重してよぉぉぉ!!俺の分とっておいてよぉぉぉ!!」
「折ったもん勝ちっしょ!」

もう一発徹甲榴弾をお見舞いする。
爆発と共にディアブロスは目を回した。

「ぎゃぁぁああああ!!眩暈起こしてるぅぅぅ!!
俺がコツコツ溜めてきたスタン値いぃぃぃぃぃぃ!!!!」

SEVEN涙目である。

「・・・阿呆らし・・・」

SIXは騒ぐのも飽きて大人しくボウガンを展開してしゃがみ撃ちに移行した。
そろそろ疲れたし、熱いし、さっさと倒して家で寝たい。


怒ったディアブロスは地中に潜った。
砂の動きをみながら三人は慎重に立ち位置を考える。
特にガンナーは突き上げにあたれば軽く致命傷だ。

ディアブロスが反対方向に移動したのを確認したFIVEは追いかけようと一歩踏み出した瞬間、足元で揺れを感じた。
FIVEは目を細めて、ボウガンをしまう。
そして、駆け出しタイミングを合わせて地面に飛び込んだ。
FIVEのいた地面が一瞬で隆起し、黒いディアブロスが下から飛び出てきた。

「きたぁぁあああ!!!待ってました!!」

SEVENのテンションがさらに上がる。

「やっとお嬢様のおでましか」

SIXも笑む。こうでなければ面白くない。
ここでこやし玉を使うのも手ではあるが、SEVEN家は真っ向勝負が基本だ。
合流したからといって、こやし玉で散らせるなんて無粋な真似はできる限りしたくない。
勿論、FIVEもSIXもそのような気は最初からないらしい。
新しい弾をリロードし新しい獲物に銃弾の嵐を浴びせる。
SEVENも槍を構えて走り出した。

「SEVEN王家究極奥義の1つ!!グランゾン・グランゾン!」

「散弾喰らえこのっ!」

「だが、角は譲らない」

++++

2頭同時に相手をしていたため、少してこずったがなんとか日が沈む前に討伐を完了することができた。

「あー、疲れた。こりゃ家帰ったら真っ暗だな」
「うぅ、俺の角・・・」
「上質なねじれた角、上質な黒巻き角有難くいただきました」

遊び疲れて、揃って3人でこんがり肉をかじる。
日中の灼熱の暑さは峠を越し、冷たい風が火照った頬を優しく撫でる。
今から極寒の夜が訪れる。砂漠の気温変動は忙しい。

「さて、帰りますか。
今日のためにケーキ用意したんだよね♪」
「まじでっ!?よっしゃー!さっさと帰ろうぜ」

歩き出すSEVENとSIXを追おうとFIVEが立ち上がった。
瞬間、聞きなれた声が微かに聞こえた気がした。
思わず振り返る。
昼間とは変わらない砂漠。

「・・・・?」

まさか。
ここは砂原。
似ているけど、少し違う地。

「どったのFIVE?忘れ物?」

中々ついてこないFIVEをSEVENが呼んだ。

「・・・うん、気のせいか」
「・・・どったの?」

もう一度風に乗って、咆哮が聞こえた気がした。
SEVENが目を見開く。

この咆哮は。

この俺が聞き間違えるはずがない。


「・・・SEVEN?」

急に真面目な表情を見せたSEVENにSIXが顔をしかめた。

「・・・ここに、いるのか?」

SEVENはそのまま走り出した。

「な、おい帰るんじゃないのかよっ!?
パーティするんだろっ!?
もう一体なんなんだよっ」

FIVEも信じられない顔で立ち尽くしていた。

「・・・おい、何があったんだよFIVE」
「・・・いる」
「は?」
「聞こえたの。マ王の咆哮が」

その言葉にSIXも目を見開いた。

「マ王っ!?だってここは砂漠じゃねぇぞ。
あの地から大分離れてるし・・・ディアブロスが大移動するなんて聞いたことがない。
そんな報告もギルドにもなかったぜ?」

最大金冠サイズの片角のディアブロス。通称ディアソルテ。
発見されたら即緊急クエストとして張り出されるだろう。

「・・・でも、間違い・・・なのかもしれないけど、確かに聞こえたもん」

SIXはため息を吐いた。
ディアソルテなんて滅多にお目にかかれるものではない。
ユクモに来てからマ王レベルの強いモンスターに出会ったこともなかったし、正直狩りに行きたい。
しかしわりと自由なハンター職でも、規則というものはちゃんと存在している。

「でもさ、俺らディアブロス2頭討伐してんだぜ?
ギルドの決まりで乱入討伐していいのは大型モンスター1頭の狩猟のみ。
しかも遊びまくって手持ちのアイテムも少ないし、マ王相手に今の状態で行くには危険すぎるだろ」

SEVENはもう行ってしまったけど。
回復薬も半分以下になっている。ディアブロス2頭だと思っていたので調合分は勿論持ってきていない。
しかも今から砂漠の気温は徐々に下がっていく。
手持ちにホットドリンクがないのは大きな痛手だ。

「・・・もしかしたら乱入扱いになってるかも。
今の時間だったらホットドリンク入れてあるかもしれないし・・・。
私キャンプに戻って支給品取ってくるわ。
SIXはSEVENを追って」
「了解。できれば通常弾レベル2とかあると嬉しいんだけど」
「それは私のもの」

基本脊髄反射で行動する3人だが、場はわきまえる。

ポッケ村にいた頃、最強と呼ばれたディアブロスが存在した。
片角のディアブロス、通称ディアソルテ。
マ王と呼ばれたそいつは名の通り多くのハンター達を葬ってきた。
ディアブロス好きの3人がマ王に魅入られないわけがなく、何度も返り討ちに合いながらも共に戦ってきた。
今日この日に現れたのは、何かの偶然か、それとも必然か。

「SIX、ペイントボールつけてね。アイテム持ったらすぐに駆けつけるから」
「流石にマ王相手に今更遊ぼうとは思わねぇよ。SEVENの奴は分からんが。
音爆、閃光、痺れ罠、持てるもん全てもってこい」
「分かってる」

FIVEはアイテムポーチから戻り玉を取り出した。
緑の煙に包まれてFIVEが消えたのを確認してから、SIXはSEVENの走って行く方向へ走り出した。
家のベッドは遥か遠いようだ。

++++

キャンプに降り立ったFIVEはアイテムボックスを開く。元々の支給品と新しく入った支給品で箱がいっぱいになっている。
支給品でアイテムポーチを埋めるがなんとなく頼りない。
回復薬グレートがあればもっと心強いのだが。
後ろを振り返ったFIVEの目に一狩り終えた2人ががネコタクを待っているのが目に移った。
FIVEの辞書に迷いという言葉は存在しなかった。


「手を上げなさい」

まだ下位のあどけない装備を身に付けたハンターに容赦なくライトボウガンを突きつけた。

「・・・え・・・えぇぇっ!?」
「な、なんなんですかあんたは!?」

キャンプで強盗まがいに合うとは思わなかった。しかもブナハを着た美人の女の子に。
いくら女とはいえ、身に纏っている物が上位のものだと分かると新米ハンター2人は震えあがって手を挙げた。
レックスタンクなんて店でしか見たことない。しかも上位レベルまで強化してあるということは相当の手練れだ。

「狩りが終わったのなら、回復薬グレートとこんがり肉。
・・・いやもう何でもいいから使えるものよこしなさい。ボウガンの弾でも調合素材でもなんでもいいわ」

無茶苦茶だ。
しかし完全に目の座っているFIVEに、禍々しく光る轟弩【戦虎】。
その迫力と恐ろしさは目の前にティガレックスがいるかのようだ。
新米ハンターはすぐさま自分のポーチをあさり、回復薬やシビレ罠、閃光玉など出し始めた。

「これで勘弁してください!」

十分すぎるアイテムを並べて2人はFIVEに土下座した。

「ありがと」

FIVEは遠慮なくその中から持てるもの、使える物を選別してポーチに入れる。
こんなことならSIXも連れてこればよかったと思ったが、SEVENを1人にするわけにもいかない。
アイテムポーチを膨らませFIVEは立ち上がった。

「・・・そうだ」

持ち帰ってきた大きな角を2つ新米ハンターの前に置いた。

「お礼にこれあげる。
売ればもらったアイテムくらいにはなるっしょ」
「・・・これって・・・」

上位ディアブロスの角を破壊しなければ手に入らない上質なねじれた角と黒巻き角。
この少女はディアブロス2頭と討伐してきたというのか。

「いや、いけませんこんなものをもらうなんて・・・」
「それにせっかく剥ぎ取ったのに・・・」
「いいよ、家にいっぱいあるし」

・・・どんな家だ!?
突っ込みたかったが、彼女の狩りスキルの高さが伺える。
轟弩を持つ腕も偽物じゃない。

「でも・・・」
「なら、それが自分で剥ぎ取れるようになったら返しに来て」

FIVEは立ち上がった。

「今、マ王と呼ばれる最大金冠サイズの片角のディアブロスが砂漠に出現したの。お兄様達が戦ってる。」

言葉にして気持ちが焦った。
早く助けに行かなくては。

「アイテムありがと。」

そういってFIVEはキャンプの後ろの穴に飛び込んだ。

『・・・かっこいい』

謎の金髪の美少女は彼らの目標となり、後に彼らがディアブロスブレイカーとして名を馳せることになるのは数年後の話。

++++

耳をつんざく咆哮が砂漠に響き渡る。
その異質さに大型モンスターの近くをうろつくデルクスも遠くに散った。

隣のエリアについたSEVENは夕日を浴びて咆哮するディアブロスに息を忘れた。
全ての意識がディアブロスに持っていかれる。
強走薬を飲んだような昂揚感が全身を包む。
全ての喜びが、今のこの瞬間に凝縮されるような、そんな強い幸福感。
嬉しすぎて、武者震いがした。
ユクモに来てから数ヶ月。
出会った新しいモンスターを狩るのも楽しかったが、なんとなく物足りなさが心の隅に残っていた。

そう、やはり俺にはお前でないと。

ディアブロスの最大の特徴であり、武器である2本の角は1本しかない。
それは自らの弱さを示すものではなく、むしろ強さを誇示しているかのよう。
その巨体が繰り出す強撃のハンデとさえ思える。

マ王。

人は畏怖を以てそのディアブロスをそう呼んだ。


「おぉぉぉぉおおおおお!!!」


叫びと共にSEVENは槍を構えて駆け出した。



日も落ち、砂漠に冷たい夜がやってきた。
月の光に照らされて、砂は氷のように白い。

「・・・うそ、本当に・・・」

砂漠をひたすら駆け抜けてFIVEが隣のエリアの入り口で立ち止まる。
最大金冠をゆうに越すディアブロスが砂漠で暴れている。
その周囲にいるSIXとSEVENの小ささと言ったら。先程のディアブロスが子供にみえる。
2人の傷の具合を遠目から確認し、FIVEはまず生命の粉塵の封をといた。
体が軽くなるような感覚に、SIXがFIVEの来訪を知る。

「おせぇよ」
「うるさい」

とりあえずホットドリンク、携帯食料、応急薬をSIXに渡した。

「おぉ、ありがてぇ・・・」
「・・・お兄様にも渡せたらいいんだけど・・・」

巨大なディアブロスに張り付くように戦うSEVENを見る。
SIXはホットドリンクと携帯食料を食べた。

「今はやめとけ。
・・・俺も通常弾しか撃てない」
「・・・・。」
「今恐ろしく集中している。だからこそ、マ王とタイマンはれてんだ。
下手に邪魔して集中力を切らしたら、俺ら全滅だ」

滅多に見れないSEVENの真剣な顔。真剣な狩り。
ディアブロスを愛しているからこそ、マ王に特別な思いを抱いているからこそ、寒さを疲労を忘れて戦い続けることができている。

「・・だからといって手を出さないわけにはいかないでしょう」

こんなことなら粉塵調合分もってくればよかった。
仕方なく、FIVEは通常弾レベル1を装填した。
自分も遊びたかったが、死にたくはない。
本気で遊ぶのなら、装備とアイテムをガチでそろえてくるべきだ。
しかし、久しぶりに本気なSEVENの邪魔をしたくないのも本音だ。

「閃光玉も痺れ罠もある。
・・・危なくなったら何言われても使う」
「そこまで俺も止めねぇよ」

そして2人は2方向に散った。


突進を盾で受け止め、横に受け流す。股下に潜り込み、腹に槍を突き立てる。
頭にも何度も攻撃をしているが、それが本当に効いているのか不安にもなる。
しかしどれだけやっても変わりのないディアブロスにSEVENもはむしろ興奮した。
永遠とこの戦いが続くのかもしれない。
楽しすぎて死にそうだ。
槍の切れ味は落ちてきているが、それでもかまわず頭に叩きつける。
ディアブロスと目が合う。
憤怒を宿した瞳がこちらを見つめている。
ゾクゾクっと背中に鳥肌がたった。

「・・・ヤベェ、すっげぇ楽しい」

本当にこの時間が永遠続くことを願う。
暑さも、寒さも、疲労も、何もかも忘れてこの最強のディアブロスと戦い続けていられたら!

しかし、人の体にも限界はある。
突進を受け止めきれず、SEVENの体は宙に投げ出された。

『SEVEN!』

FIVEがディアブロスに向けて閃光玉を投げた。
同時にSIXが生命の粉塵の封を開ける。
閃光をもろに受けたディアブロスは大きく仰け反った。
粉塵の効果もあり、SEVENは地面に落ちた衝撃くらいで、体に残ったダメージはほんの少しだった。
気づけばFIVEがこちらに向かって走ってきている。
起き上がろうとして、起き上がれないほど疲労している自分に気づく。

気づけば周囲は真っ暗だ。空に見える星が綺麗なくらい。
頬も槍を持つ手も冷たく凍えきっていた。砂漠の冷たさに一瞬で体が冷えた。

「SEVENこれ」
「・・・あ、ありがと・・・」

ホットドリンクとこんがり肉Gそして回復薬グレートがポーチが満たされるほど。
逆にFIVEの分がなくなるのではないかと心配した。

「よくこんなにあったね」
「支給品からもらってきた。私たちは応急薬あるからSEVENはこれを使って」
「・・・でも、」
「SEVENが一番危険。粉塵も数に限りがある。そろそろ回復は自己責任でいきたいくらいよ」
「自己責任エンドきたー!」
「・・・あと、これ」

ランサーや弓使いにはお馴染みの黄色い瓶。

「ホットドリンクがきれたら使って。
・・・でも使うからには、その効果が切れた時マ王がどういう状態であれ撤退よ」

FIVEの強い瞳にSEVENは頷くしかなかった。
自分はもっと遊びたいのだが、心配する方の気持ちも分かっているつもりだ。
我ながら大人になったな、とSEVENは思う。
閃光玉の効果が切れる前に、SEVENは槍を研いだ。
なんだかんだお互い自由にやっているが、いざという時まとまることができる。心配することができる。

いやいや、我ながら良い仲間を持ったものだ。


閃光が解けたと同時に咆哮が響き渡る。ディアブロスが怒りを露わにした。
研ぎたての槍を構えてSEVENが笑った。

「よーしまだまだ遊べるぞー!!」


蓄積した疲労は徐々に体をむしばんでいく。
怒るたびに攻撃力が増すディアブロスに対して、こちらは回避徹することが多くなった。
それもそうだ、朝からディアブロス相手にずっと戦ってきているのだ。
なんとか、携帯食料と回復薬で誤魔化すが、それも厳しくなってきた。

それでもマ王にも疲労が見え始め、こちらの攻撃が効いていることが分かる。


「相変わらずかってぇ角だな。まだ折れりゃしねぇ」

かなり長い時間戦い、角を狙って攻撃するも部位破壊には至らない。
折れた片方の角はどうやって折れたのか、ここまで来るととても気になる。


立つだけで足が震える頃、SEVENは槍に掴まり立ち上がった。
考えたくないけど、そろそろ体が限界だ。
ディアブロスはこちらに向けて突進の体制をとっている。
その真っ直ぐな視線から逃げたくなかった。
SEVENも槍と盾を構える。

「そういう勝負か」

ひとりごちて、脇を締める。
槍の先は突進のため、いつもより下げた位置にあるディアブロスの頭。

「・・・・くらえっ!!SEVEN王家三大奥義のひとつ!!」

体の悲鳴を無視して地面を蹴る。

『トリニティアターック!!』


『SEVENっ!?』

かなりダメージを追っている今相打ち覚悟で捨て身の攻撃など最悪死を覚悟しなければいけない。
想定の範囲外の行動に出たSEVENに2人は対処しきれなかった。
手持ちの粉塵はすでに使い切っている。ディアブロスを怯ませようにも強い弾を装填し直している暇はない。

鈍い衝突音のあとSEVENが大きく宙に吹き飛ばされた。
それと同時にディアブロスも大きく仰け反った。

「あのやろう・・・・」

秘薬を手にSIXが走り出す。FIVEが徹甲榴弾を装填し直し、ディアブロスの頭に照準をあてる。

「・・・あ。」

FIVEが引き金を引こうとした瞬間、ボフンッとディアブロス周辺に茶色い煙と忘れられない独特の臭気が立ち込めた。


「なにやってるにゃー!!!」
「クエスト終わっても中々戻ってこにゃいと思ったら!!
規則違反だにゃ!!」

ネコタクガイドのアイル―がこやし玉を投げたらしい。
しばらく臭気に苦しんだ後、ディアブロスはたまらず逃げ出した。

「えっ・・・なっ・・・ちょっと・・・待って!!
嘘でしょーっ!?」

間一髪根性で生き残り、秘薬で回復したSEVENが悲鳴を上げる。
SIXはほっとして地面に寝ころがった。
FIVEもその場でしゃがみこむ。
安心したら疲労がどっと押し寄せてきた。もうこのまま眠りたい気分だ。

「もーなにしてくれちゃってんのっ!?俺のマ王ー!!」
「にゃにしてくれちゃってんのは、こっちの台詞にゃ!!
規則守ってくれないと僕たちが怒られるにゃ!!」
「もーなんでもいいからさっさとユクモまで送ってくれ。
俺もう帰って寝たい」
「にゃっ・・・規則を破ってこの開き直り方・・・・。にゃんて奴だにゃ。」
「いや別に、マ王狩りたかったのSEVENだけだし。俺ただの付添いだし」
「とにかく!連帯責任だにゃ。
このことはギルドマネージャーに報告するにゃ。処分を待つことだにゃ!!

『・・・・・げ。』

ユクモでも様々な功績を残し、村の貢献もしているから精々自宅謹慎程度であろう。
しかし、謹慎といっても大体ソロのFIVEとSIXに比べ、MHDの仲間たちと狩りに行っているSEVENにはだいぶ大きな痛手となる。
毎日奴らの楽しそうな報告を厭味ったらしく聞かされる生活を思うとゾっとした。
村長こっそり狩り行かせてくれないかなぁ。
早速破る方向で調整しているSEVENであった。

「お兄様、これ」
「おぉ、センキュー!」

FIVEがSEVENに大きなディアブロスの素材を手渡す。
それは、最後にSEVENが突進したとき壊れたディアブロスの片角であった。

「私が見たとき折れていた」
「マジでっ!?
マ王の角とかスゲェ価値なんだけど!!よっしゃすごくいい誕生日プレゼントになったこれ。
あ、ねぇねぇ、聞いてよ!
今日俺誕生日なんだ!!だからギルドマネージャーにチクんのやめてくんない?
後でマタタビあげるから」
「駄目なもんはだめだにゃ!」
「なんなら魚とかもあげるし」
「だ、駄目だにゃ。規則だにゃ」
「あ、俺んとこ最近定置網上げてないし、大量に魚いるんじゃなかったかなー」
「・・・・そんなこといっても知らないにゃ」
「今日の朝半額だったからマタタビ間違えて99個買ったんだけど・・・」
『・・・・。』
「えーFIVEそれ超勿体なーい!いらないの?売っちゃうの?」
『・・・・。』
「使い道ないから売ろうかなーと思って」
『・・・・。』
「誰かにあげた方がいいんじゃね?」
『・・・・。』
「そうかな?誰か欲しい人いないかなー。
・・・・いないかなー。」
『・・・‥‥‥‥‥。』

3人はちらりと2匹のアイル―を見た。
滝汗を流しながらその状態に耐えているのが分かる。
FIVEが魅惑の表情でアイル―に迫った。

「ねぇ、マタタビたくさん余ってるの?
貰ってくれない?」
「・・・し、・・・仕方がないにゃねぇ」
「余ってるにゃら・・・ねぇ?」

買 収 成 功 。

へーい★と3人はハイタッチする。

「ニャッ!!この反省のかけらも見られない感じ!!」
「・・・別にいいんだけど。マタタビいらないなら」
『ごめんにゃさい!』

いつの間にか立場が逆転していた。なんでだろう。

++++

「見てみてー!!新しいお守りー!!」

次の日集会場に現れたSEVENは意気揚々とMHDメンバーの中心に突進していく。

「なんだよSEVEN、ついにドスこやし玉でも完成させたか?」

笑いの中心でSEVENは昨日手に入れたディアブロスの角を掲げた。

「マ王の片角!最高すぎるっしょ!」

そういえば以前、黒巻き角をもってきていたが・・・。マ王というのならと、メンバーが近寄る。
いろんなモンスターと戦い傷つき、かけては再生を繰り返した角は、他のディアブロスの角に比べて、いびつな形をしている。
かといって、マ王の角を間近で拝見したことのないメンバーはそれが本物であるか判断が付きにくかった。
というかSEVENにしては地味で、普通すぎるお守りである。

「ていうかマ王この辺にいないだろ」

Ashが的確な突込みをする。
SEVENは最高の笑顔で答えた。

「ディアブロスを愛するものにしか見えないからねぇ、Ash君」
「いってろ。リオレウスこそ至高」

喧嘩する2人の隣でBillyがじっと角を眺めた。
そして無言でSEVENに返す。

「・・・何頭狩ればマ王に出会えるかな」

ボソリと呟かれた言葉に2人の動きは止まった。
かつて、ゲリョスブレイカーという異名で呼ばれ、挙句の果てにはキリンを絶滅の危機まで追い込んだと噂されたBillyの発言である。
しかも相変わらずの真顔で本気か冗談か受け取りにくい。
本人からすれば、大体は冗談なのだけれど。

「やめてー!!ディアブロス絶滅しちゃうー!!
数じゃないの!!心なの!!」

「うるせーぞ、BASー。とっととクエスト行って来い」

nobutunaに剣の柄で頭を叩かれ、同じようにjackとFaltも小突いていく。
昨日とは違うけれど、今日も変わらない朝が来た。

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