手放さなければいけないのなら、いっそいらないと
見ない振りをして、似たようなものもあったけれど、自分はそれが一番大好きで
それでなければ嫌だから全てを捨てた。
全てを変えた。なかったことにした。

それとは全く違う音を立て、モンスターの鱗を剥ぎ、反動に耐えながら弾を繰り出し、無機質な轟音をかき鳴らして爆発を起こす。
美しさの欠片も見せず、似ても似つかない、強さを求めて作られた武器。
それはそれで好きであったけれど・・・。

慣れない生活と騒がしい日常でそれはいつしか自分の奥の深いところに沈んでいった。

++++

「・・・決めるぜっ、属性解放突き!!」
「いきます!フルッ、バースト!!」

叫びと共に爆音が響く。
遅れて悲痛なジンオウガの悲鳴が周囲に響いた。そのまま巨体は地に沈んで動かなくなる。
討伐したことを確認し、4人は武器を下した。

「やったーい!」
「お疲れ様でしたー」
「ハイエナーイス!」

深夜の渓流に一際賑やかな声が沸く。
各自倒したばかりのモンスターに群がり剥ぎ取りを始めた。

「いやー、しかし久しぶりにでかい獲物ですね」

自分の背の倍くらいはあるジンオウガを仰ぎながらSkyがいった。
Nobutunaが剥ぎ取りから起き上がりながら言う。

「こりゃ金冠確定だな。
こんな奴がまだ渓流にいたとは・・・」

狩りの後の一服と早速煙管をだし火をともす。
ジンオウガも倒れて暗くなった渓流に赤い点が灯る。
遅れて起き上がったRikuとAshも金冠サイズのジンオウガを改めて眺めて感心する。
中々これほどのものには出会えない。

「しかし派手にやったねぇ・・・重火器2人いると・・・」
「テメェも重火器だろ」
「まぁそうだけど俺パーティプレイでは通常弾しか持たない主義だし?」
「さっきの流れ弾は散弾に見えたのだが気のせいだろうか」
「気のせい気のせい」

雑談を始める仲間達にNobutunaは撤収を掛ける。

「まぁ大した怪我もなく終了して良かったな。
Ashの解放突きとSkyのフルバーストに挟まれた時は死ぬかと思ったけど」
「え、そんなことありましたっけ?」
「Nobutunaがジンオウガの懐にいるのが悪いんだろ?」

全く悪びれる様子もない2人にNobutunaは物凄い理不尽さを感じた。
隣を見てもRiku。うん、援護射撃は全く期待できない。
仕方なく今回は許した。うん、今回だけだ。

ベースキャンプに向かって歩く4人の耳にけたたましい警報音が聞こえた。

「・・・乱入か・・・」

Nobutunaが目元をきつくした。

「・・・渓流が騒いでいる・・・何か、大きな何かが・・・くるっ」
「どうすんの?余力はあるけど・・・帰るでしょう?」

空を見上げ目を細めるAshをスルーしてRikuが言う。
完全に帰る気満々のようだ。Nobutunaもそのつもりでいた。

「無理に狩る必要なんてありませんしねー、帰り・・・」

SkyもRikuの意見に賛同する。
どこか遠くでモンスターの鳴き声が聞こえた。
既にモンスターはこの近くに出現しているらしい。

「そうだな。鉢合わせる前に撤収するぞ」
「はーい」

Ashも始めから狩る気ははなかったらしくそのままNobutunaの後に続く。
しかし歩みを進めないメンバーにNobutunaは声を変えた。

「・・・Sky?」

空を見上げ固まったままのSky。
Nobutunaの声ではっと我に返る。

「あ、はい、すいません」
「どうした?帰るぞ」
「・・・あー・・・あの〜」
「・・・・?」

急に歯切れが悪くなったSkyにNobutunaは首を傾げた。
AshとRikuも足を止めて振り返る。

「ちょっと乱入モンスターが気になったので見てきます。
皆さんは先に行っててください。
モンスターちらっと確認したらすぐに戻りますんで!」

早口に言って、Skyはそのまま渓流の奥に駆け出した。

「は?え・・・ちょっと、おい!」

理由を聞く間もなく、Skyの姿は闇の中に消えていった。
これがSEVENやBillyの言うことならばすぐに止めていたのだが、まさかのSkyだ。
後輩という立場からか自分達と一線引いて関わる彼はメンバーの中で誰よりも大人だ。
危険な賭けに出るような行動はせず、引くときは引き、暴走もせず(クエスト中では)、判断力もある。

そんな彼が急に単独で乱入クエストに挑むとは考えにくい。
彼の言う通り、本当に見て戻ってくるだけだとは思う。が。
Nobutunaは他の2人の顔をみた。
2人ともNobutunaと同じく首を傾げている。

・・・Skyらしくない。

「急にどうしたんですかねぇ?」
「Skyにしちゃ珍しくやる気だな」
「Skyに限って阿呆なことするとは思えないけど・・・」

ここで自分達だけ戻るのはなんとなく気が引ける。

「どうする?追う?」
「・・・仕方ねぇか」

3人は反対方向に歩き出した。
しかし歩調はゆっくりで。
Skyに限って早々戦闘になるということはないだろう。モンスターの威嚇も聞こえない。

暗闇に慣れた視界に月の光が作った道を上流に歩いていく。

++++

はぁ、はぁ、はぁ

自分の息遣いが頭の中で響いている。
身体が悲鳴をあげているが無視して走った。
休んでいるガーグァを起こしたのも無視して走り抜ける。
背中のガンランスが煩わしい。ついでにいうと装備も重い。
いっそその辺に捨てて行こうかとも考えたがモンスターの近くに行く手前それは危険行為に思えた。
心臓が早く鳴っているのは走っているだけではないだろう。
自分は今、とても動揺している。

ユクモ村に来てから半年とちょっと。
それがもう随分と昔のように思えた。

鳴き声一つが鮮やかにその音色を思い出させる。
一瞬にして虜にされた出会い。
金色に輝く狩猟笛を手にしたその時。
その鳴き声を再現しようと何度も何度も吹き続けた毎日。
どうせならと他の狩猟笛も手にとって見たがしっくりこなくて結局その笛をずっと使い続けた。
いつまで聞いても飽きない音色。
『ルナ・リコーダー使い』と名乗るようになったのはいつからだろうか。
これだけは誰にも負ける気がしなかった。
愛して、愛して・・・それを手放さなければいけなくなった時、どれほどの辛さが自分に襲い掛かったか。
淡泊な自分がこれほどまでに執着できた、多分、人生で最初で最後のもの。

記憶の奥深くに沈んでいた、無理矢理忘れた記憶。

浅い川を濡れるのも構わず走り抜ける。
大きな滝をそのまま通過する。
その奥に広がる飛竜の巣。

上から大きく空いた穴から満月の光が差し込んでいた。
Skyはそこで足を止めた。
大きく肩で息をする。

自分の聞き間違えでなければ・・・いや、自分が聞き間違えるはずがない。
あの、音を。
あの、旋律を・・・。

しばらくして上から羽音が聞こえた。
心臓がまた早鐘を打つ。
もう一度聞けるのか、あの声を、あの旋律を・・・。
金色の神々しい光が舞い降りるその場所に、
同じ金色で出来た鱗を纏った飛竜。

ゴールド・ルナ

金色の月輪の異名を持つモンスター。
Skyが一瞬にして虜になったその旋律を歌う竜。

リオレイア稀少種。


嗚呼、ずっとその旋律が聞きたかったんだ。

そのあまりにも神がかった光景に言葉も失い立ち尽くしていると、リオレイアはこちらに気が付いたようだ。
視線が合う。
滝を潜ったせいで、体は濡れていたけれど、喉は急速に乾いていった。

・・・あ、

大きな金色の翼が大きく動いた。

++++

「・・・で、結局なんだったんだろうな、Skyは」
「ただ乱入モンスターが気になっただけじゃなさそうだな。
この前乱入あった時、誰より先に帰ろうとしてたし・・・」

ざぶざぶと音を立てながら3人は渓流を歩く。
既に3人の中では狩猟は終わっており、周囲にモンスターがいるにも関わらず夜の散歩気分だ。
Skyに起こされたらしいガーグァがけたたましく鳴くのを無視してそのまま進む。

「あいつ、ゲスでも耳は良いからな。
腐っても笛使いだし。・・・そういやユクモに来てから笛吹いたとこみたことねぇな」
「俺、ガンランス使いですから!と声高々にいってたしな」

その時月が一瞬陰り、3人は空を見上げた。
月明かりに照らされて移るのは大きな飛竜の姿。
逆光でも月の光を浴びて輝くその色は・・・

「リオレイア希少種!」

しかもかなり大きい。金冠サイズのジンオウガを倒したあとにこれはキツい。
3人は少し歩みを速めた。

「どうやら巣に行くみたいだねぇ・・・」
「Skyは巣かっ!?」
「ガーグァが起きてることからして間違いなさそうだな。
・・・戦闘にならなければいいけど・・・」
「あいつが見たかったのは、リオレイアだったのか?」
「・・・そういえば、Skyの使ってた笛って・・・」

ルナ・リコーダー

リオレイアの素材を使い、最終的にリオレイア希少種の鳴き声を模した旋律を奏でる武器だ。
その武器は狩猟笛の中でも最高ランクの笛でありSkyが特に気に入っていた。
自分で『笛使い?いいえ、ルナ・リコーダー使いです!』と言ってたくらいだ。
愛着はあったのだろう。
ならば、Skyが急に駆け出して行った理由は・・・。

++++

忘れられない旋律が溢れ出す。

リオレイア希少種を目の前にSkyは唄った。
自分の愛した旋律を。
襲い掛かってくるとも分からないけれど、もう一度リオレイアの唄が聞きたかった。

もし貴方さえよければ、俺を魅了したあの唄をもう一度・・・

自分の声では表現しきれなかった。
そもそも音を出す媒体が違う。その唄には歌詞もない。
ただの人が聞けば、リオレイアの鳴き声にしか聞こえないであろう。
それでも、Skyは唄う。
こうすることでしか、自分の想いは届かない。

リオレイアがタンと宙に足をついた。
そして大きく息を吸う。
Skyはクッっと目を瞑った。
あぁ、駄目か。届かないのか。
戦闘体制になってしまえばあの唄は聞けない。

しかしリオレイアから出たのは穏やかな鳴き声だった。
それは強弱を付け、そして唄になる。

それは、遠い昔聞いた、自分を虜にした旋律。

「・・・・あ」

全身に立つ鳥肌。
少し震えた。
自然に涙が流れてくる。

嗚呼、自分は全然足りてなかった。
本当の旋律はこんなにも綺麗で、壮大で、力強く、儚い。
脳に保存できる機能があれば、この音を保存してずっと聞いていたい。
忘れるのが勿体ない。
永遠にこの時間が続けばいいのに・・・。

全てを唄い終り、リオレイアはすっと奥を見た。
そしてその大きな翼を羽ばたかせ宙に浮く。
そのまま来た穴を通り、巣を後にした。

「・・・・・・。」

Skyはしばらく呆然と立ち尽くしていた。
ジャギィの鳴き声で我に返る。
涙をぬぐい、体を奮い立たせた。

「・・・早く戻らないとNobutunaさん達待ってる・・・
・・・え・・・」

振り向くと少し離れた場所に3人が立っていた。
Skyは思わず視線を外した。
全然気づかなかった。いつからいたんだこの人達。
っていうか今の見られたとか凄い恥ずかしいんですけど、本当先戻ってろって言ったのにこの先輩たちはもー!!!
色んな感情が頭の中でぐるぐる回ったがとにかく一番の疑問を口にしてみた。

「・・・えっと・・・なんでいるんですか?」
「やー?俺らだけ帰るのも薄情な気がしてな。
お蔭でいいもん見させてもらったよ」
「リオレイア希少種の鳴き声を聞き分けるとは中々やるねぇSkyくん」
「・・・・もう、帰りましょう。
俺の用時は済みました」

周囲が暗くて良かった。
戻るころには顔は戻っているだろう。
この人達のせいで感慨に耽っている暇はなさそうだし。

「Skyも火竜好きとはなぁ・・・」
「俺が好きなのはリオレイア希少種の旋律だけです。
Ashさんの火属性馬鹿と一緒にしないでください!」
「・・・その限定された拘り、かっこよすぎて嫉妬」
「・・・いやだから俺まで厨二の仲間入りさせないでください!違いますから!」

騒ぎ出す2人にNobutunaとRikuは苦笑した。

「フルバースト叫んでる時点で厨二だと思うがな」
「Nobutunaに同意」

滝を潜り、ジャギィの巣からキャンプへ戻る。

「・・・Skyも意外に熱いところあるね。何だかんだで冷めた子だと思ってたわ」
「Rikuがそれをいうかねぇ」
「俺はいつも冷静ですよ、はぁい」
「・・・うーん・・・否定はしないけどなぁ(・´へ`・)」
「え、何その顔。ムカつくからやめて。」


今日もどこかで旋律が響く。

金色に輝く月をみてSkyはぼんやりと思う。
あの旋律を聞く為に俺はハンターを一生続けるのかもしれない。

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