今日の狩りを終えて、農場でささやかな素材を採取した4人は家に向かって帰宅するところであった。
農場を出たところで、管理人から声をかけられた。
彼はユクモポイントで農場を拡張したり、オトモの強化施設を拡張したり、家に雑誌を届けてくれたりと陰でハンター生活を支えている地味に重要な人物だ。
「こんにちは、今日の狩りいかがでしたか?」
「まぁ、可もなし不可もなしってところね」
Carryが答える。
そうですか、と笑顔で答え、背中のリュックから雑誌を一つ取り出した。
「月刊狩りの友編集部から新しい女性ハンター用の雑誌が作られたんですよ。
これ試作品なんですが、販売前に意見を聞いてみたいと言われ貰ってきました。
宜しかったら読んで意見をくださいませんか?」
表紙には有名な女性ハンターモデルが、ブナハ装備で微笑んでいる。
『一足先に夏モデル解禁!次の流行を学べ』
『できるハンターは装備が違う!オシャレとスキルを極めた防具屋オススメ装備』
『人気モデルが2人が対決!少ない装備で1ヶ月オシャレ着回し術』
『ネコバァお願い!恋の悩み相談室』
などなど興味をひかれる話題が表紙にずらりと書いてある。
「なにこれー!面白そう!!」
早速Lamiaが中身を確かめる。
「へぇ、悪くないわね」
「このピアス可愛い〜」
3人はすでに興味深々だ。
Tharrosは一歩引いたところで表紙を眺めていた。
『気になる彼と狩りをするたび急接近っ!?オススメ狩場スポット』
「・・・・。」
・・・別に、気になってなんかないし。
反射的にTharrosは顔をそむけた。
はしゃぐ3人を農場管理人は微笑ましい顔で眺めていた。
「では、また感想くださいね〜」
++++
その足で4人はSakura宅で雑誌を見ることにした。
軽く眺めるだけが、4人は1ページ1ページ真剣に読んでいた。
「・・・なんか、読めば読むほど深いというか・・・」
「たかがオシャレ雑誌と侮っていたけど、・・・このスキル解説がガチすぎてヤバい」
「武器の扱い方から、モンスター攻略法まで書いてあるし・・・
え、これ誰向け?」
普通にハンターとしても学べることが多い。
恐るべし、月刊狩りの友編集部。いつもはよく分からないインタビューとか載せてるわりに仕事をする。
というかクオリティこっちに割いているのではなかろうか。
下から良い匂いが部屋まで漂ってきた。
Sakuraが起き上がる。
「あ、そうそうAquaがクッキー焼いてくれてたんだ。
今お茶と一緒にもってくるね!」
「きゃーステキAqua姉さま!私も手伝うわ!味見とか」
「ちょっと、Lamia全部食べないでよねー」
LamiaもSakuraに続いて部屋を出た。
Carryが苦笑して本に目を戻した。
先程から無言で雑誌を眺めているTharrosに目がいく。
最初は興味なさげな風に見えたが、部屋に来てからは真剣に中身を見ている。
確かに、上級ハンターでも参考になるような中身ではあるが。
2人がいなくなって、Tharrosはページをめくる。
『気になる彼と狩りをするたび急接近っ!?オススメ狩場スポット』
下位ハンター、上位ハンターと分かれていてとても優しい構造になっている。
編集部も中々やるねぇとCarryは苦笑した。
彼も彼女も上位のプロハンターにオススメ狩りスポットベスト3!
1.凍土でティガレックス狩り
−護られるだけがハンターじゃない。彼をサポートして好感度UP!ティガレックスという強者を目にしてつり橋効果も発動。彼との距離も急接近間違いなし!
2.孤島でリオレウス・リオレイア
−綺麗な孤島で南国気分を味わったのちに、火竜の夫婦と対決!どちらの絆が強いか試してみよう
3.夜の渓流でVSジンオウガ
−月の光に照らされた渓流は幻想の世界に迷い込んだよう。電光虫が舞う中美しく光るジンオウガにムードも満点!
体勢を崩して伸びをするCarry。
そのページに自分は興味はさほどなかったが、Tharrosはどうやら違うようだ。
読んでる目の真剣みが違う。
思わず頬が緩んだ。
・・・なんていうか・・・可愛い。
「・・・どうTharros面白い?」
声をかけた瞬間Tharrosの体がびくりと大きく跳ね上がった。
驚きすぎwwとCarryはクツクツ笑う。
「え、・・・うん!まぁ・・・面白い」
小さく、Tharrosが答えた。彼女の白い頬が少しだけ赤くなっている。
「なに?行くの?Rikuと・・・?」
「そういうわけじゃ・・・」
「この前どこ行ったんだっけ?」
「・・・孤島の、リオレイア・・・」
「ふーん・・・私は渓流でジンオウガの方が綺麗でいいと思うんだけどねぇ・・・」
「でも、行くならティガがいい」
「・・・その心は?」
「・・・倒し甲斐が、あるし」
Tharrosの彼氏は大変そうだ。
「お待たせ―。なんかケーキもできてたから持ってきたよ」
「あっ、ちょっとページ進んでる!先読み禁止〜」
「・・・ごめん、そしてありがと」
「うん、ありがとう」
次のページを偶然めくると『憧れのナルガ、ベリオ装備が着たい!1日10分でできる簡単エクササイズ』の文字に4人のケーキを持つ手が一瞬止まったのはいうまでもない。
「ほら、今日狩りしてきた後だし。チャラだよね」
「折角作ってくれたAquaさんに悪いしね」
「明日はベリオロスにでもいって走ろうか」
明後日の方向を見ながらそれでも手だけは最後まで止まらなかった。
さらば、ナルガ、ベリオ装備。
一通り雑誌を読み終わって本日は解散となった。
これだけ内容が充実している本だ。きっといつか発行されるだろう。
++++
「お、姉さん」
帰る途中で狩りから帰りたてのnobutuna一向にであった。
nobutunaに、Faltに、jack。その後ろにRikuもいた。Carryに声をかけたのはjackだ。
「お疲れ、ウラガンキン亜種は倒せたの?」
「なんとかな。・・・ただ凄い、臭い」
どうやら臭気ガスに当たってしまったらしい。
全員それなりのハンター歴を持ち合わせているため、Faltの曲射、Rikuの散弾、nobutunaの鬼神斬りなどなど色んな偶然が重なって全員臭気ガスをまともに受けてしまったなんていえない。
消臭玉も誰も持ち合わせていなかったため、しっかり臭いはしみついてしまったらしい。
温泉に入ってなお、若干の臭気がこちらに漂ってくる。
「・・・jack、今日誰かの家泊まってきていいわよ。ていうか泊まってきて」
「ちょ、姉さんそれはヒドイ!」
「ヤベェ、Lamiaさんに締め出される前にオイラもう一回温泉入ってきた方がいいかも。
・・・いや、まてよ・・・。締め出されるのもそれはそれで悪くな・・・」
「FaltさんまじドM」
Rikuは笑って階段を下りる。
「じゃ、俺先に農場寄ってくるわ〜。お疲れさん」
鼻の方は慣れてしまったし、どうせ土いじりするならこのままでもいいだろう。
その前に消臭玉だけは使おうとは思うが。
農場のアイル―には少し申し訳ないかもしれない。
農場向かって歩くRikuの背をじっと見ているTharrosの背をちょいとCarryは推した。
Tharrosが驚いてCarryを見る。
CarryはウインクしてRikuを指差した。
「・・・・。」
「・・・行かなくていいの?」
「・・・・。」
とりあえず、背中を押したことに満足してCarryは家に向かって歩き出した。
「jack。臭い落とさない限り家には入れないと思いなさい」
「ちょ・・・せめて消臭玉だけでも取りに行かせて・・・」
Carryは無言で消臭玉を投げつけた。
「さっさと温泉行ってきなさい」
「・・・はい」
項垂れるjackの隣でFaltが目を輝かせた。
「Carryさんマジカッケェェ!!超クール!
オイラこやし玉投げられてもいいわ!!
jackさん羨ましい!Lamiaさんもやってくれるかなぁ・・・」
「お望みならこやし玉もあるけど」
「お願いします!
我々の業界ではご褒美・・・オエフッ!」
Faltの尻に綺麗なキックが入る。
「何やってんのよFalt。・・・って臭いっ!超臭い!!何してきたのっ!?」
「ちょっと、ウラガンキン亜種に・・・」
「なんで消臭玉持っていってないのよ馬鹿ー!
ってかガンナーがどうやったらそこまで臭くなれるのよサイテー!」
ちょっと、臭気に巻き込まれただけなのに最低とまで・・・。
Lamiaさん、辛辣すぎる。
でもFaltのちょっと幸せそうな顔がムカつくわぁ・・・。
jackが大きな体を小さくして集会場に逆戻りするのをみて、nobutunaも続いた。
「俺も付き合うわ。・・・とやかくいう奴とかいないけど。
・・・なんだその勝ち誇った顔は!」
・・・別に、羨ましくなんか、ねぇし!!
階段を下りるところで何か後ろから引っ張られるのを感じてRikuは足を止めた。
後ろを向くとTharrosが装備の裾をつまんでいる。
「・・・どうしたの?Tharrosさん・・・」
「・・・あの・・・」
「・・・?
・・・あー、あと今俺凄い臭いからあまり近寄らない方が・・・」
「うるさい少し黙れ」
「すいません」
少し言葉を探したあとTharrosは顔を上げた。
「明日、凍土にティガ狩りに行こう」
「・・・・いいけど?どうしたの」
「狩りに行くのに理由はいるのか」
「ありません。お供します」
有無を言わさず約束をとりつけて、TharrosはやっとRikuを離した。
そしてポーチから消臭玉を取り出し、Rikuに投げつける。
「じゃ、また明日」
「・・・え、うん。・・・また明日」
耐えきれないほど臭かったんですね。分かります。
思わず装備の臭いを嗅いでRikuは苦笑した。
農場いって、消臭玉使って温泉に入って装備はすぐに洗って消臭玉使って、明日は別のを着て・・・。
なんかとてつもない膨大な作業が今後残されていることを考えRikuはげんなりした。
ていうか女子は消臭玉標準装備なのか。そうなのか?
こうして、今日もユクモ村に日が落ちる。
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