冷たい風が肌を刺す。
周囲の人が、暖かい毛皮を着ている人が増えてきたら目的地は近い。
相変わらずのナルガ装備に身を包み、Rikuはポッケ村を訪れた。
流石に寒かったので、近くの店でガウシカの毛皮で作られたフードを買った。
これで少しの寒さはしのげる。

ポッケ村は標高の割に温泉の源泉があるため、村にいると地熱でホカホカと暖かいのだ。
タンクトッパーとしてはこのくらいの装備で十分。
長い山道を登り、ポッケ村の入り口に当たる門をくぐる。

「懐かしすぎてヤバいわ―」

ユクモのように明るく賑わっておらず、村人とここを拠点としたハンターがのんびりと暮らしている小さな村。
G級という難しいクエストを取り扱っている珍しいギルドがあるため、この辺のハンターを目指すものであれば一度は滞在するであろう。
Riku自身この村のギルドで数年お世話になった。
受けられる依頼はほぼ受けきってしまった上、装備もある程度そろえてしまったので本来ならよほどのことがない限り訪れない場所であるが。
彼がここに来る理由は1つだけあった。

村の中心を通ると見知った村人の顔がちらほら伺える。
振られた手を振り返し、しかし歩みは止めなかった。
迷わず向かった先は、ハンターなら誰しもが訪れるハンターズギルド・・・ではなく・・・
村長の焚火の前。

「お久しぶりっす。村長」

改めていうのも少し照れる。
前はめっちゃタメ口聞いていたのに。
そんな俺らの相手をちゃんとしていた村長は偉大だな、と心の中で思った。

「おぉ、ソラか!」
「Rikuです。どういう間違えですか。確かに空男いたけど普通間違えないでしょっ!?」

かといって似た髪形のBillyさんと間違えられる自信はない。
あのお方は格が違う。

「Rikuか!ようきたね。大変だっただろう」

なんか本当に思い出されているか不安だが、Rikuはその不安を無視した。
本当に村長の記憶の片隅に自分の存在が残っていないような気がする。
御年八十を余裕で超えていそうだ。
数多くハンターが往来したこの地で同じような若造なんて何人もいただろう。

さっさとRikuは用事を済ませようと、ポーチから手紙を数枚取り出した。

「これ、ユクモの番台さんとギルドマネージャー、こっちは武具屋とモミジィからの手紙。
最後に俺らの団長からの手紙を預かってきた」
「それはわざわざご苦労だったねぇ。ありがとう」

手紙の送り主をみて、村長の顔にしわが増える。

「nobutunaちゃんは元気かえ?」
「相変わらず飲んだくれてますよ」
「jackちゃんは元気かえ?」
「粉ばっかりふいてます」
「Faltちゃんは元気かえ?」
「下ネタがひどいんですが、いい薬知りませんか?」
「Ashちゃんは元気かえ?」
「酷い厨二病を患って末期です」
「SEVENちゃんは元気かえ?」
「強走薬グレートの廃止を申し立てたいんですが」
「Billyちゃんは元気かえ?」
「変わらず職人は職人です」
「Skyちゃんは元気かえ?」
「下に落ちてしまって、上がってこれません」
「Mrちゃんは元気かえ?」
「しばらく見ない間に黒くなりました」

淡々と答えるRikuに、村長は満足そうに頷いている。
本当に意味が分かっているのだろうか。

「Rikuちゃんは、元気かえ?」

正面から問われる。
垂れた瞼の奥にある綺麗な瞳に見つめられ、後ずさりたくなった。
少し考えてRikuは答えた。

「まぁ、Rikuですからねぇ。
乙らない程度に頑張ってるんじゃないですか?」
「それは僥倖」

うんうん、と頷いて村長は言った。

「長旅大変だったね。
家は他のハンターに譲ってしまったから今は入れないけどギルドでよければ空いてるからゆっくりしていきなよ」
「あぁ、ありがとうございます」

礼をいって、そして先ほどからずっと気になっていた村長の後ろに控えるアイル―の方を見た。
ポッケ村にきた一番の理由がそこにいる。

「久しぶり、ネコートさん」

マフモフ素材のフードをつけ、凛とその場に立ち続けている姿は、その辺のアイル―と一線を駕す。
掛けられた声に顔をあげ、ふっと笑う。

「・・・Riku、か。久しいな」

「ニャ」というアイル―特有の語尾をつけないのも彼女の特徴だ。
とにかく凛々しい。
出会った当初はアイル―と分類せず『喋る猫』と位置づけしてしまったくらいだ。
あまりにも珍しい存在にちょっかいを出していたが全く気は引けず、しかも上位になるまで謎の存在であり続けた。
上位のクエストを本気でこなしたのは彼女を知りたかったからかもしれない。
きっと彼女のクエストをこなせば、彼女が知れる。
とにかくその一心で狩って、狩って・・・

いつの間にか、落ちていた。

猫が、アイル―がこんなにも愛おしくなるなんて、自分でも思っていなかった。
多分自分がもう一人いたら、プギャっていたであろう。
認めたくないけど、彼女に会うのがとても楽しみな自分がいる。

大体猫ってのが間違ってるよ。そんなの最初から可愛いに決まってるし。

Rikuは以前のようにネコートの隣に座った。
立っていたら彼女を見下ろす形になって面白くない。
座れば切株に立っている彼女の方が目線が高くなる。

「変わらないねぇポッケ村は。
この静かさがユクモでは逆に違和感」
「お前たちがいなくなってからさらに静かになった」
「相変わらずこっちはうるさいよ。
いや、前より余計うるさいかも」
「向こうはどうだ?・・・ヘビィボウガンに変えたのか」
「ちょっと火力が欲しくてね。かなりマゾくて俺好み。
たまにフットワーク軽く武器で獲物を殴りたい衝動に駆られちゃうけどねぇ。
モンスターは・・・まぁ、こんなもんかねぇ。
ここで根性つけていったせいか、全然乙らなくなったし」

ネコートはくすりと笑う。
細くなった目が可愛すぎる。これだから猫は!!

「ここのクエストは並大抵のスキルでは達成できないからな」

誇らしくネコートが語る。
この前来た、ティガレックス2頭の前で惨敗してきたハンター達のことを語る。
ネコートの話を聞きながら、そういえば、そんなクエストもあったな。と思い出す。

「お前たちみたいな馬鹿でどうしようもないけど、真っ直ぐで勇敢なハンターは減った」
「・・・それは、俺らが特殊なだけだと思うよ」
「・・・少し、寂しい」

ぽつりと呟かれて心臓が跳ねる。
ちょっとここでデレるとかネコートさんマジ鬼畜!
どうしてくれんのこの胸の高鳴り!

「髪を染めたな・・・少し切ったか」
「どう男前?」
「・・・まぁ、前よりマシに見える」
「なに、金髪はチャラかったってこと?
俺普通に真面目だよ」
「まぁ、・・・なんだ・・・前の方が好きだな」
「・・・うそん、まさかのゴールド?
・・・そっかー・・・染め直して伸ばそうかなー。
ユクモの床屋こだわり強くて数パターンしかできないからなー。ちょっと頼み込んでみるわ。
Billyさんと同じ髪型だとちょっと被るし」

先程も言ったように間違えられることはない。絶対。
その言葉にネコートは目を細める。

「・・・ねぇ、ネコートさん。
ユクモはとてもいいところだよ。
今nobutunaに長期休暇貰ってここにきたんだけどさー。
nobutunaユクモ超気にいてて休み取れたっていうのにユクモ村に引きこもって過ごすって。
まぁあの人のことだから1日に何回も温泉浸かって酒飲んでの繰り替えしだと思うけど。

温泉は滋養強壮に、美容にもなんか知らんけど効果あるとかで。
アイルーも普通に温泉入れるし・・・」
「なんだ?誘っているのか?」

ネコートが笑む。
Rikuは苦笑した。

「ネコートさんが今の仕事頑張ってるのも、誇り持ってるってのは知ってるし・・・。
無理にとはいわないんだけど・・・。
その、一緒にユクモ来てくれたら俺は嬉しいなぁとか思ってたりして。
向こうにもちゃんとギルドあるし、近々G級クエも取り扱いそうな動き見せてるし、ギルド内で出張とか・・・ないの?」
「残念ながら、ギルドに雇われる公式アイル―はネコタク以外ない。
私はポッケ村のギルドから直接雇われているのだ。よって、ここでしか私は働けない」
「そっかー・・・残念」

Rikuという男は我を通さない。
ヘタれと言ってしまえばそうなのだが、それは彼なりの優しさだと気づく。
そして、相手を思いやってのことなのだと・・・。

だが、それだけで流されるほどネコートも甘くなかった。

「・・・Riku、私が人間の女だったら良かったな。
そうしたらユクモに一緒に行ったかもしれない」

そういえば、Rikuが首を傾げる。

「なんで?
俺はネコートさんがアイル―だから好きになったんだよ」

まぁ、人間だったら、とか考えないこともないけどね。
でもそれは好きだから、という前提があってこそだ。

「お前はおかしな男だな」
「それはよく言われる」

クツクツとネコートは笑った。
そして、薄く目を開け、妖艶に笑った、ように見えた。

「私を誘いたくば、まずその女の臭いを消してからにするんだな」
「・・・は?なに?どういうこと。
俺彼女とか普通にいないし。今も独り身ですし」
「本当か?」
「うん」
「・・・本当に、身に覚えがないのか。
前でそんな臭いなかった」
「・・・・。」

Rikuは少し考えて、何かに思い当たったように動きを止めた。
ネコートは追い打ちをかける。

「身に覚えがないならその名を上げようか?」

ゾクリ、とRikuの腕に鳥肌が立つ。

その臭い、忘れもしない。

ある日、急に現れた少女は可憐な外見からは想像できないような、異様な速さでハンターランクを上げていった。
その異例の所業は中々忘れられない。
『職人』と呼ばれるハンターの妹というのは後に知ったことだ。確かに、それなら納得できる。
彼女は兄の敷いた道を、軽やかに駆け上がっていった。
兄の技術をそのままに受け継いで。

「・・・あのでも、ネコートさんこれは・・・」
「不愉快だ。アイル―は人間より鼻が利く。
私と個人的に話したいのであればその臭いを全て消し去ってからくるがいい。
それがお前にできるか?」

鷹見のピアスをつけたことのあるRikuは、その条件の難しさを悟った。

「・・・・。」
「話は終わりだ。
クエストでも受注していくか?」

Rikuは少し目を閉じて項垂れた。
そして顔を上げて、いつものヘラッとした笑みを浮かべる。

「・・・いいよ、ここまで来るの疲れたし。
ちょっと休ませてもらうわ」
「そうか」
「・・・あ、そうそうネコートさんにお土産持ってきたんだ。
おまけで貰ってよ」

虹色結晶でできた花飾りを差し出す。

「綺麗でしょ。
ユクモで取れる鉱石。なんか角度によって色が変わるから面白いなーって思って。
折角買ってきたんだからもらってよ。
これ渡せるのネコートさんしかいないし」
「・・・・・・。」

無理やり手に握らせて、Rikuは立ち上がった。

「じゃ、明日クエストでも受注に来ようかな。
ぬるすぎるクエストばっかいってるから簡単なやつ頼むよ。
じゃ、明日ね〜」

ギルドに向かうRikuの背中を目が追う。


完全に見えなくなってネコートは渡された花飾りを見つめた。

「ほっほっ・・・・。
可愛くないのぅネコートは」
「可愛くないのは元々だ」

強がるネコートの姿をみて、村長はもう一度笑った。

「気にしていないのなら、そのしょぼくれた耳と尻尾をなんとかしたらどうだい?」

アイル―は人間よりとても優れていて、それでいて、とても素直だ。

「・・・・。
・・・・Tharrosの方がRikuにはお似合いだ」

ユクモで何があったかは知らないが、2人の距離が前より近くなったのは確かだ。

「その方が幸せだ。
お似合いじゃないか。強いハンター同士・・・」
「まぁ人様の恋愛に突っ込むことはやめておくが・・・・
Rikuちゃんならアイル―が隣にいてもお似合いだと思うけどね」

ネコートは目を丸くして、そしてそっぽを向いた。
村長はまた笑う。
この行方は、きっと誰にも分からない。

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