「あのっ、MHDの方々に緊急に受注して頂きたいクエストがあるのですが・・・」
全くのノープランで集会場にやってきたNobutunaに、受付嬢が声を掛ける。
内容は面倒くさそうだが、隣に座っている腹の底が読めないギルドマネージャーに呼び止められるよりかは数倍マシだ。
「なんだ?」
「どうやら凍土で上位のモンスターが暴れているという情報が入りました。
どうやらベースキャンプの周囲にまで被害が出ているようですぐに討伐して欲しいとギルドから要請されまして・・・。
・・・本来なら他の方でもいいのですが・・・緊急性が高いので貴方達に頼むようにとギルドマネージャーから・・・」
「・・・へぇ」
Nobutunaは受付嬢から依頼書を受け取る。
凍土で大型モンスターの狩猟。
「・・・分かった」
見た限り確かに難易度の高いクエストではないだろう。
しかし一人でいくというのも少し辛いものがある。
「あ〜、Nobutunaさんおはよー!」
後ろから呼びかけられた声に振り返るとカボチャ・・・じゃなくてマギュルの仮面をつけたFaltがこちらに向けて歩いてきていた。
その後ろに見慣れた顔が2人いる。
これで4人。幸先は良いようだ。
「おう、おはよう。
早速だけど予定なければ少しクエスト付き合ってくれないか?SEVENとSkyも」
「・・・ん?どったのノブちゃん」
「何か緊急ですか?」
こちらにまで話を振られるとは思っていなかったらしく、2人とも指名された途端早足でNobutunaの元へ向かってきた。
「ちょっと緊急クエストを頼まれたんだが、まぁ内容的にはそんな難しいもんじゃない。
4人いれば余裕でクリアできるだろう」
「凍土ですか、分かりました」
「セレーネ持ってきたのは正解だったねぇ」
「あの突進野郎と対決できるのか!ま、勝つのは勿論ディアブロスだけどね!」
「よーし、決定。受付すんぞー。その間に準備しておけー」
『はーい!』
4人分の署名をして受付嬢に渡す。
名前の並びをみてなんとなく珍しいなとは思ったけれど、深く考えることなくNobutunaもアイテムボックスに向かった。
クエストの中身もそこまで難しいものだと思わなかったし、何より強者ハンターが4人いる。
「・・・なら、いきまーす!」
その油断が積み重なって、ちょっと面倒くさい狩りになるとはこの時4人は考えもしなかった。
++++
「・・・さっぶ・・・」
Nobutunaが下ろされたのはエリア5の洞窟の中。
氷で囲まれた空間に冷えた風が容赦なく吹き荒れる。
周囲を見る限り大型モンスターはいないようだ。体が冷めきってしまう前にホットドリンクを飲む。
「・・・さて、とっとと片付けてしまうか・・・」
帰ったら熱燗に決定。と温泉に浸かりながら酒を飲む自分を想像する。
いかんいかん二ヤけが止まらん。
そう考えながらNobutunaは歩き出した。多分、この奥の洞窟にドスバギィはいるだろう。
「ラッキー!俺が一番乗りかねぇ!」
敵の姿をいち早く確認したFaltはホットドリンクを一気に飲んで、背中の弓を展開させる。
金レイアの素材で作られた黄金に輝く弓は火の熱を宿し、放った弓全てに炎が負荷される。
さらに拡散弓ということで装備との相性も抜群。
敵の行動も大体把握しきっているFaltに隙はなかった。
「ふふんっ、皆が来る前にこいつ1頭俺が頂いた!」
火力に掛ける遠距離武器であるがこれだけ好条件が揃えば早い討伐は見込めるだろう。
Faltの目が細められた。
「えーっ!?このクエストドスバギィ2頭から開始なんじゃないんですかっ!?
なんでこんなところにボルボロス亜種が・・・」
「まぁ現実にこういうことって普通に考えられるよね。4体同時出現とかさー」
「・・・あ、それともNobutunaさんかFaltさんがもう2頭倒したとか・・・」
「え、流石にそれは・・・俺ら今きたばっかだし・・・。
俺らのネコタクどんだけ遅いねんってことに・・・」
エリア7に下ろされたSEVENとSkyは軽口を叩きながらホットドリンクを飲む。
目の前にはボルボロス亜種がこちらを睨んでいた。
たくましい足で氷をかく。
「まっ、俺は構わないけどね!」
SEVENが背中の槍を構えた。
Skyもやれやれと息をつく。
「・・・最初くらいはSEVENさんと分かれたかったんですがねぇ・・・」
「えーなにSky、聞こえない―!」
そういいながら、SEVENはボルボロス亜種に先攻とばかりに突進を繰り出した。
敵もそんなSEVENを見据えて走り出した。
「ディアブロスの化身今凍土に罷り通るー!」
ガキンと2つの影がぶつかりあう。
その衝撃にボルボロス亜種の頭の氷が少しはがれた。
「・・・ググッ・・・っ」
勢いはつけたがやはりモンスターの力に敵うはずもなく、頑張りも虚しくSEVENは後方に吹き飛ばされた。
それでも敵への衝撃は大きかったらしく、ボルボロス亜種は頭を振った。
その隙を見逃さずSkyがボルボロスの頭にガンランスを突きつけた。
「さぁ、最初から景気づけにいきますよ!」
ガンランスが低く徐々に大きく唸りを上げる。
反動に備えてSkyは腰を低くした。
冷たかった機械が一気に熱を帯びた。
「フルッ、バースト!!!」
Skyの声と共に銃口から炎の塊がはじけ飛ぶ。
流石のボルボロスもその大きく仰け反った。
どんなもんだ、とドヤ顔で後ろを振り返ったらそこにはSEVENがいなかった。
「・・・あれ?SEVENさん?」
いつもなら吹き飛ばされることにもめげす突進を繰り返しているはずなのに。
背後をよく見るとSEVENは倒れたまま動こうとしない。
周囲をバギィが囲んでいた。
「・・・え、嘘でしょ・・・。マジかよあの突進馬鹿・・・っ」
恐らく吹っ飛ばされて倒れたところにバギィの睡眠液でも掛けられたのだろう。
バギィは周囲で飛び回ってたまに尻尾で攻撃しようとしているが、全くSEVENには当たってない。
どいつもこいつも使えねぇ・・・。
一度武器をしまって助けに行こうかと思った瞬間、背後から足音が凄い速さでこちらに向かってくるのが分かった。
紙一重で左に避け、SEVENを見る。
このままではボルボロスの突進に真正面から当たってしまう。
「SEVENさんっ」
無我夢中で弾をリロードしてSEVEN向かって発射する。
丁度弾はSEVENの肩に当たり・・・当たって・・・
「・・・・あっ・・・あ〜・・・・あー・・・・」
Skyは思わず目を逸らした。良かれと思ってやったことだが完全に裏目に出てしまったようだ。
ビクンッとSEVENの身体が跳ね、「・・・あいてっ!」と叫ぶ。
「SEVENさん!前!!避けて!!」
「・・・うおっ!!」
ボルボロス亜種の攻撃に気づきSEVENはすぐに横に避けた。
Skyの竜撃砲で怒ったボルボロスはそれでも追撃してくるが、それもなんとか交わす。
「あー・・・やれやれ、少し夢の国までいってきたぜ」
「・・・もう、・・・その、手間かけさせないでくださいよね」
「・・・・?」
生意気なのはいつものことだがSkyの歯切れが悪い。
何か肩に違和感を感じSEVENの視線は自然と肩にいく。
「・・・お?・・・あれ?」
いつも以上に視界がいい。というか・・・視界を遮るはずの、あるものがない。
「・・・え・・・え??」
自分の寝ていた場所をに視線をやれば見慣れた角が転がっていた。
「・・・えっ・・・マジで!?嘘だろっ!!ディアブロスの角がぁぁああ!!」
絶叫を上げるSEVEN。
無視して狩りにいそしむSky。
いや、あれは事故っていうか、仕方なかったっていうかなんていうか。まぁ死んじゃうよりいいよねっていうか。
地面にガクリと膝をつき項垂れるSEVEN。折れたディアブロスの角をそっと拾う。
・・・ユクモに戻ったらまた付け直してやるからな・・・。
そう思い持ち上げた瞬間ころりと落ちたガンランスの弾。
SEVENは全てを理解した。
「Skyお前かー!!!」
チッ、ばれたか。
「こんな状態で寝てるアンタが悪いんでしょう!?
てかさっさと加勢してくださいよ」
SEVENはふるふると震え立ち上がった。
向ける矛先は仲間であるSky。
「許さんぞ、許さんぞSkyー!!これはディアブロスの恨m・・・ぐぅ・・・」
「寝るなー!!!何回目ですかアンタ!!」
SEVENの後ろには部位破壊が完了されたドスバギィの姿があった。どうやら誰かが応戦していたあとらしい。
同じ空間に2頭のモンスター。・・・それにあと最低1人加勢が来る。
悪い状況でもあるまい。
ほっとして武器を構え直し、Skyは敵を見据えた。
NobutunaやFaltなら安心して戦える。
「氷の大地に炎を宿した5つの軌跡。
俺に射抜けぬものはなし!
マギュル仮面、参上!」
洞窟の入り口で光をバックに華麗にポーズを決める、我らがMHDきっての弓の名手。
・・・前言撤回。
気温よりも心が急激に冷えていく感覚に襲われながらSkyは目の前の敵に集中した。
何故、何故だ。何故真面目に狩ってくれる人がいない?
「ちょっとー、ちょっと何―?今の登場に対してコメントとかないのー?」
寝ているSEVENに総無視を決め込むSky。
あまりの扱いの悪さにFaltが暴れた。
仕方がないのでSkyが口を開く。
「あー・・・Ashさんの真似ですか?かっこいいですね(棒)」
「・・・っくっそっ。やるだけ損した!Sky超ノリ悪いー。
そんなSky嫌いだよ。笑顔じゃないSky嫌いだよ!」
「無駄口叩いてる暇あったらとっとととどめ差しちゃんってください。
あと俺はいつも笑顔です」
そんなやりとりを繰り返し、数分後2つの巨体は地に伏した。
「・・・さて・・・。これで2体。
Nobutunaさんがもう1体倒しててくれればいいんですけどねぇ・・・」
「そういやどこいったんだろうね、ノブちゃんは。・・・てかSEVENは?」
「・・・ぶえっくしょい!!カレー食べたい!
・・・はっ!」
「・・・え、なにそれくしゃみ?」
のろのろとSEVENが起き上がった。
「うー・・・超さっみぃぃ・・・っていうか誰か起こしてくれてくれてもいいんじゃない。
ケチケチ―。
しかも2頭とも倒れてるしさー!・・・酷くね?」
「むしろ今まで寝てられる方が奇跡でしょ」
「もー・・・俺ボルボロス戦楽しみにしてたんだから〜。
折角お守りフルで持ってきたのに・・・」
「・・・え、何に使うんですか?」
確かに同時出現であるが、こやし玉を使う程難しいクエストでもない。
2人が首を傾げているとSEVENが笑顔で言った。
「ほら、ボルボロスって頭の蜂の巣みたいのが鼻っていうじゃん?
だから突っ込んでみたら面白いかなーとか思ったり・・・」
「・・・鬼や、鬼がおる・・・」
「いくらなんでもそれは酷すぎますよ。ボルボロス涙目じゃないですか」
洞窟の外でモンスターの咆哮が聞こえた。
最後の砦の登場だ。
「・・・さて、行きますかねぇ」
「めいっぱい暴れるぞー!」
「寝ても起こしませんからね」
「・・・はっ!ディアブロスの恨み!!」
「うわぁ・・・面倒くさいこの人・・・」
軽く武器を研いで立ち上がる。
洞窟を抜けたところで、最後の敵が現れた。
身体が氷で覆われた海竜種アグナコトル亜種。
「よっしゃ、一番槍SEVEN!うおぉぉぉぉーー!」
「あっこら、SEVEN!
チッ、出遅れた・・・っ」
「ちょっと二人とも・・・。
・・・はぁ、もう・・・。・・・そういえば・・・」
獲物を見つけると子供のようにはしゃぎ走り出した2人にため息をつきながらSkyは呟いた。
「Nobutunaさん、どこにいるんだろ・・・」
とりあえず、サインを出しておきSkyも戦闘に加わった。
++++
「・・・おい、嘘だろ?」
Nobutunaはジャギィばかりの周囲を見渡し頭を掻いた。
先程から同じところをぐるぐる回っているような気しかしない。
久しぶりにきた凍土だからだろうか、なんとなく光景は覚えているがどこがどこに繋がっているかさっぱり分からない。
「・・・素直に地図もってくれば良かったかぁ・・・?」
といっても実際キャンプへ行く道すら定かでない。
詰んだ。これは積んだ。
どれだけ歩いても洞窟から出られないし、出たとしてもベリオロスの巣に辿り着いてしまう。
何故だ。違う道を歩いているような気がするのに・・・。
偶然出会ったドスバギィはそのエリア内で倒してしまった。
せめて巣まで逃がせば新しい道は見つかったか?
・・・どうだろうか?
ふと、耳に届いたのはSkyからのサイン。
中々合流しない自分にあてたものだろう。
「・・・あっちか・・・」
方向だけは覚えておいてNobutunaは足を進める。
「・・・あれ?」
その先の出口に待っていたものは・・・。
人気のないエリアにいた、ポポとファンゴであった。
・・・外に出れたはいいけど、あいつらどこにいったんだろ・・・。
++++
「・・・そっち行きましたよ!SEVENさん」
「おぅ、このクールでナイスガイSEVEN様にまかせんしゃい!!
おらおらおら、SEVENトリニティアターック!!!」
疲労がみえてきたアグナコトル亜種にSEVENの突進が襲う。
腸中央突破したSEVENの槍は、器用にアグナコトルについた氷を剥がしていく。
「いいねぇSEVEN君、超良いよー!!」
剥がされていったところからFaltが的確に弓で急所を狙う。
弾をリロードし、Skyはアグナコトル向けてガンランスを構えた。
「そのくちばし、いただきます!」
3人の猛攻に耐えきれず地面に潜って隣のエリアに逃げたアグナコトルだが、3人にすぐに追いつかれ地に伏した。
「・・・これでクエスト完了ですかね?」
受注用紙を確認しながらSkyがいう。
ドズバギィを一体確認していないが、ここまで凍土にいてすれ違わないということはNobutunaあたりが討伐してくれたのだろうか。
「うー寒ぅぅぅぅ・・・。早く帰ろうぜ
・・・あー駄目だもう我慢できない。Skyやっぱりホットドリンクちょーだい・・・」
「はぁ?今までホットドリンクなしで戦ってたんですかっ!?」
「・・・強走薬があるかと思って・・・結果なかったんだけどね・・・。
俺のスタミナが切れる前に早く・・・」
「そんな迷惑極まりないとっととスタミナ切れてしまえ」
「いやー、凍土で食べるこんがり肉は旨いねぇ」
「Falt―肉にくぅ!!俺にも!!」
「SEVENの肉ないからぁぁああ!!」
「ていうかもうあと帰るだけじゃないですか。我慢してくださいよ」
「無理―。今日に限ってもどり玉持ってきてないしぃぃぃ・・・」
SEVENの悲痛な叫びが凍土に響いた。
++++
「やっとついたっ!支給品支給品!!」
「・・・クエスト終わったっていうのにがめついですね」
「この腹減り具合が分からないからそんな非道な台詞が言えるんだSkyは!」
「自分の準備不足を棚に上げて何言ってんですか」
ベースキャンプに辿り着くなり支給品ボックスに群がるSEVENを置いてネコタクを呼びにFaltとSkyはそのまま奥に歩いていく。
焚火の前に見慣れた背中がいた。
「おぅ、お前らおかえり」
Nobutunaだ。既に戻っていたらしい。
「Nobutunaさんっ!?
どこいってたんですかっ!?」
「いや、・・・ちょっとドスバギィ倒したまでは良かったんだが・・・。
その後・・・えっと・・・そのあれがこうしてこうなって・・・やっとキャンプに辿り着けたというか・・・」
歯切れの悪いNobutunaにFaltとSkyが顔を合わせた。
『・・・・・。』
「・・・・・。」
えーっと。
焚火の火を調節しながらこちらと目を合わせないNobutunaを見て、なんとなく察した。
「・・・Faltさん、僕凄くお腹減っちゃったなー。
帰ったら集会場でホットミートパイ5皿くらい食べたいです―」
「あー確かに俺も凄くお腹減ってきちゃった。
今の気分は・・・ピザ、ピザかな!!高級ベーコンとハムたっぷりのっけたピザが食べたいな。
ほらこの前新商品ででたやつ。3皿はいけるわ」
「いいですねぇ、・・・Nobutunaさんは何が食べたいですか?」
2人してNobutunaを振り返るとNobutunaの手が止まった。
「・・・・。」
2人の視線に耐えきれなくてNobutunaは諦めたように項垂れた。
事実、自分はほとんど仕事をしていない。
「・・・・えっと、・・・久しぶりに、奢ってあげてもいい気になってきたかなぁ・・・。
頑張った皆に団長としてご褒美とかあげてもいい気になってきたかなぁ・・・」
ちょっと視界がぼやけてきているのは気のせいだ。
声も震えているのは寒いからだきっとそうだ。
歓喜する2人の声をBGMに『・・・明日地図持って素材ツアーにいこう、そうしよう』と心に誓ったNobutunaであった。
何事にも万全の準備は必要である。
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