俺は、平和主義だからねぇ。
チキンと言われても仕方ないけど、正直なところ命を危険に晒してまで狩りに行くことはないと思うんだよねぇ。
ましてや女の子が。
わざわざ泥水にまみれて傷を作って血を被って凶悪なモンスターと戦うより、綺麗なものに囲まれて美味しいものを食べて笑ってる方が見ている方も安心する。

おや柄にもなく、なんて俺ってフェミニスト!

・・・まぁ、俺ですからねぇ?はぁい。

++++

渓流からけたたましい警報が鳴り響く。
渓流に近い、ユクモ村の集会場にいたもそれは届いた。
ギルドマネージャーはゆっくり頷き、それをみた受付嬢たちは直ちに渓流のクエストの受付を停止する。

「現在渓流に乱入モンスターが確認されました!
安全が確認できるまで渓流クエストの受注を一旦停止します」

ざわめくハンター達にも慣れたもので受付嬢は数回同じ言葉を繰り返す。
抗議の声も上がるがそれは少数に留まり、ほとんどのハンターは無言で次の行動に移る。
乱入クエストで現れるモンスターは上位かつ王冠サイズのモンスター。
そこらのハンターでは太刀打ちできないことは、ユクモ村でそれなりにハンターをしていれば自然と入ってくる情報だ。
ほとんどのハンター達は諦めて別の狩猟場所に変えるか、帰るかの2択に迫られた。

ざわつく集会場の入り口でRikuとTharrosは立ち止まっていた。

「いやー、タイミング悪かったっすねぇTharrosさん」
「・・・・・・。」

集会場に入った直後、警報がなったため嫌な予感はしていたが、やはり受注停止か。
今回はお目当てのモンスターがいたため、タイミングが悪いとしかいいようがない。
クエストの確認のため、背の高いRikuが人混みをぬって掲示板を眺めにいく。
しばらくして、Rikuは戻ってきた。大きなため息をついて首を横に振る。

「Tharrosさん、残念ですわー。ジンオウガ今は渓流にしかいないみたい」
「・・・そう」

よく無表情だと言われるTharrosだが、見慣れればそうでもない。
目を少し伏せ俯くだけで口より饒舌に彼女の心境を表している。
しかし、それで折れるほど彼女は弱くなかった。そして実力もあった。

「・・・なら、乱入モンスターを倒してジンオウガを探しにいくまでよ」
「げ、マジスか?Tharrosさんっべーわ。マジッべーわ」

流石、暴虐女帝の称号は伊達じゃない。

「いや、でもTharrosさん、乱入クエスト今他の奴らが受けちゃってるかもしれないし・・・。
そんな金冠サイズのモンスターが居たらジンオウガも一時的に渓流から引っ込むのでは?」
「・・・・・。」

どうしても諦めきれないらしい。
彼女の瞳はまだ人で賑わう掲示板をじっと睨んでいる。
物分りはいい方だと思うし、理不尽なことも言わない、彼女は賢い。
ただ、自分の意志を貫くために妥協はしないタイプだ。

「・・・孤島にもいないの?」
「さっきそれを見に行ったんですよ」
「・・・・・。」
「また、明日にでも改めて出向きましょう?
俺も付き合いますから」
「本当?」

TharrosがRikuを見上げた。
その真っ直ぐな瞳に見つめられ、Rikuはフイと視線を逸らした。
ちょっと俺にその瞳は熱すぎるわ―。見詰め合うとか無理だわ―。

「え、えぇ。基本ソロハンターは予定はないですからねぇ」
「なら、明日にしよう」
「え?」

意外に早くTharrosは折れた。なんだもっとごねるかと思ったのに。

「Riku」
「は、はい」
「この後どうするの?」

予期せず半日ほど暇が出来てしまった。
しかし、Rikuはその空白を埋める予定は既に立っている。

「最近狩りに出ずっぱりだったもんで、農場の整備に行こうかと」
「なら、私も付き合う」
「えー、いいですよ。汚れますし、楽しいことなんて何もないし」
「なら、空いた半日私を楽しませて」
「・・・・。
・・・ならお手伝いお願いします」

・・・他のメンバーなら、もっと洒落たところに連れて行ってあげられるのだろうか。
想像できないが。
jackやAsh、ミスターくらいならもう少しマシかもしれない。認めたくないけど。

++++

農場で働いているアイル―に軽く挨拶する。
朝軽く見に来ていたRikuが戻ってきてアイル―は少し目を丸くした。

「Rikuの旦那どうしたんですかニャ?狩りは?」
「なんか渓流で乱入合ったみたいだから今日は中止。
ちょっと畑耕していくわー」

入り口のボックス前で重い装備をとり上半身はタンクトップ1枚になる。
ボックスの中からタオルを取り出し首に巻けば、立派な農夫スタイルだ。
その様子をTharrosはじっと眺めるしかなかった。
慣れたように鍬を担いでRikuは畑に降りていく。

「あ、Tharrosさんはその辺で休んでてくれていいからね」
「・・・・・・。」

休んでてって・・・。
結局暇を持て余したTharrosは仕方なく、奥の蜂蜜の巣箱に向かう。
蜂蜜の管理は主にGoodmanを始めBillyとTharrosが行っている。
今日もたっぷりと蜂蜜が溜まっている。
それをこぼさないように器用に瓶に入れていく。
油断をするとこぼれるだけでなく、服も汚してしまうので注意が必要だ。
何せ今日はRikuと狩りに出るだけあってブナハ装備なのだから!

Goodmanがいつも細かく手入れしているだけあって、Tharrosの作業は早々に終わってしまった。
Rikuを見ると空いた農地をアイルーと一緒に耕している。

「やっぱりRikuの旦那じゃないと奥まで耕せませんニャ」
「ここの農場周りが早いからねぇ。
植え直す時は一度ちゃんと耕しておきたいんだけどまぁ私も忙しいですからねぇ。
でもそこはアイルーさんが毎日小まめに世話してるから心配してないけど」
「旦那照れるニャ〜」

『・・・。』

そんな会話を後ろで聞きながらTharrosは畑を背に座った。
本当は、私も輪に混じってあんな会話がしたいのだけれど・・・。
ハンマーを使っているだけあって正直力には自信がある。
お呼びではないのかと、落ち込んでから、農場で訓練しているアイル―達にちょっかいを掛けてみる。
終いにはアイル―達数匹と組み手になって不本意ながらそれはそれで充実してしまった。

しばらく熱中していたら、鍬に体重を掛けながらこちらを見ているRikuに気がついた。

「・・・・あ、」

それに気を取られ、正面から掛かってきたアイルーの肉球パンチをまともに喰らう。

「・・・うっ」
「はっ!Tharrosさん大丈夫かニャ!?」
「・・・油断した」

頬を抑えながら苦笑する私に、Rikuも微笑ましく笑っていた。

「いやー、流石Tharrosさん。
暇を持て余した結果がアイルーと組み手とか流石ですね」
「見てたのならいって欲しい」
「あまりにも楽しそうにしていたので、つい」

Rikuの後ろにある畑は綺麗に耕され、畝も仕上がっていた。

「・・・終わったの?」
「いや?種蒔きなら汚れないからTharrosさんにも手伝って頂こうかと。
肥料も新たに混ぜましたからねー!
これで育たないことはないですわ」
「分かった手伝う」
「少し休憩してからでもいいですよ、疲れたでしょう」
「問題ない」

ちゃんと自分の分の仕事を用意してくれたことが嬉しかった。
緩い坂を駆けあがる。

「そこのボックスの中に種があるんで好きなの蒔いていいですよー。
蒔き方はこのアイルーに聞けば教えてくれますんで」
「よろしくニャー!」

そういって畑から歩いて行くRikuにTharrosは首を傾げた。

「Rikuは何しにいくの?」
「あぁ、蒔いた後の水を汲みに行こうかと」
「それなら私もいく」
「Tharrosさんはいいですよ、折角のブナハが濡れたら困りますし」

大丈夫、といっても多分彼は聞いてくれないだろうから、仕方なく種を探しにいった。
やはり邪魔だったのだろうか。そこまで考えて気分が沈む。
適当に種をいくつか選んでボックスを閉めた。
思わずため息が零れて、隣にいたアイルーが不思議そうに首を傾げた。

「Rikuと仲がいいのね」
「そりゃRikuの旦那が一番農場に通ってるからニャ。
畑も手伝ってくれるし当然ニャ!」
「・・・そう」

やはり一緒にいることが仲良くなる秘訣なのだろうか。
そんなことを思いながら1粒1粒種を蒔いていく。

++++

種を蒔く作業もすぐに終わり、Tharrosはまた暇を持て余してしまった。
先程アイル―達と戯れたせいか、なんとなく小腹がすくのを感じた。。
狩りに行くため携帯食料は持ってきているが、狩場以外で食べるのはなんだか寂しい。
少し悩んだTharrosは、朝Billyがパウンドケーキを作っていたことを思い出した。
まだ残っているだろう。
Rikuはまだ作業中だし、少し離れても問題なさそうだ。
Tharrosは立ち上がって自宅へ向かった。

「あ、Rikuの旦那。Tharros嬢帰っちゃいますニャ」
「・・・まぁ、実際暇だしね。
俺もそろそろやることなくなってきたし、やっぱり農場で半日暇潰すのは無理だわ。
1人なら思う存分筋トレするんだけど」

流石に、Tharrosの前でそれはどうだろう。
・・・ちょっと考えたが悪くない気もしてきた。それはそれでどうかと思うが。

「旦那もう少ししっかりした方がいいと思うニャ」
「しっかりしたいのは山々なんだけど、どう考えても俺とTharrosさんって狩場でしか成り立たないような気がする」
「それは旦那さんの思い込みニャ」

見た目が猫なので喋る猫くらいな認識でいるが、アイルーの言うことは時々確信をついていて驚く。
少し考えてRikuは苦笑した。

「・・・確かに、そう思いたいだけなのかも」


農場を歩いているとふと隅にある花畑に視線が止まった。
自分達がここに来る前から睡蓮がコツコツと世話してきた花畑だ。
農場を徐々に開拓してからも睡蓮は小まめに来て世話をしていたが、今は草が伸び放題、枯れたものもそのままだ。
そういえば、本格的にハンターランクと狩りのスキルアップのためにミスターと火山に合宿という名のハネムーンもどきにいっているんだっけ?
リア充爆発しろ。

花を育てたことはないが、大体要領は野菜達と同じだろう。
放置されたせいでその辺の映え放題になった雑草と変わらなくなってきた花壇を見てRikuは頭を掻いた。
暇だしもののついでだ。

Rikuは手袋をはめて花壇の整備に移った。


草を抜いただけでも、大分すっきりした花壇にRikuは物凄く満足した。
更に枯れた花を切り取ったり体裁よくいらない部分を切ったり、ガーデニングも意外に奥深い。
軽く草を抜くだけの気持ちで始めたが、終わるころには綺麗に整備された花壇が出来上がっていた。
我ながら満足だ。勝手に弄って睡蓮に小言を言われないか心配だが、この見た目ならまぁ問題ないだろう。
荒れ放題になっているより全然マシだ。

随分熱中していたらしく、太陽の位置も結構動いている。
水分しかとっていない体は炭水化物を求めていた。

「たしか携帯食料は持ってきたし・・・あ、肉でも焼くか〜」
「旦那さん、ここにまとめた草は捨てていいかニャ」
「うん、よろしく・・・」

あ、

「ちょっとまって」

抜いた雑草の山を見て、Rikuはあることを思いついてしまった。
一拍おいて、「ないわー」と自分に突っ込みながらも、体は自然と動いていく。
Rikuを見て、アイル―が自然と笑顔になった。
その視線に気づいてRikuは罰が悪いように笑む。

「・・・まぁたまには・・・ね」
「良いと思いますニャ」

++++

遅くなった昼食を食べようと農場入口のボックスへ向かう。
すると、いくつか荷物を持ってきたTharrosが入ってきた。

「あ、Riku」
「Tharrosさんっ!?
帰ったんじゃなかったんスか?」
「・・・いや、違う・・・」
「・・・・?」
「パウンドケーキ取りにいってたの・・・。
Riku、昼ご飯は食べた?」
「いや、今からッスよ」
「なら・・・焼きたてのパンもあるから、食べよう」

Tharrosはどうやら昼ご飯を用意しに帰ったようだ。
飽きさせてしまったのかと罪悪感が少しあったのだが、少しホッとした。
実際暇だったのだろうが。

こんがり肉を焼きそれをおかずに少し遅めの昼食だ。
パンは本当に焼き立てらしく、十分に温かかった。
蜂蜜もはいっているらしく、ほんのり甘い。

「これわざわざ焼いてきたんですか?」
「家に帰ったらGoodmanが丁度作ってて・・・どうせなら持ってきなさいと」
「Goodmanって相変わらず万能だな・・・。あの人1日なにやってんの?」

主夫のイメージが強いがちゃんと狩りもこなしているらしい。
彼の生活スタイルが全くつかめない。
Tharrosの持ってきたバスケットの中には紅茶も用意してあり、農場で食べるには贅沢すぎる内容だ。

「パンばかりで悪いけど・・・今日朝兄さまがパウンドケーキ焼いたから持ってきた」
「おぉ、朝からケーキ作るとかBillyはん流石すぎる」

しかも美味いときた。

「1人暮らしじゃこんな手の込んだもの食べればせんしねぇ。
Tharrosさん羨ましいですわ」
「なら、食べに来ればいい」
「・・・・お?(^ω^)」

そうきたか。流石の俺もそこまで厚かましくないよ。

Tharrosの持参したものを全て平らげ、紅茶を飲んで一息つく。
これも農場でとれたハーブや蜂蜜をベースにしてあるらしく慣れた香りがした。

「ありがとうございます、Tharrosさん。
久しぶりに腹いっぱいに昼飯食べたかも。いつも携帯食料と肉ですませてましたからね」
「なら、良かった」
「あ、お礼・・・にもなりませんが、Tharrosさん花は好きですか?」
「嫌いじゃない」
「・・・では」

Rikuは立ち上がって水辺から花束を取り出した。
水につけておいたため鮮度はまだ落ちていない。

「これ、さっき睡蓮の花壇片付けていたときに切ったもので作ったんですけど良かったらどうぞ」
「・・・可愛い」
「喜んでくれたのなら何よりです」

花束をじっと見ているTharrosの口角が少し吊り上る。
少しキザかと思ったが渡して正解だったようだ。

「Riku」
「なんですか?」
「ありがとう」

まかさTharrosのえくぼを拝める日が来るとは思いもしなかったので、Rikuは驚いてTharrosの顔を凝視してしまった。
彼女もこんな表情をする時があるのか。

「・・・い、え・・・」

俺は、こんな返しをするのが精一杯だった。これ以上は、ちょっと、無理。
顔が赤くなるのを感じてふいと顔をそむける。

切り花を寄せ集めただけの簡単な花束を一通り眺めたあとTharrosは呟いた。

「・・・Riku、明日こそジンオウガ」
「・・・Tharrosさんには敵わんスわ、はぁい。
オトモします」

先程の笑顔はどこへやらまた無表情に戻っていた。
しかし花束を弄ぶ手はどこか楽しそうで、機嫌は悪くなさそうだ。

花より狩りか。いやTharrosさんらしいけれど。
どんなにこちらが蝶よ花よと扱っても、Tharrosは自ら修羅の道へ進もうとする。
いやはや・・・敵わんねぇ・・・。

その辺にいたアイルーと戯れ始めたTharrosを眺めながらRikuはぼんやりと思った。
ま、どちらかといえば泥水にまみれて血を被って凶悪なモンスターと戦う彼女の方が好きだってことは口が裂けても言えないねぇ。


次の日。
乱入してきたイビルジョーは依然渓流に居座ってるらしく、閉鎖された渓流の緊急クエストとして上がっていた。
無表情ながらも怒りが限界突破したTharrosは間を置かずクエストを受注しRikuをオトモに敵ながら同情するほどボコボコにし『暴虐女帝』の名を確固たるものにしたのは、また別の話。

Tharrosさんっべーわ。俺マジリスペクトしてるツスわー。

[★高収入が可能!WEBデザインのプロになってみない?! Click Here! 自宅で仕事がしたい人必見! Click Here!]
[ CGIレンタルサービス | 100MBの無料HPスペース | 検索エンジン登録代行サービス ]
[ 初心者でも安心なレンタルサーバー。50MBで250円から。CGI・SSI・PHPが使えます。 ]


FC2 キャッシング 出会い 無料アクセス解析