誰もが知られたくない秘密を隠しているわけではない。
それをあえて言うことで、嘘だと他人に認識され、真実は嘘に紛れて消えていく。

「ミスターは・・・なんていうか、おばあちゃんみたいだな」
「分かる、それ分かる〜!」
「えー、なにそれ!」

ユクモの集会場に響くいつもの笑い声。
それは丁度1年前ユクモにやってきた若い専属ハンター達のものである。
彼らの明るさは底抜けで、あるようなありえないような話でいつも笑いが絶えない。

「・・・聞いてくれ、ここだけの話。
SEVEN王家は昔Billy王家に滅ぼされた」
「え、なんだよ、その設定・・・。」
「おい、厨二。引いてるのか、ときめいてるのかはっきりしろよ。
そしてそのSEVENのドヤ顔が究極にウゼェ!!」
「ていうかBillyも怒っていいんだぞ」

狩りの後にアルコールも入り、話は誇張され、彼らのテンションも最高潮になる。

「おぉ、今日満月じゃないか。なぁ、Sky。月の光に当たるなよ、ラージャンになるから」
「大丈夫です!ちゃんとヘルメット持ってきてますから」
「もしラージャンになっても私が尻尾切ってあげますよ」
「なんというDBww」
「てかラージャン尻尾斬れねぇww」
「でもRikuどうやって斬るの?ボウガンじゃ無理でしょ。矢切り?ww」
「・・・若い頃は俺もヤンチャしてましたからねぇ。
猿の尻尾とか余裕ッスよww」

飲み始めて数時間。流石の彼らも騒ぎ疲れてくる頃、濁酒を2瓶も空けた猟団の団長がポツリと呟き始める。

「皆だらしねぇな。俺が暗部にいた頃は・・・」


集会場も狩りの受け付けのみの業務になる頃、彼らは解散する。
彼らのいたテーブルには食べ明けた更と飲み終わった瓶が大量に散らかっていた。
9人と人数も多いが、それでもありえない量だ。
若干千鳥足の者も見えるが、それでも彼らは自力で自宅へ帰れる意識は持っている。

彼らを見送ってギルドマネージャーもほぅと息をつく。
酒も無くなってしまったし、集会場も今日のところはお開きだろう。
20代のG級ハンターのみで構成されている、曰くつきの狩り集団MHD。
特に団長のNobutunaの人情熱く時に無賃で働いているため、世間に流れる噂はほとんどが良いものだ。

しかし・・・。
つい、と目を開いて彼らがいた席を眺める。
あの若さにして元G級ハンター。猟団を組んで数年。それ以前はAsh以外がG級だったと聞く。
仮に才能があったとしても数十年でG級ハンターなんてその過程を考えると想像を絶する努力がいる。
20年間ハンターとして生活してしていても、普通ならばそこまでいかない。
ギルドの上層部でまことしなやかに流れている彼らについての噂・・・。
若干20そこそこの若造が世間で持て囃されている腹いせだとしても、無視できない何かがある。

それほどまでに彼らは強く、世界を知っていた。

「まぁアタシには関係ないけどねぇ〜」

彼らが何者だとしても構わない。
このユクモ村の専属ハンターとしてきっちり仕事をしてさえくれれば。

++++

「・・・見てノブちゃん」
「・・・ん?」

ミスターにつられてNobutunaが空を見上げる。

「・・・あり?今日は満月じゃなかったか?」

真ん丸だった月が今は少し欠けている。

「月蝕だよ。この分だと綺麗に重なりそうだね」
「ほ〜珍しい。
こりゃ酒の肴にもってこいだな。じわじわ欠けていく月を眺めながら酒を飲む。
ん〜乙だねぇ!」
「・・・え、まだ飲むの?」
「俺の肝臓は鋼鉄で出来てるからな」
「固くなりすぎて、肝硬変にならないようにね。
・・・知ってた?
肝臓の病気の人の末期は結構酷だよ」
「やめて、酒が不味くなる!」
「あ、そうそう肺の病気の人の結末はさらに酷いよ。
苦しくて、必死に呼吸をするんだけど、全然楽にならないの、そして・・・」
「やめてー吸えなくなる!」
「吸わないために言ってるんだけど」

クスクス笑ってミスターは手を振った。

「ならノブちゃん明日ね。
・・・あ、そうそう・・・。
・・・月蝕って神秘的で面白いけど、」

一瞬ミスターの声が変わったような気がしてNobutunaは振り返った。

「良くないことが起こるって聞いたことがあるから今日は大人しくしていた方がいいかもしれないよ?」

いつもの笑顔で微笑んで、ミスターは自宅へ向かって歩いていった。
変わらない姿にホッとしたNobutunaだが、何か違和感があったような気がする。
変なことを言われたせいだろうか。
顔色が悪く見えたのもきっと、月の光のせいだろう。


「・・・そう、良くないことがね」

駆け寄るように宿屋に辿り着き、ミスターは建物の柱に思わず寄りかかった。
身体が思うように動かない。胸が苦しい。息をするのってこんなに大変だったっけ?
身に付けている防具が重くて足が震える。
胸を押さえながら、ミスターはその場にしゃがみ込んだ。
今日が月蝕だって知っていれば、少し食べたり飲んだりするのもう少しセーブしたのにな。
喉が震える。思うように声も出せなくなるらしい。
全く、老いって本当に怖いよ。

「・・・こんな姿、睡には見せられないや・・・」

すっかり乾いて皺皺になった口元を隠しながらミスターは自嘲した。

『おばあちゃんみたい』

全く中身くらいは老いたくなくって頑張っていたんだけど、やっぱり本物には負けるかも。
良い例えだ。
・・・おばあちゃんじゃ、ないけどね。

++++

「たっだいま〜、SEVEN今帰ったよ〜!」

最初から暗い家。
誰もいないのは分かっているが、それでもなんとなく言いたくなる。
家の明かりをつけていく。
食事も風呂も済ませてきたから、もう寝るだけだ。
とりあえず背中に背負っている槍を置こうとしたとき、見られているような気がして置こうとした槍をそのまま構えた。

・・・まさか。

嫌な予感がする。
よく言われるが、俺の勘は良く当たる。
それも、当たって欲しくないものに限っては特に。

背後から殺気を感じてすぐにその場を退いた。
瞬間、窓ガラスが割られ、対モンスター用のボウガンの弾がSEVENの部屋を襲った。
SEVENの目の前にあったディアブロスの角の剥製に弾が当たる。

「ああぁぁああー!!俺の宝物ぉぉぉ!!」

その場で頭を抱えたかったが、そんな暇はない。
俺の命はまだやれない。
ここで死ぬわけにはいかないんだ。
そして、MHDのメンバーも巻き込むわけにはいかない。

「SEVEN王家、究極奥義の一つ」

SEVENは盾をぐっと構えた。

「SEVENトルネードタックル!!」

盾を前に突き出したまま、SEVENは割れた窓に体ごと突っ込んだ。

弾丸の土砂降りでのお出迎えがあると思ったが、意外に攻撃がなかった。
罠かもしれない。
周囲を警戒しながらすぐにその場を離れ、身を隠せる場所に移動する。
奴らのことだ。この辺一体に包囲網を張っているだろう。
こうなるとSIXとFIVEが心配だ。
偶然帰ってきてないのはいいことだが・・・。大丈夫だろうか。

「SEVENこっち!」

小さな声が聞こえて振り向くとFIVEがいた。

「FIVE、帰ってきてたのっ!?」

安心が先行して、思わず表情が崩れる。
FIVEが顔しかめて頬を軽く叩いた。
そして、周囲を確かめて移動する。SEVENもそれに続いた。

「・・・偶然遠征先で奴らを見かけてね。あんたが襲われてるんじゃないかと思って帰ってきたら案の定よ・・・。
SIXは向こう側にいて、途中で落ち合う予定」
「・・・そっか・・・。2人共、無事で良かった・・・」
「それは逃げ切ってから言って。
MHDの皆には迷惑かけられないわ」
「・・・そうだね」

FIVEの言葉を聞いてSEVENは頷いた。
そう、これは俺らNUMBERSの問題。

「あー、しばらくここから離れる事誰にもいってないなー。
絶対怒られるわ―」
「そう思って勝手に書置きしてきたわ」
「流石FIVE」
「しっ」

先に進んでいたFIVEが止まる。

「・・・チッ、人が数人。
SEVEN、物凄い酒臭いけど・・・走れる?」
「このクールでナイスガイな俺が酒に飲まれると思う?」
「こけたらその場においてくわよ」

FIVEはサイレンサー付きの反動の少ないロングバレルを付けたボウガンを覗いた。
その姿はハンターというよりスナイパーだ。

「・・・4人。
SEVEN私が撃ったら農場向かって走って」
「了解」

服と容姿に似合わなず鋭い眼光でFIVEはスコープを覗く。
そして引き金を引いた。
静かにボウガンから弾が発射されていく。

「いいわ」
「掴まっててね!」

FIVEを抱えてSEVENは斜面を一気に駆け降りた。

「月が全て欠けた時がSIXとの集合時間よ」
「今日満月じゃないの?」
「・・・後で空を見て見なさいよ」
「うわっ、欠けてる!」
「後でっていったでしょっ!?」

周囲を確認しながら、農場まで辿り着く。
月は三日月だ。村の方から音はしないが、SIXは無事だろうか。

「・・・他のメンバーには連絡したの?」
「私のところに連絡が来たから、皆知ってると思う」
「・・・そっか。
しばらくディアブロスは追えなくなるなぁ」

・・・そして皆と馬鹿を言い合うこともできないんだなぁ。
眼前に広がる農場、そして淡い光で町全体が光るユクモ村を見上げる。
しばらくユクモとMHDメンバーとお別れだ。

「・・・俺達は死ぬわけにはいかないもんな」
「当然よ、NUMBERS・・・いえ、王家の誇りに掛けて最後まで守り抜くわ」

それは突然襲った砂漠の悲劇。
あの時の光景を忘れない。誓いを、俺達は死ぬまで護り抜く。それが王家の誇り。
そのために皆強くなった。
そして・・・。

「FIVE、この戦いが終わったら」
「・・・なに?」
「皆で、一回家に帰ろうか」

そこには何も残っていないとしても。
確かに自分達の帰る場所だった。

++++

何故か帰り際にギルドマネージャーに、凍土へモンスター討伐を頼まれた。
飲酒をしたことをいっても聞く耳もたず「それくらい飲んだうちに入らん」と無理やりネコタクに乗せられた。
凍土の冷気は一気に酔いを冷まし、戦いの感覚を呼び覚ませる。
それでも、体内に残るアルコールまでは消えてくれなかったらしい。
1人である事も手伝って、久しぶりに思うままに暴れまくった。
早く終わらせようとポーチに詰めた火炎弾に散弾、徹甲榴弾。
マシンガンよろしく狂ったようにヘビィボウガンから弾を撃ちだし、ベリオロス一頭の討伐はあっさりと幕を閉じた。

熱を失った体が凍り始めた死体を見つめていると、こちらの体温も奪われていくようだ。
戦いの熱が一気に消え、どこか虚しさを覚える。
丁度テンションを上げていたアルコールも切れたのだろう。
いよいよ冷静な思考しか残らなくなった。

「あのまま寝ていたらいい夢見れたかもねぇ・・・」

さっさとユクモに帰って風呂入って寝よ。
ベリオロスの死体を背に歩き出すRiku。しかしその歩みは2歩で止まった。
・・・やれやれ。
厄介な奴らが乱入してきたらしい。乱入クエストはしない主義なんだけどねぇ。

「まさにその言葉通りだな!
こんなところでハンターをしているなんて負け犬にはお似合いだ」
「・・・きゃはははは!!!本当にMHDに入ってるとはねぇ。
今の今まで信じられなかったよ」
「死神も、こんな甘い戦いで満足できてるとは・・・。
しかもなんだその装備、その武器は?」

大きな息をついてRikuは振り返った。

「・・・オタクら、誰?
・・・人違いじゃないの?」

俺の知り合いにこんな狂った奴はいない。
淡い月の逆光に照らされベリオロスの死体の上に立つ3人を見上げる。
存在は闇。しかし、瞳だけは獣のようにぎらぎらと光っていた。

「そのふてぶてしい態度、間違えるはずがないだろう」
「生憎昔からこんな性格でしてねぇ・・・」
「お気に入りの太刀は、デスサイズはどうしたのよ!
獲物の首を狩らないと気が済まない死神はどこへいったのよっ!?」
「俺、元からガンナーですよ?太刀とか無理だわ。体から出来てないわ」
「・・・ガンナー?笑わせるな。その程度でガンナーを名乗るとは大概にしろ」

背中に冷たい汗が流れる。
これは、冗談にならない。
逃げるか・・・?
逃げ切れるか?
こいつらから・・・。

一歩後ずさる。
一人の男が背にある弓を展開させた。

「・・・ならば、嫌でも思い出させてやろう、私達の存在を」
「ちょっと、それは私の役目でしょ」

1人の女が腰の双剣をすらりと抜いた。
滴る毒がベリオロスの死体をジワリと溶かした。

瞬間、女の影が消える。

「・・・っべ・・・」

気づいた時には女の顔が目の前にあった。
反射的に後ろに飛ぶ。しかし着地点に男の放った矢が迫っており、無理やり体を捻って地面を転がるしかなかった。
そこへ、女の双剣が襲い掛かる。
毒の雫がナルガの上鱗で出来た防具を溶かした。

「ちょっと、これお気に入りなんですけど!」
「そんなダッサイ防具私が全部溶かしてあげるわ!」
「とんだ変態がここにいた!」

ナルガ装備を身に付けているお蔭で3割増しで動きやすいが、ヘビィボウガンが邪魔をして思うように動けない。
素早い双剣使いに的確すぎる弓使い。
大剣使いはこちらの戦いを眺めているだけだ。

「Riku、そんな重い鉄の塊いい加減捨てたらどうだ」
「ハンターとして武器は、捨てられないっしょ」
「・・・おかしなことを言うやつだ。
お前の武器は、これだろう」

闇の中で不気味に光る鎌状の太刀、デスサイズ。
趣味の悪さに、思わず顔をしかめた。
誰が、そんなもの使うんだよ。

一瞬でも気を緩めたのが油断となり、目の前を双剣が凪いだ。

「・・・っ」

目を瞑った。
上から降り注ぐ矢。
避けきれないことを悟った。
・・・ヤバい、死ぬ・・・っ。

「そんな甘ちゃんは死んでしまえばいいんだよ!!」

思考が限界に来ていたのだろう。それとも酔いのせいにしてしまおうか。
考えるのをやめた瞬間、身体は勝手に背中のヘビィボウガンを捨てた。
一気に身体が軽くなる。
早く狩りを終わらせようと身に付けてきた『竜王の隻眼』が良い働きをした。
相手がどこにいて何をしているか手に取るようにわかる。
自由になった身体が風のように宙を舞った。
Rikuに飛びかかった女の背後に回り、足払いで彼女の体制を崩した。

「・・・なっ」
「遅いんだよ、クソアマ」

瞬間、女の上に矢が降り注いだ。
投げられたデスサイズを手に取り、そのままこちらに向けて矢を構えている射手へ一瞬で間を詰める。

「・・・っ!」

目を見開いた彼の表情を見て、Rikuは唇を軽くつりあげた。
手に持っていたデスサイズを振り回す。
弓と共に、男の装備ごと破壊した。
鼓膜をつんざくような悲鳴が凍土に響く。

デスサイズが手に馴染み過ぎて怖い。
昔からこれが自分の手足であるかのよう。
足元に倒れた男の首に切っ先を当てる。これが少しの力で傾げられれば終わり、のはずだった。

「・・・ぐっ」

何かを言わんとする男の胸を思い切り踏んだ。
Rikuは薄ら笑いを浮かべて、大剣の男に問う。

「・・・で、わざわざこんな余興まで開いてくれちゃって何の用?
俺は本気で厨二全開な連中とつるむのは卒業したはずだけれど」
「単純に人手が必要となった。それだけだ」
「悪いけど俺はもう違うチームに入っちゃったからねぇ。
抜けるには団長さんの許可がいるし、俺は抜けるつもりもない。
・・・ていうか、俺は抜けるために相応の事はしたし、今更訪ねてくるのは契約違反ってもんじゃない?
まぁ今日はじゃれる程度だから特別許すけど・・・・・」
「・・・ユクモ村はこの近くか・・・」

男の言わんことを察したRikuは舌打ちした。

「・・・で、なんなの?」
「協力する気になったか」
「質問してるのはこっちなんだけれど」

月が欠けていき地上はやがて闇に包まれる。

「なぁに、ちょっとしたひと狩り、さ」

楽しさを含んだ声で男は言った。

++++

冷たい風が徐々に酔いを醒ましていく。
何か胸騒ぎがしてNobutunaは欠けていく月を眺めていた。
ミスターの言葉が何故か脳裏に焼き付いて離れない。
それがなければ、欠け行く月を眺めながら月見酒でも楽しんでいたところなのに。

「Mr.Nobutuna、仕事です」
「・・・あ?」

気配もなく現れた黒い影。
Nobutunaに1つの封筒を差し出した。
Nobutunaは受け取る代わりに苦笑した。

「おいおい、俺は引退したんだぜ?」
「契約解除の手続きは完了しておりません」
「辞表叩きつけてきたつもりだったんだがなぁ。
それに俺もう腕鈍ってるぜ?無理だわ」
「Mr.Nobutuna、三度目はありません。仕事です」

煙管の煙をはいてNobutunaは首を振った。
ハンターズギルドに所属するものならギルドの命令は絶対。

「・・・本当によくないことって起こるもんだわ」

仕方なく影から手紙を受け取った。
音も気配もなく消えた影にNobutunaは頭を掻いた。
もう、この服には手を通さないと思っていたのに。
闇に馴染む漆黒の衣装。そしてそれに対を成す、刀身まで漆黒の太刀。
ハンターズギルド所属の極秘部隊。通称『暗部』

その衣装に袖を通し、太刀を背負う。
脱いだ防具を丁寧にボックスにしまい鍵を閉める。

「・・・しばらく、MHDはおやすみだ」

また、あの月が綺麗な形で世界を明るく照らすまで。



月の光が消え、地上は闇に包まれた。
そして、再度光が地上を照らす頃、MHDは忽然と姿を消していたのである。

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