Tharrosがリオレイアを一睨みする。
リオレイアは一瞬体を震わせた。
Rikuの目にはそれが恐怖に映ってみえた。

火竜に恐怖を与える程度の威圧・・・。
人間の存在が竜に恐怖を与えるなんてありえない。
でも、それが現実としてあるのならば・・・
Rikuの意識は全てTharrosにもっていかれた。


回転するリオレウスの尻尾をよけて、溜めた力の勢いそのままに、足元で回転攻撃を加える。
思わぬ足のダメージに、リオレイアはそのまま地面に転倒した。
その隙を見逃さず、Tharrosは追撃に移る。

翼から、背、頭とTharrosの鉄槌が容赦なく襲う。
弱い部分を徹底的に破壊し、そして、最後に弱点部位を徹底的に叩く。
リオレイアの堅い鱗が衝撃に耐えられず、ヒビが入り、欠けていく。
その度にリオレイアから悲痛な叫びが聞こえた。

その圧倒的な強さと、技術にRikuはただ見入っていた。
舞うように美しく、しかし、えげつないほどの容赦のなさに感心する。
悪乗りが過ぎるだとか、単純にプレイスキルの高さを評して『暴虐女帝』と呼んでいたがそれは時期尚早だったかもしれない。
『陸の女王』リオレイアの前に圧倒的な強さを見せるTharros。
まさにそれは『暴虐女帝』名にふさわしい。

かつてはG級というハンター最高ランクの称号を手に入れた自分含め仲間うちでもこれほど見入ってしまうことはない。
まぁ、他人のソロ狩りなんてあまりみることないけどね。

怒涛の攻撃に、リオレイアが目を回したらしい。
スタンを取ったことを確認したTharrosはそのまま、溜め攻撃に移った。


気が付いたらリオレイアは全身ボロボロになっており、足を引きずってTharrosから離れていった。
敵に戦意がないことを確認し、Tharrosはハンマーを担いだ。
そして真っ直ぐRikuの元に走る。

「・・・Riku・・・」

先程のような覇気は一気に消え失せ、泣きそうになっているTharrosにRikuはえーっと、と頬をかいた。
リオレイアの火球にあたっただけでこの反応。ないわー。
軽い火傷しただけであとはどうということもない。
火やられも・・・まぁ痛かったけど、Tharrosが早急に水の中に放り込んでくれたおかげで大したダメージもなかったし。
むしろ、申し訳なくなってしまう。
Rikuはなんとか冷静を努めて言葉を探す。

「えっと、俺は大丈夫だからね」
「・・・でも、火球喰らって・・・」
「Tharrosさんのおかげで火もすぐ消えたし。
当たり所がよくってそこまで大したダメージにもならなかったし。
まぁ少し痛かったけど」
「・・・‥。」
「ほらティガのじゃがいもに当たるより全然まし・・・。
あれは流石に庇いに行くの勇気いるよね」
「・・・‥。」
「ていうか、クエストもう少し慎重に選ぶべきだったねぇ。
ブナハ火耐性最悪だし火球ブレス喰らったらかなり痛いし。
そのこと失念してたわぁ。ごめんね」
「・・・‥。」
「えーと・・・えー・・・」

自分には兄弟がいないし、素直な友人もいない。
まして女の子とかあまりしゃべったこともない。
こういうときってAshやBillyはどうしているのだろうか。
普段皮肉しか口にだしていないので、慰めの言葉がなかなかでてこない。
こういうとき二次元は楽だよねぇ。選択肢出るし。

「そんな泣きそうにならなくても・・・。
Tharrosさんに見入って攻撃参加しなかったのは謝るけど・・・」

きっとあの場面で加勢していたら今頃リオレイアは地に付していただろう。
しかし、なんとなくあの領域に自分が混ざるものではないと本能がそういっていた。
モンスターとハンターの1対1の真っ向勝負。
あの不思議な緊張感と感動はなにものにも代えがたい。
元々ソロプレイヤーな自分としては他人の真剣勝負に無粋に水を差すことはしたくないしねぇ、はぁい。
別にTharrosの危機というわけでもなかったし。

そういえば、回復していないことに気づき、Rikuは回復薬を飲んだ。
いくらなんでも見入りすぎだろ自分。
Tharrosを見ると先程とは少し表情が違っているように見えた。
なんとか、泣き止んでくれそうかな?

「さて、とどめさしに行きますかTharrosさん」

きっとあのリオレイアは巣で休んでいるだろう。
体力を回復されないうちに倒しておかねば。
水と土ぼこりを払ってRikuが立つ。
Tharrosものろのろと立ち上がった。

「・・・あの、」
「・・・・?」

『好意に甘えて、飛び切りの笑顔で『ありがとう』っていうのが可愛い女の子の基本なのよ』

息を吐いて心を落ち着かせた。
背の高いRikuと目を合わせるため顔をぐっとあげる。

「・・・ありがと・・・」

RikuはTharrosの表情を見て目を見開いた。

・・・Carry、私は上手く笑えただろうか?

++++

滝の隣を上って、岩でできた穴をくぐって、巣まで急ぎ足で向かう。
Rikuは後ろからちょこちょこついてくるTharrosをちらりとみた。
多分足の長さからして自分が早足になるとTharrosはかなり辛いだろう。
しかし、息も切らさず文句も言わず、Tharrosはしっかりついてきていた。
ここは自分がゆっくり歩いてあげるべきなのだろうが、リオレイアの討伐の方を優先したい。
そして、それはTharrosも望まないだろう。

・・・なんというかまぁ・・・

強くて、負けず嫌いで、プライドが高くて、素直で、可愛くて・・・。

Rikuは思わず口元に手をあてた。
三次元も、萌えるかもしれない。



巣の入り口が見えてきた。
あの大きな岩を登ればその先は火竜の巣である。

Rikuは、ひょいと、段差に手をかけて軽々と登った。
そして後ろをみる。
岩はTharrosの背よりも少し高かった。

「はい、Tharrosさん」
「・・・え?」

RikuがしゃがんでTharrosに手を差し出した。
Tharrosはその行為の意味が分かるまで少し時間がかかった。
手をかしてやる、ということだろう。
ちなみにこの巣には何度も通っているし、Rikuまでとはいかないがこの程度の岩1人で軽々登れてしまう。
いつもなら女扱いされて怒りが沸いてくるところだが、今は全くそのような気持ちは沸いてこなかった。
むしろ、嬉しかった。
一瞬手を伸ばすのをためらったが、Rikuの行為を無駄にするのも悪いと思い、TharrosはRikuの手をとった。

「よーいしょっと。
やー、ハンマー担いでても軽いねぇTharrosさんは」
「‥・・・・。」
「下手したらヘビィと同じくらいじゃね?」
「・・・‥。」

Tharrosは無言で先に進んだ。

気持ちの変化に混乱しつつある。
いつもなら絶対イライラしてるのに。孤島に来た時もRikuの言動にイライラした。
なのになんで今は・・・


光の奥に進むと、まずは広い空が目に入る。
孤島の一番高いところ、最深部にある火竜の巣はハンターだけが見ることのできる絶景ポイントだ。
太陽の光に目をやられながらも、隣をみると先程のリオレイアは寝息を立てていた。

「おー、寝てる寝てる。」

弾をボウガンの弾を入れ替え、Tharrosの後ろでRikuが言った。

「Tharrosさん、ちょっと離れててね」

スコープを覗いてRikuが慎重に焦点を定める。
Tharrosもハンマーを抜き、構えた。
Rikuが引き金を引く。

普通の弾より少し大きいそれは、リオレイアに着弾したと同時に大きな爆発を起こした。
突然の衝撃と痛みにリオレイアは悲鳴を上げた。
まだ残る余韻の噴煙の中からTharrosの体が踊りでる。


さして時間もかからないうちにリオレイアは地面に伏した。

「いっちょあがり」

ボウガンをしまって、Rikuは剥ぎ取りナイフをだした。

「Tharrosさん何ならTharrosさんの分剥ごうか?
新調したブナハ血なまぐさくなるの嫌でしょ」

先程暴れすぎたせいか、すでに血や土がついている。
いつもなら気にしないが、Rikuの申し出を断るのは気が引けた。

「なら・・・お願い」
「了解。
あ、俺あまり運ないから内容については期待しないでねぇ」

Rikuの剥ぎ取っている間手持無沙汰だったので、Tharrosはその辺のジャギィの相手をしていた。


剥ぎ取りもほとんど終了し、素材をポーチに詰め帰ろうとしたその時、急に真上に影ができた。
振り返り仰ぐと裕に金冠サイズあるだろうリオレウスの姿があった。
その眼は怒りに染まっている。
急な出現に反応できず2人はリオレウスの咆哮に固まってしまう。
このリオレイアとつがいだったのだろうか。

2人はすぐに武器を取った。
Rikuは弾を装填し、笑った。

「いやぁ、なんていうか・・・リア充爆発しろ!」

拡散弾を頭上のレウスに放つ。
いきなりの攻撃に、レウスはそのまま地におちた。
そこをTharrosのハンマーが迎え撃つ。

Rikuは通常弾に切り替え、ボウガンをしっかり固定して、スコープを覗く。

「さっきはTharrosさんにオイシイところもっていかれたからねぇ。
荷物も重いし、少しは減らしておきたいんだよね」

Rikuのボウガンから止まることなく弾が発射された。

++++

ほどなくして、リオレウスは弱々しい悲鳴を残し、地に付した。
Rikuは何もいわずTharrosの分の素材を剥ぎ取っている。
倒すモンスターもいないので、TharrosはRikuの剥ぎ取りをじっとみていた。

なんで今のRikuに怒りが沸かないのかわからない。
剥ぎ取りも自分でできるのに。
足手まといで、剥ぎ取りも全てやらせて・・・Rikuはこんな自分と一緒にいるのが嫌ではないのだろうか。

剥ぎ取りが終わったらしくRikuは立ち上がった。

「終わったよ、Tharrosさん。
さて、日も暮れそうだし早いところ帰ろうか。
ネコタクのタイミング悪かったらしばらく帰れなくなりそうだし」
「・・・素材・・・」

Rikuのポーチが剥ぎ取った素材でいっぱいになっている。
みているだけでも重そうだ。

「あぁ、俺持つよ。
心配しなくてもちゃんと取れた分だけ後で渡すからね」
「でも、・・・重くない?」
「いい筋トレになりますしねぇ、はぁい」

すたすた歩いていってしまうRikuの防具の裾をつまんだ。
Rikuの言葉に、怒りではなく不安がとんどん積もっていった。
辛くて、Rikuに聞いてしまう。

「私、邪魔じゃない?」

RikuはTharrosの言葉に首をかしげた。

「・・・なんで?今日の狩りの功労者はTharrosさんじゃない」
「だって・・・。
火耐性ないからって庇ってもらった・・・
素材剥いでもらった・・・今も、荷物持たせてる・・・」

Rikuは苦笑した。
しかし、表情だけでとどめることはできず思わず笑ってしまう。
あぁ、なんか可愛いなぁ、もう。
妹ってこんな感じなんだろうか。
今まで、沸いてこなかった感情だ。

「Tharrosさんはそんなの気にしなくていいよ。
Ashとか普通に俺に押し付けるし、まじないわー。
野郎ならともかくTharrosさんのためなら割と何でもやるよ俺」

『『あのね、Tharros、『瑠璃色の龍玉』が欲しいなっ』』と上目遣いのキラキラした目で言われたら、ちょっと考えるけどね。

「・・・・っ」

Tharrosは言葉が出なかった。
SakuraやCarry、Lamiaが過保護すぎるほど兄に大切にされているのをみて、少し羨ましいと思ったことはある。
Billyも勿論優しい。多分、自分が望めばそうしてくれる。
でも、自分はそれを望まなかった。
護られ、大切にされるよりも、共に並んで歩くことを望んだ。
今でもそれは変わらない。
どうやら自分には狩りのセンスがあったらしく、Billyと共にめきめきとその強さを伸ばしていった。
今では『暴虐女帝』と呼ばれ、畏怖されるほどの存在になっている。
護られなくても生きていけるのだ。
だから護られる必要なんてない。

・・・だから、自分はおとぎ話でみたお姫様にはなれない。そう思っていた。
小さいころGoodmanが買ってきてくれた絵本にいた綺麗でか弱いお姫様。
憧れなかったといったら嘘になる。
かっこいい騎士が守ってくれて、無条件で愛される。
そんな姫になりたいと、思っていた時期もTharrosにはあった。
今も、なりたいと思っている。少しだけ。


「Tharrosさん?どしたの?」

岩の下でRikuがこっちを向いていた。

「暗くなってきたし、ぼーっとしてたら危ないよ」

そういって、手を差しのばしてくれる。
これを『女、子ども扱い』ではなく『好意』だと気づけたとき世界は変わった。


「Riku・・・、」
「はぁい?」
「・・・今日は、いろいろありがと・・・」

Tharrosの素直な礼にRikuは苦笑した。
お礼を言われるのは慣れていない。

「まぁTharrosさんが良ければまた一緒に狩りにいってもいいかなー・・・なんて思ったりもして?」
「本当っ!?」

声のトーンが上がったのを確認して、Rikuは口をひきつらせた。
なんて、楽しそうなんだ。
嫌な予感しかしない。

「・・・えっと、なんというか・・・。
お手柔らかにお願いします」



キャンプに戻り、ネコタクに迎えを依頼した。
Rikuはポーチを開いて剥ぎ取った素材を眺める。
原則、剥ぎ取りは一頭につき1人3回までと決まっているので見つかる前に分けてしまいたい。
別に火竜素材はいらなかったので適当に分け、Tharrosに渡した。

「はい、これ、Tharrosさんの分」
「・・・ありがと・・・。
・・・・Riku」
「はぁい?」

Tharrosは少し怒っている。

「なんで紅玉が2個も入っているの?」
「なんでだろうねぇ。運良かったねTharrosさん」
「Riku!」

Tharrosが怒る前にRikuは手を挙げた。降参だ。

「私火竜素材いらないんだよね。どうせこれも売却予定だし。
せっかくレア素材でたんだしTharrosさんもらっておいて」
「でもこれは平等じゃない」
「世界は女の子が良い方に傾いてんの」

全く相手にしてくれない。
Tharrosは無理やりRikuのポーチの中から上鱗をひっぱりだし、代わりに雌火竜の紅玉をいれた。
Rikuも諦めたように笑う。

「素直じゃないねぇ・・・もらっとけばいいのに」
「いいの」

Tharrosは火竜の紅玉を眺めた。
長い間リオレウスの中でゆっくりと作られ、そして綺麗に赤く輝く丸い珠。
それだけではなんの効果もないのに、それはとても美しく価値があるように見える。

SakuraとLamiaからもらったアクセサリーもそうだ。
身に着けてもなんの効果も生まないのに、友達からもらっただけで価値がある。
そしてこの紅玉は。

Tharrosはぽつりと呟いた。

「これ、大切にするわ」

Tharrosともあろう人が火竜の紅玉なんて珍しくもないだろうに。

「使うか売った方がいいと思うけどねぇ。
まぁTharrosさんがそう思うんならいいんじゃない?」

女の子の思考はいまいち理解できない。

遠くから明かりがこちらにやってくる。
どうやらネコタクがやってきたようだ。

++++

後日。

Rikuが温泉に浸かっていると、後ろから物凄い殺気を感じた。
反射的に、温泉の中に潜る。
上を見ると、何か丸いものが瞬速で通過したのがみえた。
同じ場所に頭を出すのは危険と思い、少し離れたところで頭をだす。

「なに!?」
「・・・‥。」

そこには怒りのオーラをまとい、湯あみ姿に不釣り合いなまがまがしいハンマーを手にしたBillyが仁王立ちしていた。
え、ちょ・・・ここ武器禁止・・・ていうか誰か止めてよ。
スタッフ―!スタッフゥゥー!!
後ろをみるとスタッフのアイル―2匹がガタガタと怯えていた。
Billyの威圧に完全に負けている。

「え、・・・え?Billyさん?なに?どしたの?」

滅多に感情を露わにしないBillyがとんでもなくお怒りのようだ。
え、私何かした?
心当たりがまるでないんだが・・・
と、そういえばこの前Tharrosと2人でクエストにいったことを思い出す。

・・・いやいやいや、別にBillyさん怒るようなことなにもしてないし。
私、今までの人生の中で一番紳士だったよ!
自分でも思い出したら恥ずかしくなるくらい超紳士だったよ!
Tharrosさんに傷一つつけなかったし!いやそれはTharrosさんのプレイスキルがあってこそだけど。

ドン、とハンマーが地面におかれた。ザバザバと温泉に入ってきてRikuの前で仁王立ちになる。

「・・・・Billy・・・さん?」

Billyに狩られるモンスターってこんな気分なんだろうか、と心の中で呟いた。
まじ怖い。

「・・・Riku」
「・・・え、はい」

がしっと肩を掴まれた。真正面から睨まれる。
いやだ、ものすごくこわい。

「Rikuじゃなかったら、『人殺しのハンマー』の称号をもらうところだった」
「・・・・お??」

・・・は?なにそれそれどういうこと?
確かにさっきの一振り避けなければ完全に頭と首の骨逝ってたけど。
部位破壊とかそんな生易しいもんじゃない。
人生が終わる。

「Tharrosをよろしく頼む」
「はぁい?」

訳がわからないよ。

そのままBillyは温泉に使ってドリンクを飲んで次のクエストに行ってしまった。
Billyの言動の意味は謎のままである。
なによろしく頼むって。
Billyさんでも嫌がる難題クエストTharrosさんが行きたがってるから一緒に行ってきて頼んだぜ。ちなみにTharros傷つけたらどうなっるか分かってんなゴラァ。
ってこと?

え、マジで?

「ないわー、まじないわー」

大きく息をついて温泉タオルを頭に乗せなおした。
先日の狩りで火竜の素材はすべて売ったがなんとなく売れなかったものが1つだけある。
Rikuはそこで手に入れた雌火竜の紅玉を眺めた。

『瑠璃色の宝玉』かぁ・・・悪くないね。と、思案しながら。

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