人はその地を楽園と呼んだ。


その地には全てがあった。
肥沃な大地、深い樹海、広がる海原、灼熱の砂漠、そびえたつ雪山、燃え上がる火山。
その雄大な自然から全ての恩恵を与えられ、人々は満たされた中生活をしていた。

ある王様がいった。
ここは楽園だ。世界の全てがここにある!

しかし、ある一冊の書を見て、王様はその地に全てがなかったことを知る。
全てを欲しがった王様は全てを揃えるために家来に命を与えた。

全てを揃えよ。この本に記される全てを!世界の全てを!

そして長い年月をかけ、王様の願いは叶えられた。

世界の全てがここにある!ここが楽園だ!

++++

「おぅ、やっと帰ってきたかチミィ!」

クエスト帰りに声をかけられたNobutunaは首を傾げてギルドマネージャーの元に足を運んだ。
1つの猟団長のNobutunaとギルドマネージャーは切っても切れない関係だ。
猟団を維持し続けるためにはギルドの力が不可欠なのである。
・・・何かあったときとかの補償、とか。
世知辛いがそんな世の中だ。

「なんスか。ギルドマネージャー」

猟団MHDは全員が元G級ハンターで構成されており、話も分かるメンバーばかりであるのでギルドでは重宝されている。
訳ありクエストも事情次第で受けてくれるためギルドマネージャーから直々にクエストを依頼されることも多々あった。
Nobutunaはカウンターの前まで歩く。

「チミ宛てに手紙じゃよ」

渡されたのは一目で高級だとわかる紙でできた手紙であった。
どこかの紋章の印が押されている。
その紋章にNobutunaには見覚えがなかった。

「俺の知り合いにこんな偉い人いないんだけどなぁ・・・」

たまに評判を聞きつけ、どこかの王族から個人的に依頼を受けることもある。
大体は私利私欲の頼みであるため、無視だ。

とりあえず、中身だけでも改めようと、剥ぎ取りナイフで器用に封を開けた。
ジジ・・・と咥えていたタバコが灰になる。
Nobutunaは目を細め、整った字で書かれた手紙を呼んだ。

「・・・こりゃぁ・・・」

読み終わった後Nobutunaは苦笑した。
ギルドマネージャーが面白そうにNobutunaを見上げる。
いつもはすぐに火にくべてなかったことにするのに、珍しい反応だ。
答えあぐねている様子をみれば、受けるか受けないか迷っているようにも見える。

「なんじゃ?面白いクエストでも書かれていたか?」
「まぁ・・・そうだなー・・・」
「受けるのか?」
「悩み中」

手紙を数回読み直してNobutunaは決めた。

「お姉さん、便箋と封筒4枚とお姉さんの愛、頂戴」

カウンターの受付嬢に声をかけると、便箋と封筒4枚、そして完璧な笑顔と親指を下に下げられた。

その笑顔、プライスレス!

「ギルドマネージャー、ここコピーとかできる?」
「時間かかるが可能じゃよ」
「んじゃ、この手紙とこの地図4枚コピー頼む」

そうして、Nobutunaはしばらく執筆作業に移る。
便箋には簡単に一言。

『面白いモンが届いたから冒険してこい!』

封筒には適当に宛先を記入し、先ほどコピーされた手紙と地図を入れた。
そして丁寧に封をする。

「じゃ、これ4通頼むわ」

受付嬢に4通の手紙を渡し、Nobutunaは温泉の暖簾をくぐった。

・・・あいつらがいなくなって2週間。
そろそろ馬鹿騒ぎしながら酒も飲みたくなってきた。
紅葉の浮かぶ温泉につかり、酒を片手にNobutunaは2週間前のことを思い出した。


「了解したにゃ!」

手紙を持ったアイル―がユクモ村から出ていくのをみてNobutunaはうっすら思った。
一応手紙を出してみたはいいが・・・ちゃんと届くのであろうか。

++++

『はーい、みなさん注目ー!!
MHD定例会議を始めます』
「・・・あれ、俺ら定期的に会議なんてやってたっけ?」
「こまけぇこたいいんだよ。雰囲気大切だよ雰囲気。
さて本日皆に集まってもらったのは他でもない・・・って聞けぇぇぇ!!!」

jackの突っ込みを鮮やかに流し、それでも静まらない場にNobutunaは一喝した。
猟団としてまとまってはいるが組織というより友達の集まりといった方がいいこの集団は異常に仲がいい。
それはチームワークとしては最高にいいのだが、真面目なことができないのが玉に傷だ。

いつまでも騒ぐSEVENとAshをBillyが強硬手段で黙らせ、笑い袋となったSkyはその辺に放置し、Nobutunaは話を進めた。

「えー、皆が日頃ユクモ村のため、世界のために武器を振るい、モンスターを狩ることでユクモ村は今も平穏を保ち続けています。
それは一重に皆がサボらず真面目に狩りをし続けた結果だと、俺も喜ばしい」

『そうだ!そうだ!!』『ユクモ村万歳!』

変な野次が聞こえるがもう無視する。

「だが、それに伴い少し問題が出てきた。
例えばBilly」
「・・・・なんだ?」

静かにハチミツレモンを飲んでいたBillyがいきなり話を振られ顔を上げる。

「各大型モンスターの狩猟数を述べよ」

あぁ、とBillyはギルドカードを取り出した。
モンスターの狩猟数はいちいち覚えていられないが、このカードには全てが記されている。
隣のSEVENがBillyのギルドカードを覗きこむとある違和感に突き当たった。

「・・・Billyはん・・・これ、もしかして・・・」

計算されたように綺麗にそろえられたモンスター狩猟数。

「手始めに上から40頭ずつ狩ってこうかな、って思って・・・」

ざわり、と場の空気が動いた。
やはりMHDの職人は格が違った!
ポッケ村でキリンを絶滅させかけた職人はユクモでも新たにモンスターを絶滅させようとしていた。

「流石Billy、全称号コンプリートってわけか・・・」
「次はジンオウガあたりにいこうかと思っている(`・ω・´)キリッ」
「やめて、ジンオウガも絶滅しちゃう!あいつこの辺にしか生息してないんだから!!」

「・・・とまぁ・・・、お分かりいただけただろうか。そういうこった。
それはBillyに限ったことではないと思う」

Nobutunaはギルドから借りたここ最近のクエスト一覧表をだした。
上位クエストが極端に少なくなっている。
そういえば最近クエストの数が減っていると思ったら・・・。

「俺たちが狩りすぎて、大型モンスターがこの辺にいなくなったってわけですね」

復活したSkyが言う。Nobutunaは頷いた。

「上位クラスになると下位に比べて個体数も減ってくる。
亜種ならさらにその上をいく。
時間も立てばまた同じように別のところから強力な個体がやってくると思うが・・・。
俺らは無作為に狩りをするわけじゃない。
自然のバランスを壊せば、それは今の生活を壊すことにもなる。
モンスターの乱狩は世界のバランスを崩す」

自然が、自然であるままに。
人々は自然の恩恵を与えられ生きている。
自然が、自然であるままに。
人々は、あるがままの自然を愛す。

その秩序を壊せば、残るのは人工で作られた不自然な自然。
それは、人々が望んだ自然だろうか。

「じゃあ、何?俺らしばらく狩りを辞めるわけ?」

Rikuが言う。それが結論だった。

「まぁそういうこった。
1ヶ月〜2ヶ月待てば仕事もそれなりに戻ってくるだろう。
・・・が、勿論2ヶ月も暇を持て余し、遊びほうけていられるお前たちじゃないだろう」

特にBillyとか発狂しそうだ。

「どうすんのさ。拠点変えるの?」

どうせならガルルガさんがいるところがいいなぁ、とFaltが目を輝かせた。

「いや、拠点はこのままユクモだ」
「それはNobuちゃんがここ気に入っちゃっただけじゃないの?」

jackが確信をつくがそれも流す。

「そこでだ!お前ら喜べ!
MHD初の夏休みを作ることにしました!」

『な、なんだって―っ!?』

『夏休み』それは誰もが心を躍らせる単語。
聞いただけでワクワクが止まらない。
あんなことや、こんなことや・・・。色んなやりたいことが頭の中をよぎっては消える。
燃え尽きるような熱い戦いから、ちょっぴり切ない恋の物語まで、夏は偉大な夢を持っている。

「ハンターに休みなんてないから、いい機会だろ。
お前ら世界を見てこい!
そして2ヵ月後、強くなったお前らをここで俺は待っている!」

『うおぉぉぉおおおお!!』

新たな世界。
強くなった自分。

考えるだけでなんて熱い!!

「・・・新たな自分を求めて孤独な旅か・・・悪くない」
「先生、Ash君が厨二病です」
「一生治らないからほっときなさい。
そんな感じで丁度月をまたぐ来週から夏休みにしたんで各自旅支度を済ませておくこと。
俺はユクモ村に残ってここの平和を守る系の仕事続けてしてっから。
なんかあったらすぐ連絡すること。Nobutunaの連絡先メモっとけよー。
以上!!」

俺、ディアブロス狩りに行く!!
俺、リオレウス〜。
ガルルガ一択!!

楽しそうに話題が弾む中、静かにRikuとjackが呟いた。

「・・・『夏休み』って聞こえいいけど・・・・。
不況の中会社が暇でGWやお盆休み伸ばされた、挙句の果てにいらない長期休暇押し付けられたサラリーマンと対して変わらない心境な俺」

このよく分からない不安と虚しさはなんだ。

「ていうかNobutunaここ動きたくないだけじゃん。
毎日温泉と酒の往復したいだけじゃん」

拠点変えないのも、実は永住する気満々なんだろ。
老後はここのギルドマネージャーの座を虎視眈々と狙ってんの俺知ってんだぜ。

「きーこーえーなーいー。
まぁまぁいいじゃねぇの。この機会に中々いけないところ行きなって。
ハンターなんて中々好きに休み取れないんだしさ。
ネコートさんとしばらく会ってねぇんだろRiku?」
「・・・え、・・・まぁ・・・そうだけど」
「ナナもこの辺生息してないからなぁ・・・。
久しぶりに足を伸ばして古龍探索もいいんじゃないか?」
「・・・別に、俺は・・・」
「ユクモ村にきて結構経ったからなぁ・・・。
今まで必死に走ってきたけど、ここらで後ろ振り返ってみてもいいんじゃねぇか?」

Nobutunaの笑顔に完全に流されてしまった。
やはりここの猟団長は彼にしか勤まらない。

なんだかんだでNobutuna以外の全員がユクモ村をたった。

++++

「・・・で、結局仕事とか。ないわー・・・まじないわぁ・・・」

昼間でも暗い、木がひしめき合う樹海の中を、ネコタクに乗りながらRikuは進んでいた。

Nobutunaからポッケ村に手紙が来たのは数日前。
ポッケ村を拠点としてG級クエストをこなしていたRikuはいち早くその手紙を受け取った。
誰に送られているのか分からないが、自分一人ではないことは容易に予想できる。
こんな面倒臭い内容の手紙、自分が意気揚々と参加するわけないからである。
行ったふりして素知らぬ顔で帰ってくるのが自分だろう。・・・自分でもそう思う。

でも実際従っちゃう自分が、なんとなく悔しい。

冒険してこい!と書かれていることからNobutunaは動かないであろう。
多数に送られていると仮定して、おそらくこのクエストに嬉々として乗るのはBASの3人とFalt、Sky。
クエストの内容的にこれといった期限が仮定できないため、最悪『夏休み』の2ヶ月で帰ってこられない場合もある。
緊急事態時にユクモ村へすぐに戻れる人数も必要。
パーティを組むなら4人が理想。それ以上は人数がばらけて動き辛い。
ならば先程リストアップした中から俺を含めた4人のパーティとなると・・・・。

・・・うん、BAS+R(俺)かな。

不本意ながら納得してしまった自分がいた。
他のメンバーだけにすると目先のことに飛びついて、目的を見失いそうになると考えたNobutunaらしい・・・。
ただしRikuは犠牲になる。

クエストの内容もそうだが、この先のBASとの長い共同戦線を思って、Rikuは心が重くなった。
ユクモにいるときはクエスト1つ終われば離れられたし、他のメンバーもいるが、今回4人だけで1ヶ月は最低滞在することになるだろう。

「しかし、あいつらちゃんと手紙受け取ってんのかねぇ?」

ポッケ村を拠点としていた自分には連絡手段があったが、Billyなんかは未開の地にいくとかなんとかで高確率で音信不通だ。
・・・ていうか、音信不通とか分かっていながら、全員揃う前提で考えてるんだろうね私。
自分でも不思議で、でも、それでないと変な感じがする。
そして、そこまで分かっていてもここに来ちゃう私。
救えないねぇ、全てが。

遥か上に見える樹海の木々からこぼれる光を見上げ、Rikuは目を閉じた。
あと少ししかない1人の時間を今は楽しもう。

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