とある街人はいった。

この地は地獄だ。
全ての最悪がここにある、と。

++++

ネコタクが1台、樹海の中を進む。
昼間でもうっすら暗く、湿気を含んだそこは少し肌寒い。
遠くから獣の鳴き声が聞こえるが、周囲は至って静かだ。
昼間でも薄暗いそこは、夜になると完全な闇となる。
その中で生存を争ってきたモンスターは森丘や密林のそれらより圧倒的に強く、優れている。
一度入れば高い木々に覆われ方向感覚を失い、慣れたものでないと遭難する可能性もある。
その中で大型モンスターに出会えば、普通の人間では帰ってこられない。

普通は樹海を迂回し、森丘の舗装された道があるのだが、鷹見のピアスを装備しているRikuは危険を予め避けることができた。
移動に時間を掛けたくなかったためネコタクアイル―に無理を言って、Rikuは最短ルートで街に向かっていた。

樹海を進み数時間が経った頃、ある気配に感じてRikuは体を起こした。

「・・・東の方向に何かいるねぇ・・・」

大きくて、強いのが。
樹海にいるモンスターを数匹思い浮かべるが、多分この動きは奴だろう。
軽くてしなやか、それでいて丈夫な鱗。
身に纏っている装備を見て、そのモンスターを思い浮かべる。

「進路どうしますかニャ?」
「いや、このまま真っ直ぐ。危なくなったら知らせるよ」
「了解しましたニャ。
旦那さんのそのピアス羨ましいニャ。
僕らもつけられればいいのに・・・」

アイル―の呟きにRikuが苦笑した。

「これは視えすぎるからねぇ・・・。
半径1qの効果くらいなら確かにネコタクに渡してもいいとは思うけど。
でも君らもそれなりに分かってんじゃないの?」
「まぁ気配くらいなら・・・」

より安全な運搬のためにも必要だろう。
ちょっとギルドに投書してみようか。
俺らだって運ばれるならより安全な方がいい。

Rikuは東の方を見ながら目を細めた。
実際見えないが、癖のようなものだ。

「・・・でもなんか変なんだよねぇ」
「何がだニャ?」
「敵がいないのにあらぶってる。
狩りでもしてんのかなー、こんな昼間から」

ナルガクルガは夜行性で、昼間は木の上に寝ているはずだ。
昼間からこれだけ動いているということは、休んでいたところをなんらかの理由で起こされた以外考えられない。
近寄らないに越したことはないが、あまりにも妙で気になりもする。

「ねぇ、この辺のナルガ夜行性じゃないの?」

地方によってモンスターの生態は微妙に違ってくる。
例えばリオレイアは全世界に生息しているが、地方により鱗の色や攻撃方法まで微妙に違う。
ポッケ村でみたナルガクルガと、ユクモ村で見たナルガクルガは弱点の属性まで違っていたし。
夜行性のナルガクルガも、地方により日中に活動するということもなきにしもあらず。
人間だって夜行性いるもんね。

そのモンスターの名前を聞いただけでアイル―は震えあがった。

「ニャルガクルガッ!?
そんな奴が近くにいるのかニャッ!?
全然気づかなかったニャやっぱり樹海怖いニャ!!」
「・・・いや、まだかなり離れてるし、向こうもこちらに気づいていない。
ナルガクルガ自体も結構人見知りだからお腹がすいていない限り向こうから干渉してくることはほとんどないと思うよ。
心配なら鈴つけとけ、鈴。」
「大変ニャ!持ってないニャー!」
「・・・いや、今は俺いるからいいんじゃないかな」

純粋すぎて冗談も真に受けてしまうらしい。
可愛いが、私と会話はできないねぇ。

「・・・・じゃなくて、この辺のナルガって夜行性か聞いてたんだけど」
「ナルガクルガが昼間に活動するなんて聞いたことないニャ。
でも樹海なんて誰も入らないし、どこまで本当か分からないけどニャ」

・・・正論だ。
樹海の生態事態他の地形に比べて情報が少ない。
木に覆われ、上からも観察できないし、まさに野生の危険な箱庭だ。

「ふーん・・・そう・・・・」

これはただの勘だが、この感じ・・・。
嫌な予感がする。
大体嫌な予感は当たるのが世の中の常。
Rikuは頭の中にいくつかの選択肢を作った。
できれば厄介事は避けたいのだが・・・。

ナルガクルガがゆっくり移動している。
やがて小さい気配もRikuに伝わってきた。

・・・ビンゴ。

当たって欲しくない予感を的中させてしまい、Rikuはため息をついて頭を掻いた。
どの道、このまま進めば鉢合わせるだろう。

「・・・ちょっと進路を東へ」
「ニャッ!?東にはナルガクルガが・・・」
「・・・まぁ無視したいところは山々なんだけれど、・・・どこかの馬鹿が襲われているみたいなんだよねぇ」
「旦那さん助けるつもりかニャ」
「・・・俺1人なら無視してるところなんだけど、近々真っ直ぐでどうしようもないお馬鹿さんたちに会う予定なんでね。
後ろめたいことは少しでも減らしておこうと思って」

そうしないと、一緒にいる時間が窮屈で仕方ない。

「旦那さんカッコいいニャ!!」
「うん、ナルガを追い払ったらトンずらこくけどね」

ギルドからの救援があったとしてもこの樹海ではネコタクの派遣も遅れてしまうだろう。
誰にも伝えず入っているのなら救援のネコタクなんてこないわけだし。
・・・ただし、対外その場合はロクな理由で樹海に来ていないので、救った方が馬鹿をみる場合が多い。

ビリビリと、怒るナルガクルガの覇気がアイル―まで伝わってきたらしく、アイル―がビクリと震える。
Rikuは荷物の中から弓を取り出した。
ポッケ村でG級クエストをヘビィボウガンで行っていたが、やはり慣れない土地で、強いモンスターと戦うなら弓の方が安心する。
何より回避しやすいため、生存率が上がるし。

新しく張り替えた弦をピンと弾く。
腰に矢を取り付け位置を確認する。
矢を一つつがえ、スッと前を視る。

「ナルガに発見される前に止まっていいよ」
「・・・わ、分かったニャ」

アイル―はその辺の見極めが上手い。
自分の荷物が積んであるため、この荷車はできるだけ戦闘に巻き込みたくなかった。

「見つかったらすぐに潜って。
あとは何とかする」
「了解ニャ」

Rikuの雰囲気がガラリと変わり、緊張がピンと張り詰める。アイル―も台車を引く手に力がこもった。
狙いを定め、1本の矢が前方に真っ直ぐ飛ぶ。
ほどなくして、前方からモンスターの叫びが聞こえた。

「・・・じゃ、行ってくるわ」
「お気をつけてニャ!」

ネコタクから降りて、Rikuは走り出した。

++++

それは一瞬の出来事だった。
黒い影が目の前を過った瞬間、世界は地獄に変わった。
そのしなやかで、美しい黒い獣を見たとき、畏怖が身体全体を襲った。
獣から目が離せない。
逃げろ、と頭は警告するが、体は動かなかった。

獣が咆哮した時、体がビクリと震えた。
やっと動いた指をきっかけに、体を反転させる。

逃げないと。
本能的にそう感じた。
走り出した瞬間、狙いを見定めていたナルガクルガが跳躍した。

風が頬を切り、先ほどまで後ろにいた獣が目の前にいる。
グルル・・・とこちらを見て喉を鳴らす。標的を定めた視線。

喰われる。

本で見たことはあった。
授業で聞いたことはあった。
見た瞬間に、初めてであるのに理解した。

樹海で、本当にナルガクルガに出会うとは思わなかった。


喉から悲鳴が勝手に出て、自然と閃光玉を取り出していた。
パニックになりながらも冷静に投げられたと思う。
一瞬の光が周囲を包む。ナルガクルガが悲鳴を上げた。

体は勝手に走り出していた。

樹海の黒い狩人。
暗闇で光る赤い2つの光。
樹海でその赤い光を見た者は、二度と光を見ることはないであろう。


悲鳴を何度上げたか、何度木の幹に躓いたか、何度後ろを振り返ったか、何度光を求めたか。
進んでも進んでも深い木々が覆い茂る中、黒い影だけが視界をちらつく。
静かに、それでいて的確に追い込まれているのが分かる。
早く、早く・・・。
焦りと恐怖で息が詰まる。
無理矢理動かした体はすでに悲鳴を上げていた。
それでも止まるわけにはいかなかった。
黒い影がくる。黒い影が死を求めてやってくる。

ほら、黒い影が追いついた。

「・・・・っ!!!」

止まった身体を疲労が襲った。
足が震えて動けない。身体が酸素を求めて、息が上手くできない。
胸が苦しい、心臓が痛い。
何より、目の前に静かにこちらを凝視する存在。

怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い

いっそ死んでしまった方がいいのではないかと、覚悟した瞬間。
目の前を一筋の光が通過した。

その光はナルガクルガの頭に刺さって止まる。

「・・・・え」

突然の疼痛にナルガクルガが悲鳴を上げる。
喘ぎながら光の元を見ると、今度は数本の矢が立て続けに飛んできて、頭、胴、尻尾と次々に刺さる。

「・・・早速ナルガに当たるとか俺、運がないのかねぇ?
ショートカットと思ったんだけどナルガと鉢合わせるとかあまりにも代償でかすぎでしょう」

場にそぐわないのんびりとした声が聞こえる。
がさりと茂みが揺れて、金髪の長身細身の男が姿を現した。
その手に持つのは弓。
耳には特定クエストをクリアした際贈られるという一人前のG級ハンターの証、鷹見のピアス。
身体に纏うは、目の前のモンスターから作られたナルガ装備一式。
その男は、俺を見下ろしていった。

「あんたは運があったみたいだねぇ。
この樹海でナルガにあって命もって帰れるなんて、強運持ち過ぎ」
「・・・貴方は・・・」

なんでもないように彼は怒りを露わにするナルガクルガの前へ歩みを進めた。
その歩みは、平和な野原の中心を歩くかのよう。しかし、その動きに隙はなかった。
俺の言葉に男はへらっとした薄笑いを浮かべた。

「喋ってる暇あったら逃げたらどう?
G級モンスターは逃げる相手を生かしてはくれないよ」

瞬間、自分を助けてくれた金髪の男にもナルガクルガ同様恐怖心を抱いた。
このタイミングで現れ、自分を庇ってナルガクルガの前に立っているにも関わらず、自分を助ける気などないという風な言葉。
自分の命など始めからどうでもいいというように。

Rikuは矢を取り出して構えた。

「弓なんて久しぶりだから何かで少しは練習したいとは思ってたけど・・・、
G級ナルガとか、俺って超ドM」

矢が放たれる。ナルガクルガが動く。
緊迫する空気の中、金髪の男の口元に笑みが浮かぶのがはっきり見えた。

++++

狙いを定めて跳躍するナルガクルガをRikuはさらりとよけ、次の矢を取り出す。
すぐに体の向きを変え、タイミングを合わせて矢を放つ。
丁度スピードの乗ったときに矢がナルガクルガに当たる。
ナルガクルガがRikuを次に視界に入れる頃には10本ほどの矢が、ナルガクルガを襲っていた。
長いしなやかな尻尾を振り回すが、絶妙な位置でRikuは後ろに軽く飛ぶことでかわす。

「・・・ユクモにきてからFaltの立ち回り変わったと思ったけど・・・、これがステップねぇ。へぇ便利ジャン」

Rikuを攻撃できないナルガクルガが苛立ちを露わにし、威嚇をする。
Rikuはそれを何事もないように流し、顔を中心に矢を浴びせる。

あまりにも正確過ぎるその矢筋に違和感を覚える。
笑みを浮かべながらも真剣な眼差し。
確かめるように一つ一つの矢に握り直す弓。

本当に、この人はナルガクルガで弓を慣らしているのだろうか。
矢が放たれる瞬間、ヴォンと低く弦が鳴る。
今まで聞いたこともない、低くて、力強い弦の震え。

これが、G級ハンター。

次にRikuは急に上方に矢を連射した。
的外れな矢は数秒後に地に刺さる。
Rikuはもう一度上方に矢を連射する。
それもナルガクルガに当たったのは1本だけであった。
しかし、それも刺さらずナルガクルガの鱗を滑り落ちていった。

ふむ、とRikuは一度目を細める。
何かを考えているように一点を見つめる。
ナルガクルガの体当たりを交わし一定の距離を置く。

「・・・こういうことか。」

力を込めて絞った、数本の矢を一気に上方に飛ばす。
こちらに攻撃がこないと判断したナルガクルガはRikuをじっと眺めている。
Rikuは新しい矢をつがえた。

「案外、できなくもないかも。私、天才じゃね?」

景気づけに、貫通矢をナルガクルガ向けて軽く放つ。
威力がないと判断したナルガクルガは前足に力を溜めた。
Riku向けて跳躍しようとした寸前、上から矢の雨が降り注いだ。

「曲射、習得完了」

ちょっと距離を読むの面倒だ。時間差もある。
威力は申し分ないようだが、実戦でどれだけ使えるか未知数だ。
曲射を習得した当初Faltはふざけて近接に当てまくっていたが、主にそれが使い道なんじゃと思っていた時期もあった。


突然の上からの衝撃にナルガクルガはたまらず仰け反った。

さぁ、怒れ。

Rikuの目にも笑みが浮かんだ。

ナルガクルガの瞳が赤く染まる。
全身の鱗特に尻尾の鱗が逆立ち、棘のように鋭く突出する。


「練習はこの辺にしておこうかねぇ」

ナルガクルガの咆哮に向かってRikuは走った。
クリティカル距離で矢を放ち、それでもナルガクルガに向かう足は止めない。
互いにぶつかる手前でRikuが跳躍する。
ナルガクルガの上で体をひねり、つがえた矢を背に放つ。
空中にいる中でも新たな矢をつがえるのを忘れない。
地面に着地し、つがえた矢を放つ。

息をつく暇も与えない矢の応酬。
怒り状態のナルガクルガは従来に比べ動きも早くなっているというのにRikuはその上をいっていた。
地を、宙を縦横無尽に跳ね回り、隙を与えず容赦なく矢を放つ。
傍から見ればナルガクルガとじゃれ合っているように見える錯覚を覚える。
Rikuはナルガクルガを行動を知り尽くし、その上で狩ることを楽しんでいる。

先程の正確さ程ではないが、それでも狙いは外さない。

これが、彼の本当の狩りの姿。

ナルガクルガの尻尾が膨らみ、棘が一層大きく鋭くなる。
勢いをつけて上から叩きつけられる尻尾。
それをかわしてRikuは上方へ矢を放った。

「・・・チェックメイトってところかな?」

地面にめり込んだ尻尾を持ち上げようともがくナルガクルガの上に矢の雨が襲った。

顔を傷つけられたナルガクルガは、怒りを込めてRikuを睨んだが、そのまま木の上に飛び乗り、樹海の奥へ消えていった。


「・・・・・・。」

それを見送ってRikuは頭を掻いた。
思いのほか楽しんでしまった。
ヘビィボウガンではこのように身軽に動けないため、物足りなさもあったところだ。

弓をしまいネコタクへ戻る。
このまま進めばとりあえず障害もなく樹海を通過できるであろう。

「おーい、ネコタクアイル―」

呼べば、台車を押したアイル―が茂みから出てくる。

「旦那さん凄いニャ!めっちゃ強いニャ!」
「まぁ俺ですからねぇ、はぁい」

そのまま台車に乗り込むRikuに、助けられた上位ハンターはやっとの思いで声をかけた。

なにもかも夢をみているようだ。
樹海でナルガクルガに出会ったことも。
そのナルガクルガをいとも簡単に撤退させてしまうハンターが目の前にいることも。

「あの、助けてくださってありがとうございます」

Rikuは興味がないようにハンターを見た。

「あぁ、まだいたの?死ぬつもりだったの?悪いことしたねぇ」
「・・・いや・・・その・・・」
「ちなみに、これ1人用の台車だから。悪いねぇ」
「・・・いえ、・・・あの、徒歩でもいいんでついていってもいいですかっ!?」

台車に乗っているのは旅の荷物だ。
そんな荷物を積んで、この樹海を通るということは目的地は一緒のはずだ。
またナルガクルガに遭遇したら今後こそ死んでしまう。
上位ハンターの根性が気に入ったのか、Rikuが隣を叩いた。

「頑張るね、君。
あ、そうだ。俺のネコタクの代金払ってくれたら乗せてあげなくもないよ」

1人用の台車じゃなかったのか。

「え、いいんですか?」
「いいよ、ちょっとアイル―くんが大変になるけど。
あと俺の質問にいくつか答えてくれる?」
「はい、俺の答えられることでよければ!」

ハンターが乗車し、ネコタクは樹海を走り出す。
Rikuは荷物の中からこんがり肉を取り出しかじりついた。さすがにはしゃぎ過ぎた。

「なんで、君は樹海にいたの?」
「え?」
「・・・あと、この先にある街のことを少し聞かせてくれない?」

既に何かを掴んた上での質問。
恐る恐るRikuを見ると、先ほどのような覇気はなく、ヘラリと笑っている。
しかし、相変わらず隙がない。
瞳は獲物を捕らえたモンスターのような。

上位ハンターは少し考え、そしてポツリポツリと話し始めた。

[★高収入が可能!WEBデザインのプロになってみない?! Click Here! 自宅で仕事がしたい人必見! Click Here!]
[ CGIレンタルサービス | 100MBの無料HPスペース | 検索エンジン登録代行サービス ]
[ 初心者でも安心なレンタルサーバー。50MBで250円から。CGI・SSI・PHPが使えます。 ]


FC2 キャッシング 出会い 無料アクセス解析