それは月の光も消え、闇が地上を包む朔月。
じっとりと湿気を含みながら、悪夢は始まった。


プロローグ


少女は夜、親がこっそり外に出て行くのを知っていた。
そして村の広場に集まり、皆で山に入っていく。
何も事情を知らない少女は大人達が何をしているのか、興味があった。

・・・ほら、今日も。

少女が寝たふりをすると、両親は起きあがり手短に支度して家を出ていった。

少女は起きあがり、両親の出ていった後をつけていった。
少女は夜目が普通の人の倍利くようであった。
だから、朔月であっても道ははっきり見える。

今日も広場には大人達が集まっていた。
手にはそれぞれ武器のような物が握られていた。

・・・狩りに行くのだろうか?

でも父が言っていた。夜は動物の方が有利だから狩りは夜にはやらない。と。
私は、夜目が普通の人よりも遥かに利くらしい。だから、夜でも昼間のように物が見える。

少女は井戸の陰に隠れて大人達の動向を見守った。
ここで出ていけば、とても叱られる気がしたので少女は大人達が動くのをじっと待った。

しばらくして、大人達は松明を持ち、動き始めた。
今日も山に行くようだ。

少女も急いで跡をつけた。


どれほどの時間を歩いたのだろうか。
大人達の歩く速度は少女の小走りと同じ早さだった。
少女は肩で息をしながらも大人達からはぐれまいと真剣におった。
どれくらい時間が経っただろう。
やっと大人達は歩く速度を緩めた。
それまでには少女は汗だくになっていた。

額の汗を拭い、少女はふと周りに目を向けた。

・・・ここは・・・・。

大人達からは山の奥には入ってはいけない。そう言われている。
この辺は、その立ち入り禁止区域だと言う事に少女は気づいた。

そこは、広い空き地だった。
木も一本もなく、ここなら思いきって走れそうだ。
こんないい遊び場所があったとは・・・・。
少女にとって新しい発見だった。
今度友達とここに遊びに来よう。

思わず大人達の忠告を失念し、近い未来、ここで友達と鬼ごっこをして遊んでいる自分を想像した。
さぞかし楽しい事であろう。
・・・・そう、頬を緩ませたときであった。

地面を揺らす大きな破壊音が辺りに響いた。

立ってはいられず、少女は地面に手をついた。

「・・・なんなの・・・?」

少女は震えている事に気づいた。身体が怖くて動かない。
地震も耳をつんざくような大きな音も止みそうに無い。
悲鳴も上げられないまま少女はそこにしゃがみこんだ。

・・・誰か・・・・父上・・・・母上・・・助けて・・・。

心で何度も何度も叫んだ。
しかし、事態は何も変わらない。

そういえば、皆はどうなったのであろう。
少女ははっ、と顔を上げた。
大人達は武器を構えて上空を見ている。
この辺りには何もないはずなのに。ましてや朔夜。見事な月があるわけでもないのに・・・。
少女もそれにつられて上空を見た。

そして息を呑んだ。


「・・・・ぁっ・・・・・」


叫びが声にならない。
先ほどより、震えは酷くなり、自分でもどうにもならなかった。
涙が勝手にこぼれてきた。喉がつまり息が出来ない。

人々の視線の先には凶悪な牙を持った黒い怪物がいた。
黒くて実態は全て掴めないが、鋭い牙と爪は闇の中でもギラリと光っている。
あんなものにやられたら人間なんて一たまりもない。
夜目が利くことは少女にとって初めて不幸をよんだ。
見れば見るほど怪物が実体を現してくる。

大人達は様々な攻撃を仕掛けた。
弓矢や剣や槍などは全く効かないようだ。
この村に伝わる秘術が使われる。
この術は成人した暁に村人に教えられるもので、少女はまだそれが何の術でどんな効果をなすのか知らなかった。
人々の暗唱と共に、大きな魔方陣ができ怪物を光で包む。
しかし、その光も怪物が片手を振ることで消された。
怪物にとっては人間なんて蟻に同じ。
怪物は蟻をつぶすように足を地面に押し付け、腕を振り人間を切り裂く。

悲鳴と轟音が交錯する。

目の前にある光景は悪夢以外の何者でもなかった。
遠くから何かが飛んできた。
少女の傍にボトりと落ちたそれは・・・・

先ほどまでヒトについていたらしき、腕。
切り口は無理矢理千切られたらしく肉が飛び出てそこから血が溢れてきた。

「・・・いや・・・」

少女はすぐに飛びのいた。
誰の手かは判断がつかない。

・・・もし両親の物だったら・・・。

それを考えるだけで人生が終わったように思えた。
未だに悲鳴も轟音も聞こえる。
しかし、少女の耳までそれは聞こえてこない。
気が遠くなった。

気を失いそうになった彼女を現実に戻したのは、怪物の金色に鈍く輝く瞳であった。
それを見た瞬間、心臓が掴まれたような恐怖に襲われた。

・・・殺さないで・・・。

闇に光るのは怪物のつりあがっり、金に鈍く輝く瞳。
怪物の口がにやりとつりあがった。

『・・・ソコニ・・・イタカ・・・・。
今コソ殺シテヤル

コレマデ何度・・・酷イ目ニアワサレタカ・・・

オ前サエイナケレバ・・・オ前サエ・・・・オ前サエ・・・・』

怪物の怒りが一気に膨らんだ。
怪物の様子が変わった事ニ気づいた村人は、怪物の視線の先に少女がいる事に気づいた。

「・・・いかん・・・逃げろ!!」
「このままでは・・・・あの子が・・・・」

何故、こんなところに・・・。
そう考えるよりも、あの子を護らなくては・・・・
その思考が先に立った。
少女向けられて怪物の手が降ろされた。
鋭い牙が少女に襲い掛かる。

もう駄目だ、そう思い目を閉じた。

しかし、金属のぶつかる音、誰かに後ろから抱き上げられ少女は目を開けた。

「・・・母上・・・」
「なんでこんなところに来ているの・・・っ!?
説教はあとよ・・・逃げるの!!」
「いけ、俺達がなんとかする!!」
「父上!!」

怪物の牙から護ってくれたのは父だった。
母は、父と目を合わせ頷いた。

「・・・・逃げますよ」
「・・・でも・・・父上は・・・っ!?」
「・・・父上は後で来てくれますよ。
今は・・・」
「母上!!」

少女は叫んだ。
母の後ろにはもう怪物の爪があった。
私は地面に投げ出された。
起きあがると、自分の前の前には、背中を深く傷つけられた母の姿があった。

「・・・母上・・・っ!!」

揺さぶっても母はなんの反応も示さない。
血は母の上半身を染めていた。

「父上・・・母上がっっ!!」

後ろを振りかえると、父のいるはずの場所には誰もいない。
地面に人が転がっているだけで・・・・。

・・・・なんでこんな事になっているの・・・?

ほんの数刻前までは明日も、明後日も、ずっとずっと父と母と一緒に暮らせる未来をみていたのに。
少女の心が悲しみから憎しみ、怒りに変わるのは早かった。
母の体温は徐々に下がっていっている。

『・・・サァ・・・・残りはオ前ダケダ・・・・
死ネ・・・・』

怪物の爪は真っ直ぐ少女に振り下ろされた。
少女は既に精神の限界に来ていた。
ぽつりぽつりと、無意識のうちに暗唱していたのは本人でも気づいていない。

「・・・返せ・・・」

『・・・・ッ!?
何・・・・・ッ!?!?』

「・・・父上も母上も、村の皆も・・・
返せぇぇぇぇぇぇっっっ!!!!!」

絶叫にも近いその少女の叫びは、辺りに響き渡った。
怪物の動きが止まる。
そして怪物の足元に魔方陣が浮かび上がる。
それは怪物にとって見慣れたものであった。
これこそ、数千年前に自分を封印した時と同じモノ。

『・・・・コンナ小娘ニ・・・
負ケテ・・・タマルカ・・・』
「・・・・報いよ・・・・
今までの罪を全て・・・・」

怪物は自分の魔力体力共になくなっていく事に気づいた。
身体が動かなくなっている。このままではこの封印にも抵抗できない。

「・・・滅せよ。
闇に染まりしもの・・・」

闇夜に光の鉄槌がくだった。
怪物の叫び声と共に怪物の姿が消え去った。

そしてそこで少女は気を失った。


「・・・    ・・・・・」


気を失った娘に声にならない声で、娘の名を読んだ。
怪物に背中を切られ、動けそうにも無い。
しかし、娘を助けなくては・・・。
意識はそれだけで、身体がきしむのも構わず娘の元へ向かう。
しかし、少女の身体は直後光に包まれた。
そしてその光に包まれ、少女は姿を忽然と消してしまった。

それ以来その少女の消息は掴めなかった。


   

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