二人の巫女



草原を抜ける。川があり、そこで休憩。
それから、また二人は歩き出した。
なにか向こうから強い魔力が感じる。

「きっと、あの山だな。
宝珠があるのは・・・。
しかも二つずつ。」
「そうだな・・・・・。
だいぶシンも魔力を感じるようになってきたな・・・・」

大分成長したようだ。
雅は口元を緩ませた。

「・・・・じゃ、行こうぜ。
向こうに、村があるようだしな」

奥の森の中に煙が一筋立っている。
食料も少なくなったわけだし、ちょうどいいかもしれない。
雅は頷いて立ち上がった。

後ろに広がる草原を見た。
一時はどうなることかと思ったが、生きてこの草原を抜けることが出来た。
二人は村に向かって歩き出した。



森の向こうにあったのは、予想より大規模な村だった。
ちゃんと柵で囲ってあり、しっかりとした制度で成り立っているようだった。
ちゃんと統制が取れている。
この村は安全なようだ。

「・・・・さて、初めに宿の調達か・・・・。
そして、食料の調達・・・・」
「よーしっ!食料調達にレッツゴーッ!!」
「阿呆。
お前の頭は常にそれか?」

雅が突っ込む。
こいつときたら、食料のことしか頭にないのか・・・・。
二人が村に足を踏み入れると、奥に目立つ建物があった。
そこが村の中心らしい。
・・・寺・・・か・・・?
この規模の村にしては大きいな・・・。
誰がこの村を仕切っているのだろう・・・。

雅は、少し興味がわいてきた。
別に宝珠集めはそんなに急いでやることでもない。
寺であの山について情報を聞けたらそれはそれで儲けものだ。

「後で立ち寄って見るか・・・。
・・・シン・・・・?」

近くにいたはずのシンかいない。
雅は少し怒りがわいてきたが、すぐに冷める。
自分も早くあの寺に行ってみたかったのだ。
恐らく、夕方までには会えるだろう。

宿はそのあとでもとれるだろう。このような偏狭の地にそもそも来客など来るのであろうか。
大通りをまっすぐ行くとすぐ寺をが見えた。
中心に向かうにつれて人も多くなる。

「・・・・今日も、ミコト様は綺麗だったじゃな・・・」
「そうじゃ・・・。
こんな平和なのもミコト様のお陰じゃ・・・

村の老人たちがこんなことを言っているの雅は聞いた。

・・・ミコト・・・?

十中八九、ここの巫女のことだろう。
ここまで信頼されているのだから、相当の力の持ち主か・・・・・。
確かにそのミコトとやらの力かどうかは分からないが、この村の空気も澄んでいて綺麗だ。

あの、宝珠の魔力にさらされれている割には、全く嫌な感じがしない。
誰か力の強いものがここにいるのだ。
雅は、先ほどの老人に話しかけた。

「・・・すまんが・・・・ミコト様・・・・といっていたな・・・。
彼女のことを少し聞かせてはくれないか?」

雅の姿にミコトの弟子入り志願をしている者だと思ったのだろう。
老人たちは、頷き快く答えてくれる。

「・・・旅の巫女様か・・・・。
ミコト様は凄いぞ。
彼女がこの村を治めてから悪いことは全てなくなった。
悪しき気も全て取り払われた。
しかも、とても美しいお方でな。
・・・しかし、貴方様も随分お綺麗じゃな・・・・」
「それはありがとう」
「巫女としての才能はここ数年にない力だそうだ。
こんな田舎村にとどまってくれてくれて・・・・。
ありがたいことだ・・・」

・・・ここ数年にない力か・・・・。
たしかに、そんな感じがする。
雅も元から力はあった。師匠もこの力は数千年に一度とか言っていたが・・・。
雅の興味はますます膨らむ。

「・・・そのミコト殿に一回あってみたいものだな・・・。
どこに行けば、会えるのかな・・・?」
「あの寺に何かいえば、きっと面会してくださるじゃろ。
しかし、忙しい方でな。いつ会えるか分からないが・・・・
「ありがとう。」

雅は、寺に向かった。
参詣する村人は後を立たず、雅はあまりの熱狂振りに絶句したほどだ。
悪い宗教・・・そんな感じもしないが、それでも何か異様なものを感じた。
確かに、あの二つの宝珠の力はあまり良いものではない。何らかの害がこの村に襲い掛かってきたのであろう。
上の二人の兄姉は一番ニンゲンを恨んでいる、と聞いているし。

雅は本堂の周りを当てもなく歩いていた。
見れば見るほど立派な寺だ。恐らく『ミコト様』が治めたなりに建てられたのだろう。
・・・全く・・・。
そこまで人を魅了する力のあるなんてどんな娘だ?

「・・・貴方ですね。
魔力が高いから誰がきたかと思っていたら・・・・旅の方ですね」

雅は後ろを振り返った。
そこには巫女姿の自分と同じくらいの歳の少女が立っていた。

「・・・貴方が・・・・」

容姿は確かに美しい。微笑んだ姿はまるで可憐な花だ。
自分と違うのはそれくらいだろう。
魔力も高いことが伺える。
雅は会釈をした。

「私は雅という。」
「・・・ミコトです。
旅でお疲れでしょう・・・。
よろしければ寺にでも休んでいきませんか・・・?
少しお話し相手になっていただければありがたいです」
「それはありがたい・・・
私も貴方と話してみたかったところ・・・」

まさか、こんなにもは早く本人と出会えるとは思わなかった。
雅はミコトに連れられ、寺の中に入った。
寺に行く途中もたくさんの人とすれ違った。
ミコトは一人一人に声をかけていく。

・・・・なるほどな・・・・。

人に愛される理由が分かる。
ミコトを見ていて、かなり眩しく見えることに気がついた。
きっと、私との違いはここにある・・・。

寺の奥の屋敷に案内された。
寺とは対照的にそこの館のつくりは洋風であった。
ここでミコトたちは生活しているという。

「・・・・さぁ・・・。
紅茶ですが、口に合いますでしょうか?」
「あぁ・・・ありがとう・・・」

ミコトはお盆に二人分の紅茶と菓子を持ってきた。

「・・・・ケーキお好きですか?」
「あぁ・・・大好物・・・。
ケーキはこの辺にあるものか?」
「・・・・いいえ、私が作りました。」

ミコトは雅の反対側の椅子に座り落ち着く。
雅は早速、紅茶とケーキに手をつける。
以前店に出ていたものと大差ない味に、雅は驚いた。

「これは凄いな。まさかこのような場所でケーキが食べられるとは思わなかった。
とても美味しい」
「それは良かった。
やはり和食を好みそうだったので少し心配しておりました。」

ミコトはよく笑う。雅は初めて気後れを感じた。
自分と住む世界が違う。
雅の様子にミコトが首をかしげた。

「・・・どうか・・・なされました?」
「いや・・・あまり同世代の人と話したことがないので・・・・。
育ったところが、山の中だったから・・・あまり人と接する機会も少なかった」
「そうなんですか・・・。
では旅なんて丁度いいですね。
私は生まれも育ちもここでしたから外界のことはさっぱり。
私も一度村を見てみたいというものです」

しかし言葉とは逆に彼女はこの村に一生留まる。そんな意思を秘めていた。
彼女がいなければまたこの村には宝珠の悪しき気がやってくる。
他愛ない会話が続く。
場に慣れてきたのか、雅にも笑顔がでてきた。

「・・・・あんまし笑われてないようですね。
・・・旅はお一人で・・・?」

彼女は、ふんわり微笑んだ。
雅は、紅茶に口をつける。

「いや、連れが一人。
旅の途中で悪魔に体をのっとられていてそれを助けたら何故か一緒に旅することになってしまった。
別に悪い奴でもないが、時々五月蝿い」

雅はこの機会に、とミコトにさりげなく聞いてみた。

「・・・でまたこれも成り行きなのだが、宝珠を集めることになった。
話によると、この近くの山に宝珠があると聞いているのだが・・・・。
何かそれらしい話は知らないでしょうか?」
「あの・・・山ですか・・・。
昔から悪しき気を放っていて、この周辺に被害をもたらしております。
それが宝珠の力なのかそれは分かりませんが・・・。
私も貴方に聞いて初めて宝珠のことを知りました。
あの山には獣はいないに等しいです。恐らくその悪しき魔力に当てられていなくなってしまったのでしょう・・・。
私も一度あの悪しき気を消そうと山に登ったのですが、消すことは無理でした。
結界が張ってあるんです・・・」
「・・・結界・・・。
他には・・・・?」

ますます怪しくなってきた。

「そういえば・・・・。
ここ数ヶ月の間に悪しき気がどんどん強くなってきたような気がします。
私が巫女になってからこんなことは初めてです。
周囲の魔物達もそれに反応してか、かなり暴れるようになったのです。
そろそろ、私が山に登って見てこようと思っていたくらいなのですが・・・・」
「・・・数ヶ月前とは・・・半年くらい前か・・・」
「・・・はい」

半年といえば、丁度シンやサクラと出会った時期。
恐らく、私達が宝珠を持ったせいで、向こうも敏感になってきた証拠だ。

「・・・恐らく、それは私達のせいだ。
すぐに山に登って宝珠を手に入れようと思う。
迷惑をかけたな・・・・」
「・・・いえ・・・
でも、あそこには結界が・・・・」
「向こうもこっちと会いたがっているはずだ。
・・・多分、何らかの動きがある・・・・と思う」
「そうですか・・・。私にも手伝うことがあればいいのですが・・・。
あっそうだ。・・・・寺内を案内しましょうか?
興味あるんですよね?」

菓子も紅茶もなくなり、そろそろお開きの時間だ。
日もいい具合に傾いている。

「・・・いや、私が興味を持ったのはミコトなんだ。
まさかこんなに簡単に会えるとは思わなかった。
ここまで付き合ってくれてありがとう・・・礼を言う。
あとお菓子。美味しかった」

雅は深く一礼をする。
ミコトは両手をぶんぶん振る。

「そんなっ・・・別に私も息抜きしたかったし・・・。
私だって、最近はあまり同年代の人と話したことなくって・・・・。
楽しかったです・・・」
「・・・・そうか・・・・?」

雅と一緒にいて楽しいといってくれる人はいなかったし、自分でもつまらないことは自覚している。
ミコトは立場上、昔の友達とも話せなくなってしまった。
巫女とは俗世を絶たなくてはいけない。
そういう意味では雅はかなり充実した日々を送っていると思う。

「・・・・雅さんって・・・。
なんだかかっこいいですよね?」

寺の中を話しながら歩く。
今も参拝客が絶えず、ミコトは会釈をしながら進む。
雅は言われたことに固まった。

「・・・・・・?
どこが・・・・?
私のほうこそ、ミコトは女らしくていいと思うが・・・・。
可愛いし・・・・」
「こんなのネコ被ってるだけですって・・・・。
大体雅さんだって綺麗じゃないですか。
あまりお世辞にはなりませよ。」
「私は何をどう頑張ってもそんなに笑えんぞ・・・・」
「・・・・慣れ・・・ですよ。
雅さんも意識すればすぐに笑えるようになります。
笑ったら可愛いじゃないですか」

・・・・そういえば、シンもそんなことを言っていたかもしれない。
確かに、表面上は笑ってるかもしれない。
でも、心まで笑っているとはいえるか?
否。
笑えるはずがない。


外に出た。
立派な庭が広がっている。
私は、隅から隅まで見渡した。
流石に、巫女の格好をしていてもこういう景色はなかなか見せてもらえない。

「・・・雅さんは、何故旅を?」

唐突にミコトが聞いてきた。
雅は苦笑しながら答える。

「・・・師匠に追い出された。十六のときに。
別に、悪いことはしていないぞ。
私は拾われたらしいからな・・・。そこまで育ててもらう義理もない。
丁度いいと思って、私も出てきた。
・・・とりあえず、もう一度顔を見れればいいと思う」

ミコトの表情がかわる。
なにか嫌なことを聞いてしまったような顔。
雅は首を振った。

「・・・別に気にしていない。
師匠と二人で暮らしていたから、家族の絆とかそういうものは未だに理解が出来ないのだ・・・。
そういう感覚は普通の人と少し違う・・・・。
別に巫女になってもよかった。大体のことは出来るし・・・。
・・・まぁミコトみたいに、人に愛想よく振舞うのは無理だと思うが・・・。
やることがないから、ブラブラ旅を続けてきたんだけど・・・・まぁ目的も見つけたし。
今はそれはそれで楽しいし・・・・。
後悔は・・・してない」

それに大切なものもたくさん見つけたような気がする。
自分の中の世界は広すぎるくらい広がった。

「・・・・そう・・・。
そういう生き方・・・素敵ですね」

風が吹いた。
庭に生えている木が騒ぐ。
二人の長い髪がゆれた。

「・・・・お〜、雅?
何でこんなところにいるんだ?」

二人はぎょっとした。
高い壁に囲まれているにも関わらず奴はその壁の上にいたのだ。

彼の隣には大きな買い物袋が置いてあった。恐らく中身は全て食料品だ。
彼はパンをほおばっている

雅は、怒りと情けなさと恥ずかしさが一気に溢れてきて、言葉を失った。

「・・・なっ、シン・・・ッ。
お前そこで何してるっ!?」
「・・・殿方・・・?
雅さん・・・・お知り合いで・・・・?」

雅は酷い脱力感を覚えた。
最悪だ・・・こんな奴が連れと思われるのが。

「・・・・あぁ・・・さっきいったよな。
連れが一人いると・・・・。
あそこにいる馬鹿だ」
「・・・・え・・・貴方の・・・?」

意外です・・・・。
殿方とはまったく話さない人だと思っていたのに・・・・。


改めて雅はシンを紹介した。
ちゃんとしていれば感じのいい青少年なのにこいつはいつもどこかが抜けている。

「・・・ったく・・・。
あんなところで何をしていたのだ」
「あぁ・・・夕日が綺麗だったから。つい・・・・
まさか、雅達がいるとは思わなかったよ。
しかし・・・・よく見ると二人とも似てるよな」

雅とミコトは顔を見合した。
・・・・私達が・・・似ている?
性格は反対といってもいい。雰囲気も反対だ。
しかし、シンは頷いている。

「あぁ・・・見るからに・・・・。
双子っぽいかな?」
「双子・・・」
「・・・そうか・・・?」

髪も黒いし、長さも一緒、瞳も同じ濃さの黒だ。
歳も、背丈も、巫女衣装も同じかも・・・。
確かに鏡合わせの雰囲気だ。

「まぁ、宿の方もとれたし、俺はもう少しこの村を見回ってくるぜ。
おいしそうなデザート屋そこらにあったから明日でも行こうぜ。
んじゃ、ごゆっくり♪」

シンはそういって去っていった。
宿の場所を書いた地図をおいて。
シンの後姿をみてミコトはほぅ、と息をついた。

「・・・あの方が雅さんの連れ・・・。
もう少ししっかりして硬派な方かと思っていましたが・・・。
魔力もあまり感じられませんし・・・・
正直雅さんの連れの方とは思えません・・・・」
「・・・私の方も不本位だ。
無理矢理ついてきたようなものだし。
・・・まぁいないよりはいいかもしれないが」
「・・・でも、いい感じですね。
雰囲気的に、彼氏と彼女じゃないですか。
どんな関係かは分かりませんが」
「・・・・なっ・・・」

雅は絶句する。
ミコトはくすくす笑っている。
雅の口調もシンといるときは少々砕けているし、感情も少しずつ豊かになっている。
恐らくあの青年のおかげなのだろう。
ミコトにとっては微笑ましいことこの上なかった。
だから、免疫の少なそうな雅をもう少しからかってみることにした。

「・・・羨ましいですよ?
私は、出会いがあんまりないですから・・・。
あっても、向こうが怖がって、話してくれないし・・・。
私もシンさんみたいな人が悪魔にのっとられて目の前に現れてくれないかしら。
喜んで助けてあげますのに」
「・・・ミコト・・・・。
巫女としてかなり大胆な発言だと思うが・・・」
「それにしては、雅さんは殿方と一緒にいていいんですか?
いくら連れだからといって、かなり自由にしていらっしゃいますが・・・。
神に仕える立場としていかがでしょう・・・・」

そうだった。
まだミコトには言っていなかったっけ・・・。

「私は『巫女』ではないからな。一応退治屋で通している。
あと、誤解気味だから言っておくが、私達はそういう関係ではない。
・・・さて、日も暮れるな。
では、これで・・・。今日は本当に楽しかった」
「こちらこそ。
とても楽しかった。
・・・また・・・会えますか?」

雅は少し思案した。
確かにここに長居して困ることはないが、悪しき気が強くなっている。
そのような現状があるのであれば、早く宝珠を取りにいった方がいいかもしれない。

「そうだな・・・ここには二、三日留まるつもりだ。
ミコトの暇さえあれば是非。
宝珠を取りに出てからはまた会える保障はないが・・・。
また会いたいな」
「・・・はい」

こうして雅は宿に向かうことになったが、何度も言うように雅にとって地図は全く意味のないものであった。
ちゃんと寺からの道を示してあるのに、どこへいけばいいか全く分からない。
何人かの人に聞き込んでやっと、目的の宿につけたのはそれから一時間後のことであった。


     

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