巫女たちの住む村


運命は導くように、二人を進ませた。
龍達に話を聞いてから早一ヶ月が経っていた。
二人の旅は特に変わりもなく進んでいた。

死にかけそうになったことなど、二人の頭の中でははるか昔のことになっていた。
山の敵も街道の敵も二人の前には雑魚同然となっていた。
龍達と戦ってさらに力がついたのだろう。
特にシンの力はありえないくらい伸びた。

「・・・雅〜。
これ食えそう?」
「・・・・ふむ・・・。
毒はなさそうだし・・・努力くらいはしてもいいかもな」

強い精神力も力と共に上がっていった。

山を越え、谷を越え、村に入り、都市を巡り、雅達の前にはまた山がそびえていた。
二人は当然のように足を踏み入れた。

「あっ、雅・・・
看板立ってる」
「・・・珍しいな・・・・」

普段登山道を使わない二人にとってはこのような注意書きに出会うのはまれなことであった。
早速二人はそれを見る。

「・・・『この山魔物多し。入るべからず』・・・・・だって」
「むしろ大歓迎だな。
最近体がなまってしまって仕方ない」
「っていうか『入るべからず』ってのが入りたい気持ちを刺激されるというかなんというか・・・」
「・・・・まぁ・・・・入るなといわれているからには、それなりのものがあるのだろう。
・・・手ごたえのある魔物なら儲けものなのだが・・・・」

雅は辺りの気を探った。
魔物多しと書かれている割には、あまり嫌な感じはしない。
特に強い魔力も感じない。

「・・・もしかしたら、魔物ではないかもしれないな・・・」
「・・・何っ!?お宝??」
「・・・・そこまでは言い切れないが・・・・。
大体邪気が少ない。
このようなところに魔物など住み着かないぞ・・・・」

雅の言ったとおり、山の中には魔物の姿は全くなかった。
その代わり、野生動物にはよく会う。

「・・・ねぇ・・・本当にここ魔物いないの?
あっちにうさぎがいるけど・・・」
「・・・これだけ浄化されている山も珍しい・・・。
・・・神でも祭ってあるか・・・?」


数日間二人は山の中を歩き続けた。
明らかに同じところを回っている気がするが、それについてはどうしようもないので、木の赴くままに進む。

「・・・この景色にもさすがにあきたなー。
村ないかな村」
「このような山の中にあるか。
大体このような神聖な空気の中で暮らせる人間も中々いない」
「神聖なの!?ここ」
「・・・・師匠のところもこのような空気が漂っていた。
毎日欠かさず祈祷を続ければこのようなところになる。
宝珠を取り去った今、ミコト達の村もこれに近い状態になるな」
「・・・へぇ。
それにしても世界は広いな」

雅と旅をしてきてから世界の広さというものを知れった。
昔から遠出などしたことがなかったので、世界なんてすぐに一周できると思っていた。
実際歩いてみると、一周どころが、まだ半分にも満たないだろう。

「・・・・・・・・・・!」
「・・・・どうした雅・・・?」

雅が鋭い目つきで一点の方向を見ていた。
何か見つけたのだろうか。
シンもそこを見てみるが、なにもわからない。

風が吹いた。
空間が少しゆがむ。

「・・・なっ、これって・・・・」
「・・・あぁ・・・結界だ・・・」

雅が面白そうに笑む。

「・・・・どうする・・・・?
中に入ってみるか?何が出てくるかわからないがな・・・」

結界が張ってあるなら話は別だ。
この中に魔物を閉じ込めておけば、外はいくらでも浄化できる。
先ほどの看板にもあったとおり、この中に魔物がいる可能性は高い。

シンは雅の顔を見た。いつになく楽しそうだ。
冷戦沈着な彼女だが、好奇心が人一倍高いことに最近気がついた。
シンも頷く。

「・・・・いいぜ。
でも、どうやって・・・・」

結界には色々な種類がある。
張ったもの以外、結界内には入れないのが基本だ。
そのほかに入るとしたら、壊すか、また張った人の許しがいるか。
雅がおもむろに結界に近づいた。まずはその強さを確かめようとする。

「・・・・!?」

雅の手を中心に結界が左右に開いた。
雅が手を引くと結界は元の姿に戻った。

「・・・雅・・・・。今どうしたんだ?」

雅もこれは予想していなかったらしい。
お札を手に持ち唖然としている。

二人は顔を見合わせた。

・・・・どういうことだ・・・・?

「・・・・私は何もしていない・・・。
結界が勝手に開いただけだ。」

一応宝珠を確かめてみるが、反応している様子はない。

「とりあえず、入ってみようぜ?
招かれているみたいだし・・・・」

その場で固まっている雅に、シンは言った。
あぁ・・・・と雅は短い返事を返した。

結界の中は今と変わらず、神聖な空気で満ちていた。
しかし、あまりにも綺麗過ぎてシンには居心地が悪い。
雅はなれているのか、顔色一つ変えずに歩いていく。

結界の中にも森は続いた。
しかし、生物らしきものはここにはいない。
静寂の中を二人はただひたすら進む。

シンが右に曲がろうとした。
それを見て雅が引き止めた。

「・・・・違う・・・こっちだ・・・・」
「・・・・雅?」

シンの呼びかけに雅ははっ、と我に返る。
何も考えず、口から出てしまった。
それが当たり前のように。

「・・・・悪い・・・・。
でもこっちのような気がする・・・・」

特にこれといった気配は感じない。
それでも体がこっちだと示している。
雅は奇妙な感覚に襲われた。

しばらく歩くと、雅がポツリと呟いた。

「・・・村がある・・・・」
「・・・・村・・・?」

先ほど雅がこのような神聖なところには人間は住めないといっていたではないか。
しかし、村があるということは・・・・。

坂を上りきると、そこは開けた土地になっており、家が数件建っていた。

「・・・本当だ・・・・村だ・・・」
「・・・恐らく隠れ里なのだろう。
なるほど、結界の理由が分かった」

こういった退治屋など魔物と戦うところを専門にしている人達はほとんどがこのような山奥の隠れ里出身者が多い。
魔物を退治するためには魔力が必要となってくるし、魔力というものは努力でなんとかなるものではない。
血が影響してくるため、力を持つ一族が集団で暮らして、その血を代々受けついているのが普通だ。
シンなどはまれな例だが、彼も貴族生まれだ。
そのような力のある人の血が入っていてもおかしくない。

二人が村に入っていくと、井戸の周りで若い娘達が話し合いをしていた。
その中の一人がこちらに気づく。

「・・・・あら・・・・?」

それを合図のように、ほかの人々もこっちを見た。

「・・・・どちら・・・・さまで・・・・?」

明らかに戸惑っている様子だ。
そりゃそうだ。普段は結界が張ってあってここに入ることさえ不可能であるのに。
雅は理由を話そうと娘達に近づいていく。

「・・・旅の者だ。
別に用があってここにきたわけでもない・・・・。
退治屋をしていて『魔物多し』の看板をみてここに来た」
「・・・あの・・・結界がありましたよね?
壊しましたか・・・・?」

娘が一人おそるおそる尋ねる。

「あぁ・・・。
あの結界なら私が触れたら開いたのだが・・・・。
くぐった後また戻ったし、多分支障はないと思うのだが・・・・・」

娘達の顔色がさっと変わった。
二人は首を傾げる。
・・・何か分からないが、問題発言でもしてしまったらしい。

「・・・・村長様・・・・っ」

一人の娘が走り出した。
二人は突然のことに立ち尽くしているしかなかった。
とりあえず、無害ということさえ分かって、出来れば今晩の宿さえ確保できればいいのだが・・・・。

「・・・おい、雅・・・・。
なんか大変なことになってないか・・・・?」
「・・・・まぁ、反応としては間違ってないな・・・
わざわざ入らせないように結界を張っておいたにも関わらず、入ってきたのだから・・・。
騒ぎにもなるだろう」
「・・・少しは焦ろうぜ?」

シンが呆れたようにいう。

「これでも少しは焦っている・・・・」

しかし、雅の表情はいつもと同じだ。
シンは首を傾げるしかなかった。
・・・・本当に、焦っているのか・・・?


数分で村の中心に騒ぎを聞きつけた人が集まってきた。
小さな村だから、噂は一気に広がる。

雅達は村の中心まで呼ばれた。
ここは無駄な抵抗をせず従っておく方が良いだろう。

人々の中心には村長と思われる老人がいた。
二人はその人の前に立たされる。

「・・・お前達が旅の者か・・・?」
「・・・・・はい」

村長は二人の顔を交互に見て頷いた。

「・・・特に害のある方達じゃなかろうて。
すまんの、驚かせてしまって」
「・・・いえ、私達がここまで来てしまったことに過失はあります」
「・・・・まぁ立ち話もなんだろう・・・。
わしの家にまいれ。
今夜くらいはこの村でゆっくりしていきなされ」
「ありがとうございます」

二人は村長の申し出を丁寧に受けた。
・・・よし、今夜の宿ゲット。

村人達にはかなり奇異の目で見られた。
人々の視線が刺さる中、二人は村長の家に招き入れられた。

特に村長の家は普通の家と大差がなかった。
ただ、札があったり、魔術系のものがあったり、隠れ里の長の家、という感じはさまざまな小物から感じられる。

雅達は勧められた椅子に腰掛けた。
村長もゆっくりとした動作で椅子に座る。

「・・・・少し・・・・話を聞きたいのじゃが・・・・
いいかね?」
「どうぞ」

村長は雅を見る。

「・・・結界が開いた、という話は本当か?」
「はい。私が触れると左右に開きましたから・・・」

村長はしばらく考えた。

「お嬢さん、名は・・・?」
「・・・雅です。」
「歳は?」
「十八・・・です。」
「十八・・・か・・・・」

村長はしばし考えているようだった。
が、数秒後には、笑っていった。

「君の名は?」
「俺はシンといいます」
「そうかそうか。二人共若いのに退治屋とはたいしたものじゃ。
それに魔力もたくさんある。将来期待できるのぅ。
どこの里でそれだけ鍛えたのかは分からないがいいことじゃ・・・・。
ここは気づいておると思うが、ここもその隠れ里の一つじゃ。

かなり歴史はあって、人々の魔力にも術の質にも自信はあるのじゃが・・・お二人さんの足元にも及ばん・・・・
もしよろしければ村の若いもんにも何か教えてやってくれ。
いい刺激となるじゃろ」

雅はともかく、シンは何もいえなかった。
自分はただの都会で育った家出少年だ。
剣は稽古でつけてもらっていただけで、魔力の方は全く伸びた気がしない。
やはり人間命がけでなんでもすれば、勝手に伸びていくものなんだろう。

「・・・えっと・・・・あの井戸のほうで話していた子達にも魔力が?」

シンの質問に村長はにこやかに頷いた。

「あぁ、あいつらも見た目には分からんじゃろうが立派な退治屋じゃ。
この村で魔力がないものはないからの。
歴史は古く、血も最高のものとなっている。
たしか、この里が出来たのは・・・神が生まれたくらい昔を言われておる」

「・・・・神が・・・・?」

二人の目が鋭くなった。
龍達の話では魔物を封じるために作られた集落。
やはりこの世界には神を目にすることが出来るという時代があったらしい。
雅とシンが二人目をあわせた。

「・・・・あの・・・おかしなことお尋ねしますが・・・・
この土地に人間が神様になった・・・って言う伝説ありますかね?」
「あと、ここ二十年あたりにこの辺で巨大な悪魔が暴れたとか言う事件も・・・」

村長は二人の言葉に目を丸くした。

「・・・・何故・・・・それを・・・。
やはり・・・雅殿・・・貴方は・・・」
「・・・大体十年前ほどに魔物に襲われた子供・・・ですか?」

雅が静かに問う。
長老も静かに頷いた。

「・・・帰ってきてくれたのじゃな・・・。」

嬉しそうな眼差しでこちらを見られても・・・。
雅は顔をゆがめた。

自分はこの村で暮らしていた記憶が全くない。
村長はおろか、親の顔さえ思い出せない。

「・・・・私は・・・・この村で育ったのですね・・・」
「・・・あぁ・・・・」

雅は一つ一つ確かめるようにして、村長に尋ねる。

「・・・・では・・・私の両親もこの村に・・・?」
「あぁ・・・・。
会いたいか?」

雅はすっと頭を下げた。

「・・・・村長殿・・・・。
申し訳ありませんが、私はその悪魔に襲われてからそれ以前の記憶が全くありません。
体はこの村を覚えているようですが、あとはさっぱり・・・
それで頼みがあります。
もう遅いと思うのですが、私の存在を二人に知らせないでください。
私は・・・その全く顔も名前もどんな人かも綺麗に忘れていて・・・・
私は、今までこのような山の中で師匠と二人で暮らしていました。
親、家族という概念から切り離されたところでくらしておりましたので・・・まだそのような関係を理解しきれないのです。
それに、私はあまり話術に優れておりません。
きっと今みたいに正直に思うままを話してしまうでしょう・・・。それでは彼らを悲しませるだけです。

・・・正直会ってもどのようにすればいいか分かりません。
肉親であれ・・・私にとって赤の他人としか思えないと思うので・・・」

村長は雅の言葉に頷いた。
しばらくの沈黙が流れる。

「・・・雅殿・・・・。
反応をみて話そうか話さないか迷ったのじゃが・・・・
貴方の両親は、あの悪魔と戦ったときに、貴方をかばって死んだのじゃ・・・・」
「・・・・なっ・・・・嘘・・・」

思いがけない事実に雅は心臓の鼓動が早くなるのを感じた。
自分の親は生きている。なんとなくそう思って生きてきた。
そう信じることが唯一雅にとってできることであった。
まさか・・・死んでいるとは・・・。
しかも、自分をかばって・・・・。

「あの時・・・本当にたくさんの村人が死んだ。
今はまた若者達が頑張ってくれて、村も賑やかになったが・・・それでも三、四十代の者はこの村でまれなんじゃ。
わしもあの場所にいたが、とてもじゃないが、あの悪魔に太刀打ちできるものじゃなかった。
雅殿がいなければ、この村だけではなく、世界が破滅していたかもしれない・・・」

二人は肝が冷えた。
そのような相手と今から戦うのか。
『ダクト』や『ライ』がどれだけの力を持っているのかは分からないが・・・
世界を破滅させるほどの力を持つ悪魔なんて、自分達で勝てるのであろうか。

「・・・雅が・・・村を救ったのか?
じゃなんで雅はこの村じゃなくほかのところで育ったんだ?」
「・・・分からない・・・・。
話によると、突然どこからか若い女性が現れて雅を引き取ったそうじゃ・・・・」

十中八九師匠だ。と雅は思った。

しかし、何故師匠は私を引き取った?
そもそも何故あの場に姿を現したのだ?

謎は深まるばかりであった。

「・・・・しかし、何故そのような話をお二人は知っているのじゃ?」

これも運命のようなものか・・・・と雅は思った。

自分が龍の『裏』の魂である悪魔と対峙したことも。
自分が宝珠を集めることになったのも。

「・・・実は・・・。
私達は、今その悪魔に用があるのです。
是非その悪魔と対峙したい。・・・・いや、そうしなければいけない」


村長の顔が真っ青になった。

「なんじゃとっ!?
そんなの無理じゃ・・・世界を破滅させるおつもりかっ!!」
「・・・今私達は龍の宝珠を六つ持っている。
人間が神になったという話はご存知か・・・?」
「・・・その話ならこの辺りに昔から伝わっておる・・・」
「二人の人間が神になったと聞いている。その際計十二個の魂がこの地に残された。
『表』の魂は宝珠を授けられ各地へ散った。そして『裏』の魂は一つの悪魔となりこの地で暴れようとした。
それを神が封じ込め、それを守るために・・・恐らくこの集落ができたのだ。
・・・そこまではよろしいか・・・?」

村長はとりあえず頷いた。
この者達は自分達の知らないことまで知っている。

「『表』の龍達は人間になることを所望している。
当然だ。かの地に縛り付けられ、そこで延々と意味もなく行き続けなければいけなかったのだから。
そして龍達は、この地で人間に戻れる、と言っていたのだ。
・・・・その話で私は思ったのだが。
その『裏』の魂達もまた人間になりたいのではないかと。
暴れているのは悪魔と言う理由だけではなく、神になるために理不尽に捨てれたその神に対する怒りと、それを無理矢理封印した人間にむけられているのではないか?
良心の魂である『表』すら異様なくらい人間に怒っていた。『裏』の魂はなおさら・・・・。
『表』と『裏』があるのならば・・・人間に戻すときは揃えて戻した方が良いと思うのだ。」

雅の考えを聞いて、シンも頷いた。
いつ考えていたのかは知らないが、自分にも少し話してくれたって良いと思った。
こういった難しい話は簡単に質問できる環境が望ましい、とシンは勝手に思う。

「故に私は悪魔と対峙したいと思う。
以前にも私は悪魔と退治してそれを封印することが出来たというではないか。
今回もできないはずはない。
それに前みたいに何も出来ない自分ではない。
村長、その悪魔と退治する許可を。
もし無理であったら、そのときは私の命をかけてでもその悪魔を封じます」

雅の目には人を納得させるような強い力がある。
村長はしばし沈黙した。

「・・・・その話はもう少し後に返事をさせてくれ。
お前達はしばらくこの村に滞在すると良いじゃろ。
うちに空き部屋があるからそこを使いなさい。遠慮はいらない。
・・・あと・・・強制はしないが、雅殿にはお墓にくらい顔を出してやって欲しい。」

雅は素直に頷いた。
村長は元の笑顔に戻っていた。

「・・・・村を周ってくるといい。
悪い扱いは受けないじゃろ」
「・・・では失礼します」


なんだか、大きなものが一気に頭に入ってきた気分になった。
あまり深いことを考えたくない。
雅はその足で墓に向かうことにした。
体がその場所を覚えている。

シンはその辺を見てくる、と言って雅と別れた。
シンなりの気遣いなのだろう。

雅は山の中に足を踏み入れた。


    

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