記憶の在処


悪魔を退治すると聞いた村には一時騒然としたものがあった。
しかし、皆雅達の力を認めているのか、すぐに結界を張る準備が行われた。
雅達は一足先に山に踏み込んだ。

「しっかし・・・。
本当に悪魔なんているのか?」
「・・・本当に・・・・。
ここに来ても空気が変わらないとは・・・」

しばらく進むと、湿原が見えてきた。
雅は辺りを見回した。洞窟というのはあの岩の山ということか。

「・・・・・・っ」

雅は顔をゆがめた。

「どうした?・・・・・雅」
「・・・嫌な感じが・・・・離れない・・・」
「・・・戻る?」
「・・・大丈夫」

どんなに空気が綺麗でも、何度も寒気が走る。

湿原の中ほどまで来たとき二人は足を止めた。
空気ががらりと変わる。
肌に吸い付いてくるような重い空気。

「・・・へぇ・・・これが、邪気・・・」

シンは苦笑した。
綺麗な空気も苦手だが、ここまで極端すぎるのもいかがなものか。
隣の雅は平然とした顔で先に進む。

「・・・こちらの方が逆に落ち着くかもしれない」
「そういうもんかな・・・・・」

この後に二人の行動は早かった。
邪気の中をひたすら走る。空気がどんどん冷えてくる。

洞窟の中に入るのもためらいがなかった。
脳内がすっきりしてくる。緊張感で全ての心配が消えていく。
何重にも張られた結界を越えるたびに邪気は強くなっていく。

「・・・一気にいくぞっ!!」
「了解!」

シンは腰にさした剣を抜き、肩に担ぐ。

「『ライッ』」

雅が『ライ』を呼ぶ。
彼女の光で洞窟内が明るくなった。

「サンキュー♪」
「・・・あまりこの中に長時間がいると危ない・・・。
私達も体は生身の人間だからな」
「空気を浄化できるって言ってたけど・・・・」

息をするのも苦しくなっていく。
雅はシンを横目で見ていった。もう少し奴も持ちそうだ。

「この程度で使っていられるか。
悪魔を見つけたら、使ってやる。しばらく我慢だ・・・」

中にいくにつれてあの世をこの世の境を思わせる。
あまりいい気分にはならないところだった。
目指すは中心の悪魔の封印場所。

「・・・・・・!!」

『ライ』の光が洞窟内を照らした。 
二人の足音が止まる。
暗闇のさらに暗いところになにかが蠢いていた。
シンは邪気の強さに耐え切れず膝を付いた。

雅は札を取り出し、札の力を解放する。
強い浄化力を持ったそれは、すぐに洞窟内の邪気を取り払う。
しかし、徐々にそれは奥の方から汚されていく。

雅は予想以上の影響力に舌打ちをした。
これは早く片付けてしまわないと、自はともかくシンが持たない。

『・・・ニンゲンか・・・。
シカモ・・・コノ魔力ハ・・・。』

―――自分を封印したあのガキか・・・?
そんなはずはない・・・・

あの時殺しておいたはず・・・だって・・・。

雅は真っ直ぐに悪魔を見た。

「・・・貴様か・・・。
私が昔封印したという悪魔は・・・。
残念だが、私は死んでなかったようだな」

封印が解けかけているところか。
悪魔の方はまだ微かな鎖に縛られている。
丁度いい時にここに来たものだ。

雅は首から提げていた宝珠を地面に置いた。
そこにはシンの分を含め六つの宝珠がある。

『ダクト』は呼べないかもしれないが・・・・でも・・・。

雅は精神を集中させた。

「・・・シン、頼みがある。」
「・・・なんだ・・・?」

雅から頼まれるというということは滅多にない。
相手の出方を伺っていたシンが、雅の方を向く。

「・・・私は、ここで呪文を唱える・・・。
悪いがその間私を守っていて欲しい・・・
・・・悪魔の方もやっとお目覚めのようだ・・・」

悪魔の腕らしきものが洞窟内で振り下ろされた。
風とともに邪気が辺りを漂う。

「・・・分かったぜ。」

シンは剣を構えた。
雅は宝珠に力を注いだ。

「『ウィン』『ウォン』『ファイ』『アス』『ライ』『ダクト』・・・
・・・・私に力を貸してくれ・・・。
そして・・・全てをあるべき姿に・・・・」

宝珠が強い光を放つ。
六色に光るその宝珠は暗い洞窟内を照らした。
六つの気配が洞窟内に満ちる。

『・・・ニンゲンがどうあがいたとこで無駄なことだ・・・っ
前よりも強く・・・この世界を破壊してやる・・・・っ』

右腕が動いた。
周囲の突き出た岩が崩れ、雅を襲う。
シンが剣でそれを何とか防いだ。

龍達が使えない今、自分の力で雅を守らなくては・・・・。
しかし、はじき返せないものもあった。

「・・・・雅っ!!」

一番大きな石にシンは当たっていった。

「・・・・・シンッ・・・・・」

思わず雅の思考はそちらに移った。
魔力が揺らいで、光が弱くなる。
一瞬にしてシンが後ろに飛んでいった。
シンの体は壁に強く打ち付けられた。
心臓が早くなる。これで彼を死なせてしまえば自分の責任だ。
宝珠の光が更に弱くなる。
手が震えて、集中することが出来ない。

「・・・み・・・雅・・・。
何で・・・光そんなに小さくなってんの・・・・」

風の中からかすかな声がきこえた。
雅の肩が揺れる。
光が弱くなっていることに雅もようやく気づいた。

「・・・・っ」
「・・・大丈夫・・・俺が守ってやるから・・・。
とにかくお前は自分のことに集中しろ・・・」

・・・・シン・・・・。
まさか自分がシンに励まされる日が来るなど、思ってもみなかった。

雅はこぶしを強く握った。
自分が私がそういったんだから・・・・。

・・・・しっかりしろ・・・自分。

「・・・悪い。
・・・でも・・・・準備はできている・・・ありがとう・・・。
シンはそこにいてくれ・・・・」

宝珠の光がまた強くなる。
宝珠を中心に光の魔方陣が出来た。
雅はまだ呪文を唱えている。

『・・・ナッ・・・ナンダ・・・・
コノ魔方陣・・・・体ガ・・・ヴッ・・・・』

魔方陣は洞窟全体に円を描いている。
ぎりぎりのところでシンが入っていない。
今から何が起こるのか予想も出来ない。
今まで感じたことないくらいの雅の魔力が洞窟内に満ちる。
風圧がシンの髪を揺らす。

「・・・なんだ・・・どうなっているんだ・・・?」

今まで使っていた龍の魔力ではない。これは彼女自身の魔力だ。
信じられない。
全ての邪気が吹き飛ばされる。

・・・これが・・・・雅の本当の力?

シン状況の変化に戸惑いを書くせなかった。
地面は赤く燃え、地獄絵のようになっている。
そのうち、龍の魔力も満ちてくる。

『・・・・コノ魔力・・・龍・・・・』
「ご名答・・・
今から貴方の魂六つに分ける・・・」
『・・・・ナッ・・・・』
「逃がしはしない・・・・」

悪魔の上半身が見えてくる。
封印ももう限界のようだ。
雅が悪魔を睨む。
悪魔の動きが止まった。

様子のおかしい中の様子にシンが目を細めた。
先ほどまで暴れていた悪魔が石になったように動かない。

「・・・雅・・・」

悪い予感がする。悪魔が動かないことはいいが、雅の身に異変が起こっているような気がする。
悪魔はぎりぎり・・・と腕を動かそうとする。
そして雅の前まで腕を持ってきた。
雅は動かずその場で座っている。

『・・・モシカシテ・・・・・私ノコトヲ忘レテイルノカ・・・
直接、・・・・記憶と戻してやろう・・・・』
「・・・何っ!?」

雅の瞳が揺れた。
今一番気にかけていたのに・・・できれば何もないままこの村を去りたかった。
悪魔がニィと笑う。

シンは自然と体が動いた。
魔法陣の中に入っていく。
その中は龍の力も荒れ狂うように吹き荒れていて、体が吹き飛ばされそうだった。

・・・記憶・・・なんて・・・・

精神不安定になりかけている彼女に、今そんなものを呼び戻したら・・・。
そう、雅は悪魔の記憶を戻してないから悪魔の強さも知らないし怖さも知らない。
しかも、過去に何があったか分からない。
両親も死んでいる。
よりにもよって今そのようなものを、雅は受け入れられるかどうか分からない。

シンはわき腹が痛むのも気にせず彼女の元へ向かう。
骨が数本折れているらしい。
動きたびに体がきしむ。

雅の心の乱れを利用して悪魔は一気に復活へと力を発揮する。
雅の記憶を取り戻すことも造作もないことだった。

「・・・・・・・・っ」

雅は思わず頭を抱えた。
色んな情報が頭に入ってくる。

・・・雅ちゃんっ。
雅ちゃん遊ぼうっ。

・・・雅・・・気をつけてね
お前はこの村一の退治屋になる・・・。

・・・雅・・・逃げてっ!!
・・・雅は渡さない・・・っ。

死ネェェェ・・・ッ。

暖かい感情と共に心から冷えた映像と声。そして悲鳴。
かけていたパズルのピースが完全にはまった。

あの時の悪魔の力には寒気がした。
そして今もそれは続いている。

それ以前に今と昔のギャップに耐えられなかった。
私は・・・これからどうやって人と付き合っていけばいいのだ?

昔は人が大好きだった。
シンと同じように、暇な時間があれば人と一緒にいた。
師匠と暮らしてからは人になんて目も向けたことなかったのに。


「・・・・くそっ・・・・」

脳裏に両親の最後の顔が浮かぶ。村の人達も浮かぶ。
最後の記憶はその忌々しい悪魔の討伐。
・・・・自分が皆を殺したのだ。
好奇心でついていかなければ、こんなことにはならずにすんだものを・・・・。

混乱が混乱を呼ぶ。
今何をしているのかも分からないくらい。
自然と悲鳴がでた。
その声は耐えることなく洞窟内に響き渡る。

「・・・みや・・・び・・・・・」

豹変してしてしまった雅にシンは一瞬呆気にとられてしまった。
このように狂ってしまった人を見たのは初めてだった。どう対処していいか分からない。

やっとの思いで雅の元へたどり着いた。
宝珠の光も魔方陣も消えかかっている。
邪気の密度が濃くなってきた。
このままでは、自分がこの場にいるのも苦しくなってしまう。

頼ることしか出来ない自分が悔しかった。
とにかく、今出来ることは雅に冷静さを取り戻すことだ。

「・・・雅・・・落ち着けっ!」

彼女の様子は変わることがない。
肩を揺さぶっただけでは、彼女の様子を変えることが出来ない。

「雅は、こいつの魂を封印させるんだろッ!?
龍達を人間に戻すんだろうっ!?
情けないけど、俺じゃ何にも出来ないんだよっ!!
雅じゃないと、出来ないんだって。

それに、この悪魔をほっておいてまた悲劇を繰り返す気かよ!!」

悲鳴は収まった。
しかし、震えは止まらない。
シンはとりあえずほっとして優しく抱きしめた。

「俺もいるから、いつも通りやってみて。
・・・・こんな悪魔より雅のほうがずっと強いよ・・・」

頭の中にシンの言葉が入ってくる。
急に思考が停止したみたいに、感情の高ぶりが収まっていく。

邪気が周囲に充満する中、シンの暖かさが心地よかった。
顔を上げるとシンの顔がある。
かなり落ち着いた。

「・・・シン・・・・。
入ってくるなと・・・言っただろう・・・」
「おいおい・・・戸口一番それかよ。
俺が苦労してここに来た意味は?」

雅は苦笑した。

「・・・もう入るなとはいわない。
そばにいろ」

シンは目を丸くした。しかし、少し笑み軽く頷いた。
雅の魔力が更に強くなる。
先ほどよりも精錬された魔力が辺りを吹き荒れる。

『・・・ナンダ・・・・コノ力・・・・・』
「・・・・六つの魂よ・・・・
あるべき姿に戻れ」

宝珠を束ねていた紐が切れ、悪魔を囲む。

宝珠の光が増し、黒い邪気を吸い取っていく。
悪魔の抵抗は雅が抑えた。

もう逃げられまい。

悪魔も最後の抵抗を始めた。
洞窟内に邪気が充満した。
シンの顔がゆがむ。

「・・・・シン・・・・大丈夫か・・・?」
「・・・・・・っっ・・・・」

雅は自分の首にかけていた、シンの十字架の首飾りをシンに渡した。

「・・・・これを・・・・。
しばらく私が身につけいたから魔力がこもっているだろう。
あと私の宝珠もあることだし、しばらくは大丈夫なはずだ。
・・・先に出て行け。
私もコイツを封印してから戻るから・・・・」
「はぁ?
今更何言ってんだよ、そばにいろっつったのは雅だろう。」
「・・・しかし・・・シンがこの中でいられるわけないだろう・・・」

声とは裏腹にシンの顔色はとても悪かった。
体温も徐々に低くなっているのが分かる。

「・・・私は・・・・大丈夫。
もう封印も大分すんでいる」
「・・・なら・・・もう少し・・・」
「・・・馬鹿・・・
・・・・・・・っ」

次の瞬間鈍い音と一緒に雅の体がシンの方へ傾いた。
そして生暖かい液体が流れてくる。

「・・・雅っ!?」

邪気のことなども一気に頭から抜けていった。
宝珠の光でなんとなく雅の様子が見える。
雅の背中には深々と爪みたいものが刺さっていた。

『・・・小娘メ・・・・・
貴様ダケデモ・・・・死ネ・・・・』

その後すぐに洞窟内に絶叫が響く。
悪魔が全て宝珠に吸い取られたようだ。
それを見て雅は目を閉じる。
気が抜けた。

「雅っ!?オイッ・・・」

微かに意識はあるらしく、シンの問いかけに頷く。
返事の変わりに彼の手を強く握る。

「・・・雅・・・・っ!?
・・・・なんでこんなことに・・・」

シンが歯噛みした瞬間洞窟内に岩の落ちる音が響いた。
悪魔の消滅と共にこの洞窟も壊れるらしい。
シンは焦った。
どちらもちゃんと動ける状態ではないのに・・・・・

そのとき宝珠が自分達の周りに浮かんでいた。
以前みたいに透き通った綺麗な宝珠ではなかった。
邪気を吸い、にごりも出ている。
シンは六つの宝珠を手に取った。

「・・・・悪魔の力を吸った後でも・・・・力は使えるか?」

《大丈夫、以前よりも力を出せるかどうかは微妙なところだけど・・・》

サイの声がする。

「じゃ、『アス』。
今すぐ、この洞窟の崩壊を止めてくれ・・・・
あと・・・この洞窟から早く抜けられる力・・・ないか?」

《・・・私の風の力を使ってください。
お二人を外まで運ぶくらいは出来ます》

龍達も自分の力の限界を知ったらしい。
悪魔の強すぎる負の力に負けまいと今自分と戦っている。

「・・・・じゃ、『ウィン』頼む。
すぐ洞窟の入り口までで良いから・・・・・」

風が洞窟内を吹き抜けた。


「・・・・はぁ・・・もう駄目だ・・・・。
限界・・・・」

久しぶりに宝珠の力を使った上体はボロボロだ。
『ウィン』のコントロールは予想以上に精神力を使った。
骨が折れていることもあって、雅を上手く運べない。
湿原の手前で止まった。
とりあえず、雅を抱きかかえたまま、シンは自分も木に寄りかかって座る。
雅は気を失ってしまったきり、動かない。
とりあえず、彼女に刺さった悪魔の爪は抜くべきか抜かぬべきか悩むところだ。
村に行かなければ人はいない。

シンは立ち上がった。
自分が何とかしなければ・・・・・。

バキッ

「・・・嘘・・・」

体全身に痛みが走る。
足の骨が綺麗に折れたようだ。
シンは激痛に耐えかね、その場で意識を失ってしまった。


    

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