酒は飲んでもなんとやら



「・・・ん・・・」

窓から光が漏れる。
また新しい一日が始まる。
は夢と現実の狭間にいた。

「・・・うぅ〜・・・」

寝返りが打てなったのだろうか、体の筋肉が固まっているような感覚がある。
体の節々が微妙に痛い。
は体を動かそうと意識化で寝返りを打った。
しかし、それは壁みたいなものに阻まれて上手くできない。

「・・・ん??」

は違和感を感じ覚醒した。
いきなり視界に入るのはこの世のものとは思えぬほどの美麗な寝顔・・・
それを認知した瞬間は叫びそうになった。

「・・・〜〜〜〜っっ」

・・・鳳珠様ッ・・・。
咄嗟に口元を押さえなんとか声を上げるのを制した。
何故隣に鳳珠様が?と考えるより先に反射的に距離をとろうとの体は後退した。
が、それを阻む壁みたいなものが背中に当たった。
は嫌な予感がした。

「・・・・・?」

もそもそと寝返りをうつとそこにはもう一人の人物が寝ていた。

「・・・れっ・・・」

は本日二度目の叫びを上げる前に反射的に口元を押さえた。
・・・黎深様ぁ!?

は固まった。
何のドッキリだ。
鳳珠だけなら・・・まぁ・・・前にも経験はあったが、黎深まで・・・。
二段構えのドッキリとは・・・いや、自然にこうなったのか・・・?

冷静を取り戻してきたは考える能力を取り戻してきた。
おそらくこの体の痛みはこの尚書二人に板ばさみにされていたからだろう。
そしてこの微かな頭痛は・・・

「・・・飲みすぎた・・・か?」


一度現実を受け入れてしまうと、精神的にも安定するようでは二人の間に寝転んだままこのようになった経緯を考え始めた。

昨日・・・
鳳珠様の家で同期(悪夢の国試組)で酒盛りをすることになった。
初めは皆普通に飲んでいたのだが、中盤から、と飛翔は“利き酒”をする事になりが負けた気がする。
その時まだ全員が健在で一番先に酔いつぶれた気がする。
そもそも一度間違える度に茅炎白酒という罰則自体が間違っている。
流石に小さい杯とはいえ、二十杯も飲めば誰だって酔いつぶれる。

「・・・・。」

ざっと、酔いが回った鳳珠様が寝台にごろんと寝転んで、その場に放置されていた自分も寝台にごろんと転がされ、最後に酔った黎深が転がってきたのだろう。
いやはや・・・面倒臭いことになったものだ。お陰で朝から大変なことに・・・

「・・・ん・・・ッ」

微かな寝息と共に黎深が側に転がってきた。

「・・・へ?」

のしっ、とに黎深の体重がかかった。
・・・重・・・ッ。
一緒に落ちてきた黎深の腕で、完璧にはつかまってしまった。
動けない・・・。

「・・・・。」

力任せに黎深を押してみるが体格の差からか、体重をかけられているせいか黎深の体はビクともしない。
それどころか、心地の良い抱き枕よろしくそのまま反射的に抱きしめられた。

「・・・なッ・・・ちょっ・・・」

頭上からは規則正しい寝息が聞こえ、黎深が起きる気配もない。
は焦った。
このままでは起きれないばかりかよからぬ誤解まで生んでしまう。
絶対起きそうにないが、むしろ起こすと命の危険がある気がしてならないが、状況が状況であるためは諦め半分で黎深を起こしてみた。

「・・・黎深様・・・起きてください・・・
れーしんさまー」

自体強気に出られるはずもなく自然と声は小さくなる。
隣に鳳珠が寝ているわけだし起こすわけにもいかないだろうという配慮からなのだが・・・。

「黎深様ー・・・朝ですよー起きてくださいませ。
あっ、秀麗ちゃんが・・・」

黎深の体がピクリと反応した。
・・・おっ、これは期待できる。
が次の言葉を続けようとした時、隣で動く気配がした。
が視線をやると、鳳珠と目があった。

『・・・・・・・・・・・・・。』

気まずい沈黙。
鳳珠の感情のない視線に耐えられずは目をそらした。
美しいのだが、何故かそれが怖い。

「・・・え・・・・・と、おはようございます、鳳珠様・・・。
あの・・・これはその別に深い意味はありませんでして・・・先ほど黎深様がゴロッと・・・
・・・あの鳳珠様?聞いてます?・・・え・・・あ・・・ちょっと・・・何・・・・鳳珠様っ!?」

鳳珠は表情を変えずに起き上がり焦点の合ってない目のまま、近くにあった仮面を手に取った。
はそれを眺めていたが、途中から嫌な予感に変わった。

「・・・あのっ・・・鳳珠様、その仮面つけるんですよね?
つけるんですよね。あっちょっ・・・こっち向かないで・・・あーなんかその構え・・・
ヤバイから、マジでヤバイから・・・鳳珠様ッ!?
私の声聞こえてますッ!?
黎深様も起きてください、これ絶対直撃ですって、その綺麗な顔に傷付けられる前に起きて!!」

鳳珠は仮面を持った手を軽く上げた。
そして振り下ろした。
は阻止しようとするが黎深に阻まれ腕が出ない。
スコーンッ
仮面は見事に黎深の額にあたり、さらに寝台の下の方で寝ていた飛翔にも当たった。

『・・・・・・・・・・・・・・・・・。』

は久しぶりに焦った。
鳳珠は意識化でやっているようだし、黎深からは良い音がしたし・・・ほら若干赤くなってきてる・・・なんか下でも二次被害が出てるようだし・・・

「・・・んあ?・・・痛ぇな・・・」

下の方から飛翔の声がした。
仮面の二次被害にあって目覚めたらしい。黎深の体が邪魔でからは飛翔が見えなかった。
飛翔は近くに転がっていた仮面で目覚めの真相を見抜いた。
そして起き上がっている鳳珠に向けて注意しようと口を開いたが、

「鳳珠、テメェか俺の・・・・・・」

飛翔の動きはそこで止まった。
後の彼曰く、鳳珠は『この世で最も見てはいけない顔』をしていたらしい。
この時点ではまともに鳳珠の顔を見ていられなかった。
黎深の体がピクリと動いた。
は内心ハラハラしながら黎深を見守った。
黎深の瞼が微かに動き、そして開いた。
そこは真性の天才・・・とでもいっておこうか、瞬時に何があったか悟ったらしい。
黎深は起き上がって鳳珠と睨み合った。

「・・・鳳珠貴様私の眠りを妨げるとは良い度胸だ。
死ぬか?」
「良い度胸なのは貴様だ。
誰の許可を得てそこにいる?しかもを・・・」

黎深は視線を下に移しそのまま横たわって混乱気味のを見た。
黎深は口元にうっすら笑みを浮かべた。
うっかりその笑みをみたは後悔した。

「・・・フッ・・・こういうことだ・・・」

ツー、と黎深の指がの頬を撫でる。
鳳珠の眉間に皺が一つ増えた。

「・・・れっ・・・黎深様?」

は金縛りにあったように動けなかった。
違う意味でドキドキする。勿論恐怖の方。
鳳珠が口を開く前になにかが横切った。
そして一拍後背後でガシャンと音がした。

確認してみると、昨日の酒盛りで使った空瓶。
それが、壁にぶつかり無残に砕け散っている。
四人はたっぷり十拍その光景を見ていた。
その際、全員焦点のあった目で現実を見ている。
そして、大きな不安を胸に抱きながら後ろを振り返った。
そこでみた光景は・・・

「おや・・・皆さん、朝から騒がしい事ですねぇ・・・。
朝から元気でよろしい事です。
・・・若いとは・・・羨ましいことです・・・」

無理矢理起こされて超不機嫌らしい悠舜の笑顔であった。
は夢であって欲しいと切に願った。

寝起きの良い人はおらんのか。


は朝食の用意を口実にそそくさ、とその空間を抜けた。
あんな場所にいられたものではない。
良く一緒に酒を飲んでいられたものだ。

がいなくなった空間にしばしの沈黙が流れた。

「・・・黎深」

鳳珠の美しくも怒りの込められた声音が室内に静かに響く。
悠舜は端から相手にするつもりはないらしい。飛翔は関係ない振りをした。

「なんだ鳳珠。
麗しい顔が台無しだぞ」

鳳珠の思わぬ反応に黎深が扇を広げその下でニッと笑みを浮かべた。
今日は朝から思わぬ収穫だ。

「誰のせいだと思っている。
というか何故お前が寝台で寝てるんだ!」
「えっ、勿論に誘われたからにきまっているだろう」
「そんなわけがあるか」
「・・・ふーん・・・覚えているのか?」
「・・・っ」

鳳珠は言葉に詰まった。
そういえば昨日は途中から記憶がない。

頭がすっきりしてきた悠舜は面白そうに二人のやりとりを傍観していた。
これは余裕がある黎深の方が有利であろう。
鳳珠は動揺を隠しきれていないようだし。

「・・・そもそもも何故ここで・・・」

もしかして、が一番に潰れたことを知らないのであろうか。

をそこに寝かせたのは君だろう」
『・・・え?』

鳳珠がぽかんとした表情のまま固まる。
珍しい光景に悠舜と飛翔は軽く目を見開いた。

「それは事実ですよ、鳳珠。」
「いやに積極的だと思ったがな」
『・・・なっ』

滅多に鳳珠をからかう機会がないので悠舜と飛翔は便乗した。
二人の証言により鳳珠はさらに固まった。
確かに事実なのだが、そのあとすぐ鳳珠も寝てしまった事は勿論言わないでおく。

・・・あー、しっかり悩んじゃってる。いつものかっこいい彼も台無しですね。
・・・こりゃしばらくは再起不能だな。
・・・いつも秀麗をネタに嫌がらせしてくるお返しだ。

三者三様に固まる鳳珠を眺めて満足そうに微笑んだ。
鳳珠はその笑みにも気付けないほど余裕がなかった。
・・・昨夜のこと、途中から記憶がない。
一体自分は何をしていたんだ・・・?

悠舜は立ち上がった。

「少し水を借りましょうか。
あちらの方でしたよね」
「あっ、俺も厠」
「私も行く」

三人が立ち去ったあとも鳳珠が悩み続けていたのはいうまでもない。



『・・・・。』
「あの・・・鳳珠様・・・」
「なんだ?」

朝から沈黙が重い。
は鳳珠から目をそらした。
なんか物凄く不機嫌だ。やっぱり朝の件が問題なのだろう。
三人が帰ってからは苦痛でしょうがない。
自分の方こそなんであんな状態になったのか聞きたいくらいだ。
顔をあげた鳳珠の視線が痛い。
勇気がでなくては話をそらした。

「言われた宿題やっておきました」
「あぁ・・・ご苦労」

紙をめくる音を聞きながらは視線に困った。
その辺にあった適当な書簡を眺めながら、言い出す機会を探る。
二回深呼吸して、は腹を括った。

「・・・あの・・・朝の事なんですけど・・・」

鳳珠の動きが止まった。

「・・・ごめんなさい。私は何も覚えてません。
というか・・・一番先に潰れてしまったみたいで・・・鳳珠様が寝台にあげてくださったのですか?」
「・・・・・・・・・」
「・・・鳳珠様・・・?」
「・・・あ・・・いやその・・・」

珍しく鳳珠が焦っている。
は首を傾げた。

「・・・私も良く覚えていなくて・・・どうやら酒を飲みすぎると記憶がなくなって・・・・
黎深の話では私があげたらしいが・・・
その・・・深い意味はないと・・・思う」

断言できないところが悲しい。
鳳珠の心配はよそにの反応は淡々としたものだった。

「あぁ、そうだったのですか。
その辺に転がっていて邪魔だったでしょう。
次からその辺に放置でもいいですよ」

・・・次なんてなければいいのだが。

「・・・朝の黎深の事は・・・」
「あぁ、皆さん本当寝起きが悪いんですね。
びっくりしちゃいました。
鳳珠様も低血圧ですか?」
「・・・・・・」

寝起き・・・
今になってやっとからかわれていた事が分かってきた。

「・・・ククッ・・・そういうことか・・・」
「・・・ほっ鳳珠・・・様・・・?」

急に笑い出した鳳珠には若干の懸念を覚えた。
ってか目が笑ってない。
ちょっと引いているに気付いた鳳珠はふっと笑みを柔らかくした。

「・・・あぁ、すまない。
あまり人の事は言えないが、酔う前に室に帰ってくれ。
気にする奴はいないから」
「・・・は・・・はい・・・」
「あと・・・あまり心臓に悪い事はしないでくれ」

「・・・・?」

鳳珠はの頭を軽く撫でた。

「・・・鳳珠・・・様?」
「合格だ」

そういっての持ってきた紙を返す。
鳳珠の微笑には頬が熱くなるのを感じた。
・・・朝の時といい・・・心臓に悪い事しているのはどっちですかっ!!



+後日談+++

「ちょっ、奇人どういうことだコレ!!」
「なんだ。お前が直接乗り込んでくるとは珍しいな」

月末の決算の書簡に印を押しながら鳳珠は、怒鳴り込みに近い状態で入ってくる飛翔を出迎えた。
仮面の下にはうっすら笑みが浮かんでいる。

「賃金明細。
今月ちょっと少ないんじゃないか。ってかこの酒代ってのはなんだ」
「・・・あぁ・・・・
先日飲み散らかしてくれたからな。
高い酒も無差別に空にして・・・。
安心しろ、悠舜も黎深も同じだけの額引いてあるから」
「・・・は?」
「お前女に酒代出させる気か?
それ以上セコくなってみろ、一生結婚できんぞ」
「テメェに言われたかねぇよ!!あークソッ!!」
「この機会に禁酒を勧める」

鳳珠は次の書簡に印を押した。

「鳳珠ー!!!」
「黎深か、騒々しい」
「どーいうことだ!兄上と秀麗に妙な薬をかがせたわけじゃあるまいな!!!」
「・・・お前こそ、どういうことだ。
っていうか何のいいがかりだ」
「秀麗の手作り饅頭をもらった上に、夕食に招待されたと聞くがっ!!」
「・・・・あぁ・・・・。
先日黄州の郷土料理店が開いたんでその招待券を譲っただけだ。
黄州の料理なら家でも食べれるしな」
「・・・またセコセコと得点を稼ぎやがってこの仮面が・・・ッ」
「なんとでもいえ。あまり騒ぐとまた邵可殿に距離を置かれるぞ」
「うぐ・・・っ」

最後の書簡に印を押した時、が入ってきた。

「失礼します。
・・・っと・・・管尚書に紅尚書・・・」

凄い面々だなぁ、と思いながらは礼をとった。
朝廷でも二人共それなりに偉そうに見えるのが不思議だ。←失礼
が急いで給湯室に入ろうとするのを鳳珠が止めた。

「この二人はすぐに退出するゆえ茶はいらん。
そこに摘んであるのは全て目を通したから他の部署に持っていってくれ」
「あっ、はい。御意に」

は両手いっぱいに書簡を持ち上げた。

「おっ、重そうだな。少しもとうか」
「フン、私も少しもとう。有難いと思え」
「えっ・・・そんな・・・私の仕事ですし・・・」

鳳珠の目がキラリと光った。

「お優しい尚書殿達だな。
どうせ手伝うならそこの本を府庫に、そこの書簡を吏部へ運んでくれないか?
全ての仕事だし・・・」

・・・鬼・・・鬼がいるよ・・・っ!!

府庫という言葉に黎深が反応した。
飛翔も仕方なくそれに順じた。


二人の尚書を追い払って静かになった室にまた一人客が来た。

「・・・鳳珠」
「・・・悠舜・・・?どうした、何かあったのか」
「えぇ・・・至急六部の尚書の署名がいる書簡周ってきましたよね。
あれどこいきました?」
「あぁ・・・それならここに・・・
・・・・。
・・・・あ・・・・」
「・・・なんですか?もしかして・・・」
「悪い、さっき吏部の方に運んでしまった。
飛翔だしな・・・早く取り戻した方が良さそうだぞ」
「吏部にっ!?しかもなんで飛翔に運ばせるんですっ!?
馬鹿ですか、貴方っっ。
吏部になんていったら、戻ってくるのいつになると思ってるんです!!
何年尚書やってるんですか、この仮面っっ!!」
「・・・もっと別の罵り方もあるだろうに・・・」
「無駄美貌っ!
・・・はぁ、久しぶりに動かない足を呪いますよ」
「まぁ頑張れ。」

悠舜は嘆息した。

「・・・相当ヤサグレてますね」
「まぁな。大分すっきりした」
「そんな貴方に素敵なお土産です」

悠舜の置いていった任命書に次は鳳珠が嘆息する番だった。
悠舜を敵に回すと怖い。



ーあとがきー

444444Hitを獲られました桔梗花月さんがリクエストされました『彩雲国物語 鳳珠夢』でございます。
黎深様が出てきてギャグ系とのリクでしたが、なんか悪夢のオンパレードになってしまいました。
すいませ・・・ッ。

個人的に二人に挟まれて寝るのはどれだけ幸せな事か・・・と思います(笑)
遅くなって申し訳ありませんでした。
駄文ですが、喜んでいただければ光栄です。

2007.6.18 月城チアキ


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