それは予期せぬ特別収入であった。
・・・相方は最悪だったけれど。


休日密偵大作戦


「・・・きゃっ・・・」
「・・・お前は・・・」

ある公休日のこと。
は市に繰り出していた。
特に回るところもなくぶらぶらとその辺を活歩していた時、前方から歩いてくる人物とぶつかりかけた。
はすぐに相手に頭を下げた。

「ごめんなさい・・・ぼーっとしていて・・・」
「まぁそんな事だろうと思ったぜ」

その声を聞いての表情は固まった。
謝罪の気持ち撤回。
は表情を即座に変え、キッとぶつかった人間を睨み上げた。

「・・・清雅・・・」

清雅はを上から下まで眺めて鼻で笑った。

「ここ街だぞ?
もう少しマシな恰好はできないのか?」

の額にビキッと青筋が浮かんだ。
思わず拳が出そうになる。・・・我慢我慢。
確かに町に行くだけだからと油断した恰好していた自分も悪い。
そもそもこんな場所に官吏がいるとは誰が予想するだろう。

「・・・っ。
失礼ね。あんたに関係ないわよ・・・。
そもそもセーガ様がなんでこんなところに・・・」

は答えを見つけ言葉を切った。
清雅は小ばかにしたように鼻で笑った。

「ハッ、お前にしては察しが悪いな。
思った以上に大したことないやつだな。俺の過大評価返せ。
・・・あ・・・そうだ。丁度いい・・・」

清雅は笑みを浮かべた。
は嫌な予感がして踵を返した。
関わらないのが正解。

「・・・おい・・・」

清雅がの肩を掴んだ。
が止まる様子を見せないとそのまま後ろから抱き締めた。

「・・・なっ・・・ちょっ・・・何する・・・っ!」

抱きしめられるとは予想しておらずは焦った。

「無視かよ。つれないな・・・」

耳元で囁かれ、ビクリと肩が震えた。
すでに周囲の視線など構っていられない。

「・・・何の用・・・?」
「・・・ちょっと付き合ってくれないか?暇だろ」
「残念。今から約束があるから」
「嘘付けよ。
今から約束ある奴がそんな適当な恰好で昼間からぶらぶらしてるかよ」

・・・ごもっとも。
もう少し綺麗にしてこれば良かったと再度後悔。
ってかなんで清雅に駄目だしされないといけないんだ。
激しく凹む。

数秒頭の中で利害を考えては答えを弾き返した。

「・・・負けたわ。
でも仕事なら給料いただくわよ。もちろん休日手当ね」

清雅はを開放して不機嫌そうに目を細めた。

「・・・・まぁいい。それで手を打とう。
お前の方が秀麗より使えそうだしな。
ついてこい」
「はーい」

清雅は半刻ほど街をただひたすら街を歩くだけであった。
たまには立ち止まったり、店に入ったりするが、特に目的のあるものでもないらしい。
は周囲と清雅の様子をみて仕事の内容を察した。

「・・・あの人何したの?」
「さぁな」

さすがに御史台の情報を流してくれるわけがない、か・・・。
清雅のつけている男は羽振りが良さそうで、色んな店に入るは高額の物を買っては次の店に入っていった。

「・・・で・・・私は何をすればいいわけ?
半刻も歩くだけならいらない気がするのだけれど」

つけている男が角を曲がった。
・・・この道は・・・。
は行き先の見当がついた。

「・・・・・・」
「・・・お金いらないから帰っても・・・」
「なんのために連れてきたと思っている」
「清雅やれば。化粧すれば結構いけるかもよ」
「阿呆か」

案の定ついた先は花街。
ようするに妓女をやれってことか。冗談じゃない。
しかし営業時間にはちょっと早いらしく周囲は閑散としていた。
二人は目立たないように建物の陰に隠れた。

「・・・一応聞くけど何すればいいの?」
「やってくれるなら言ってやっても良い」

はそっと男の様子を伺った。
・・・もしかして・・・あの人・・・

「・・・分かったわよ。その仕事請けるわ」

清雅は建物の壁に背を預けた。

「・・・あいつの顔は知ってるか?」
「知らない」
「へぇ・・・お前でも知らない官吏がいるんだな」
「当たり前よ。朝廷に勤めている人間、何人いると思っているのよ
で、何したの?あの人」
「公金を自分の懐にいれて豪勢に遊んでいるらしい」
「へぇ・・・」

の目がキラリと光った。
さすが戸部官吏といったところか・・・。
お金が絡むと反応が速い。

「戸部の目を盗んで勝手に豪遊とはやるじゃないの・・・。
人の税金使っていい度胸ね。ぶっ潰す!」

パンッ、とは胸の前で拳を叩いた。

「潰すんじゃない。証拠を掴むんだ。
これは俺の仕事だ。お前は余計な真似をするな」
「・・・あ・・・そう・・・。
とりあえずその証拠掴むまでは手段方法なんでもあり?」
「・・・実力行使意外なら・・・」
「了解。
じゃ、私ちょっと準備してくるから、清雅はあの人見張ってて・・・。
・・・見張るまでも無いか・・・」

男が賭場に入っていくのが見えた。
は花街の中に消えていった。


「清雅、奴はまだ中にいる??」

後ろから声をかけられて振り向いた清雅は一瞬声を失った。

「どう?
結構似合うでしょう。胡蝶さんから借りてきたんだー」

あえて、題をつけるなら『妓女さんの午後』
露出も押さえ、決して派手ではないが麗しさはそのままに、ちょっとそこまでお茶をしに行くような恰好である。
普段のよりも大人の色香三割増しだ。

「・・・まぁさっきよりはマシだな」

至極全うな意見を清雅は述べた。

「・・・正直でよろしいわ。
せっかく妓女にしろって注文つけたんだし、もっと喜びなさいよ」
「妓女にしろとは言ってない。
・・・で何をするつもりだ?」

は清雅の言葉を待たずに賭場の扉を開けた。

「・・・何って・・・?博打に決まってるじゃない。
腕がなるわぁ〜」

むさ苦しい空気の中に颯爽と入っていくの後姿をみて、清雅は明らかに人選を間違えたと今になって後悔した。


まだ昼間であったが賭場の中は混み合って盛況ぶりが窺える。
ムサいオヤジの集まりの中、色んな臭いが混ざってムッとする。
笑い声と喧騒の混じる空間の中、の存在は圧倒的に目立った。

「おぅ姉ちゃん。見ねえ顔だな。どこの店だ」
「さぁどこでしょう?私に勝てば少しオマケしてもいいよ」

営業用の笑顔で答えたに場の空気が熱くなる。

「・・・まぁ勝てたらの話だけどね」

落ちていた札を拾っては微笑した。
・・・ヤバい仕事忘れて遊んじゃいそう。
は周囲を見渡した。
運良くつけていた男の隣が空いていた。
は躊躇いもなく、彼の隣に座った。

「こんにちは、調子はいかが?」

朝廷では滅多に笑わない上、誰よりも勇ましく働いている自信がある。
まさか女性官吏がこんなところに遊女の恰好でいるとは思うまい。
大分化粧で顔も変わったしね。悲しいことだが。
男はを上から下まで見た。清雅と同じ反応だが、男はニコリと笑ってくれた。

「へぇ・・・あんた結構可愛いじゃん。この後お店いってやろうか?」
「いいの??娥楼だけど。
・・・私は高いよ?」

は笑いながら酒を頼む。
男は懐から巾着をとりだし中身をみせた。
中には輝く金色の貨幣がある。
はすっと目を細めた。
・・・これは・・・
一つ手に取って眺めた。
・・・間違いない。

「へぇ〜綺麗ね。作りたてみたい。私の顔も映ってる!」
「当然だ。作りたてのやつを全て買取ったんだからな」
「へぇ・・・。作りたての貨幣って買い取れるものなのね〜」

はニヤリと笑みを作った。

「じゃあさ、この綺麗な貨幣賭けて私と勝負しない?」
「俺には何かあるのか?」
「お座敷に胡蝶さんでも呼びましょう・・・どう?」

名も知らない若い妓女はとんでもない名を口に出した。

「胡蝶・・・だと・・・」

俄かに信じがたい。
胡蝶といえばこの花街一の妓女。
普通の家なら指名すれば三日とも持たずに破産するといわれる。
流石のこの男も胡蝶を指名できるだけの力はないらしい。
は男の反応に満足してくすり、と笑った。

「何なら一筆書こうかしら?
大丈夫よ、今日は暇だって言ってたし・・・」

は相手の返事も聞かず花札をもらった。

「さてどうする?」
「のった」

清雅は奥の方から溜め息をついた。
・・・あいつはここに何をしに来たんだ・・・。
どう考えても仕事しているようにはみえない。
・・・まぁ・・・。
手慣れた様子で札を配るをみて清雅はニヤリと笑った。
お手並み拝見といこうか・・・


一刻が経った。
が劣勢。の顔も少し険しくなってきた。

「あがりだ」

は揃っていない札を机の上に投げ出した。

「これでお前の賭ける物はないみたいだな」

ははぁ・・・と大きな溜め息をついた。

「そうね。調子悪いのかしら」

は、出された飲み物を飲み干し、ため息をついた。

「お店もそろそろ始まるし・・・最後に一回だけ勝負しない?」
「いいぜ」

調子よく勝っていたのか男は機嫌が良かった。

「ねぇ、私が勝ったらどうする?」
「そうだな、この掛け金の半分やるよ。
別に俺は金に困ってないしな」
「『龍王降臨』がでたら?」
「そんな札みたことねぇよ。まぁ出たらこの金全部やるよ」
「ふーん、今夜の件もなしでいいかしら?」
「分かったよ。『龍王降臨』がでたら何でも聞いてやる」

は初めて清雅の方をみた。
・・・なんだ・・・?助けでも求めるつもりか?
の視線での招きに内心呆れながら清雅はの元へいった。
こいつは、この負けた埋め合わせをどうするつもりだ?
・・・俺に頼る気じゃないだろうな・・・。
全て責任を押し付けられても困る。
だから女は嫌いだ。
清雅が口を開く前に、は立ち上がって清雅の腕に抱きついた。

「・・・お前なんの・・・」
「ねぇ、お兄さん。お金貸してvv」
「・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
「今この人と勝負しているんだけど、私に賭けるつもりでお金貸して。
もし私が勝てばそれに応じたお金を貴方に差し上げるわ」

清雅は目を細めた。
・・・これは・・・
先ほど男が持っていた新品の貨幣は今年初めて製造されたものでまだ一般には出回っていないものだ。
戸部に、しかも尚書の雑用係のであればその貨幣も見たことあるはず。
は証拠としてこの貨幣全てを手に入れようとしている。
・・・どうやら失敗してしまったようだが。

「・・・っていうかお前なんかに何故金なぞ貸さなくてはいけないんだ。
自業自得だろ」
「負けたらそれ相応の事はするつもりだけど?」

は清雅の耳元で囁いた。
清雅がピクリと反応する。

「・・・それ相応だと?」
「・・・勿論、妓女として扱ってくれても構わなくてよ?
まぁ・・・負けたら、の話だけど」
「・・・へぇ・・・その状態で勝つつもりか?」
「当然」

の態度は、相手に全てを取られ敗北が決定している者の態度ではなかった。
むしろ、今からカモに食いつこうと狙っている虎。

「・・・さぁ、幾ら私に賭ける?」

たくさん賭けた方が証拠の金貨も手に入る確率が高い。
・・・まぁ、万一負けたとしてもそれなりに良い買い物かも。
元は絶対取ってやる。
清雅は金十両取り出した。
驚いたのはの方だった。

「・・・は?
あんたこんなにも賭けるつもり?
太っ腹もいいところね。」
「証拠は多いに越した事無いからな。
あとこれだけあれば、お前に来る金全て俺がもらえるだろうし」
「・・・セコいわね。
まぁ、いいわ。何十倍にもして戻ってくるから」

金十両を持って席に戻るの腕を清雅は引き返した。

「負けたら元はとらせてもらうぞ」
「・・・分かったわよ。
女に二言はないわ」


金十両机の上にバンと置き、はにこりと笑った。

「お金は出来たから、早速勝負を始めましょう」
「・・・へぇ、あんたにそんだけ貸せるとはどんだけ金持て余してる男だよ。
あんたのお得意さん?」
「・・・お得意さん・・・ねぇ・・・。
ご指名いただいたのは一回だけよ」

・・・もうご指名いただきたくはないけど。

二人の手に札はいきわたった。

「さて、始めましょうか」


滞りなく勝負は進んだ。
最後の大勝負に周囲の視線も二人に集まる。
奥ではこの勝負に対する賭け事も始まっていた。
最後の一巡で男は引いた手札をみてニヤリと笑った。

「”神龍飛翔”・・・俺の勝ちだな」

周囲からどよめきの声が上がる。
男に賭けた者達から歓声が響いた。
は静かに目を上げた。

「・・・へぇ、一発勝負に強い人なのね。
そういう男結構好きよ」
「そりゃありがたいことだな。
・・・さて日も暮れたし、店に行くとするか」
「・・・ちょっとまって・・・。
私はまだ負けたとは言っていない」

は手札を広げた。
”龍王降臨”
最強の手札を目にして男も周囲の者も一瞬声が出なかった。
清雅も軽く目を見開いていたのをは見逃さなかった。
・・・ハッ、ざまーみろ。
女をナメるとこうなる。

後ろではどんでん返しの結果に場が混乱している。
はそれを無視して、掛け金を自分の目の前に持ってきた。
みればみるほど、戸部でみたのとそっくりだ。

「・・・な・・・っ・・・ななっ・・・」
「では、お約束通りここにあるお金全部と夜の件の約束は帳消し。
ついでにこのキラキラなお金、どこで手に入るか教えてもらえないかしら?」

は綺麗に笑って言った。
男は口を開閉させながら、なんとか言った。

「・・・これは・・・っ」
「これは?」
「・・・だっ、誰にもいうなよ。
朝廷から失敬してきたんだよ。俺は金取り扱ってるんでな。
これくらい簡単な事だ」
「・・・そうか・・・。
簡単に自白してくれて礼を言おう。
これで仕事が早く片付きそうだ」

清雅が男を取り押さえた。

「・・・貴様・・・ッ。まさか御史台・・・」
「連れて行け」

いつの間に入ってきたのか武官に男はあっけなく連れて行かれた。
はその様子に興味がないらしく、金の山から自分の必要な分を分けていた。

「・・・えーっと清雅金十両賭けたんだっけ・・・?
・・・計算面倒だから、私出した値段だけもらうからあと全部あげる。
証拠にするなり、懐に収めるなり好きにすれば?
あっ、このきらきらなお金は懐に入れちゃ駄目よ」
「俺がそんなセコイ真似するかよ。証拠として全て押収する」

新品の貨幣を武官に渡し、清雅はの上がった”龍王降臨”の札をみた。

「何?
イカサマでもしたと思っているわけ?」
「それ以外にこの札を揃えられるわけがない」
「フッ、清雅サマもまだまだのようね。
私を含め五人、この札を軽々と揃えられる人知ってるんだけど・・・」
「・・・・。」

清雅はまだ胡乱気にをみた。
はむぅ、と頬を膨らませる。

「・・・信じてないわね。
・・・よーし、一勝負してみようじゃないの。その目で確かめるが良いわ」
「いいぜ、何を賭ける?」
「じゃあ・・・私は清雅に貸し一つ」
「・・・では、俺は・・・今日一晩相手してもらおうか?」

はフッ、と笑った。

「上等よ」



「・・・あー、楽しかった。
清雅に“貸し”作れたことだし、久しぶりに博打も出来たし・・・」

賑わう花街の中を妓女姿から着替えたが上機嫌で歩いていく。

「明らかに人選間違えた。今後お前には絶対頼まない」
「私も清雅からのご使命なんて願い下げよ。
じゃ、私はこれで帰るから」
「まてよ」

清雅はの腕を掴み進行を妨げた。

「・・・まだなんか用?」
「・・・あぁ・・・」

清雅はの顎をつかんだ。
は驚いて目を見開く。その反応に満足して清雅はそのまま口付けした。

「・・・なっ・・・。
なにすんのよ・・・っ・・・」
「意外に免疫がないんだな」
「スカしてんじゃないわよ、この馬鹿清雅!」

の拳もさらりと交わし、清雅が声を上げて笑った。

「ははっ、何を言っている。
俺の“貸し”は安くはないぜ?これくらいの見返りをもらわないと。
・・・でも、正直負けたのは残念だぜ。
お前の泣く顔を見てみたかった・・・」

本気とも冗談とも取れない言葉には清雅から顔を背けた。

「・・・あんたね・・・。
・・・もう付き合ってられない。
とりあえずそこの川落ちて。明日素敵な噂を聞けることを楽しみにしているわ」
「ハッ、一回死んどけ」
「お前がな」

思い切り親指を地面に向けは人ごみの中に消えていった。

が見えなくなってから清雅は一人呟いた。

「・・・花札・・・か。
極めて損はないかもしれない」

の悔しがる顔を考えて清雅は笑みを浮かべた。
いつか、堕としてやるよ。
お前の一番嫌がる方法で・・・

今日の月も見事に輝いていた。


ーあとがきー

こちらは450000Hitを踏まれました秋月様に贈られます『彩雲国物語 清雅夢』です。
・・・すいません、双花出せませんでした・・・(orz)←そもそも無理がある
正月あたりにアンケートとったときに『清雅の仕事中ばったりあって〜』なネタを書いてくださった方がいたので有難く使わせていただきました。
シュチュエーションはちょっと違いますが・・・。

ちなみに題は某月9から・・・(笑)ノリだけ使わせていただきました。

こんな感じに仕上がりましたが受け取っていただければ嬉しいです。


2007.6.21 月城チアキ


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