雪が溶け、寒さも和らぎ、桃色の花びらが舞う時期がやってきた。
人々は一年に一度感嘆の声と共に足を止める。
それは、記憶の中の一瞬の思い出。


花の命は短し


「ねぇ・・・、お花見にいかない?」
「・・・・・。」

不機嫌に書翰を読むの後ろからかかる甘い声。
は無視して墨に筆をつけ、紙に文字をつけたした。
そんなを気にすることなく朔洵は後ろからを抱きしめた。
そして耳元で囁く。

「ねぇ、お花見しよう?
桜の花の命は短いよ・・・」

耳元に感じる吐息にとり肌が立つのをなんとか抑えては筆を進めた。
筆圧で筆が折れそうだ。

「・・・、聞いてる?」

花の命よりも仕事の締め切りの方が短いのだ。
は筆をおき、出来上がった書類に印を押した。
・・・完璧。
自分で作ったものを心の中で自画自賛し、次の書類に手をつける。
書翰を取ろうと手を伸ばすと、目的の書翰を朔洵が先に取った。

「・・・・・・。」
「お・は・な・みvv」

語尾にはーとがついている。
の額にまた一つ青筋が浮かんだ。

「何度も言わないでも聞こえてるわよっ!!
今忙しいのは見れば分かるでしょうっ!?
あと朝廷には勝手に入らない!!」
「話してくれないと分からないじゃない?」

にこりと朔洵が笑んだ。
顔だけ良いこの若様はその笑顔だけで人の怒りを沈めてしまう。
朔洵のしつこさに値を上げたは両手を挙げた。
まとわりつかれては仕事が進まない。

「分かった。これ終わったらいきましょう。
まずは書翰を返しなさい」
「そうこなくちゃ」

朔洵は素直に書翰を差し出した。
が手を伸ばすと、さっと上に持ち上げる。

「・・・ちょっと」

そろそろ一発殴っておいた方がいいかもしれない。

「今、行こう?」
「世界はあんたの都合で回ってるわけじゃないのよ」
の都合で回っているわけでもないもんね」
「・・・やっぱ、殴ろ」

の拳を朔洵は書翰で受け止めた。
無駄に運動神経がいいのも腹が立つ。
は乱暴に書翰をもぎ取った。

「ったく・・・」
「しょうがない。
じゃ、私はが終わるまで寝てるから準備できたら起こしてね」
「準備はあんたがしなさいよっ!!!」

早速長椅子に横になり始める朔洵に厚めの本を投げてやった。
彼はそれを難なく受け止め、枕にしてしまう始末。

「おやすみ。仕事、頑張ってね」


・・・・手伝え。


我ながら何故こいつを朝廷の室で自由にさせているのか分からない。
衛兵に突き出せば引き取ってもらえるかもしれないが、死んでいるはずの人間がこんなところにいるし、衛兵では朔洵に敵うはずがない。
言ってもきかないから放置しておくという理由もあるが。

が一人の時ふらっとやってきて邪魔するだけ邪魔してまたふらっと消えていく。
最初のうちは何とか追い出そうと躍起になったが、今はそんな労力も惜しいと感じて相手をしないことにしている。

・・・顔だけはいいのに本当勿体無いわよねー。
はそう思いながら新しい紙を用意した。



「随分と時間掛かったね」
「寝てただけの奴に言われたかないわ」

すっかり夜も遅くなった時間、と朔洵は適当に朝廷の庭を歩いていた。
これを狙ったのか満月だ。足元も桜もちゃんと見える。
朝廷にはどの場所にも桜が植えてありどこで見ても美しい。
酒瓶片手に二人は綺麗に見える場所を探した。

「・・・ここでいいんじゃない?」
「へー・・・いいね」

ぽかんと開けた場所に小さな池がある。
そこに満月と桜の木が写りこんでいた。
と朔洵はそこに座って上を見上げた。

「花見はいいわねー。
しかも満月ときたもんだ」
「やっぱり来たかったんじゃない」
「そりゃ時間のある限り来たいわよ。
朝廷が一番華やぐ時期だもの。
・・・別にあんたと見たいわけでもないけど」
「誰か一緒に見たい人でもいるの?」
「・・・気になる?」

の笑顔に、朔洵も微笑した。

「とてもね。後で贈り物でもしてあげようと思って」

目が笑ってないんですけど。
勿論、贈り物は普段想像するものとは確実にズレている。

が酒をついで朔洵に渡した。

「はい。確か・・・酒は強いのよね」
「さて、どうだろう?」
「・・・強いわよね。兄上と飲み比べしたくらいだもの。
酔った勢いで〜という理由は聞かないからね。いやそれ以外の理由も聞かないけど」
「残念。」

朔洵が苦笑する。
は自分の分も注いで、軽く酌を持ち上げた。

『乾杯』

酒のお陰で体が温かくなってきたところに、冷たい夜風が頬を撫でる。
夜風に習い、桜の花びらが数枚宙に舞い上がる。


「で、誰なの?」
「何の話?」

景色にみとれていたに朔洵は話しかけてきた。

「さっきの桜を一緒に見たい人」
「・・・あぁ・・・。
別に、特にこれといって名言できる人はいないけど・・・」
「ふーん」
「朔洵こそどうなのよ」

朔洵が不思議そうにを見返した。

「・・・私?」
「私以外にもいるんでしょう?」
「うーん・・・」

朔洵は意外にも少し考えていた。
予想してない反応には朔洵をまじまじと見つめた。

「・・・そうだねぇ。
やっぱりがいいかな」
「やっぱりって何よ。
他にも候補がいるわけ?」
「・・・ふふ、やきもち?」

朔洵の顔が笑顔に変わる。
は口を引きつらせた。何故そうなる。

「・・・なっ、そんなわけないでしょっ。
別にあんたに何人彼女がいようが関係ないし。
むしろ、いてくれた方が私的には嬉しいんだけど!」

仕事邪魔されずに済むし。

「別に照れなくてもいいよ。
・・・これからはだけにするから。それで良い?」
「良かないわよ!
誰が好き好んでこんな死神もどきに・・・っ。
そもそも、これからは、ってどういうことよっ!
てか、私にこだわらなくていいからっ。
他に良い人がいるならそこ行ってくれって話よ。あ、秀麗ちゃん以外」

朔洵との会話は突っ込み切れない。
なんか、おかしな雰囲気になってきた。
綺麗な桜も月も台無しだ。

「秀麗には敵わないと思ってる?
私はも魅力的だと思うけどなぁ・・・」
「己のしたことを振り返れ、この馬鹿殿っっ。。
そういうこといってんじゃないわよっ!!」

・・・はぁ・・・。
は大きく息を吐いた。
どっと疲れた。

「・・・朔洵、そういえば死んだんじゃなかったっけ・・・?」
「あれ、君が生かしてくれたんでしょ?
ほら、この通り・・・元気だよ」
「そうだったかしら・・・?
あー。解毒剤なんて飲ませずに放置しておけばよかった・・・。
むしろその場でとどめさしておけばよかった・・・」
「それでもまた生き返って、君に会いにくると思うけどね」

・・・冗談。
しかし、地獄の底までついてきそうなのが朔洵で・・・。

伸びてきた手をすぐに払い飛ばした。
朔洵は首をすくめる。

「・・・口付けまでした仲じゃない。
しかも、君から」

そうだった。

「・・・心底忘れたい記憶だわ。
チックショー・・・」

思い返しただけでもイライラする。
本当昔の私は馬鹿だったかもしれない。

「・・・それでも君は私を殺そうとはしないんだね」
「当然よ。
無意味だもの」

もう、昔みたいに簡単に人は斬れない。

「変わったね、
「・・・昔の私を知ってるわけでもなし・・・」

お互い同じだと思っていた、のかもしれない。

「あんたもそれなりに変わったわよ。
・・・ウザさは数割増したけどね」

は最後の酒を注いだ。

「はい、これで終了」
「・・・結構早いね」
「あんたも結構飲んでるでしょ。
最後は頂くわね」

最後の一杯を飲もうとするから、朔洵は杯を奪い取った。

「ちょっ、何すんのよ」
「最後独り占めされるのは腹が立つからね」

そういって朔洵は杯に口をつけた。

「・・・ちょ・・・っ。最後の一杯を楽しみにしてたのに!!」

杯を奪い返そうとは朔洵に掴みかかった。
朔洵がニヤリと笑む。

「・・・え・・・」

嫌な予感がしたけど遅かった。
あっさり、腰と顎を掴まれ、口付けされる。
手並みだけは鮮やかなものであった。が抵抗する暇もない。
酒の味がした。

「・・・朔洵っ!!」

口を離された瞬間、口元をぬぐう。

「飲みたいと思って。
おすそわけvv」
「・・・・・・。」

何が・・・おすそわけ・・・っ。

はさっさと朔洵から離れ、酒瓶と杯を回収した。

「私は帰るから、あんたも朝廷から出てきなさいよっ!」
「えー、これからでしょう?
夜もまだ長いし」

朔洵がくっついてくる。
抵抗せねば頭部に口付けされる始末。

「・・・ねぇ朔洵。
この酒瓶・・・良い鈍器になりそうなんだけど、どう思う?」
「うん。人一人軽く殴り殺せそうだよね」
「今凄い殴り殺したくなる衝動に駆られてるんだけど、ちょっと殴り殺されてくれないかな。
大丈夫、思い切りいくから。怖くない」
「血でベトベトになるのは勘弁かな」
「心配しなくても、朔洵物凄く血が似合うと思うの」

・・・言って、冗談にはならないことに気付いた。
とりあえず思い切り酒瓶を振ってみる。
当たらないこと前提だが、当たったら当たったで結果オーライだ。

フッと、朔洵の姿が消えた。

「・・・え・・・」
「まさか本当に殴りかかってくるとは思わなかったよ」

いつの間にか少し離れた場所に朔洵は立っていた。

「・・・まぁ今夜は諦めるよ。
続きはまた誘いにくるから、楽しみにしててね。
おやすみ、

闇に消えたのか本当に消えたのか分からない。
朔洵の姿は次の瞬間消えていた。

「・・・ったく・・・。
あのバカ殿。本当に死ねばいいのに・・・」

は暗い廊下を早足で歩いていった。
心臓の鼓動が早い。酒とは別に顔が熱い。

・・・朔洵に他に彼女がいるかもしれないと聞いた時、一瞬動揺したのは気のせいだ。


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