ここで、彼女の手をとり一緒に逃げていたらきっと人生は変わっていた。
・・・いや、そんなに変わってないかも。


選ばれざる、もう一つの道



藍州を抜け、日も浅い。
一人外で月を眺めている楸瑛を見つけたのではその隣に座った。
会話はない。

日中はさほど感じない風も夜には肌寒く感じる。
二人の髪が風に揺れる。
目を細め、遠くを見ている楸瑛を見て藍州での出来事を思い巡らせた。

「藍家から勘当か・・・
フフ、思い切ったことをしましたね」
「・・・改めて言うのはやめて欲しいのだけれど・・・。
後悔・・・してなくもないんだから・・・」

夜空を見上げ、楸瑛は大きなため息をついた。
そんな彼を横目で見ながらまたフフ、と笑った。

相変らずヘタれっぷりは他の追随を許さない。

王様と良い勝負、かと思っていたけれど最近のヘタれっぷりは彼の方が上をいく。
こんなヘタレ主従ではこの先が思いやられる、とは心の中で苦笑していた。

そのために、自分達がいるのだが。

「でも、良い機会じゃないですか。
藍家の柵から抜けた貴方がどう動くのかは凄い興味があるし・・・。
これで役に立たなかったら、丁寧に熨斗紙つけて当主に送り返しますよ。
せいぜい恥をかきたくなかったら、かっこよく働いてもらおうじゃないですか」
「・・・本当に鬼畜だね、君達兄妹は」
「それほど兄上を愛してると言って貰いたいです」

綺麗な笑顔で微笑むに、楸瑛は風とはまた別の薄ら寒いものを感じた。
素晴らしき、兄妹愛。
・・・あまり同感したくはないけれど。

「まぁ・・・そう圧力をかけられなくても、頑張るつもりだよ。
主上には返しきれないほどの大きなものをもらったからね」
「本当に」

楸瑛の顔は貴陽にいた頃より、スッキリしたものを感じられた。
藍家という鎖から解放されたからであろうか。
貴族、七家という身分に属すると嫌でもその鎖が絡みつく。
気付けば見えない鎖に縛られていた。

劉輝も、秀麗も・・・私も。

自分も真っ直ぐ自分の思うように生きているつもりだ。
しかし、時折チラつく影がその決心を揺らがせる。
倒れてしまえば・・・そこで終わりだ。

全てを捨て、一からやり直せる彼がとても羨ましく思えた。

「・・・でも、勘当か・・・
それはそれでいいですよね」
「・・・は?」
「だって、守るべき地位も、矜持もないじゃないですか。
あとの人生自分のためだけに生きられる・・・。
・・・それが少しだけ羨ましい・・・かも」
「・・・殿。」

楸瑛は苦笑した。

「流石に矜持くらいは守りたいところですね」
「家として、のよ。特に藍家なんて大変でしょう?」
「・・・まぁ・・・そうですね。
少しは軽くなったのかもしれません」

自分だって、彼と同じ選択肢が過去にはあった。
・・・自分は、自ら鎖に縛られることを望んだのだけれど・・・。

今ではその選択をして少し後悔した。
その鎖は想像以上に絡まっていた。そして時が流れるにつれ太く長くなっていく。
・・・全てを捨てて、逃げ出したくなるくらいに。

「・・・楸瑛殿。世界はこんなに広い」
「そうですね・・・私もまだこの国の一部も見たことがありません」
「龍蓮みたいに自由に世界中旅できたら素敵だと思いません?」
「素敵ですね。
貴方と一緒に、ですか?」
「勿論」

は歌うように言った。

「私は黄州で一番の賭場で一晩過ごしたいですかねぇ・・・・。
一生遊んで暮らせますよ」
「何でそんなに勝つ自信があるんですか」
「あとは各州名産のお酒を各州の絶景を堪能しながら飲むとか」
「それは、最上級の贅沢ですね」
「勿論名産品も一番おいしい方法でいただくの」
「・・・一流の庖丁を呼んでですか?」
「当然」

言葉にするだけで甘美な世界が沸きあがる。
しばらくその妄想にふける。
それはとても幸せで・・・・

「・・・最高の人生を送れそうですね」
「でしょう?」

は艶やかに微笑む。
傲慢な笑みも、儚げな微笑みもたくみに操れる彼女にもこんな表情ができたのか。
様々な女性と時を共にしてきた楸瑛は驚いた。
媚びる女性も、嫌いじゃない。

は、そっと楸瑛の手に触れた。

「ねぇ、名もなき騎士様」

楸瑛の黒の瞳を覗き込む。

「私を解放して・・・そして夢の世界に連れて行って・・・」

彼女の後ろにある大きな影を知らないわけではない。
しかし全て知っているわけでもない。
想像を遥かに越える、大きく恐ろしい影が彼女の後ろに迫っている。
それは誰も手出しできない、彼女が自分で自分を守ることでしか取り払うことのできない影。

それを取り除けば、どんなに幸せで、どれだけ楽しい日々が待っているか。
少なくとも、命を狙われる心配をする必要なんてない。

それを切ってあげられるなら・・・
自分にその力があるのなら・・・
彼女を解放してあげたいと思う。
自分にその力はあるはずだ。強く確信できる。

温かくて、優しい夢の世界。
生まれながらにして力を持っていた私達は、夢を現実にする術も力も持っていることを知っている。
夢は夢で終わらない。

「・・・私でよければ」

楸瑛がに微笑みかける。
の目が見開いた。

「といいたいところだけれど、もう心に決めてしまった人がいるのでね」
「残念」
「これだけは・・・もう譲れないよ」
「私の誘いを無下にするとは・・・といいたいところだけど、まぁ合格ね」
「そもそも君もノリ気ではないのだろう?
冗談でその色気は頑張りすぎだよ」
「・・・まぁ・・・。
たまには・・・いいかなーとか思ってみただけですから・・・」


振り切ったつもりでもまだ絡みつく見えない鎖。
それはまるで私達が夢の世界に行くのを止めているようにも感じる。
もどかしいが、今の私達には、それが丁度良い。
それくらいのハンデがないと、きっと世界はつまらない。

楸瑛がに尋ねた。

「・・・貴方は、もう一度振り出しに戻るとしたら、どうなさりますか?」

は不敵に笑った。

「勿論、兄上の信頼なる臣下に」

・・・言った後に思った。

自虐趣味もいいところだ。互いに。



ーあとがきー

そんな感じで綵璃さん、お誕生日おめでとうございます。
せっかくの解禁日ということでエロでも一つつめておけば良かったですか、そんな無駄な配慮いりませんかすいません。
あえていえば、夢主の誘い文句が深読みすればエロいってことでここは一つ・・・・(なんだよ)

思い立ったらすぐ実行。新鮮なネタは、新鮮なうちに。それが一番面白いから。
どの道本筋とはネタがずれるのはいつものことなのでここはあえて気にしないよ!
微長編のifネタで、すいません。
オリジナルの主人公とか考えるのが面倒くさかったとかそういうわけでは断じてないよ!
短編なんだしそれくらいの労力使ってもいいと思うけど、とかいう意見も聞こえないよ!
反対意見は認め(ry)


『無職のボンボン』・・・ってなんか良くないですか!
それをキーワードに10秒で思いついたのがこんな感じの話でした。1時間半後にできたのがコレ。
・・・これ短編のしかも人様に渡す夢として成り立っているのだろうか(最終的にくっついてないしな!)
そして、静蘭忘れた(実に良い度胸だ、表でろコラ)

リク↓
『静蘭と楸瑛
できれば無職ボンボン』 本文一部コピー。

・・・無職のボンボンの解釈が間違っていたのかもしれない。
ちょっとかっこよく妄想しすぎたかもしれない←ぉ


2008.10.1 月城チアキ


このままでは実に申し訳ないと思ったので、オマケ↓



「・・・うちの姫を連れて逃げようなど・・・。
まことに、無職のボンボンの考えは恐れ多くてかける言葉もありませんね」
「うっ・・・聞いていたのか・・・静蘭」
「えぇ」

戻ると待ち構えていたのは、笑顔の静蘭であった。
楸瑛は苦笑する。
別に誘ったのは自分ではないが、静蘭の前ではそんなことは関係がなかった。

「まぁ、戯言だよ。
お互いここから逃げようなんて、毛ほども思っていないしね・・・・」
「勿論です。
逃げようものなら介錯無しで切腹していただくつもりですから」

爽やかな笑顔で恐ろしいことをいってのけた。相変らず怖い兄妹だ。
楸瑛は藍家以上に恐ろしい圧力が自分に掛けられていることを悟った。
・・・今更だが。

「でもいいのかい?
これからどんどん大変になっていくんだよ。
秀麗殿は、ともかくせめて殿だけでも・・・」

はまだ官位が低い。
争いに巻き込まれて落ちていくより、一時的にでも他州に移した方が安全だ。
静蘭は苦笑した。

「・・・の気持ちを知ってそういえる貴方は本当にめでたいですね。
それができたらとっくにしていますよ。
それとも貴方が説得してくださいますか?」
「・・・先程の会話を聞いてそれを言うかい?」
「・・・・・・私はずっと考えている事があるんですよ」

静蘭の目が細められる。

を、この運命から逸らせる者がいるのなら・・・を預けてもいいかな、と。
無職のボンボンの貴方でも」
「・・・うっ、その通りだけど『無職のボンボン』を強調させるのやめてくれるかい。
とても心にささるんだよ・・・」
「事実じゃないですか」


貴方は知っていますか?
・・・平凡な人生、それもの願いでもあることを・・・。
目まぐるしく変化し、裏切り、裏切られ、殺気が満ち溢れている世界。
そこから、彼女を救い出してくれるのなら・・・
そのような人に出会えたなら、そのような未来をが望むことができるならば・・・

「ふぅ・・・やっぱり元ボンボンじゃ駄目ですね。
タンタンくんくらい位を落とさないと無理か・・・」
「何ひとりごちているんですか。
それに『元』とかつけないでもらえるかな」
「事実じゃないですか。
・・・なんかタンタンくんの方がつかえる気がしてきました」
「えぇ〜・・・なにその一方的な落胆は・・・。
私だってやる時は・・・」
「・・・やらない時だってやるのが良い男の条件ですよ・・・
本当残念です」
「・・・え・・・ごめん、残念の意味が分からないのだが・・・ちょっ、静蘭!?」


願わくは、彼女に幸せな明日が来ますように


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