朝廷の朝は慌しい。
朝議は定時に始まり、それからは黙々と確実に仕事をこなしていくのみだ。
朝廷が変わったのは八年前。
以前よりかなりしまってきた外朝は今日も忙しかった。


IF


朝議が終わり、官吏達は忙しく朝廷内を歩き回っていた。
王の執務室の扉を開けるとその中にいるのは二人の優秀な若い側近。

入ってきた人物を見て手を、止め一礼した。

「李侍郎、書類の方は出来あがっているか?」
「はい・・・こちらに」
「吏部尚書から何か、伝達は?」
「時間配分にもう少し余裕を持たせろ、とのことです」

紫色の衣に身を包んだ王は、ふっと微笑した。

「・・・私に意見してくるか・・・。
あの人も中々手厳しい・・・
・・・・劉輝・・・」

王の後ろにいるのは王の義弟の劉輝。
彼が現王の一番の側近に当たる。

「はい」
「後で修正案を各部署の高官に。
戸部尚書から予算案は届いているか?」
「これです」

差し出された書類をみてすぐにつき返す。

「もう少し削れるところは削っておけと。
あと、送迎費はそれの半額だ。
例の計画の予算の方は・・・・」
「・・・まだ厳しいそうです」
「では、祭費から落とすか・・・。妙な裏金の動きがあったら即行取り押さえだ。
それでかなりの額は手に入るだろう。
以上を彼に伝えておいてくれ」
「はい」

王は書類を見ながら机案についた。今から修正案を書き、溜まっている仕事を片付けなければいかない。
彩雲国国王、紫清苑は嘆息した。



「・・・いやー、本当にうちの王様は厳しいねぇ」
「お前なんかは真面目に働ける環境でいいんじゃないか?」

処理しおわった書類を持ちながら絳攸と楸瑛は共に廊下を歩いていた。
絳攸の天才的な方向音痴が発覚してからというもの、絳攸の一人外出は王の命によって禁止された。
故に、彼がどこかへ行く時は必ず誰かが一緒にいる。

現王は確かに政治の手腕も人格も見事なものだが、彼のもつプライドの高さにより周りは大変な迷惑をこうむっているのも事実。
幼い頃から憧れていた楸瑛も実際の人物をみて、絶句したものだ。
絳攸に至っては真面目に仕えているが、時々持ちかけられる無茶な仕事量にたまにうんざりする程度。
あとの、不服といえば

「・・・にしても・・・別に吏部まで行くのに何故この常春と一緒じゃないといかないのだ」
「いいじゃないか、あの王様の元で無駄話してると笑顔で怒られるし、私は別に良いけどね。
絳攸と話す機会がもてて・・・」
「俺は一人で行けるっっ!!」

大きく宣言した絳攸だが、しかし彼の一歩踏み出した先は吏部とは逆の方向で・・・・

「・・・君・・・どこへ行くの?
府庫?それとも刑部?戸部?兵部?・・・後は・・・」

何度も朝廷内の地図を見てきた絳攸は明らかに楸瑛の言った部署とは逆の位置に吏部があることは知っていた。

「・・・っ
俺は、ここに飾ってある花をだな!!」
「・・・あぁ・・・そう・・・。・・・確かに綺麗だね」

笑いを堪えながらいう楸瑛に絳攸は立腹してそのまますたすた歩いていってしまった。
・・・が、しかしそこは・・・

「・・・絳攸・・・残念だけど吏部はこっち。
十字路を三分の一の確率で外すのも立派な才能だと思うよ」

今度は素直に従った絳攸であったが、実は遠回りさせられていることに気づかないのである。


「・・・ほぅ・・・王がな・・・」
「ハイ・・・」

仮面の主、黄尚書と話すのは劉輝にとって苦痛でしかなかった。
しかし愛する兄のためなんとしてでもこの話は通さなくては行けない、と全神経をフル活動させて黄尚書と対峙していた。
いくら紫家の者といえども全く容赦がない彼は劉輝を一瞥し、ふんと鼻を鳴らす。
完全になめられている。

動かしている筆を止めて奇人はその辺にある本をとって、開き始めた。

「他に王は何と?」
「例の計画の分の資金を早く見積もって欲しいと・・・」

黄尚書の雰囲気が変わった。
かなり不機嫌そうなことが仮面を通して分かる。
言外に『このクソ忙しいのに何仕事増やしてくれてる』というのがひしひしと伝わってきた。
大体、計画自体は今すぐでなくてもいい。あとに回しても何の変わりもない。
ただ国民の生活が少し楽になるのが早いか遅いかそれだけだ。

・・・でもここは愛する兄のため・・・(以下略)

「具体的には祭費と裏金の分から回せと・・・仰って・・・」
「柚梨」

劉輝の言葉をさえぎって奇人は部屋に入ってきた侍郎を呼んだ。

「・・・はい、何でしょう?」
「裏帳簿の方を彼に渡してくれ」

劉輝は目を丸くした。ここまであっさり通るとは思わなかった。
そして、奇人は持っていた本を劉輝に投げた。
反射で受け取った本の中身を見てみると、官吏のしかも上官の名がところどころに多数並べられている。

「・・・王が何をしようと別に構わんが、私はそこまで構っている時間がない・・・・。
吏部に言って適当な人材を貰ってきてくれ・・・。
そこにあるのが、今目をつけている奴らだ」
「ありがとう・・・」
「礼はいらん。後の資料は柚梨に貰ってくれ」

黄尚書をここまで押さえられているのはやはり兄の力が及んでいると言う事だろう。
はぁ・・・と劉輝は息を吐いた。
ますます尊敬できる兄である。

そんなことを考えつつ廊下で立ち止まってきたら、向こうからやってきた絳攸に頭を叩かれた。



戻ってきた彼らを迎えたのは王の綺麗な笑顔だった。

「遅いですよ、貴方達。
あと四刻半くらいは早く戻って来れたのではないですか?」
『・・・・・』

笑顔の裏に隠された真意を嫌というほど感じ、ただただ三人は黙るしかなった。
・・・まぁ世間話もしていたし、少し無駄なことをしていた時間を無くせば戻ってくることも可能であったはずだけど・・・。
一言も発っせない上に、入り口に固まって突っ立っている側近達を見て、清苑は目元を緩めた。

「・・・まぁいいでしょう。李侍郎は、その机案にある仕事を今日中に片付けてください。
藍将軍は、その机案の上にある書類を各部署に配り終わったら羽林軍に戻っていいですよ
・・・さて、劉輝行くぞ」
「・・・あっ、はい」

机案から立ち上がった静蘭をみて、楸瑛が声を掛ける。

「どちらに?」
「六部尚書及び各宰相達と会議だ」

楸瑛の問いに答え出て行く、王に絳攸が机案の上にある量の仕事を見て固まった。
そして言って無駄だと思うが、言わずに入られないので言ってみた。

「・・・ちょっと待て・・・・
この机案の上って・・・絶対今日徹夜しても終わらない量だと思うのだが・・・」
「気合です。終わらせてください。
そこに混じっている吏部尚書の分の仕事を省けばちゃんと終わるはずでしょう」
『・・・・・』

その言葉に絳攸の動きが止まる。
・・・・いや、待ってくれ。
要するに黎深の分の仕事はやらずにまた送り返せということか。
そんな事恐ろしくてできるわけがない。
絳攸の内心など知ってか、知らないでか(九割九分九厘の確率で知っている)清苑は呟いた。

「彼のせいで、貴方の使い勝手がかなり悪くなってますからね・・・。
そろそろあの人にもちゃんと仕事してもらわないと・・・」
「・・・ほぅ、相当偉くなったものですねぇ。主上」

その言葉に室の中にいた全員が入り口に目を向けた。
そこには、吏部尚書と戸部尚書の姿があった。

「何用ですか?
会議なら今から行きますし・・・別に時間に遅れていると言うわけでもないでしょう」

両尚書の相当の威圧も諸共せず、清苑は完璧な笑顔で応対する。
後ろにいる若い官吏達ははらはらしながらその場の成り行きを見ているしかなかった。
先行、黎深。

「えぇ、ついでだったもので色んな書状を持って来ただけ・・・。
・・・ですが、今の言葉は主上といえども聞き捨てなりません。
うちの侍郎をどうしようと、私の勝手。
貴方にどやかく言われる筋合いはない。
別に好きで絳攸を貴方の側近にしたわけでもなし・・・」
「自分の仕事くらい自分でやって欲しいものですね。吏部尚書。
これでは、禄の振り分けが平等とは言えないじゃないですか。
いい加減、貴方も外朝という枠の中に収まってくれませんか?
私は乱れというものが嫌いなので」
「誰が、若造の枠の中に入るものか・・・・。
それに仕事はちゃんとしている」
「府庫や戸部に遊びに行く事が?」

しっかりと黎深の行動はわれているらしい。
というか、あれほどおおっぴらに行動しているのだ。ばれない方がおかしい。
一緒についてきた奇人だが、この光景を面白そうに眺めていた。
どこに結果が転んでも自分には害がないし、この二人にはそろそろ灸を据えて欲しいとこだった。
どっちが負けても自分には関係がない

まぁ話題からして黎深不利か・・・。負けてもこれくらいで凹む奴でも改心する奴でもないけど。

「・・・そう、府庫にいる兄上にチクったのは貴方でしたねぇ。
おかげで私の計画がまたぶち壊し・・・・」

計画というはおそらく兄上のお宅訪問のことだろう。

「あまりにも仕事をしてもらえないもので少しご協力していただいた次第です。
貴方には誰が言っても聞く耳もたないですからね。
早く姪に会いたいのならもう少し真面目に働いてその精神から入れ替えて会いにいった方がいいんじゃないですか?」
「貴方こそ、その腹の中にある黒いものをどうにかした方が良いのでは?」

話が平行線になってきた。
多分決着がつかないだろうことを、察した奇人が二人の間に割って入った。
これ以上話してもらうとまた残業する羽目になる。
時は金なり。
この二人のくだらない口喧嘩を聞いている時間など自分にはない。

「そろそろお時間です。主上、黎深。
あと、これが修正案。
例の件に付きましては吏部の方で人員を出してもらうのであとはそちらで勝手にどうぞ。
資料提供はいたしますが、戸部の方でこれ以上の仕事は無理かと・・・」
「・・・そうか・・・。
・・・・いや、少し戸部の方で無駄な事をしすぎでは?」

一端、肯定的な態度を見せた清苑だが少し考えて意見を変えた。
彼の目が鋭くなる。
その言葉に仮面の下で奇人は眉を顰めた。

「その言葉聞き捨てなりません。
我々はこれでも必要最低限の仕事をしているまで」

バチバチっと両者の間で火花が散る。
救いの神だと思っていた奇人まで戦禍の中に入ってしまえば止められる者皆無。
もう、なんでも言いから他のところでやってくれ。というのが後ろにいる三人の切実な願いであった。

休憩の鐘が朝廷内に響く。
その音に三人の言い争いが止んだ。

「・・・まぁともかく。
・・・もう面倒なので」

清苑は誰もが認める完璧な笑顔で言ってのけた。

「全て私の言った事やってください。
出来ないとは言わせません」

『・・・・・・・・・・・・』

そのオーラに圧倒され皆頷くしかなかった。




「・・・・うぅ・・・・ん・・・
・・・・・・」

むくっと体を起こすと、そこは見なれた室だった。
隣を見れば同僚の楸瑛が寝ている。目の前には主としている彩雲国国王紫劉輝。
絳攸は目をこすって自体の把握に努めた。
・・・ここは・・・。

絳攸に続いて楸瑛、劉輝とも起きあがる。しかし顔は心なしか、青い。
三人はしばらく無言のままその場に座っていた。

「あぁ、おはようございます。
皆さん、起きられましたか」

『・・・・うわっっ!!!!』

先ほど、物凄い笑顔で彩雲国を治めていた清苑もとい静蘭が声を掛けてきた。
絳攸は自分でも驚くほどに心臓がバクバクしていることに気づいた。

・・・・夢・・・・。

三人は一応頬をつねって現実である事を確認し、やっと一息ついた。
・・・精神的に相当辛い夢を見たようだ。
静蘭は不思議そうに首を傾げた。

「・・・どうしました、怖い夢でも見られました?
先ほどからずっとうなされっぱなしでしたが・・・・」

・・・・えぇ、貴方が物凄く怖かったです。なんてことは口が裂けてもいえない。

三人は黙秘を貫き、その場を過ごした。
静蘭も深入りはせず、三人の肩にかけてあった布団を回収しながら言った。

「本当、困りましたよ。三人とも食事食べた後そのまま寝てしまうんですから。
あまりにもぐっすり寝ていらしたし、部屋を用意するのも面倒・・・・
・・・いえ、起こすのも悪いと思いましたのでそのままにしておきました。
風邪など引かれてませんか?」

・・・なんてことを笑顔でいってしまう元公子様はやはり最強である事を三人は確信した。

静蘭が奥に行ったところで二人は小声で会話した。

「・・・私、改めて主上付きで良かったと思いましたよ」
「・・・俺もだ。何か、嫌な汗をかいた。
出来すぎる王ってのも問題だな」

しばらくは静蘭と普通に接する事は無理そうだな・・・と思いながら紅家を出ていった三人であった。



ーあとがきー

こちらは、111111Hitを踏まれました綵璃様のリクエストの『静蘭が王になったときの小説』です。

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