愚弟の溺愛日記


今日は休日で朝廷も休みとなっていた。
紅潔ツの娘秀麗は、いつものように買い物に出ていた。
丁度夕食の日があたっている日だが、それとは別に今週の分の食料を一気に買うのだ。

「・・・絳攸様はねぎの料理が好きだから、ねぎ買っておいたほうがいいかしら・・・?
どう思う静蘭。っていうか何食べたい?」
「お嬢様の作るものなら何でも・・・その答えでは困るのですね。
今日は肉料理が食べたいですかね」
「肉かぁ・・・そうね。そうしましょうか。
鳥がいいかしら・・・それとも豚・・・」

今の時期ならどちらが安いかしら・・・。

「豚にしますか?鳥なら絳攸殿が持ってきてくれそうですし」
「・・・そうね、そうしましょう」

秀麗はニコリと笑って家人の静蘭を見た。
傍から見れば恋人同然の二人である。
そんな微笑ましい光景を殺気ともとれるオーラを放ちながら二人を見ていた人物がいた。

「・・・・クソ、あの忌々しいクソ公子め・・・・。
その似非笑顔やめろ。しかも秀麗と見つめあい・・・。
とっとと離れろ。邪魔だ」

紅家当主であり、吏部尚書、紅黎深は建物の影に隠れながらハンカチを噛みしめた。
その光景は傍から見ればかなり怪しい光景であるが、怪しすぎて誰も声を掛ける気にはなれなかった。

「秀麗から離れろっっ」

黎深は、殺意満々の念を静蘭に送る。

「・・・っ!?」
「・・・どうしたの?静蘭・・・」

静蘭の動揺に気づいたのか秀麗が静蘭のほうを見る。

「いえ・・・なにか殺気・・・・さっき、何かがそこにいたかなと・・・
気のせいでした」

静蘭はいつものように綺麗な笑顔を作り、その場を取り繕う。
そして、目だけであたりを見た。
・・・もしかして、ではなく、確実にあの人が来ている。
秀麗は全く気づいていないらしく、心配そうに静蘭に言った。

「そう?
・・・・結構疲れてんじゃない?」
「大丈夫ですよ。この通りピンピンしてますし。
お嬢様の料理を食べれば回復しますよ」

いつもの笑顔を作り、秀麗に語りかける。
差し障りのない答えを言うつもりであったが、どうも挑戦的になってしまう。
勿論、黎深の額に青筋が浮かんだのはいうまでもない。

「もう、上手いこといっても料理の腕は上がらないわよ。
あっ、この髪飾り可愛いわね」

その辺の雑貨屋の店頭においてあった飾り物に秀麗は目を奪われた。

「本当に、似合いますよ。きっと。
欲しいですか?」
「いや・・・別にただ可愛いなぁって思っただけよ。
これ買うなら新しい食器が欲しいわ。
折角絳攸様や藍将軍がお見えになるのに欠けた皿に持ってるなんてねぇ・・・」

そのセリフに黎深の目が光った。
かなり後ろで見ている割に、会話は聞こえているようだ。
恐ろしく地獄耳である。

「・・・食器・・・。
今伯父さんが送ってあげるからね、秀麗、兄上・・・」

『伯父様ありがとう』『黎深、感謝するよ』などと笑顔の姪と兄の姿が目に浮かぶ。

「フフッ・・・・フフフフ・・・・」

怪しく笑いながら黎深が手を叩く。
一瞬のうちに彼の後ろに一人の従者が馳せ参じた。

「高級食器セットを今すぐ手配して兄上の家に送ってくれ。
今すぐだ」
「・・・御意」

そのころある豪華な装飾が施してある軒が走っていた。
かなり人目を引いているのはおそらくその装飾ではなく、軒に吊り下げられている鶏のせいだろう。
しかもちゃんと生きている。
そのおかしな軒に乗っているのが馭者含め三人の若者だった。

「本当助かります、絳攸様。
わざわざ私も乗せていただいて」
「どうせ同じ所に行くんだ、変わらん」
「羨ましいポジションだね、絳攸。
私と変わって欲しいよ」
「馭者は馭者らしくしていろ」
『・・・・・。』

多分彩雲国広しといえども楸瑛を『馭者』扱いできるのはこの絳攸だけだと思われる。
は苦笑して二人の会話を聞いていた。
今日は秀麗の家の夕食の日。
王の側近含め、も招待されたため、絳攸の軒に乗せてもらっているのだ。
楸瑛が馭者を勤める軒は難なく邵可邸に辿りつく予定であった。
・・・・が

「・・・あれ?あそこにいるのは・・・」

楸瑛が思わず口に出したのは、一人の怪しい男の姿を見たからだった。
私達も楸瑛の横から覗く。

「・・・なっ」
「・・・・・・・・。」

その男が誰か分かるや否や絳攸はすぐに軒の奥に引っ込んだ。
見ては行けない光景を見てしまったのかもしれない。

「・・・あれって・・・黎深・・・・様だよね」

恐れるところを知らない妙に肝の据わっているは、誰もが恐れる紅黎深とは親しい間柄だった。
一応、『様』付けで読んでいるが、いうことなす事全てにおいて辛口だ。
日常会話だけなら黎深の友人黄鳳珠にも引けを取らない。

「・・・なにやってんの?あの人」

彼女の突っ込みに二人は何ともコメントしがたかった。
大体予想はつくが、口に出して良いのが激しく迷うところだ。
ここで下手に口出ししてしまえば後で何をされるか分かったもんじゃない。

ふと黎深の視線の先を見ると丁度秀麗と静蘭がいるではないか。
しかも、普段のように何やら変なオーラを撒き散らしている。

は、朝廷で働く黎深の姿など見たことはなく、黎深という人物の印象と言えば、兄家族馬鹿。としか認識されていないのだ。
そこには『真性の天才』と言う言葉はなくむしろ『真性の馬鹿』と変換されている。
まさに紙一重。

時に建物の中に隠れては二人の様子を見守り、それからまた足早に近づいて隠れる。
その動作を二度繰り返された時、やっと黎深の目的に気づいた。

「・・・っていうか、あれ、ストーカーじゃん」

・・・良くぞ言ってくれました。さん。
本人は『見守っている』の一点張りなのだが、どう見てもストーカーにしか見えない。
勿論、本人の前では口が裂けても言ってはいけない台詞なので誰も言わないだけだが、誰もが思っている事であった。
良くて、娘が心配で見守っているお父さんだ。
は見るに見かねて楸瑛に言った。

「・・・軒止めて。私の材料は先に秀麗ちゃんに渡しておいて」
・・・君は?」
「あの馬鹿止めてくるから」

軽やかに軒から飛び降りて、黎深のところへ足取り軽く向かうに心から拍手を送った絳攸と楸瑛であった。
頼むからあの人止めてくれ。

「・・・後もう少しで兄上の家・・・。早く兄上のお顔を拝見したい」
「・・・窓の外からですか?」
「あぁ・・・そうそう。
あの窓からこぼれる暖かな光、楽しそうな秀麗や兄上の笑顔。
忌々しい家人がいなければ素晴らしい絵になっていたものを・・・そうだ、今度一流の絵師に頼んで描いてもらおう。
・・・・って・・・!?」

急に声のトーンが変わった黎深には鼻で笑った。

「話に聞いた、『見守る』ってこう言う事だったのね。
黎深様」
「そうだ、しっかり見守っているじゃないか」
「いや、今明らかに静蘭に殺気送ってたでしょ?
っていうか、これストーカーって分かる?犯罪なの。
はぁ、これで紅家当主なんて世も末ね。
彩雲国もこれまでか・・・・」

はぁ、とわざとらしくため息を付くに黎深が説教体制に入る。

「紅家当主は不本意だ。兄上に頼まれなければ紅家惨殺計画をとっとと実行していて紅家なんて今頃なかったようなものだ。
勤めてやっているだけありがたいと思え」

惨殺・・・って本当にやるつもりだったんだ。
は久しぶりに黎深の薄ら寒い表情を見た。
しかし、怯まず次の言ってにでる。

「名だけで実際動かしてるのは玖浪様じゃん」
は知らないからそんなことが言えるだけで私がいないと紅・・・・
はっ、秀麗がもうあんな遠くに・・・っ
・・・ふべっっ!!」

思いっきり顔面からこけた黎深には何も言えなかった。

・・・まさかこんな簡単な物に引っかかるとは・・・。

黎深がこけたのは、勿論が足を引っ掛けたからである。
まさか、ここまで注意力が不足しているとは思わなくて、好奇心だけで足を出してみたら見事に躓いてくれた。
起きあがる黎深に目線を合わせるようにしゃがんでは言う。

「あんたは、ここで帰りなさい。
邵可様にも迷惑がかかるでしょう?っていうか、あんたの視線感じるのが嫌」
「誰もお前なんか見てない。
そもそも何故が兄上の屋敷に行く必要がある?」

ふふんっ、とは自慢気に言った。

「今日は、夕食の日。絳攸様も言ってなかったっけ?
で材料持参で私も招待されたのよ。
じゃ、今夜は秀麗ちゃんと邵可様。
たっぷり堪能してきて後日たっぷり自慢してあげるから楽しみにしててね」
「・・・んなっ、の分際で・・・」
「秀麗ちゃんに名前すら認識されていない紅家当主様には言われたくないわねぇ」
「ぐっ・・・・」

ガクッと力なく地面に手をつき悲嘆する黎深の肩をポンと叩いた。

「秀麗ちゃんの手作り料理持ちかえってきてやるから、愚痴なら絶世の美貌を持つお友達のところに行って嘆いてきてね。
絶対帰ってきた私のところに殴りこむようにこないでね」
「・・・秀麗の・・・手作り料理だとっ!?」

はこくりと頷いた。
黎深はガバッと起きあがって復活したように立ち上がった。目がこれまでないほどキラキラ輝いている。

「では、帰りをまっておるぞ、
「・・・あー・・・・うん」

勝手に家にでもあがられているのだろうか。彼なら多いにありえるがは曖昧に頷いた。
もし、何も貰えなかったらどうしようか。その辺の残り物でも普通に食べてしまいそうだが。
意気揚揚とどこからやってきたのかいつの間にか軒に乗って黎深は去っていった。
やっと疫病神が消えた感じだ。
おそらく黄東区のある家に疫病神が降臨すると思うが、その犠牲は無駄にはしないように十分楽しんでこようと心に誓う出会った。


「・・・えっと・・・どうしたんですか?邵可様」

家の先で一人の男と話していた邵可には声を掛けた。

「あぁ、くん、いらっしゃい」
「遅くなりまして申し訳ないです・・・。
・・・えっとさっきの方は?」

かなり高級そうな軒で帰っていっていたと思うが紅家の誰かだろうか。
その台詞に笑顔ながら邵可の言葉には多少の刺が合った。

「・・・それがね、どこか見知らぬ誰かがうちに高級食器を間違えて送ってきたみたいなんだよ。
違うと言って引き返してもらったんだけどね」
「・・・そっ、そうですか・・・」

はいささか口を引きつらせながら返事を返した。
十中八九黎深だろう。
多分この後に彼は怒られて、私達は長々と無駄話を聞かされる羽目になるのだろう。

「さぁ、立ち話もなんですから入ってください。
あばら家ですが」
「いえ、そんなことございません。
お邪魔します」


「鳳珠〜っっ、なんでの奴が招かれて私は招かれないのだっ!?」
「知らん。
っていうか、何故うちにくる。帰れ。」

黄東区に家を持つ、絶世の美貌の持ち主と評された黄鳳珠は軽い頭痛に悩まされていた。
頭痛の原因こそが、今目の前で騒いでいる男なのだが。

「今日のところは食器で我慢しておいたが次回こそはもっと素晴らしい贈り物を兄上にっ」
「・・・食器・・・
返品されてないと良いけどな」

鳳珠もまた未来の黎深がどう言う行動に出るのか大体予想がついた。

考えるだけで頭痛が酷くなる。

「それにが秀麗の手作り料理を持ってきてくれるらしく・・・。
フフフ、羨ましいだろう」
「別に。
昨日柚梨が邵可殿から頂いた秀麗手作りの饅頭を持ってきてくれたからな。
しかも、一言付きで」

『お仕事頑張ってください』と書かれた紙を自慢するように黎深の前に突き出す。

「・・・・なっっ!!!」
「さぁ、とっとと帰れ。
どっかの毒舌お嬢さんの帰りでも大人しく待ってることだな。
・・・クソ、め妙な奴を回しやがって・・・・(ボソ)」

精神的大ダメージを負った黎深は力なく鳳珠の家を後にした。

勿論、帰ってきたを待っていたのは秀麗の料理の絶賛、鳳珠から受けた仕打ちなどを長々と語り出す黎深だった。


ーあとがきー

こちらは79000Hitを踏まれましたミラクル様に贈られました『彩雲国の秀麗をストーカーする黎深を呆れてみているドリ主+双花菖蒲』でした。

[★高収入が可能!WEBデザインのプロになってみない?! Click Here! 自宅で仕事がしたい人必見! Click Here!]
[ CGIレンタルサービス | 100MBの無料HPスペース | 検索エンジン登録代行サービス ]
[ 初心者でも安心なレンタルサーバー。50MBで250円から。CGI・SSI・PHPが使えます。 ]


FC2 キャッシング 出会い 無料アクセス解析