新牧州が茶州に向かっているころ
また通常の雰囲気を取り戻した朝廷は次の試練に向かっていた。
また地獄の夏が来る。


嵐の前


「・・・・・嗚呼・・・秀麗・・・・」

こちら、紫州王都貴陽。詳しく言えば王の執務室。
二十歳になる今上帝は机案に突っ伏して高級紙に落書きをしていた。
自分の信頼なる者達を護衛につけ、大丈夫だとわかっているつもりだが、それでもやはり心配になる。
それ以上に、今は会えないということが辛い。

日々暑くなる。それも手伝って、劉輝のだらけ心は更に大きくなる。
そんな王をみて側近達は直ぐに動いた。
ぼーっとしている暇があれば手を動かせ。
本来王はそんなに暇ではない。

朝廷の若き天才、で王の側近の李絳攸は近くにあった書類の束を王の机案の上にドスっと派手な音を立てておいた。
ちなみに、王の机案にはまだ終わってない書類が山積みになっている。

「・・・暇ならこっちも片付けてくれ」
「・・・・なっっ、余にはまだ仕事が・・・っっ」

こうしただけで泣きそうになる王をみて絳攸は少し情けなく感じた。
少々困難な事をする時の王は、物凄く王らしいのだがどうして普段はこんなんなんだろう。
よっぽど、その辺にいる官吏の方が王らしい。

「あのな、夏がくるんだぞ。
去年みたいに人が倒れてみろ」
『・・・・・・・・。』

劉輝は去年のことを思い出し顔が真っ青になった。
朝廷の夏ばてや熱中症でゾクゾク官吏たちが倒れ危うく朝廷の機能停止になりかけた事件だ。
戸部の方ではそれはそれは酷い被害が出たと聞いていたが・・・・。
・・・・・・。

「絳攸。」

王は一つ疑問に思って聞いてみた。

「たしか去年。燕青が戸部で臨時で働いていた・・・・とか言ってたな」
「・・・えぇ」
「悪い時には黄尚書に景侍郎、燕青の三人で戸部を動かしてきた・・・とか言うが・・・。
各部所から数人出ているとはいえ・・・本当にそれだけで戸部を動かせたのか?」
「・・・・と申しますと?」
「噂では、戸部に『見たこともない少年のような官吏が手伝っていた』とか、『紅尚書がその少年の手伝いを嬉しそうにしていた』とか妙な噂が流れたそうだな。
・・・誰だ?そんな紅尚書にまで優しくされるような奴この朝廷には絳攸以外いたか?」

絳攸『以外』とつけられて嬉しいような、しかし現状ちっとも可愛がられていない絳攸はなんとも複雑な気分になった。
が、王の目の付け所はかなり痛い。

「・・・・その少年とは誰だ?
一度あってみたいのだが・・・・。紅尚書と親しいのならお前も知っているだろう。
きっと将来良い官吏になってくれるだろう」
『・・・・・・・・・・・。』

知っているも何も、貴方の今想いつづけてやまない秀麗です。なんて口が裂けても言えなかった。
過去の話とは言え、流石に言うのもまずいだろう。言ったところで王から泣きつかれて文句言われるのがオチだ。

「・・・そんな噂ありましたっけ?」

絳攸は初めてこの王が馬鹿王でないことに後悔したかもしれない。
王のくせに朝廷内をうろうろして、挙句の果てにその辺の官吏と王の身分を隠し、世間話までしてしまうという王だ。
良い事だと思うが、色々マズい面が多い。

故に頭をフル活動させてしらばっくれてみた。
楸瑛はこれは、面白いとばかりに傍観の立場に回る。

「昨年の夏は貴方が馬鹿な発言をしたせいで、黄尚書に睨まれるは、上司に仕事押しつけれるはで大変でしたからね。
そんなくだらない噂は耳にしておりません」

うっと劉輝は言葉に詰まる。
絳攸はたたみにかかった。

「さぁ、戯言はこれで終わりです。
秀麗の事を考える暇があれば、今年の夏の対策でも考えてください。
流石に燕青みたい便利人は今年はいないですからね」
「・・・では暑さをしのぐために、余が直接雨乞いを・・・」
「寝言は寝てから言ってください。
書類増やしましょうか?」
「ごめんなさい」

やはり、絳攸の方が一枚上手だった。

「・・・ん〜、結構王も鋭くなってきたねぇ。
君も悪い事出来ないよ?」

疲れたように戻ってくる同僚を楸瑛は面白そうに迎えた。

「・・・・お前よりは悪い事はしてないつもりだがな。
というか、手を動かせ。手を。
だから王が怠けるんだ」

朝から一緒に仕事してきたが、絳攸と楸瑛の終えた仕事の量は既に二倍差がついていた。
絳攸の発言に楸瑛の顔がムッとなる。

「失敬な。
大体君の上司も君に仕事押し付けて遊びにいっているじゃないか。
府庫とか府庫とか・・・戸部とか?」

割合的にはこうなのだろう。
上司についてはうっかり口を滑らせると彼の耳に入ってしまうので絳攸は不本意だが折れた。

「とりあえず、仕事しろ」


話に出てきた本人といえば、やはり戸部の方に遊びに来ていた。
相手の方は全く取り合ってもないが、彼の話は永遠と続く。
よくもこう一人について長々と語れるものなのか。
誰か説明して欲しい。

「・・・紅尚書お茶どうですか?」
「あぁ、ありがとう。景侍郎」

滅多に見せない笑みを浮かべて柚梨からお茶を受け取る黎深に鳳珠は久しぶりに口を開いた。

「柚梨、そいつに構うな。茶葉が勿体無い。
というか、帰れ。今すぐ帰れ。」
「なんで、侍郎がこんなに良い人なのに、上司といったらこんなに冷たい人なのかな」

お茶をすすりながら黎深は言う。

「貴様の所だってたいして変わるまい。
今日も侍郎に仕事押し付けて上司の方は遊びに周っているのか?」
「君だって部下には大量の仕事申し付けてるじゃないか」
「貴様よりはマシだ。
ギリギリのところで止めてある。
・・・そういえば、新しく入ってきた碧官吏も可哀想なことだな。
かなり元は真面目で真っ直ぐなのに吏部に入ったせいで絳攸の二の舞だ」
「しかし、事実立派な官吏を育てているだろう?
彼はきっと大きくなるよ」

そのためにも彼に大量の仕事をプレゼントしてきてあげたのだが。

「・・・それに比べ、何故こんなにも使えない奴ばかりうちに寄越す」

紙の上をさらさら滑っていた筆を墨につけた瞬間ミシッと音が聞こえそうなくらい彼は強く握った。
相当怒っているのだろう。

「仕方ないじゃない。
使えないからまわしているんだよ。
いやー、魯官吏にしごかれ、次に君にしごかれ、やっと朝廷デビューってわけだね」
「朝廷デビューの前に私のところに半分辞表が届いたが?」
「その半分は裏金かい?」
「・・・・・・・・・」

鳳珠にも春になると相当な数の贈り物が届く。
次に多く届く時期が官吏として働き始めるこの時期だ。
隅にゴミのように捨ててある山がその数々だ。
立派な桐の箱も適当に捨ててあればただの箱と同じだ。

黎深は面白そうにその中から巻物をいくつか拾って開いた。

「・・・あぁ、この女性、絳攸のところにも届いてたよ。
人事だとは言え、こういうのを見てると面白い。かなり必死なんだろうねぇ・・・・
あっ、この人もみたことある。
・・・でも残念だ、君の前ではどんなに美しい娘であってもただの『へのへのもへじ』・・・・」

黎深に先ほど仮面を取られたため、直で絶対零度の視線が黎深を刺す。

未だ結婚していない鳳珠も顔と性格はどうであれ、関係を結ぶと親族一同左手団扇。
将来有望、彩七家の一員で将来当主候補。
絳攸と違い、直血かつ、後ろには怖い人はいない。
これほど素敵な人はいないだろう。

「そういえば、黄州の方はどうなんだい?
この巻物に描かれているよりずっと綺麗な人揃っているんだろう?
しかも、君が美しいこと既に知ってるし本気で嫁になりたいって女性なら、ごまんといるだろうに」
「そーなんですよ、紅尚書。
正直鳳珠の家に行くと、ここでは絶対出てこないほどの美人さんの絵がこれほどかってまでにあるのに一つも目にくれないで・・・・・。
鳳珠。そろそろ本気で身を固めないと・・・。
紅尚書良い人いませんか?紹介してあげてください」
「秀麗はやらんぞ。(即答)
・・・・まぁ景侍郎の頼みとあらば・・・知り合いを当たって見るか・・・・」
「いらんわ。
というか、貴様にだけは指図されたくない。
柚梨もいらん口出しはやめろ」
『・・・・お前(貴方)のためを思っていってあげてるのに・・・』

はぁ、と二人同時にため息つかれた日には本気でふっ飛ばしたくなる衝動にかられるが後一歩の所で思いとどまる。
・・・・って言うか真面目に仕事してくれ、頼むから。
頭痛がしてきそうな頭を抱えて鳳珠は仕事に集中することにした。


そして、台風の目は初夏に突然やってきた。
絳攸と楸瑛が出ていった後、泣く泣く書類を片付けていた劉輝の前に一人の青年が現れた。

「これは大変な作業だな」

劉輝は挨拶もなしに入ってきた青年に少し驚いたが、すぐに顔をほころばせた。

「よく来てくれた。余は嬉しいぞ」
「不本意だが、今頑張っている心の友のためだ」

格好はかなり不振だが、朝廷の方になんの騒ぎもない。
上手く隠れて入ってきてくれたのだろう。劉輝はその心配りに感謝して椅子を進める。
勿論長椅子にも書類は積んであり、それをどかさないといけないのだが。

「それにしても、凄い格好だな。
それはどこで手に入れるのだ?」
「よくぞ、この服の良さに気づいてくれた。
予想以上に彩雲国の王は良い趣味をしているといえる。
褒めてつかわすぞ」
「いやー、照れるな。
そうだ、兄・・・静蘭が大変な道中にも関わらず甘露茶を贈ってくれたのだ。
飲むか?
・・・あ〜・・・・でも、そなたもどうせ茶州に行くのだし・・・」
「いやもらおう。 
む、もしや王がじきじきにお茶を淹れるのか」

茶器を奥から持ってくる劉輝をみて龍蓮は目を見張る。
普通、茶を入れるのは一般家庭においても女の仕事。
それをこの国の王がやるのだから物凄く不自然だ。

「そうだが・・・?大丈夫、味の方は邵可も認めているから。
絳攸も楸瑛も美味いといってくれたぞ」
「・・・邵可・・・心の友其の一の父君だな。
それは、期待できる」

劉輝が茶を始めて淹れたのは邵可と出会ってすぐのこと。
父茶を飲まされた当時幼い劉輝はお世辞でも美味いと言えない上に、府庫に行くたび飲まされるのを恐れたので、慣れない手つきでお茶を入れたのが始まりだとか。
それ以来その腕をめきめきと伸ばしつつある。

「たしか秀麗が桜を浮かべて飲もうとしていたな・・・。
・・・今は時期じゃないか・・・」
「流石心の友。風流が分かっている。
王も予想以上の風流人だな」
「そうかっ!?」

一日に二度も褒められて劉輝の目は輝く。

「王じゃなければ、一緒に悟りを開くために修行の旅に誘っていた所だが・・・。
いや、今からでも遅くはないっ、一緒に行かないかっっ!!」

せっかくまともに仕事してくれるようになった王が早くも出家宣言か。
しかも、跡取りがいないままに。
劉輝はふと考えて言った。

「・・・悟りの修行・・・。
もしや、仙人になるつもりなのかっ!?」
「おお、流石王。良く分かっている・・・・。
心の友と一緒に彩八仙も霞むほどの伝説を創ろうと思っているのだが、その際に王も一緒に・・・」
「それは面白そうだな。是非其の時には誘ってくれ。力になる」

紙一重と頓珍漢。共に紙一重の夢のコラボここに誕生。

お互い話が微妙にかみ合ってないがその辺が害にならず、欲しいところだけを得ているので好感度アップ。
多分龍蓮の事をここまで快く受け入れてくれた者はいないだろう。

ふと、人の気配を察知して龍蓮は立ちあがる。

「本当に、良い時間だった。
あまり気は進まなかったが王に会えて良かったぞ。
彩雲国の未来は明るいだろう」
「余も実に有意義だった。
秀麗達にはよろしく頼む。
・・・・出来れば、余に代わって守って欲しい」

龍蓮は笑顔で頷いた。

「其の心確かに受け取った。
また愚兄其の四が迷惑を掛けると思うが、良くしてやってくれ。
さらばだ!!また各地の土産物を送ってくれようぞ!!」

窓からさっと出ていく龍蓮を見送って劉輝はすがすがしい気分になった。
のも、つかの間ほんの十秒で執務室の扉が開いた。

「・・・全くまたサボってますね。
絳攸に叱られますよ。
・・・誰か、おいでていたのですか?」

楸瑛が帰ってきた。
劉輝は直ぐに茶器を片付けていった。

「楸瑛」
「なんです?」
「龍蓮は好きか?」

いつにもない笑顔で問われ楸瑛は固まる。
出来る事なら思い出したくもないのだが。

「・・・好き・・・と申されましても」

突然出された問いに答えられずにいた楸瑛に劉輝は言った。

「良い弟を持ったな。
大事にしろよ」

・・・・何があった、王よ。

ご機嫌な彼の後姿を見て楸瑛は何も言えなかった。



ーあとがきー
こちらは57000Hitを踏まれました一野様に贈られました『彩雲国の秀麗達が茶州へ赴任した後の朝廷』です。
王様と側近、W尚書に侍郎さん、あとは紙一重と色々。
オチがなくてすいません。

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