待ち合わせなんて始めてだった
いつも一緒にいたから、必ず私が迎えにいったから
目を閉じ、久しく見る彼の様子を思い描いた


待ち合わせ


それは唐突だった。
家に返るなり、渡されたのが一通の手紙。
差出人は見知らぬ名前の男の人だった。
は首を傾げながら封を切った。

「誰だろう・・・」

働いている店の客だろうか。それ以外に知らない男は居ないと思う。
達筆に書かれた文字は美しく、文章は筆者の秀才を思わせる。
明らかに自分より身分の高い人だ。
しかし、徐々に中身を読んでいくとその人物が誰だか分かってきた。

「・・・嘘・・・」

突然居なくなった幼馴染の男の子。
人攫いに合い、今頃死んでいるのかと思っていたがまさか生きていたとは。
しかも、あの彩家の中での名家、紅家に引き取られ国試で最年少記録を打ち出し状元及第。
今はなんと彩雲国王の側近をしているではないか。

にわかに信じられなかった。
でも、手紙に書かれている過去についての文章は全くの事実。

「・・・李・・・絳攸・・・。確かに聞いた事ある名前だわ・・・・」

でも、本当に彼が自分の幼馴染であるのだろうか。
しかも、その人が自分に会いたいと申し出てきている。

「・・・夢でも見ているのかしら?」

ここまで詳しく書いてあるのだ。嘘とは信じ難い。
一応、最後に現在住んでいる場所が書いてあったでそこに返事を出すことにした。
それから、何度か文をやりとりして待ち合わせ日と時間が決まった。
嘘でも、一度いなくなった幼馴染に会ってみたかった。

はぼんやりと階段に座りながら行き交う人達を眺めていた。
待ち合わせ時間からかなり時間が経ったと思う。
仕事が忙しくて出てこれなかったのかもしれない。
紅家の何かが会ったのかもしれれない。

ここでふと昔彼が天才的な方向音痴だということを思い出した。
そういえば、いつもいなくなって探しにいっていたと思う。本格的に暗くなり、やっと見つけたところで野良犬に追い掛け回されたり・・・
そういう苦い経験もたくさんした。
あの時は楽しかった。他にもたくさん仲間はいたし、少しひもじかったけど楽しかった。
今日ももしかしたら迷っているのかもしれない。
そう考えると楽しくなった。

始めから会う気などなかったのかも、そういうことを考えてなくもない。
でも、今日は騙されたと思って何があってもこの場所で待っていようと心に決めていた。

ふわりと温かい風が吹く。
その心地よさに眠気を誘われ、そのままはカクリと頭を下げた。
昨日は緊張してあまり良く寝られなかったのだ。

フッとすぐ横を誰がか通ったような気配を感じた。

「・・・・ん??」

目を擦りながら横を見ると、一人の青年が自分の隣の大きな石の影に隠れていた。

「・・・あっ、起こしてすまない・・・。少しかくまってもらえるか・・・」

青年は誰かに追われているようで汗だくだった。あたりをを見てからきょろきょろと見まわし、それからふっと隠れた。
すると、向こうから誰かを探すように歩いている青年がやってきた。
はおそらくこの人に追われていたのだろうとなんとなく察する。
思わず目があってしまった。

「やぁ、素敵なお嬢さん」
「・・・えっ・・・いや・・・」

見れば見るほど美男子だ。しかも格好はとても庶民とは思えない。はすぐに首を振った。

「少し尋ねるけどさっきこの角から私と同じ位の歳の男がいなかったかい?」
「・・・・えっと・・・・」

おそらく隣の大きな石に隠れていた人のことだろう。
は返答に激しく迷った。とりあえず、ここは先に来た方に味方すればいいのだろうか。
別に大変そうな事でもなさそうだし。

「その向こうの方に・・・」

は指差したところが凄い狭い裏路地ということを指してから気がついた。
ヤバイ・・・気づかれるかも・・・。
しかし、青年は顎に手をあてその裏路地を見つめた。

「・・・全く・・・・絳攸の行動パーターンは本当に読めないな・・・・。
待ち合わせしているなら場所教えてくれたら連れていってあげたものを・・・
また迷子になってたりするのかな・・・」

・・・・絳攸?

「ごめんね、ありがとう」

そういって、爽やかに青年は去っていった。
の頭の中に彼の言葉がぐるぐる回る。
・・・絳攸?
待ち合わせ・・・?
迷子・・・・?
自分の知り合いとかなり似た境遇の人もいるもんだ。

いや・・・・もしかして。

は先ほどの青年の方を向いた。
そういえば、髪の色とか、雰囲気がどことなく知り合いと似ていた。

「ありがとう、助かった」

汗を拭いつつ、絳攸というらしい青年は先ほどの青年の行った方向を向いて大きなため息を付いた。

「・・・・ったくあの常春め・・・
少し何か言えば、すぐに人で遊びたがって・・・」

はまさかと思いながら恐る恐る聞いてみた。

「・・・絳攸・・・・ですか?」

ここは『さん』とか『様』とか付けた方がいいような気が言った後からしたが口に出してしまったものは訂正のしようがない。
長い間見ないうちに随分と変わったもんだ。
同じだった目線は今ではかなり上にある。
絳攸も一拍の後、目の前にいる少女がという事に気づいた。

「その・・・・凄い遅れてしまって悪かったな・・・。
少々、性質の悪い奴に捕まってしまって・・・」

おそらく先ほどの青年であろう。

「別にいいですよ。どうせ時間に間に合うなんて期待してませんでしたから。
方向音痴は相変わらずで安心しました」
「・・・口悪くなったな」

「二刻も遅れてきて何を言いますか。
そうだ、貴方に来て欲しい場所があるんです。」

そういって、は歩みを進めた。絳攸は照れくさくて絳攸の顔を見ていられなかった。
良く見ればみるほど、良い男になっていた。
確かに昔から顔は可愛い部類に入っていたがまさか、今はこうなっているとは・・・。
詐欺だ・・・。
なんとなくそう思ってしまう。

「・・・・どうした?俺の顔に何か付いているか?」
「別に・・・っっ。
良い服着てるなぁと思って・・・。
仕事はどう?忙しい?」

まさか顔を眺めていたなどとは口に出せない。は急いでその場を取り繕った。
絳攸はのセリフに少し目を伏せた。

「まぁ仕事は・・・・忙しいな。
毎日王の面倒みなくてはいけないし、上司には仕事押し付けられるし、同僚は仕事しないし・・・・」

絳攸の話は中身は辛そうなことだが、それでも口調は楽しそうだった。
充実した仕事をしているのだとそこで感じ取れる。

「へぇ・・・朝廷には色んな人がいるのね・・・・」
「むしろ一般人の方が珍しいな・・・」

あんたも含めてな。

はそう心で突っ込み、空を見た。
大分予定より時間がかかってしまった。

「絳攸・・・・・ここ。」

をバックに美しい桜が咲き誇っていた。
絳攸はその美しさに感嘆の声を上げてしまった。
朝廷にも沢山桜はあるが、ここに咲く一本の木はそれらのものよりも存在感があった。

「・・・・桜が綺麗なのは下に死体が埋まってるから・・・って聞いたことない?」

絳攸はそのセリフに目を細めた。

「・・・・・・・」

絳攸は彼女の言うことの意図が分かった。
は頷いた。

「ここは、私達の仲間の墓よ・・・・。
四年前に・・・・私以外はみんな死んだ」
「知っている」

は絳攸の顔をみた。
俯いていているので表情は読めないがきっと苦しそうな顔だろう。

「・・・・知ってたの・・・?」

絳攸は頷いた。瞳には悲しげな色が移る。

「今までのことは推測すれば大体分かる・・・・
寂しい思いをさせてきたことも・・・・俺だけが、あの生活から抜け出した事に今でも後悔している。
しか生き残っていないと分かった時は絶望した」
「・・・・・絳攸」

本当に幼い頃は貧しかった。
でも、なんとか生きていけるだけのものは得ていた。
しかしそれが全く得られなくなったのは、八年前起こった王位争い。
何もかもがなくなった。
友達も、次々死んでいった。
山にある食料としてた獣達もすべて殺され、食べられる草も実も、野生から得られる者は全てなくなった。
お金があっても生きていけない時に、お金がない自分達はどうやって生きていけるのだろうか。
沢山の友達を犠牲にして私だけが生き残った。
ただ、皆より顔が良かったから。皆より、少し頭が良かったから。
だから、次の時代を生きていけるだろう、そう願いを託されて自分達の食料を私に分けてくれた。

「・・・・今の王はもう二度と国を八年前のようにはしないと誓っている。
俺もそのつもりだ」
「・・・・・。」
「辛い思いをさせたな」

昔は、野良犬に襲われていた時、逆にに助けてもらった思い出がある。
でも今は、自分も大きくなった。
彼女を全てから守っていける自信がある。

絳攸は涙ぐんだを抱きしめた。

「よければ、俺のところに来ないか?」
「・・・え?」
「今まで苦労して来ただろう。
俺のところに来たら、もっと良い生活できることを保障する」

はその台詞に目を丸くした。
そして、少し考える。

「・・・・・うん、嬉しいけど・・・。
・・・でもやっぱり絳攸。私はもう十分一人で生活できてるから。
不自由はしてないよ」

絳攸は少し言葉に詰まった。
そういう意味でいっているわけではないのに・・・・。

「えっと・・・・」

絳攸は懸命に言葉を捜した。
いつもなら間いれずに言い返せるのだが、何故か今は上手い言葉が見つからない。
楸瑛なら上手く言い直せるし、王なら直球で伝えられるだろう。
こういう時彼等が羨ましい。

「・・・あぁ、やっぱり良い」

ふいと後ろを向いてしまった、彼には首を傾げる。

「どうしたの?絳攸」
「いや、別に何も・・・・」

なんだろう、顔が赤いのは夕日のせいだけではないかもしれない。

「あっ、そういえば」

はごそごそと懐から一枚の紙を出した。

「ねぇ、この紅家っていうのはあんたんち?」
「・・・・・?」

絳攸はから渡された紙をみた。確かに住所からして間違いない。
しかし・・・こんな紙見たことない。

「・・・家人募集中?」
「えぇ、なんか紅家の方らしい素敵なおじさんが配ってて貰ったんだけど・・・。
これがまた自給いいのよね。今のところよりも」
「・・・」
「絳攸のところだったら働いても良いなぁ・・・って。
あっ、さっきこのことで誘ってくれたのね。ごめん、前言撤回でいい?」
「・・・あぁ・・・助かる・・・」

なんか、違うような気がする。
絳攸はまた紙を見た。
この字は・・・。

それには見覚えがあった。毎日のように目を通している。

「・・・黎深様・・・」
「どうしたの?」
「いや、何もない。
いつでも来てくれ。家の者に言っておくから・・・」

少し頭痛がしてきた。
どうしてあの人は鋭いんだろう・・・って言うか・・・自分で配ったのだろうか。
絳攸は、不思議そうに自分の顔を見てくるを見た。

「少し上手いもんでも食べるか」
「わーい、吏部侍朗様のおごりだーvv」
「あぁ、好きなもの食べていいぞ」

子供のように喜ぶ、の頭を軽くなでた。
少し不満そうにする彼女を見て、昔を思い出す。


「何?」
「生きるぞ」

・・・強い風が吹き桜の花びらが舞い上がる。

「・・・うん」

私達の未来は、明るい。


ーあとがきー

こちらは82000Hitを踏まれました竜華桜様に贈られます『彩雲国物語の絳攸夢』です。


ーおまけー

「ちょ、ちょちょちょちょちょっと絳攸っっ!?!?」

早速家に来て仕事をしてもらおうと家人用の服を用意させたがどうかしたのだろうか。

「どうした?騒々し・・・」

絳攸もノックなしに入ってきた幼馴染に顔をしかめる。
これは礼儀から教えなくてはならないのか・・・。
そう思っていた絳攸も彼女の格好を見て絶句した。
後宮にいた頃の秀麗みたいに綺麗に着飾られ、走ったりしなければ立派な深窓の姫様だ。

「どうしたの!?この凄い綺麗な衣装はっ!?
あんたんちの家人って皆こんな格好?・・・そんなはずないと思うんだけど・・・」
「いや・・・俺にもさっぱり・・・」

特に指示は出してないし、そもそもこんな衣装がこの家にあるかすらも疑わしい。
っていうか、怪しく思ったのなら着るなよ。と突っ込みたくなるのを抑えて絳攸はの衣装を見た。
流石の絳攸もその衣装が高価なものだというのは分かった。

「・・・これを着ろと言われたのか?」

余分の家人用の服はまだあったはずだが。

「・・・うん。
何か凄い皆さん優しかったんですけど・・・。っていうか、敬語使われたし。どーなってんのっ!?
生まれて初めてだよ、こんなにちやほやされたのは」

その時、後ろから数人の女人達がやってきた。

「いきなり走っていかれるので驚きました。
まだ、着付けが終わってないのでお戻りください」
「館主様に会いたいのは分かりますが・・・」
「・・・そうだったのか?
「んなわけないでしょっ!?
家人の仕事しにきてこの服はないだろうって、文句言いにきただけだけど・・・
そういえば・・・何故、私が絳攸と知り合いってことお知りなので・・・?」

が聞き返すと、彼女達は顔を見合わせてニコリと微笑んでいった。

「当主様が『近々絳攸の許嫁が来るらしいから用意をしておけ』とじきじき申しつけがあったのでそのように・・・・。
館主様のこともお知りだったので間違いないと」

実際これだけ仲良く話をしているのだ。見間違えない方がおかしい。

「・・・どういうことよ、絳攸っ!?
なんか大変なことになってないっ!?」
「・・・一応言っておくが、俺は何も知らないからな。
あの人に言ってくれ・・・・」

絳攸は、今後のことにまた頭痛がしてきた。


「・・・フフフ、今頃面白いことになってるだろうねぇ」

事の全てをしでかした張本人は自宅で悠々と養い子の吉報を待った。

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