日々心労


なんだか、最近色々心労が増えたような気がする。
半刻かけて辿り着いた吏部だが、大量の仕事と、嫌味にも似た冷やかしを受けて絳攸は大きなため息をついた。

『・・・絳攸、最近可愛い子が家に来たんだってねぇ・・・』

尚書室に入った瞬間いつもの扇を口元に、彼の養い親紅黎深は言った。
朝廷にきたら王の面倒も見なくてはいけないし、やらなければいけないことも山ほどあるのでそんなことを考えている暇などなかった矢先だった。
そういえば、元の原因といえばこの人だった。

『・・・昔からの知り合いらしいね。
まさか、絳攸にそんな子がいるとは知らず仲を引き裂いたと思うと胸が痛むよ。』

・・・嘘吐け。

『折角春の時期に色々お見合い話が振ってくるが、断る言い訳が出来てよかったな。
近々私にも紹介しろよ。』

・・・・あまりにも下らん奴だったら切り捨てるが。
などなど、たっぷりのことについて言われた挙句、

「あぁ、そういえば、仕事が沢山たまっているんだ。
じゃ、今日中に全て片づけておけよ。
・・・フフ、兄上待っていてくださいっっ」

肩ポンと叩かれ、妙なオーラを放ちながら黎深は出て行った。
目を机案にやると見事な書類の山が出来ている。
・・・・これをやれと。

などなど悪夢のような先ほどのことを思い出して絳攸は胃が痛くなった。
いつもなら、少しは言い返すこともできるのだが、のことになると絳攸は何も言えなくなる。



「はぁ・・・厄介なことになった」

多分、今後もこのネタでいびられるんだろうな・・・・とけして明るくない未来を想像しながら絳攸は王の執務室に向かって歩みを進める。
「・・・ん?」

目の前に誰かいたような気がする。
絳攸は早歩きして、角にある大きな壷の影を見る。

「・・・ほぉ、俺がいないのをいい事に脱走か。王。」
「・・・ゲッ、なんで見つかったのだ・・・」
「大の大人がこんなところに隠れるな、ったく、仕事しろ」
「むぅ、楸瑛も良く隠れているぞ」
「・・・・は??」

恐らく絳攸ウオッチングの最中を王に見られたのであろう。
絳攸は、後で殴る。と誓い劉輝の襟首をつかんで絳攸は歩き出す。
劉輝は首をかしげながらもしばらく何も言わずに大人しく絳攸についていった。

「絳攸・・・」
「何だっ!?」
「余は羨ましいぞ」
「何がだ」

先ほどの事もあり、絳攸は苛立たしげに答えた。
王はそれも気にすることもなく続ける。

「だって、絳攸は妻を家に迎えたのだろう」
「・・・え・・・・」

絳攸は王のセリフに固まる。
何故、王がそのことを知っているのだ。
絳攸は思いっきり王の肩をつかむ。

「・・・そんなことどこで聞いた・・・?」
「えぇ・・・・と、楸瑛だったかな?でも吏部尚書もそんなこと言ってたぞ。
・・・いいなぁ、余も秀麗と早く夫婦に・・・・」

妄想世界にトリップしてしまった王を放して絳攸は脱力した。
・・・あの常春・・・どこからそんな情報を・・・・
黎深様も・・・何故・・・。
この調子ならかなり噂は広まっているかもしれない。
大体何故か王は噂を広めるのは得意らしく、時期と状況もあったのだが夏には『超梅干』を朝廷中に知らしめた。
多分、出世頭の李絳攸の婚約などはいい話題のネタになるだろう。

何も口に出してないのにどこから情報というものは流れていくのだろうか。

「・・・絳攸、いつか紹介しろよ」
「・・・・・・」

とりあえず、この件から早く抜け出したい絳攸は現実逃避気味に歩き出した。
足元が心なしかふらついている。

「・・・・王、行くぞ。とっとと仕事を片づける」
「・・・ん?・・・・あぁ・・・」

そして、その数十分後。

「・・・絳攸・・・」
「何だ?」
「ずっと不思議に思っていたのだが、どこへ行こうとしているのだ?
執務室ならあっちの棟だが・・・・」
「それを早く言えっっ!!」

執務室に戻った王の頭には立派なたんこぶが一つ出来ていた。


ずっと書類と格闘し、朝廷内に銅鑼が鳴る。
その音に絳攸は久しぶりに顔を上げた。
積み上げてあった書類は大分少なくなった。
下官に運ばせてあるので処理済のものはここには残っていない。
絳攸は立ち上がって大きく伸びをした。
大分肩がこってしまった。首も痛ければ腰も痛い。

横に目を向ければ机案に突っ伏している王がいる。
恐らく、力を使い果たしたのであろう。
まぁ彼の隣にばらまかれているようにしてある書類は全て処理済のもの。
彼なりには頑張った方だろうか。

「・・・王、起きろ」
「うぅ・・・ん。絳攸・・・・」
「俺は帰るからな。
ちゃんと片づけておけよ」
「・・・・あぁ・・・お疲れ」

絳攸が扉に手をかけたとき後ろから声がかかる。

「う〜ん、やっぱり新妻を迎えたら帰りも早くなるのかな。
じゃ、私も帰らせてもらいますよ」
「・・・楸瑛。お前は残って、そこの書類を片づけていけ」
「連れないねぇ。
まぁ明日やるという事で」

絳攸は、楸瑛が出る前にバタンと戸を閉めた。
ゴンという鈍い音が聞こえ、その数秒後に頭を抑えた楸瑛の姿があった。

「酷いじゃないか、この美しい顔に傷が付いたらどうするんだい」
「知るか」

こいつに関わると、ろくな目にあわないし、ろくなことも言わない。
絳攸はすたすたと早足で廊下を歩いていった。
とっとと帰るに限る。

「絳攸、軒宿りはこっちだって・・・
昨日も間違えたよね」
「ふん、今日は素直だな」
「君の新妻の悲しむ顔をさせたくないからね。
確か・・・・くんだっけ?」
「・・・・何故知ってる」
「忘れてないよ、絳攸。
まさかあの子とグルになって私を騙すなんてねぇ。
っていうか、君の姿見えてたから。
本当に可愛い子だったね、羨ましいよ」

ということは楸瑛は絳攸がいるのを知っていながら、騙されて違う方へいったのか。

「貴様・・・・・」
「一応つけていくのは野暮だと思って、どこか行った所を見送ったけど、まさかその次の日に家に呼んじゃうなんて・・・。
君も隅に置けないね、
中々手が早・・・・痛ッ」

即座に絳攸の拳が飛ぶ。

「あぁ頭痛がしてきた。
貴様のせいだ」
「私も頭が痛いよ。君のせいで・・・・。
あぁ主上みたいにたんこぶになってないといいけど・・・」

絳攸がチラリと楸瑛の顔を見た。

「どこも変わってないな」
「酷っ、ここ少し膨れてるし。
じゃ、また明日」

楸瑛はさっさと軒に乗り出て行った。
どこまでも目障りな奴だ。正直ウザイ。


先に出た楸瑛は外を見てふと目を細めた

「・・・・あれ?あの子・・・」

間違いない、近日見た女の子の顔は忘れないから。

「・・・・いやぁ、絳攸って本当羨ましい」

軒の中で一人呟き楸瑛は微笑んだ。


絳攸も自分の家の軒を見つけ乗り込む。
ここまで着たら、朝廷のことよりのことだった。

「・・・大人しくしていてくれればいいんだが・・・」

庶民といえば秀麗のようなものだと考えていたがそれは見事に崩された。
庶民派といえども秀麗は紅家の長姫で礼儀作法は完璧、頭も良い。
といえば、今まで貧しい暮らしを強いられてきたのだ。
礼儀作法なんて本当に少ししか知らないはずだ。

一応、教育係をつけておいたがあれでは心もとない。
多分、秀麗同様一人で何でもしてしまうだろう。
悪ければ紅家のなんかにも出席しなくてはいけなくなった場合今の彼女は絶対見せられない。
ため息をついて外を見た絳攸は思わず軒を止めた。
すぐに降りて、目に入った少女の名を呼ぶ。

、お前なんでここにいるっ!?」

朝廷を歩いているちょっと値の張る着物を着た少女はその声に振りかえった。
そして、絳攸を見てニコリと微笑む。

「あっ、絳攸。
野菜が足りないって言われたから買いにきたんだけど・・・
うっわー、流石絳攸。こんな豪華な軒で送迎なんていいわねぇ・・・乗せてvv」

「そのつもりだが・・・
じゃなくて、何してんだ、こんなところで。
何故外に出たっ!?」
「だから、買い物を・・・」

ふと周りに視線を配らせればかなり注目を浴びていた。
絳攸はコホンと咳払いをして声のトーンを落とす。

「とりあえず、帰るぞ。話は軒の中で」
「わーいっ、始めて乗るよ。こんな立派な軒」

彼女の方は相変わらずマイペースである。


・・・昨日も言ったが、お前の立場分かってんのか?」

は始めて乗る軒に落ち着かない様子だったが、絳攸の問いにはしっかり答える。

「うん、絳攸の婚約者(仮)だよね」
「・・・その仮の婚約者がなんで、外出なんかしているんだ。
大人しく礼儀作法を習っておけと言ったはずだが・・・・」

は絳攸の言っている意味がわからないというように首を傾げた。

「何言ってるの。妻になるんだったら家事もちゃんとしないといけないでしょう。
掃除も洗濯も料理もやっぱり人数が多いからみんな家人の人がやっているけど、本当は私の役目だから。
だから少しくらいお手伝いした方がいいかなって・・・
・・・絳攸?」
「・・・・・」

次は絳攸が考えさせられる番だった。
紅家にきてから貴族の生活に慣れきってしまっていた。
家の事は皆妻がして、夫の帰りを待っている。
そんな一般的な事を忘れていたのだ。
周りの事は全て家人が。妻は着飾って毎日侍女達と話をしたり、楽器を奏でたり・・・・
それが当たり前として認識してしまっていた。

以前は、その一般的な生活さえも望めなかったというのに・・・。

「・・・・お前には負ける」
「別に勝とうと思ってないけど」

素で返すを見て絳攸は苦笑した。
なんだろう、この素直さに癒される。

、明日から好きにしろ。その代わり、早いところ作法を全て身につけてくれ。
直にれい・・・・紅家当主と彩雲国
王と会うことがあると思うから・・・・」

その言葉には絶句した。

「・・・紅家当主に・・・国王様っ!?」
「あぁ、王のところは全く心配しなくていい。むしろ、心配すべきは当主の方だ」
「なんで、国王なのよっ」
「俺が側近していること忘れてないか・・・・?」

は今気づいたような顔をしてブツブツとなにやら呟き始めた。

「・・・あぁ・・・紅家当主と国王っていったら彩雲国で凄く偉いベスト三じゃないのよ・・・。
私見たいな浮浪者が会っちゃって良いのかしら・・・。
鼻で笑われたりしないかしら・・・。
ゴメン絶対絳攸の株落とすよーっっ。」
「そう思うならとっととその言葉遣いも改めて、行儀よくする事だな」
「・・・はい」

大人しくなったの頭を絳攸は軽く撫でた。

「大丈夫だ、お前は十分立派だ。
あの常春も褒めてたし・・・・」
「・・・えっと・・・・この前追いかけてた人?」
「あぁ」
「そう?・・・わー凄く嬉しいな。
あの人どこの人?仲良いの?結構優しそうだったし、かっこいいよね」

その台詞に絳攸の顔がムッとなる。

「あいつそんなに良さそうか?」
「うん、絳攸より笑うし」
「・・・・。
別に会わせてやってもいいが・・・止めておいた方がいいぞ」
「絳攸、怒ってる?
もしかして妬いてるとか・・・・なんて」
「・・・なっ、違っ」
「ほほぅ、顔が赤いですぜ。旦那」
「・・・お前黙れ」

ペシッと軽く彼女の頭を叩いて絳攸は外を見た。
なんでこんな奴を婚約者にしたのだろうかとぼんやり思いながら。
そんな考えが消えるのは次またが話しかけた瞬間。



ーあとがきー

こちらは86000Hitを踏まれました竜華桜様のリクエスト『彩雲国物語 絳攸夢』です。
『待ち合わせ』の続編で、既に婚約者までランクアップしてます。

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