ある日、不幸の手紙がやってきた。


紅の招待状


「・・・あっ、おかえり。絳攸」
「あぁ、。ただいま」

朝廷を退出して、真っ直ぐ帰ってきた主人をは出迎えた。
大分暮らしにも慣れてきて、服装も、表情も様になっている。
絳攸はふと笑みを漏らしたが、彼女の持っているものに眉を寄せた。
彼女は一通の手紙を持っていた。

「・・・それは・・・?」
「あぁ、今日貴方宛に届いてたんだけど、凄い高級な紙だったから持ってきたの。
早く見た方が良いと思って。」

絳攸は首をかしげた。
高級な・・・・紙?

絳攸の元に届くのはほとんど高級な紙であるが、それよりも高級な紙。
嫌な予感がした。しかし、開かなければならない気がした。
手をこわばらせながら絳攸は手紙を手にとって封を見る。

「・・・・・・・・・」

字は、今朝朝廷で見たものをそっくりだ。というか本人だ。
ご丁寧に”桐竹鳳麟”まで押してある。
毎日顔を合わせているのにわざわざ手紙を寄越すなんて自分にとっては悪いことに違いない。
ちなみに、この手紙は絳攸にとって不幸の手紙よりも性質が悪い。
不幸の手紙や嫌がらせなどは焼いて捨てれば良い。
が、この手紙は絶対捨ててはいけないし、内容も内容だ。

「・・・開けないの?」

渋っている絳攸にが問いかけた。
絳攸は事の重大さが分かっていない彼女を羨ましく思った。

同僚のように二文字熟語三つ並べてないといいが・・・と思いつつ、絳攸は意を消して封を切った。
も手紙の中を覗き込む。

『・・・・』

筆不精の彼にしては物凄い丁寧に書いてある。
しかし・・・内容が・・・
内容を把握して、固まっている絳攸からは手紙をとって、改めて読んだ。

「・・・えっと・・・食事・・・招待・・・?」

の言葉によって、更に現実味が増す。絳攸はうなだれた。

「・・・あー、もう最悪だ・・・」

一難去ってまた一難。
絳攸は長椅子に腰掛突っ伏した。
は、手紙を読み返す。

「お食事会って・・・。えっと紅家当主様と・・・」
「”桐竹鳳麟”が押してあって、他に誰だというんだ・・・」
「当主様ってあのこの前府庫で会った・・・」
「あぁ・・・・」

・・・は手紙を丁寧にたたみもとの封筒に入れた。そして、ため息をつく。
以前はその辺のノリで過ごしてしまったが食事に招待されたということは、それなりに目に付くこともある。

そもそも、いつも食事は絳攸と二人でとっているので作法など気にした事がない。

「・・・また・・・訓練ですか」
「そう・・・だな」

はぁ・・・と室の中にため息が漏れた。


当日。
二人はただならぬ緊張を感じ軒に乗った。
『地獄行き』と書かれているに等しい軒は順調に進んでいく。
今回は期間もあったため、何が出ても大丈夫なようにしてきた。
ただ、癖が少し出てしまわないかが大きな分かれ道となる。黙って食べていればそんな目に付くことはないだろう。
そもそもも、初めから礼儀正しく食べていたし大丈夫。

「・・・なんか・・・緊張しすぎてお腹すかない・・・・」
「俺も久しぶりだしな、黎深様と食事するのは・・・・」

考えると、更にいきたくなくなってくる。彼の前で作法を間違えようものなら痛々しい視線が突き刺さる。
その後、朝廷で嫌味の連続であろうか。
絳攸宅から離れていない黎深の家はすぐについた。

「・・・・さて、行くぞ」
「・・・はい」

台詞とは反対に二人とも行きたくない雰囲気が漂っていた。
流石、当主の家。絳攸の家でも驚いていたのに更に凄い豪邸が目の前にあった。
藍家もこれに劣らず凄い屋敷らしい。

仕女につれられながら、奥に進む。
その間二人は一言も交わせなかった。
手には汗でべとべとしてきた。それほど二人共緊張していたのだ。

「こちらです」
「あぁ、ありがとう」

も一礼して大きく深呼吸をした。この扉の向こうに紅家当主がいる。
絳攸が扉をノックした。尚書室を開けるときの倍以上緊張する。

「失礼します」

開けられた扉の向こうには優雅な姿で座っている紅黎深の姿があった。

「・・・あぁ、いらっしゃい」

何故か黎深は、いつになくご機嫌であった。絳攸がみて背筋に寒気がするくらいに。
隣のといえば、人のよさそうな人だなと安堵する。
以前会った時もそんなに悪い人とは思えなかった。
絳攸は頑なに否定するが。
は、はっと我に返り黎深に向かい深々と頭を下げた。

「お久しぶりにお目にかかります。です。
本日はお招きありがとうございます」
「良く来てくれたね。入りなさい」

黎深が奥に目配せすると、仕女がお茶を持ってきた。
用意された長椅子に付き、は用意されたお茶に口をつける。
良い香りと、上品な口当たり。
彩雲国でも高級茶を呼ばれる辺りのものだろう。その辺は詳しくないので銘柄までは分からないが。

「黎深様、今日はどのようなご用で・・・?」

絳攸が切り出した。
優雅に茶を飲む黎深は養い子を一瞥しあっさり言い放った。

「別にないが。
・・・何か?」
「・・・いえ・・・ありがとうございます」

室の空気が数度下がったような気がする。
このきっぱりとした言いよう、態度。絳攸が恐れているのが少しだけ分かったような気がする。
しかし、一般人出のはあまりこのような光景に慣れてはおらず、ダメージはあまりない。

は、初め下を見ていたが、視線を上げて部屋を見ると高価で趣味の良い品々が部屋を埋めていた。
そして、外には見たことのない植物が色取り取りに植えてある。
色々珍しそうに見るのは失礼に当たるかもしれないが、好奇心はそれを勝ってしまった。

「・・・珍しい植物があるのですね」
「・・・あぁ、各地のものを集めてある。
ここらで見れるのはうちと藍家だけだ。
まぁ、うちの方が随時新種を集めているという点では勝っている」

フン、と勝ち誇ったように黎深は言った。
彩家八家に疎いであったが、教養としてその関係については少々習っている。
今紅家と藍家は何かしら争っており、仲が悪いのだと。
後に絳攸に聞けば、仲が悪いのは当主同士であとはそうでもないらしい。
現に絳攸と楸瑛は仲が良い。

その実態を垣間見れたは妙に納得した。

「・・・そうだ、絳攸。藍家の状況はどうだ?」
「・・・状況・・・・と申しますと?」
「あのクソ三つ子の動きがどうかっと言うことだ。
まさか兄上から何かもらったという事とか・・・・」
「楸・・・藍楸瑛からは何も・・・」

絳攸は内心思う。
そんな細かい事、手紙さえ六文字ですませてしまうあの三つ子がわざわざ紫州にいる弟まで言うはずがない。
というか、邵可からは随時文を送られているだろう。

勿論、その答えは正解なのだが、彼の前では口が避けてもいえない。
絳攸は黙秘を貫いた。
その時、扉がノックされた。

「お食事の用意が整いました」
「あぁ」

黎深は二人を見た。

「食事の支度ができたそうだ。着いたばかりだが・・・食べるか?」
「はい、時間も良い頃ですし」
「あっ、ありがたく頂戴いたします」

何か、違う返事をしてしまったような気がしないでもないだが、口に出してしまったものはしょうがない。
黎深は立ち上がってすたすたと歩いていく。


「こっちだ」

案内された室には今まで見たこともない芸術品と呼ぶのに等しい料理の数々が並べられていた。
これは本当に食べ物で出来ているのか、というくらいの美しさだ。
席に案内され、は席につくが、目の前の料理に感心するばかりだ。
絳攸の家で出される料理ですら、贅沢品の彼女にとって、高級料理という者は既に芸術の域に達している。
決して食べ物ではない。

料理が料理なので食べるのも勿体無かった。
のほか二人は、何事もないように料理を食べていっているが、どうも綺麗に飾られているものを崩すのは良心が痛む。
むしろ、あまり物のほうがにとってありがたかった。

「・・・・・・・?」

全く箸を動かしていないを不審に思ったのか、絳攸が話しかけてきた。

「・・・え・・・あっ・・・」
「大丈夫か?目が虚ろだぞ・・・。
普通に食べれば良いから」
「うん・・・そうなんだけど・・・」

まさか、呼ばれた身分で『勿体無さ過ぎて食べれない』なんてほざけない。
意を決してはなんとか料理に手をつけることが出来た。
紅家当主の食事というものはどこをとっても最高だった。
見た目だけでなく、味も最高に美味しい。
こんな者を毎日食べているのだろうか、この人達は・・・・。
なんとか食べ始めたに黎深が話しかける。

「お口にはあうかい?」
「はっ、はい。私には勿体無い料理の数々です」

本心だった。数ヶ月前までこんなものを食べれるなんて思いもしなかった。
多分、こんなの夢にも出てこない。
どきどきしながら、黎深の問いに辺り障りなく答えている最中に、家人が黎深に何か耳打ちした。

「・・・あぁ・・・本当に来たのか。
暇な奴だ・・・」

来たという単語に二人が顔を上げた。

「黎深様・・・どちらかお客ですか?」

黎深が面白くなさそうに答える。

「・・・・あぁ、玖浪が来た。」
『・・・玖浪様ッ!?』

収まりかけていた冷や汗がまた流れ始める。
玖浪といったら、黎深の弟で現在紅州の全てを司っているお方だ。
・・・紅州にいたのではなかったのか。

カチャと扉が開き、そこにいるのは紅を基調とした服を纏った青年。

「お久しぶりです。兄上」
「・・・よくもまぁ私の前にその面を見せられたものだな玖浪。
ちゃっかりと兄上の家に上がりこんだ上に・・・・上に・・・・」

黎深の声が徐々に弱くなっていく。
先ほどの強気はなんだったのであろうか。
しかし、玖浪はあっさりと黎深の弱点をついた。

「えぇ、秀麗を見てきましたよ。
邵可兄上の娘にしては出来が良い。
・・・後に李姫になっていただく予定でしたが・・・」
「・・・・っ・・・・」

黎深は、床に手をつき、ふるふる震え始めた。
怒り三割、悔しさ五割、悲しみ二割。
玖浪はちらりとの方を見る。
目が合った。

「・・・そちらは?」
「・・・・・・」

黎深に聞いたつもりだが、彼の方は玖浪が秀麗に認知された事実を目の前に付きつけられどん底に落とされてまだ這い上がってきてない。
玖浪はそんな兄を無視して別に目を向けた。

「絳攸、そちらは?」
「・・・え・・・」

秀麗を嫁にしたい玖浪に反し、既に嫁を貰ってしまった絳攸。
しかも彼女は名のある名家のお嬢様ではなく、一般庶民。その上暮らしも下の上。
ここでを紹介するのほど気まずいものはない。
黎深がいればまだ心強いのだが・・・・・・駄目だ、復活する兆しがない。
絳攸は腹を決めて立ち上がった。

「私の妻のです」
「お初にお目にかかります、玖浪様」

も立ち上がって、丁寧に礼をとった。
実はあまり話は飲みこめてないのだが、玖浪が自分を見る目は明らかに否定的なものだ。

「・・・本気か、絳攸。
お前は秀麗を嫁に取り、紅姓を継ぎ、時期当主になるのだぞ」

絳攸は目を見開いた。拾われてきた自分がまさか紅姓を名乗れるなんて・・・・。
しかし、問題は前者であって・・・・。
仮に秀麗を嫁に出きるとしても、あの公子二人に恨まれるような事は出きるだけ避けたい。特に兄の方。
そして、と別れる事は絶対嫌だ。例え、この家から離れる事になったとしても。

絳攸の内心を知らないか、玖浪は言いきった。

「今すぐ別れろ」
「・・・なっ、玖浪様・・・」
「・・・・え?」

そこへ、まだ通常値まで這い上がってはいないものの黎深が玖浪の足をガッと掴んだ。

「玖浪」
「・・・兄上・・・
まさか貴方この二人を認めて・・・」
「認めてなければ、とっくに娘の方は抹殺している」

この会話は奥にいる二人には聞こえなかった。

「絳攸を紅家に巻き添えにしたら最後、お前でも容赦なく首をはねる。
兄上達・・・特に秀麗も同じ・・・」
「・・・・・」

玖浪は、大きく息をついていった。

「来た日が悪かったな。
奥で休ませていただきます、兄上」

玖浪はそういって室を出ていった。

「しっかり休んでいく気か・・・ったく、どう言う神経をしているんだ。」

成り行きを見守っていた二人は、とりあえず、自体がなんとか収まったことを察しほっと息をついた。
体の緊張が解ける。

「・・・えと・・・何が起こったの・・・・?」
「・・・さぁ?」

見たところ、黎深が何か言って、それで玖浪は帰っていった。

「・・・あの、黎深様」
「なんだ?」

不機嫌を露にして黎深は絳攸のほうに視線を向けた。
少し怯むが、絳攸は落ちつきをはらっていった。

「あの・・・玖浪様は・・・」
「・・・知らん、あんな奴。
何言われても無視しておけ」

「・・・はぁ・・・・」

黎深はそう言って、室から出ていった。

「・・・えっと・・・」

どうしようか。かなり気まずい。
多分、黎深は玖浪のところに言ったのだろう。
料理もほとんど食べてしまったし、この室にいる意味もない。

「・・・帰るか」
「・・・えっ・・・うん」

そして、室を去ろうとした二人声が掛かった。

「絳攸様、様。館主様からこちらを預かっております」
「・・・・?」

渡された木箱の中に入っていたのは二つの透明な勾玉。

「・・・これを・・・俺達に?」

透明というところが、多分・・・何も縛られないで生きていけという証なのだろう。
絳攸は意味を取って、蓋を閉めた。

「黎深様に礼を言っておいてください」

歩みを進める絳攸には家人に礼を言って、絳攸の後を付いていった。


「・・・で、本当・・・大丈夫なの・・・・?
・・・秀麗・・・・って誰?」
「あぁ、大丈夫だ。後ろに黎深様がいる限り。
ちなみに秀麗は、黎深様の兄邵可様の娘」
「・・・えっ・・・そんな人いるのに・・・良いの?私で・・・」

絳攸は少し後ろを歩いているに目を向けた。
心配そうな顔がまた可愛らしい。

「・・・あぁ。
もしお前を諦めるくらいなら紅家と縁を切っても良い」
「・・・え・・・・。そんな駄目だよ、絳攸・・・」
「もしものことだ。
九割起らない」

来たとしても後悔はしない。



ーあとがきー

こちらは、89000Hitを踏まれました竜華桜様に贈られます『彩雲国物語 絳攸夢』でございます。
色々続いていますが、今回は食事会編。

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