初対面


吏部侍郎、李絳攸は、かなり暗い顔をして歩いていた。
遠くから見てもどんよりとしたオーラが彼の周りにたち込めている。
いつもはいろんな意味で近寄りがたいのが今日は一段と近寄りがたさが増していた。

彼の手には二枚の文が握られていた。

朝廷の官吏の目を引きまくりながら彼は帰路についたのだった。
勿論それを面白そうに見ている者もいないわけでもない。


「あっ、お帰り絳攸」
「・・・・あぁ、ただいま」

豪華な屋敷の庭に数人の侍女を連れながらひょんなことから絳攸の婚約者になってしまったが帰ってきた絳攸を出迎えた。
一応、朝廷の高官の妻が庭に侍女達を引き連れていること自体おかしい。
普通は家の中で、夫の帰りを優雅に待っているはずなのだが・・・。
しかも彼女達がいるのは前庭だ。

始め注意していた絳攸だったが、結局何を言っても身になったためしがないのでの行動には多めに見ることにした。
そして、その妻はというと庭に花を植えていたりする。
庭師がするからいい、と言ったが自分でやった方が愛着が湧く、と返されたため、李家の一角には手作りの花畑が出来ていた。
は立ちあがって、絳攸の元にいく。

「お疲れ様、・・・・何か凄いオーラ出してるけど、大丈夫?
何かやなことでもあった?」

口調も幼馴染故かなり砕けている。
こちらは、今矯正中でせめて人前だけでもちゃんとしておこうと思っている。
これにはも賛成しているのでいつか何とかなるだろう。

「・・・、」

絳攸がいつもよりトーンの低い声で言った。
が、首を傾げる。

「明日俺と一緒に朝廷に来てくれ」
「・・・・はい?」
「王に会った後・・・紅家当主に会うそうだから・・・」

この世の終わりとでもいうような絳攸の言い方にも顔を青くした。

「ちょっとまって、明日っ!?」
「あぁ・・・明日」
「なんでもっと早く言ってくれないのよっっ。
礼儀作法なんて基本の基本しか知らないのよ私・・・
言葉遣いも・・・駄目だなぁ・・・こりゃ・・・・」
「こっちも今日聞いたばかりだから・・・・
いや、作法の方は別に構わないと思うが・・・・
問題は中身だな・・・」

・・・これについてはどう矯正しようが無理がある。
絳攸はを見た。既に涙目になっていて近くの侍女達に助けを請うている。

「・・・、最低限喋るだけでいいから・・・。
まず何があっても落ち着いていろ。俺もいるし・・・
王なんてお前と同じ歳だし・・・・」
「絳攸・・・本当に大丈夫かな・・・」
「大丈夫だと思うぞ・・・多分」
「その多分が駄目なんじゃないっっ。
誰か代わってーっっ」

の叫びは虚しく響き、絳攸から落ち着けと肩をポンと叩かれた。
代わって欲しいのは皆一緒だ。

はすぐに家の中に入り、言葉遣いと作法の訓練をしにいった。
・・・王は何があっても問題ない。
・・・問題は・・・・黎深様だ。

自分が作法を教えられた時の事を思い出して寒気がしてきた。
大丈夫・・・だと思うが・・・・

二人ともよく眠れぬうちに朝が来た。
気持ちとは裏腹に空は快晴である。
公式に謁見すると言うのでも今まで来ていた以上に豪華な服を着る事になった。
汚さないか気が気ではない。

軒に乗っていても落ち着かなかった。
というか、すぐにでも引き返して引きこもりたい気分だ。

「・・・絳攸・・・」
「大丈夫だ、人にはほとんど見られないし、何も言わないで静かにさえしていてくれればいい」
『・・・・』

の頭の中では状況に応じた挨拶が繰り返し繰り返し唱えられていた。
軒が朝廷の裏の方に止まる。

絳攸が先に降りて辺りを見た。

「・・・よし、誰もいないな」
「・・・誰かいる予定だったの?」
「・・・妙な奴がこの辺をうろついているからな・・・・」

を連れて朝廷内に入る。

それを中から二人が見ていた。

「・・・ほぅ、あれが絳攸の婚約者か」
「えぇ、そうですよ。主上。
結構近くで見れば可愛いんです」

楸瑛の台詞に劉輝が言った。

「会った事あるのか」
「偶然にも街で・・・まさか絳攸の知り合いだとは思いませんでしたよ」

どかどかと靴の音が聞こえた。二人は窓から目を離して振りかえる。
その途端、扉が派手に開いた。

「この馬鹿王と常春っっ!!何してくれてんだっ、この阿呆共がっっ!!」

開口一番酷い言い様である。
しかし二人はそんな絳攸を笑顔で迎えた。

「いらっしゃい〜、待ってたよ」
「すぐに来れただろう。
さぁ、遠慮せずに中へ」

劉輝の後の言葉に後ろで事の成り行きを見守っていたがはっとして礼をとる。
顔を上げると、絳攸が楸瑛の胸倉を掴んでいるのと、金髪の若い青年が笑顔で手招きしていた。

「悪いが戸は閉めてくれ。
一応極秘なんでな」
「これのどこが極秘だっっ。バレバレだろうが!!」

ぼかっと王に拳骨が飛ぶ。
王は痛さにそこにしゃがみこんだ。

「むぅ・・・絶対絳攸は迷うと思って目印を立てておいたのに・・・・
余達の愛を仇で返すとは悲しいぞ絳攸」
「そうですよ、おかげで早く着いたじゃないですか」
「んな愛いらんわっっ!!」

そう、入った途端度派手な看板と矢印が王室まで続いていたのだ。
勿論すぐに回収した。

は反応に困った。
・・・・この人達は一体何なんだろうか。

殿が、反応に困っているじゃないか絳攸。
ちゃんとエスコートしてあげないと」
「そうだぞ、絳攸。
女人は守ってくれたり、しっかりしている男を最も好むと本に書いてあったぞ」

・・・霄太師(ジジイ)、また変な本を・・・・。

絳攸は楸瑛を話を呼んだ。

「・・・、この金髪のへらへらしているのが彩雲国国王、紫劉輝。
で、こっちの更にへらへらしているのが、左羽林軍将軍の藍楸瑛。俺と一緒に王の側近をしている」
「始めましてだな、余が紫劉輝だ。
確かに楸瑛の言っていた通り可愛いな」
「・・・おっ・・・お褒めの言葉・・・勿体無い・・・」

第一印象はかっこいいというより可愛いイメージの劉輝だが、やはり真面目に近くで見ると美形である。
は噛みつつも何とか答えた。
表面上には出さないようにしているが、頭の中はショート寸前だった。

「またお会いできて嬉しいですよ。
まさか絳攸の知り合いだとは思いませんでした」

は楸瑛の言葉に一瞬眉をしかめたが、あの時絳攸の居場所を聞いてきた青年だと思い出し何故か頭を下げた。

「あの時はどうも・・・・」
「・・・、別にここでは普通にしていても構わんぞ。
見てるこっちがはらはらするから・・・・」

絳攸がの背をポンと叩いた。

「・・・すいません・・・」
「いや、構わん。聞けば余と同じ歳ではないか」
「・・・・思ったより・・・お若いんですね・・・」

ついポロリと出てしまった言葉には嫌な汗をかいた。
しかし、劉輝の反応といえばいたって好感触である。

「あまり実感は湧かないがそうらしいな」
「お陰でいろんな方面から舐められるは大変だ」
「まぁ、私達も若いにはいりますね。
これが吏部尚書や戸部尚書だったら話は違ってきたかもしれませんが・・・」

楸瑛の言葉に王が目をそらす。

「・・・それは・・・凄くさけて欲しい選択だったな。
これだけはジジ・・・霄太師に感謝だな・・・」
「さて、立ち話もなんですし、お茶でも淹れましょうか。
殿の話も伺いたいですし」
「そうだな、これではいつもと変わらんし・・・」

お茶と菓子を用意しにいった王達には絳攸の腕を掴んで助けを求めた。

「どうしよう、私話なんて出来ないよっっ」
「俺と話すようにやっていれば良い。
王も楸瑛も生まれや、作法にはほとんどこだわってない。逆に正されると話しにくくなるだけだ」
「・・・でも・・・絳攸・・・」
「俺のことは心配するな。
・・・というか心配するだけ無駄だ」

をなだめながら、絳攸は奥でどの菓子をだそうか楽しそうに話し合っている王と楸瑛を見た。
・・・どっちかというと、この王と側近をなんとかしたいのだが・・・。
楽しそうにお茶を運ぶ王なんてどこの世界にいるだろうか。

「へぇ、絳攸って犬苦手だったんだねぇ・・・」
「別に・・・あの時は小さかったし、かなり大きかったんだぞ。野生だし・・・」
「仲間皆で犬を捕まえたんですよ」

何故か話は変な方向へずれ、子供時代の話になった。
子供の頃はかなりわんぱくだったが良く犬や猪などから皆を守っていた話など劉輝にも楸瑛にも始めて聞くことばかりだった。
しかも絳攸は小さい頃かなり大人しく、どっちかというと守られているタイプだったらしい事も判明した。
今はかなり男気があるが。
時間は経ち、昼の鐘がなる。

「・・・あぁもうこんな時間ですね。
お昼はどうしますか?」
「・・・昼・・・?
なっ、昼だとっ!?」

絳攸が急に立ちあがった。

「・・・・どうした?」
「・・・黎深様と会う約束が・・・」
『・・・・・・・・・・・・それは早く行ってきた方がいいですね(な)』
「・・・えっ・・・そんなにヤバい方なんですか」

王と楸瑛の顔の引きつり様に思わずが聞いてしまった。
王は、遠い目で言う。

「・・・・少し怒っただけで紫州全体機能停止にしてしまうし・・・
酷ければ彩雲国全て潰すと思うし・・・・」
「一端は紅家の血族根絶やしにしようとか考えていた人ですから・・・」
『・・・・・・・』

楸瑛も立ちあがった。

「朝廷内で会うのでしょう。
一応私もついて行きますから、迷ったってことにしておいてください」
「・・・絳攸・・・貴方結構朝廷で働いていたりするんだよね・・・・
まだ迷子になるの?」

・・・・そりゃしょっちゅう。
また殴られるのが怖いので二人は心の中で呟いた。
絳攸は咳払いをして扉に向かって歩き出す。
は急いで後をついていく。
そして思い出したように振りかえった。

「・・・えっと、国王様」
「何だ?」
「これからも、絳攸をよろしくお願いします」

王は、一瞬言葉に迷った。

「・・・・あぁ、むしろ余の方がよろしくと言いたいのだが・・・」

絳攸は先に出ていっていなくなっている。

「絳攸は、凄く真っ直ぐで強気なところがあるけど中身に弱いところがあるのだ。
だから・・・苦しそうな時は支えてあげて欲しい。
なら大丈夫だと余は思う。
・・・幸せにな」
「はい。国王様も早く良いお嫁さん見つけてくださいね」

礼をしてはすぐに出ていった。

「・・・相手はもう見つけているんだけどな・・・・」

ただ後一歩のところでいつも止まってしまう。
どんな成り行きで結婚まで至ったのかは知らないが少し絳攸が羨ましく思えた。


「・・・本当に府庫でいいんだね」
「あぁ、文にはそう書いてあったから・・・」

息を切らしながら絳攸達は府庫の前にいた。時間の指定はなかったが流石に遅すぎるだろう。
今日は休日だから黎深も昼くらいに帰ると書いてあった。

ゴクリとつばを飲み、取っ手に手をかける。
そして開こうとしたその瞬間。

「・・・・おや、絳攸じゃないか」

いきなり後ろから掛けられた声に三人は飛びあがるほど驚いた。
声は出さなかったがその分反応が大きくなってしまった。
後ろをみれば、吏部尚書もとい紅家当主、紅黎深がいたのである。

「・・・れっ・・・黎深様・・・」

黎深の視線は絳攸を軽く見据えた後へ向かう。
目が合った瞬間は思いきり頭を下げた。

「おっ、お初にお目にかかります。紅家当主様。
このたび絳攸様と・・・・・」

の言葉を途中でさえぎられた。
閉じた扇を顎にかけられそのまま上に向かされる。
ふむ、と黎深が唸った。

「・・・・君あの時、いたね」
「・・・あの時・・・?」

あの時とは、どの時であろうか。
どんな時も紅家当主になどお目にかかれたチャンスはないと思うのだが。
は必死に記憶の中を探したが、結局彼の顔は出てこなかった。
黎深は扇を自分の口元に持っていき微笑する。

「私が絳攸を連れていく前、君は絳攸を探していたね」
「・・・え・・・?」

そういえば、探していたかもしれない。
丁度、鬼ごっこをしていたと思うのだがいつものように絳攸がいなくなったから皆で探しにいったのである。
絳攸がいなくなったのはその鬼ごっこ以来。

「・・・・あの時の・・・・」

そういえば、壊れかけた家が立ち並ぶところに場違いな豪華な軒が止まっていたかもしれない。
そしてそこから降りてきた人物をは見ていた。
・・・目があったのですぐに隠れたけど。

「・・・やはり、月日が経てば人は変わるものだな・・・
と言ったな」
「はい」
「・・・・気に入った。
いつかうちに来い。馳走くらいくれてやろう」

その言葉に絳攸と楸瑛は瞠目した。
黎深が何かを上げるという行為自体珍しいのに気に入るとは・・・
に至っては『気に入った』の一言で舞い上がりそれどころではなかった。

黎深はそのまま府庫への扉を開けた。

「・・・絳攸じゃなくてを拾っておくべきだったかな・・・・」
「黎深様っ!?」

ボソリと呟かれた言葉に絳攸がすぐさま反応する。

「・・・かなり美人に育って・・・私が手がければかなり良い娘に育ったものを・・・」

ブツブツと呟いている黎深に絳攸は返す言葉がなかった。
それはもしかして・・・かの有名な『源氏計画』でしょうか
(*『源氏計画』とは:小さな女の子を拾ってきて好みの女性に仕立て上げ、挙句の果てには妻にしちゃうということ)
もしそうなっていたら、妻じゃなくてもきっと秀麗みたいな存在になっていて今頃溺愛している様子が目に見えてくる。
近くにいる分愛もいっそう深いだろう。

幸いにはそのことは聞こえていないらしく、まだ余韻に浸っていた。

・・・大丈夫か?」
「えっ・・・あっ・・・・
・・・あれ?当主様は・・・・」
「府庫の中に入っていった。
多分、俺達用無しだと思うから帰るぞ」
「・・・はい。
何もお礼言ってないけど・・・大丈夫かしら・・・」
「大丈夫だと思うぞ。
多分、今それどころじゃないと思うし・・・」

中から聞こえてくる、妙なテンションの声は幻聴だろう。そう思いたい。
歩き出す絳攸に今まで蚊帳の外になっていた楸瑛が言った。

「・・・・絳攸、軒止めた場所・・・・こっち」

案の定絳攸の体は逆向きだった。

「・・・いい加減・・・道覚えようよ。
国試うかるよりも簡単だと思うよ」

のそのせりふに楸瑛が噴出た。絳攸がむっとして楸瑛の方を見る。

「失礼・・・。
では、軒まで案内いたしましょう。李姫」
「・・・あっ、ありがとうございます」
「さりげなく手をとろうとするな」

楸瑛からをかばうように絳攸は立つ。

、こいつにだけは絶対構うな」
「・・・・えっ、でも良い人でしょ」
「そうだよ絳攸、良い人だよ私」
「自分で『良い人』っていう奴に良い奴がいたためしがあるか。
お前も妙なことしないでとっとと案内しろ」
「偉そうだねぇ・・・。まぁ今日は殿に免じてちゃんと案内しましょう」
「・・・・ちゃんと案内してもらえないんですか・・・・」
『・・・・・。』

そのセリフに二人は苦笑した。朝廷出仕時間のうち四分の一あたりはうろついている時間である。


なんかいらぬ気苦労をしてしまったようだった。
軒に乗って帰るときは二人ともぐったりしていた。一番意外だったのが黎深だろうか。
まさか、あんなに簡単に終わるとは思わなかった。

「絳攸、良い人たちと仕事しているんだね」
「・・・・別に・・・。
まぁ顎で使われるアホ官吏の下につくよりはかなりマシだがな」
「楽しくやってて良かったわ。
なんか安心して疲れちゃった・・・・・」

は思いっきり絳攸に寄りかかって瞳を閉じた。

「昨日、寝られなかったのよね・・・・」
「俺もだ」

その後、二人分の寝息が響いた。


家に到着してが主たちが動かないのに疑問を持った家人達が軒の中を見ると、仲良く寝ている二人を見つけ、どう対処しようかかなり悩んだとか。



ーあとがきー

こちらは、87000Hitを踏まれました竜華桜様に送られる『彩雲国物語 絳攸夢』です。
『待ち合わせ』『日々心労』の続き物で、王様達、黎深様にご対面シーンです。


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