それも愛故に


冬の終わり、春の陽気もそろそろ期待できそうな頃。
初の女性官吏を生む事となった国試試験はなんとか無事(一部地域除く)に終了した。
ずらりと会試の結果発表に並べかかれたのは彩八家の色の数々。
そして、載る事もないだろう女性の名前。それははっきりと上位に記されていた。
その事は彩雲国全土に広がり、いろんな反響を呼んだ。

それも一段楽し、進士式まで数日と迫った某日。
ある飯店では合格者四名を祝う祝会が開かれていた。

「では、新しい彩雲国の未来の星に乾杯っ!!」
『乾杯!!』

勿論、この代金は全て双花菖蒲と称される王の側近二名のおごりだそうで料理も豪華だった。

「本当すいません、絳攸様、藍将軍。
こんな高価な食事会を開いてくださって・・・」

秀麗が二人に頭を下げた。

「いや、いいんだよ。これくらい秀麗殿が言ってくれれば毎日のように開いてあげるよ」
「開いてもらえ、秀麗。
無駄に花街に流れていくより有意義だ」

さらりと口説き文句を言う楸瑛に絳攸が口をさす。
流石の秀麗もそれには苦笑するしかなかった。

「それはいいですね。毎日の食費が浮きますよ、お嬢様」
「・・・静蘭・・・・でもそれは流石に悪いわ」
『・・・・・・・・』

なんだろう、静蘭が言うと、冗談も冗談には聞こえない。
楸瑛が乾いた笑いを浮かべる中秀麗が作品とも思えるような飾り付けをしてある皿をみて言う。

「・・・・だいたい、この魚料理。美味しいところしか取ってないじゃない。
絶対まだ身が残っているのに捨てているでしょう。勿体無い・・・」
『・・・・。』
「でも、まぁ・・・この程度の店なら普通客用に全て使っていると思うわよ。
器用な店ねぇ・・・高級料理もちょっとしたつまみも用意できるなんて・・・」

秀麗達の話に入ってきたのは一緒に国試を受けた二人目の女性官吏となる
歳は、25。一応財力のある家の娘らしく容貌も美しく物腰も作法も完璧なのであるが、何故か供も付けず紫州に入って来たらしい。
秀麗達とは宿舎も同じで龍蓮抗体を持つと認定され、そこで一緒になった。

「へぇ・・・色んなこと知っているのね」
「まぁ・・・紫州の料理屋の半分くらいは制覇したから・・・」

秀麗達はの言葉を聞いて唖然とする。
たしか国試を受けに始めて紫州に入ったと聞く。どれだけ宿を転々としてきたのであろうか。

「でも秀麗の料理が一番おいしかった」

その言葉に秀麗が照れくさそうに頬をかいた。

「嬉しいこといってくれるじゃない。私の料理ならいつでも食べさせてあげるわよ。
そういえば、、家とかどうするつもりだったのよ。影月くんもだけど。
今はうちに泊まってるからいいとして、私に会わなかったら・・・・」

その台詞に蚊帳の外にいた影月がびくりとする。

「・・・えっとその僕は・・・・地方で働きたかったので紫州には小さなの宿で良いかな・・・と」

秀麗はその意見に頷いての方を向く。
しかし、彼女は返事に困っているのか珍しく難しい顔をして俯いた。
なんか、宿の方も一つにとどまらず転々としていたらしい。
訳ありのようだ。

「・・・?」
「あっ・・・ごめんなさい・・・・
いや、本当に秀麗にも迷惑かけたね・・・。
行くところあるんだけど少し勇気が無いというか、久しぶりに会うんで緊張するって言うか、怒られる・・・よなぁ・・・。
多分、この騒ぎで当然知られてると思うから更に行きにくくて・・・・。

やっぱり事前に文出しておいた方が良かったかしら・・・・
っていうか、やっぱりあの顔見る勇気がないのよね・・・・」

・・・顔?

誰もが思ったが声に出して突っ込まなかった。
怖い親戚でもいるのだろうか。

「・・・行くところあったの?」
「うん、一応ね・・・。
っていうか向こうも私のこと探してると思うし・・・」

その台詞に楸瑛は苦笑いする。
そういえば、龍蓮とそのような状態だった様な気がする。
彼もくらい物分りがよければ楽だったものを・・・・。

殿、一応その家に顔くらいは出してみたらどうです?
向こうが探しているなら尚更・・・」
「・・・そう・・・・でも屋敷入ると多分出られないからなー。
・・・あ・・・でも朝廷入ると結局顔あわせることになるんだっけ!?
藍将軍、絳攸様、進士と朝廷の上官って顔合わせる機会ありますかっ!?」
「・・・まぁほとんどの上官はもっぱら室にこもっていたりするけどね。
絳攸は神出鬼没でうろついているから会う機会も多いだろうけど・・・・」

そこまで言いかけて楸瑛はふと考えた。
いつもくる絳攸の突っ込みも来なかった。
朝廷の・・・上官?
そして、彼女の出身地などから思いつく人物はただ一人。

「・・・もしかして・・・、お前の居候になる家って・・・」

絳攸が恐る恐る口に出してみた時、すっとに伸びる手があった。

「・・・・やっと・・・見つけた」
「・・・・げっ・・・・」

美しい凛とした声が耳に届く。
は後ろに立っている人物を恐る恐る見た。
顔は綾布で隠れていて見えないが輪郭だけで、その人の美しさが分かる。
着ている物は上等な布をあしらってあり、シンプルだが圧倒的な存在感がる。

「・・・勝手に国試を受けた上に、私にも何の報告なしで、顔も見せない」
「・・・すいません。驚かそうと」
「驚いたのは最初だけだ。
女人の国試参加など今の時期どう隠そうがすぐにばれるだろう」
「・・・うっ」

気の強いがここまで押されているのをみるのは始めてだ。
突然の登場に一同唖然とその光景を見守った。
声は美しいし、おそらくその布の下にある素顔も同じくして美しいのだろう。
髪は結んで折らず、肩にかかる髪はさらさらとこぼれてくる。
体格と声からして男だろうが、その美しさは圧倒的だ。

その男は秀麗に視線を向けた。

「・・・・が世話になった。後で礼をしよう」
「いえ、そんな・・・宿代も払ってもらっていますから・・・
それよりもその・・・・以前にお会いしませんでしたっけ・・・?」

顔は見えなくて定かではないが、秀麗はこの声に聞き覚えがあった。
この人の雰囲気もどことなく知っている。

「・・・・気のせいだ。
悪いが、彼女は借りていく」
「・・・ごめんね、みんなお祝いしてくれたのに・・・。
秀麗、後で荷物とりに行くから・・・・」

しぶしぶ引いていくも珍しいが、その行動まで持ってくる彼の実力も凄い。
はしぶしぶ、男についていった。
飯店には自分達以外にも人がいて、周りは色んな人で溢れていた。


「おう、姉ちゃん。酌してくれねぇか?」

昼間っから酒を飲んだ酔っ払いがの腕を掴んだ。
は視線だけそっちに向ける。
それをみてすぐに楸瑛と静蘭は動いた。
しかし、それはを迎えにきた男に止められる。

「・・・心配無い」

むしろ、心配しなくてはいけないのはよりも・・・
何も言わないに調子に乗ったか、周りに数人の男が集まってきた。
すっとの手が伸びた。
その瞬間男達は四方八方に飛ばされて、派手な音を立てる。

『・・・・なっ・・・・・』

店中が静かになった。
楸瑛も静蘭もその光景には絶句した。
・・・何が起こったのだ?

「・・・彼女は気功が使える。
下手に怒らせない方が身のためだ・・・」
『・・・・・・・・。』

は先ほどとはうって変わって爽やかな笑顔でいった。

「さぁ、参りましょう。鳳珠様」
「・・・あぁ・・・」

多分、鳳珠が来たことで気づかないうちにかなりのストレスを溜めていたのだろう。
それを発散したことによって、吹っ切れたらしい。
ありえないほどの静寂の中、二人は早々に退散していった。


表に止めてある、装飾の綺麗な車に乗り込む。
そして、鳳珠は布を取った。
は久しぶりに見る、彼の顔に五秒は頭が真っ白になった。

「・・・、」
「あっ、すいません・・・。更にお綺麗になられて驚きました」
「嫌味か」
「褒め言葉でございます。」

流石にこの顔はの予想範囲外だった。
十年近く経てばまだ見れる顔になっていると思えば、老けるどころか更に美しくなっているではないか。
更に十年後はどうなっているのであろうか。これ以上美しくなるのだけは勘弁だ。
鳳珠の視線が痛いのでこれ以上顔について触れるのは止めた。

軒が動き出した。
は改めて鳳珠に座りながらも礼をとった。

「・・・久しくお目にかかります、鳳珠様。
お元気そうで何よりです。」
「・・・あぁ、十年近く会ってないな・・・・
やっと紫州に来る気になったかと思えば、何を思い違ったのか国試を受けて・・・
何故私に一言も言わなかった?」

社交事例などさらりと流して鳳珠は本題に入った。

「本気で驚かそうと思ったんです。
国試なんてそうそう受けられるものではないからどうせ紫州行くならついでに受けてみようかな・・・と思って。
まさか、ここまで来るとは思ってませんでした」

本気で国試を受けていた人にとっては殺したくなるほどの理由である。
鳳珠は、昔からの彼女の才能と行動の奇怪さは理解していたのでそれについては特に何も言わなかった。

「何故、紫州に入り次第うちに来なかった。
分からなかったわけでもないだろう?いえば迎えも寄越したものを・・・」
「まさか、最後までいけるとは思わなかったんです。
だから迷惑になるんじゃ無いかと・・・」
「むしろ来なかった方が迷惑だったがな。
一応、居場所がわかったので迎えをやったら、次の日には宿を変えているし挙句の果てには秀麗の家になど・・・」

鳳珠は額を押さえた。
そのおかげで、何度黎深に文句を言われたか・・・・。
それを思い出すだけで頭痛がしてきた。

「秀麗をご存知で?」
「・・・あぁ・・・」

でもさっき、他人の振りしていたような・・・・。
そんなの疑問を尋ねる間もなく、鳳珠は続けた。

「一応黄州の方から連絡がきてを引き取る事を了承した」
「鳳珠様、一ついいですか?」
「なんだ?」
「・・・なんか、以前よりまして対応が冷たくありませんか?
っていうか、話を本題からはずそうとしませんよね」
「・・・そうか?」

鳳珠は少し考えた。
確かにそうかもしれない。
黎深と長く付き合っていれば、どうも話が本題からそれてしまうことが多い。
だからであろうか、頭が無意識のうちに必要な方と必要な方へと話題をもうっていかせようとする。

「・・・そうかもな・・・。」

自嘲気味に笑み、を見る。

「とりあえず、お前の部屋は用意しておいたが・・・
何か足りぬものがあれば言え」
「あっ、一応部屋くれるんですね」
「同じが良かったか?」
「・・・いえ・・・・」

さらりと恐ろしいことを言ってしまう彼にも脱帽だ。
昔から彼には頭が上がらなかったが、今では更にその話術は高くなっている。
は一生勝てないだろうことを悟った。


「・・・、ここに来た・・・ということは覚悟を決めたととっていいのだな」
「私の方は初めから承知の上です。
貴方こそ、もう仕事が恋人なんて言わないでしょうね」
「何を言う・・・
私が紫州へ行くといった時に、まだ名残惜しいからいけないと言ったのは誰だ?」
「だってその時私まだ十五ですよ?
まだまだ親元にいたいものです」

軒が止まった。
外を覗けば、黄州までとはいかないが、立派な門が見えた。

「私の家だ」
「・・・うわぁ・・・流石鳳珠様。
黄州の家の縮小版を見事に造り上げて・・・」

鳳珠が先に軒から降り、私に手を差し伸べた。

「黄州に帰りたいといっても帰さんからな」
「・・・貴方次第ですけどね。退屈させないでくださいよ」

鳳珠の手をとりは軒から降りようとした。
しかしその手を引かれ、そしてもう片方の手で顎をつかまれそのまま口付けされる。

「退屈など言ってみろ、後悔させてやる」
「・・・・なっ」

微笑をたたえた彼の顔を直視したこともあり、の顔が見る見るうちに赤くなる。
・・・くそっ、この顔凶器だ。
しかも、その行動力と口説き文句。どれをとっても完璧。


「・・・・室を案内する」
「あっ、はいっっ」

歩き出した鳳珠の後を追って、もそのあとについていく。
勿論、そのラブラブっぷりと久しぶりの鳳珠の素顔に黄家の衛士達は固まっているしかなかった。



ーあとがきー

こちらは83000Hitを踏まれましたかおりん様のリクエスト『彩雲国物語 鳳珠夢』です。

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