その知らせは


ある日、私の元に招待状が届いた。
それは大きく鮮やかな羽根一枚。
誰が見ても何を意味するか分からないだろうが、私にとって十分なものであった。
羽根を見つめはクスリと笑う。
久しぶりに彼に会えるのだ。
少し思い出せば頭の痛くなるような思い出しかないが、それでも今となっては悪いものではない。

「龍蓮・・・」

別れ際にした約束を彼は守ってくれたのだ。

・・・絶対また会いましょう。約束よ。

あの時の情景が脳に浮かぶ。
今思い出してみれば、恥ずかしくなるがでも言った事に後悔していない。

元気かしら?・・・・いや元気だろう。
そう分かってはいても、気持ちは落ち着かない。
はいてもたってもいられず、彼の元に向かった。


見るものを圧倒する荘厳さがある藍家。
観光に外観だけ見る人も少なくなく、その人ごみに混じりながら私はその前にいた。
門にはしっかり衛士が立って、周りの安全に気を配っている。
多分彼はこの中にいるだろうが、衛士が簡単にいれてくれなさそうだ。
知り合いと言ってもそのまま追い返されそうな・・・。
大体招待されたと言っても証拠と言えばこの大きな羽根。信じろと言う方がおかしいくらいだ。
しかし中に入らないのならここまで来た意味がない。

「・・・・・・・女は度胸よ・・・」

そんな意味不明な事を自分に言い聞かせ、は思いきって衛士に声をかけようと一歩踏み出した。
がその時、全てを不快にさせる不協和音がどこからか鳴り響いた。
人々の動きが止まる。
そして次の瞬間、皆耳を塞ぎ一目散に逃げ出していった。
衛士もこの音には耐えきれなかったらしく耳を塞いでしゃがみこんだ。
幸か不幸か私はこの音に大分慣れてしまったので、今ではなんとか聞けるようになったくらいだ。
はこの機会を見逃さなかった。
衛士の隙をついて私はこっそり中に忍びこんだ。

・・・やっぱりこれは不法侵入だろうか。(当然だ)

藍家の中もやはり突然鳴り出したこの不協和音に騒ぎを起こしているようだ。
音が小さくなったところで人々の声が聞こえる。
は気が進まないが外から音の出ている方へ近づいていく。
この先に彼がいるのだ。
歩みは徐々に早くなり、最後には小走りになった。
そして母屋を抜け、離れに向かう。
回廊を駆け抜ける人達も沢山いたが、外の景色に目をやる余裕はなく、この不協和音のせいで錯乱状態になりかけている。
これはとっとと止めさせないと、この邸にいる人達が危ない。
木の陰をなるべく選びながらは離れの裏庭に忍びこんだ。
そして、不協和音の音源、藍龍蓮の姿を見つけた。

音と衣装を抜かせば彼はとても絵になっていた。
池にかかる橋の上で静かに笛を吹くその情景は見とれるには十分過ぎるものがある。
あくまで音と衣装がなければの話。

は繁みを抜けて龍蓮の元に飛び出した。

「止めなさいっ!!龍蓮っっ!!」

音はぴたりと止んだ。
そして、龍蓮が顔を上げた。そして驚いたように目を見開く。
それもすぐに笑顔に戻る。顔立ちは整い、誰もが見とめる美青年。

しかし、の本能は察知していた。
・・・そう、かっこいいのはここまで。口を開けば・・・・

「おお!ではないかっっ。
を思い、笛の音を奏でていれば本当に現れるなんて何たる運命の導き!」

・・・えっ、その笛吹いたの私のせい?
少し藍家集辺にいた人達に少し罪悪感を感じた。

子供のように楽しそうにこっちによってくる龍蓮はりりしいと言うかかわいいに近い。
は、先ほどまでの笛の音の不快感も忘れて破顔した。

「久しぶり、龍蓮。
元気そうで良かったわ」
も元気そうだな・・・」

すっとの手を取って、龍蓮は中に招く。
橋を渡る時下を見れば色とりどりの鯉が泳いでいた。
これも一般人ではお目にかかれない代物ばかりだ。
この池一つで人生何回遊んで暮らせそうか、頭が働いてしまう。

「凄い・・・見ても良い?」
「あぁ、誰か知らんが買い揃えたようだ。
魚は川で泳いでいるのが風流で良いというのに・・・」
「・・・確かにね・・・」

不服そうな龍蓮に私は苦笑する。
彼の言い分も間違っては・・・ないと思うが、でもこの藍家の創りあげた庭を不服に思うのはどうかと思う。
は鯉を見ていて少し違和感を覚えた。
多分龍蓮の笛のせいだろう。動きが鈍い。

は立ち上がった。
いきなり立ち上がったので軽い眩暈を感じた。

「・・・

龍蓮が肩に手をかけた。

「・・・あぁ大丈夫、軽い立ちくらみだから・・・」
「誰かと思えばくんではないか。いらっしゃい」

離れの方から声が聞こえた。
龍蓮とは一緒に声のする方向を見た。
そこには龍蓮の兄、楸瑛が立っていた。今日は仕事ではないらしく・・・正確には龍蓮がいるから休暇を取って家にいる。

「あっ、藍将軍。
お邪魔してます。勝手にすいません」
「何をしに来たのだ。愚兄其の四」

明らかに不満そうな声で龍蓮は言った。
楸瑛は慣れているのか、予想していたのか嘆息していった。

「何をって・・・龍蓮、自分のした事にもう少し自覚を持って欲しいな」

別室でくつろいでいた楸瑛の耳にも勿論龍蓮の笛の音が聞こえてきて、止めにいこうと室をでたら次々に生ける屍同然の家人に引きとめられ、助けを請われたのだ。
その数・・・軽く三桁はいったはずだ。

「悪いけど龍蓮、近所迷惑だから笛は吹かないで欲しい事は言ってあるよね。
・・・くんが止めてくれたのかい?ありがとう助かったよ」
「いえ、そんな・・・・」
「何も準備していないが、あがっていきなさい。
龍蓮、お客様が来たのなら家人にでも頼んで何か出してもらうことくらいはしないと、くんに失礼だろう」
「む、それくらい分かっている。
は今来たのだ。今からするところ・・・」
「・・・というか不法侵入みたいな真似してしまいすいません・・・」

謝罪するに楸瑛は首を振る。

くんならいつでも歓迎だよ。うちなんて自由に入っておいで。
むしろ、住んじゃってもいいよ」

そんな楸瑛の爽やかな笑みから守るように龍蓮はの前に立った。

「なにを不埒な事を言っているっ、愚兄其の四!!
、絶対あんな男には近づくんじゃないぞ。何をされるか分かったもんじゃない」
「失礼だな、私は道理を分けまえてるよ」

なんだかんだいって仲の良い兄弟である。
は龍蓮と庭を越えて離れの縁側に座った。

丁度侍女が茶を運んできたところだった。

「・・・すいません、何も持たずに・・・・。」

そういえば、手ぶらで来てしまった事に今更気づきは顔を赤らめる。
藍家に向かう事だけで頭がいっぱいになっていたようだ。

「いいよ、来てくれた事だけでも嬉しいし・・・」
「というか、何故愚兄もちゃっかりここに居座ろうとしている」
「折角、三人分のお茶を持ってきてくれたのに悪いだろう?
それに私もくんと話がしたいし・・・・」
は私に会いに来てくれたのだ!!
愚兄は・・・・」

龍蓮の言葉が止まった。
にゃあ。と小さい猫の鳴き声が聞こえる。

「・・・猫?
・・・うわぁ可愛い・・・」
「龍蓮が来た時一緒についてきたみたいなんだよ。
追い出すのも可哀想だし・・・」

大分懐いているのか、猫は階段を上がり私達のところまでやってきた。
そして龍蓮の元に行く。
龍蓮は慣れた手つきで猫を抱き上げた。

「・・・こいつは私の笛の音を最後まで聞いてくれたのだ。
それからずっと一緒に旅をしてここまで来た
風の日も雨の日も、私達は一緒に苦難を乗り越えてここまで・・・・
動物と言えども立派な心の友!!」
「へぇ・・・それはある意味凄いわね・・・」

は龍蓮の腕の中にいる猫の頭を撫でる。
見なれない人物に警戒心を持ったのか猫の目が鋭くなった。

「・・・うっ、なんか警戒されてる・・・」
「最初はそんなもんだよ。
すぐに慣れる・・・」
も抱いてみるか?」
「いいのっ!?」

は嬉々として龍蓮から猫をもらう。
まだ子猫なのですぐに腕の中に収まった。
毛がふさふさとしていて気持ちが良い。
初めは居心地悪そうに動いていたが、そのうち気持ち良さそうに、にゃあと鳴いた。

「可愛いなぁ・・・。
お前は幸せだね。龍蓮と藍将軍に可愛がられて・・・」

の言葉に二人がピクリと反応する。しかし、ここはあえて何も言わない。
猫がの菓子を欲しそうに手を伸ばす。

「あ〜、駄目駄目。
これはあんたが食べちゃ太るよー。
全く、ちゃんと餌は食べているはずなのにね・・・」
「やはり・・・残り物では駄目か?」
「・・・残り物・・・」

は口を引きつらせた。
残り物って・・・やっぱり藍家の方々の口にする食べ物の残り物の事でしょうか・・・。

人間だって手を出したいくらいものをこの猫は食べさせてもらっているのか・・・。

「・・・・本当に・・・・幸せものだね・・・あんたは・・・(遠い目)」

にゃあ。

しばらく、話をしながらは猫を撫でていたがあることに気がついた。

「そういえば、この猫の名前は?」
「名前・・・そういえば心の友としか呼んでいないな・・・」
「何か・・・良いのか悪いのか・・・。ちゃんとした名前つけてあげないと可哀想じゃない」
「うむ・・・・」

すっかり忘れていたらしく、龍蓮は顎に手をやり真剣に考えている。
こうしていればかっこいいのになぁ・・・。
しかし、どんな名前にするか考えると、なんか・・・普通なものではないような気がする。
は龍蓮が何を言い出すか、少し緊張しながら次の言葉を待っていた。

「そうだ、が名づけ親になってくれ」
「・・・・はい?」

・・・・私?
思いがけない答えに今度は私の方が戸惑う。
抱いている猫を見下ろして、言葉に詰まった。
無垢な瞳がこちらを見上げている。・・・・可愛い。

「・・・龍蓮、また旅にでちゃうんだよね」
「そうだな・・・」
「じゃ、この猫は・・・」
「あぁ、ここにおいていこうと思う」

楸瑛は特になにも言わなかった。
なんとなく察しはついていたようだ。

「・・・じゃ、『リュウ』ってのはどう?
龍蓮だと思って藍将軍これからも育ててあげてください」
「・・・何故、私が・・・」

楸瑛は猫を育てるのが嫌と言うわけではなく、龍蓮と思って育てるのが嫌という事だ。

「私も名前の一部をとった愛しき猫を自分だと思って愚兄其の四に育てられるのは嫌だぞ」

というか、気色悪い。

しかし、そんな事も気にせずは笑顔で言いきった。

「いいじゃないですか。私もたまに顔見にきます」

龍蓮ははっと気づいた。
猫の顔を見に来ると言う事はついでに楸瑛とも顔を合わすということではないか。
自分の知らないところで二人に会われるのは何か嫌な感じがする。

「駄目だ。なんならこの猫はが飼ってくれ!」
「ごめん、私じゃ良い生活させてあげられないし・・・絶対ここにいた方が広々と過ごせるかし・・・。
ほら、町って色々周りうるさいし・・・」

正論だ。

はリュウを抱き上げて、龍蓮の頭に乗せてみた。

「なっ・・・」
「う〜ん、可愛い」
・・・羽根が取れるっ・・・」
「良いじゃない、ついでに髪ほどいちゃいなよ」

リュウは迷惑そうに、安定したところを探す。
龍蓮はリュウをまた腕の中に戻した。
新しく名前をもらった猫。しかも、自分の名から取られたもので親近感がわく。

「良かったな、リュウ」

龍蓮はにこりと笑い、抱き上げるリュウに軽く口付けした。
何とも羨ましい猫である。

そうなんとなく思い龍蓮を見ていると龍蓮がこちらの視線に気づいたのか、少し手招きをする。
不思議に思い近づくと、そのまま顎に手を添えられ、軽く口付けをした。

「して欲しかったのだろう?」
「・・・なっ・・・」

猫と同じ扱いですかっ!?
は顔を紅く染め口を開閉させる。混乱して何からいったら良いのか分からなくなる。
してやったりと満足そうにを見てから、龍蓮は楸瑛に視線を向けた。

「・・・さて、そろそろ退散するものだろう?
これ以上ここにいるのは無粋というものではないか?」
「君に言われなくても退散するよ」

リュウの方も勝手にどこかに行ったらしい。
二人きりの状態になったところで、の頭はやっと冷えた。

「・・・えっと・・・龍蓮?」
「やっと、邪魔者はいなくなったな・・・」
「・・・えっ・・・」
「私は一人を呼んだつもりだった・・・・・」

龍蓮は目を閉じた。
今更だと思うが・・・・・。
でも言いたかったし、返して欲しかった。

「ただいま」
「おかえり」

「約束・・・・守ってくれてありがとう」
「あぁ」

龍蓮は優しくを抱きしめた。

君を呼んだのはこの言葉が聞きたかったから。
この言葉を言いたかったから・・・。


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