多忙の裏では


ほとんど人のいなくなった朝廷を忙しく動き回る女官がいた。
名は。初の女性官吏になった者の一人である。

「えっと、礼部に行ってから・・・・。
最後に府庫に行ってそれから・・・」

ぶつぶつと呪文みたいに唱えながら廊下を歩いている姿ももはや板についてきて、咎める者はいない。
むしろ、あの尚書の下につくのであればこれくらいしないとやっていられないのである。
ふと外を見上げればやんわりとした気持ちの良い天気。
太陽も高くなっていた。

「・・・そろそろ休憩にしようかな・・・・」

今日は基本的には休日。
なのに、うちの上司といったら朝廷に行くときかないので仕方なくついてきて仕事を手伝っているのである。
は、これからの自分と彼の予定を勝手に立て、また足を速めた。
善は急げ。忘れてしまえばそれで終わりだ。

「・・・えっと、礼部に行って・・・・なんだっけ・・・(滝汗)」


です。失礼します」

窓を開けて気持ちよい風が室の中に流れている。
その奥に本や書類に埋もれながら自分の上司がいた。
誰もいないということで仮面は外し、乱雑におかれている本がなければ大層な絵になっであろう。

「・・・・あぁ、ご苦労。
そこにおいておいてくれ」

あまりの多忙さに疲れた表情を見せるが全くその美貌に衰えはない。
上司のいうとおり本を置こうとしただが言葉に詰まった。

「・・・そこ・・・・」

そこといっても足の踏み場のないこの部屋のどこにおけと言うのだろう。
書類や他の本の上におけばそのまま崩れそうで怖い。

「・・・えっと鳳珠様・・・。
もう少しこの室何とかなりませんか?」
「これでも最低限のものだけおくようにしている。悪いのはこの仕事だ」

週末と言うことで締め切りの書類が昨日の夕方にどっと流れるようにやってきたのである。
これから締め切りはずらしておいて方がいいといういい教訓になったのだが、やはり締め切り前に出すと言うものが筋だろう。
なのに全く・・・・。

は苦笑して、少しでも落ち着くようにその辺を片付け始めた。
がどれもまだまだ未処理だったり、資料として使わないといけないものだったりで中々片付かない。

「どこからこんなに書類が出てくるのよ・・・」

自分も手伝って上げられれば一番いいのだが、全て尚書用のものであり下官のではどうにもならない。
はかがめていた腰を伸ばし、少し休憩しようとした。
そして、晴れている外を見た。

「鳳珠様、気分転換に外行きませんか?」
「・・・・外だと?」

胡乱気な目で鳳珠が久しぶりに顔をあげた。
こんな忙しい時に何を言っている、と言いたげだった。

「いいじゃないですか。
一応今日は休みの日ですよ。少しくらい羽を伸ばすべきです」
「・・・良くこの仕事の量でそのような事がいえるな」
「体に良くないですって。
昨日も結構遅くに帰ったわけですし。
さぁ、外でお茶にしましょう」

奥の方にいけば茶器がある。
は簡単な茶器と、菓子を探した。
そしたら、棚の中にちゃんと二つ揃っていたのである。多分柚梨が今日のことを察知して用意してくれたものだろう。
長年連れ添ってきた勘というやつだろう。
いやはやまったく見習いところである。

「鳳珠様、景侍郎が茶菓子も用意してくださりましたよ。
これで外に行っても華がありますよねぇ・・・・」

いや、彼がいればそれで華ですが。
は茶器セットを箱に入れて鳳珠に話しかけた。彼はまだ仕事をやめていないようだ。

「・・・鳳珠様。行きますよ」
「本気か?」
「本気です。さぁ早く」

有無を言わせない口調では鳳珠に訴えかける。
大きく息をついて鳳珠が筆をおいた。諦めて付き合ってくれるらしい。

「全く・・・。休んでいる暇がないことくらい分かっているだろう・・・?」
「分かってますけど、それは鳳珠様のせいではないですし、少しくらい遅れたところで朝廷が潰れるわけでも無し」

きっぱりとは主張するがそれなりには朝廷の回りが悪くなる。
これが王の妹というのだから驚きだ。

「どこに行くんだ?」

鳳珠が仮面を取り出したがその手をが制した。

「いいじゃないですか。
今日は休みですよ。誰もいませんって」
「しかし・・・・」
「少しくらいはその顔みせてあげればいいんですよ。勿体無い」

鳳珠は心の中で思った。
は知らないからそんなことをいえるのだ。
十年前自分の顔で朝廷がどんな状態になっていたのかを。

確かに廊下には誰もいなかった。
は、行きたいところが決まっているのかずんずん進んでいく。
朝廷生活に慣れたのか、歩く速度も自然と速くなっているようだ。

「・・・ここの通路の奥にある庭なんですけど、結構いいところなんですよ。
目立たないし、でも綺麗だし」
「良く見つけたな」
「兄上とよく遊びに行っていたんですよ。昔の話ですけど」
「・・・・・」

外に出ると緑が眩しかった。
は手入れされた庭に飛び出した。
そして大きな木の陰に入る。

「ここにしましょうか。
丁度いい影ですし。」
「あぁ・・・・そうだな」

鳳珠は眩しそうに空を見上げた。空を見上げたのは久しぶりなような気がする。

「・・・・うわー・・・・綺麗・・・・」

日を浴びる鳳珠は絵になりすぎた。

「・・・・・・。」
「へっ、なんでしょう?」
「茶、こぼれている」
「・・・えっ、あぁぁっ!?うわっ、すいません・・・せっかくのお茶が・・・
・・・っ熱っっ!!」
「・・・・慌てるな。
何をしている」

鳳珠が手際よく私から急須を取り上げた。
そして自分でお茶を入れ始めた。

「・・・う、すいません」
「気にするな。
それにしてもどうした?お前らしくない」

鳳珠がの顎を持ち、上に向かせる。
眉を潜めた整った顔に見つめられ、どのような表情をとっていいかわからない。

「・・・熱でもあるか?」

こつんと額と額があった。

『・・・・・・・・・・・・・・・・・鳳珠・・・・・様・・・・?』

いよいよ硬直してきたをよそに鳳珠は真面目に考えている。
流石に鳳珠の顔を見惚れていたなんて言えたもんじゃない。

「・・・どうした?」

最初は渋っていた鳳珠だが、もう吹っ切れたらしく自分で入れた茶に手を伸ばし飲んでいる。
勝手に茶菓子も出している。
は気を落ち着けて、茶を飲んだ。
やはり、人の淹れてくれたお茶は美味しい。

「美味でございます。鳳珠様」
「私は何もしていない」

さらりと流れる彼の髪は美しい。

「どうですか?この辺の風景は」
「あぁ、悪くない」

初夏に入る手前、萌え出した若葉が光る。
植えてあったつつじが咲き誇っていた。
私は彼の横顔を見てくすりと笑った。
やはり彼が何よりも一番の華のようだ。

そして四半刻のんびり話してから。

「さて、戻るか」
「戻りたくなくなっちゃいますよね」
「そういうわけにも行かないだろう」
「そうですけどね。
・・・・でももう少しいませんか?」

蝶が二匹飛んできて私達の目の前を通り過ぎていった。

「・・・もう少しいましょう。ね?」
「・・・そうだな」

鳳珠は諦めたように木によしかかって本を開いた。

「・・・なっ、こんなところにまで本持ってきてるんですか」
「別にいいだろう。中で読むのと大分違う」
「・・・まぁいいですんけどね」

たまには。
を急に眠気が襲ってきた。

「・・・・鳳珠様」
「なんだ?」
「少し寝てもいいですか?」
「・・・ここでか?」
「はい」

仕事中なら咎めたのだが、彼女のいう風に今日は休日。

「・・・・中に入る時には起こしてやる」
「ありがとうございます。
では遠慮なく・・・」
「肩・・・使うか」
「いいんですかっ」
「あぁ・・・」
「では遠慮なく・・・」

鳳珠と木に体重を預けては目を閉じた。


ガシャン

「どうなさいましたかっ!?主上っっ」
「・・・・あっ・・・・いっいや・・・そのっっ・・・。
えっと・・・なな・・・・何もない・・・・・
あっと・・・・あ〜・・・うん。。ごめん、ごめん。」
「・・・・?」

明らかに様子のおかしい劉輝に珠翠が首をかしげた。

「・・・大丈夫ですか」
「うん、ダイジョウブ、ダイジョウブ」

といっても、口から出るのは片言である。

「・・・・大丈夫、大丈夫・・・・。
・・・・大丈夫・・・・大丈夫・・・
・・・・大丈夫・・・」

劉輝は足取りもふらりと奥の部屋に入っていった。
しばらくはこもりそうな感じだ。

「・・・・?」


「・・・ん〜・・・・
あっ、鳳珠さ・・・・」
「あぁ、起きたか」

顔近っっ。
目覚めには最高の刺激だった。

「おはよう」
「・・・あっ・・・おはよう・・・ございます」

そろそろと起き上がっては今何時かと思い空を見上げると・・・・

「・・・・え?」
「さて、そろそろ帰るか」
「ちょっと・・・・鳳珠様・・・・あの・・・・」
「どうした?」

立ち上がった鳳珠はなんでもない風に中に入っていく。
私は信じられないで空を見回してから急いで彼の後についていった。

「何故起こしてくれなかったんですかっ!?
別にそこまで寝ているつもりじゃ・・・」
「私もたまに休みたかったから別にいい」
「いえ、そういうわけじゃなくて・・・」

赤い空の下私達はそのまま家路についた。

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