まだまだ未来に望みを持ち、
限界なしに突き進み、上を目指し
夢に見た、花咲く時は近い


彩が花開く時


「吏部尚書ーっっ!!」

桜も散り、若葉が顔を出す頃。
官吏達も新しい職場にもなれてきた。
そんなある昼過ぎに一人吏部尚書を呼びとめる者がいた。
一人の青年が立ち止まり振りかえった。
呼び読めたのは一人の高官そうなでも若い女。
走ってきたらしく息が切れている。

「・・・ったく、侍郎さんに聞いても一応王の執務室にって・・・
ここどこだと思ってるんですか」

その指摘に尚書は一歩後退さる。

「・・・つっ、ついでに寄ろうと思っていたところだ」
「後宮にですか」
「・・・っっ」

いい加減覚えろよ。と内心ため息を付きながらも は苦笑する。
迷わなくちゃ彼じゃない。と迷子の称号を欲しいがままにしている吏部尚書李絳攸はコホンと咳払いして用件を尋ねる。
まだ自分的にはイジメ足りないくらいなのだが、後輩だし、年下なのでやめておこうと思い本題に入る。

「取り入ってお願いがあります」
「・・・なんだ?お前のお願いとやらは金を出されても首を縦に振れない物が多いが聞くだけ聞いてやろう」
「凄い拒絶オーラが出されてますが・・・まぁいいでしょう。
戸部の官吏を増やしてください。または有能な官吏を入れてください」
「無理に決まっているだろう。数週間前にもう決まった事だし、今から臨時と言うのも・・・・
っていうか増やしてやっただろう?」

困ったもんだ、と絳攸は額を掻いた。
丁度頭一つ分背の違う彼女を見下ろせば拳を握り締めてフルフルと震えている。
泣いていると言うより、これは・・・・

「・・・あれでですか?」

彼女は静かに言った。しかしその声音は地獄から響いてくるような絶対零度の低音。
大人しいと思えば間合いを詰められ襟を捕まれ力いっぱい揺さぶられた。

「本当、冗談じゃないですよ!!
私今回始めて尚書になったんですよっ?侍郎飛び越して尚書ですよ!?人使った事ないんですよ!?
なのにあのクソ忙しい戸部の人員はそのままですか?
新米官吏とその辺の使えなさそうな官吏が数名入っただけで、戦力はなし。
むしろ、引退していった官吏達の働き振りを引けばプラスマイナスゼロどころかマイナスですっ。凄く赤字です。
っていうか、超有能な元尚書と侍郎が一気に抜けて・・・・本当に国の財政に穴あきますよ」
「・・・それを・・・保つのが・・・お前の仕事・・・じゃ・・・ないか・・・・」

揺さぶられながら絳攸は呟いた。
自分も尚書は今回始めてなのだ。かなり手加減して欲しい。

そう、今回の人事異動はかなり朝廷の中をガラリと変えるものになった。
始めに吏部、戸部尚書の宰相昇格、それに伴い順々に位が上がっていった。
しかし戸部は例外で、下官だった が尚書、茶州から帰ってきた秀麗が侍郎という位についた。
流石に秀麗は向こうで州牧をしていたとはいえ、一夏戸部で働いていたとはいえ、国に関しての大きな仕事と雑用。
戸部で必要な能力はさほどついてなかった。一月立てばそれなりに慣れ動けるようになると思うが、今はまだ戦力は並。
は鳳珠の元でしっかり教えられてきたたし、元々人を動かす力もあったので十分発揮しているのだが、その能力でも補いきれないところが多々出てきたのであった。
一番痛かったのが、高官達の定年退職。そして、使えない新米官吏の教育。
それらを計算するより出ていった人達と、入ってきた人達の能力の方が全く釣り合わないのだ。

そもそも、戸部の仕事の半分は鳳珠と柚梨と で補ってきていた。
その三分の二が抜けてどう補えと言うんだ馬鹿野郎。

「・・・で俺にわざわざ直談しにきたのか」
「当たり前でしょう。書簡で届けたところでそのままゴミ箱行き、紙の無駄。
・・・まぁ直談しにきたら次は時間の無駄になりましたけど」
「・・・嫌味か」

本気で参っているのか、今日の毒舌度はかなり高い。

「こればかりは主上にいってもなんの効果もありませんからね。
決めるのは貴方ですし。
もう珀明貸してくださいっっ。むしろください。」

の台詞に絳攸が牙をむく。

「駄目に決まっているだろう、うちの侍郎だぞっっ!」
「大丈夫です。
以前だって黎深様の仕事やってたんですから、実質変わりません」
「俺を殺す気か」
「人間一度は限界まで頑張った方が伸びるんです」
「俺の前にお前が限界までいった方がいいのではないか」
「・・・私より先に戸部の官吏の方がくたばってしまいますね・・・この場合。
文官故持久力無いですしね。・・・・あぁ貴方は例外」
「お前もだろう、女のくせに底無しの体力もちやがって」

一通り言いおわったところで二人は息をついた。
このままでは一向に話が進まない。
は歩き出した。

「主上のとこまで行くんでしょう?私も用があるんです。一緒にどうですか?
・・・・それとも後宮に用でも?
あっ、意中の相手でも見つけられましたか?」
「・・・下らん事言ってないでとっとと行くぞ」

楽しそうにからかう にため息を付きながら絳攸は仕方なく戸部行きの人選をめぐらすことになった。


そんな様子を眺めている者が三名。

「ほぅ・・・・絳攸の奴楽しそうになぁ」
「黎深、いい加減柚梨を召使扱いするのは止めてくれないか。
っていうか仕事しろ」

思いっきり不快と怒りを表情に出しながら鳳珠は言った。いつまで経ってもその顔の右に出るものはいないほどの美貌を保っている。
宰相になってからというもの、仮面は無理矢理黎深に外され外で出るとき以外は素顔のままであった。
その矛先にある黎深だが、柚梨の淹れたお茶をすすりながら扇を仰ぎ長椅子に持たれかかり外の様子を見ているだけだった。
ちなみに宰相になってから彼の机案についたところは見た事がない。

「鳳珠、そんなに柚梨を取られて悔しいかい?
戸部が君のせいでああなってなかったら柚梨は他の部署に行ってたよ。
君の方が苦労かけっぱなしじゃないか」
「・・・私が言いたいのはそう言う事ではなく。
仕事もして無いのに日に幾度も茶飲み菓子食べ。しかもそれは全て人任せ。
お前はそこに座っているか府庫の往復。たまに吏部戸部に行って様子見。
・・・給金詐欺めが」
「ちゃんと朝議には出てるし、発言もしている」

・・・それだけだろう。

「全く、そんなに怒鳴ってばかりいると身体に悪いぞ。
その麗しい顔が台無しだ」
「・・・誰のせいだと思っているんだ」

鳳珠は言うのも馬鹿らしくなり、椅子についた。
宰相になってからというもの、戸部の忙しさは嘘のように消え、相当楽な官吏生活を送れている。
要するに仕事が少なすぎるのだ(鳳珠的に)
黎深に至っては期限ギリギリまで仕事を溜め一気におわらすと言う形を取っているらしいが彼の仕事は減っているようには見えず、むしろ増えていってしかないような気がする。
鳳珠は仕事があるというのに、のほほんと王以上の優雅な生活を送っている黎深に腹が立ってしょうがなかった。
毎日叱りつけているが本人聞く耳もたずだ。

同じ宰相と言う地位になったので職場が一緒になったのが間違いだったと思う。
忙しくないがそれと反比例にストレスはたまっていく。

「・・・鳳珠落ちついて。
紅宰相も・・・・とりあえず、あの机案にたまった山なんとかしたらどうですか?」

やんわりとした癒しオーラを出しながら柚梨は鳳珠の前にお茶を置いた。
多分、鳳珠が胃痛に悩まされないでいるのは彼のおかげだと思う。
一緒に繰り上がってきた柚梨は黎深と鳳珠の補佐という形にある。
しかし、鳳珠は仕事が物足りなく全て自分でやってしまうし、黎深に至っては始めからする気が無いので手伝うどころの次元ではない。
そんなわけでお茶汲み、掃除、その他の雑用をちまちまやっているだけなのだ。

「柚梨、心配ご無用。私はやるときはやる男だから。
気が向いたら一気に片付けるよ」

・・・貴様のやるときというのは兄親子、養い子関連にのみしか発揮されないだろうが。

鳳珠の心の突っ込みを知ってか知らずか黎深はそ知らぬ顔でお茶を飲みきった。

「まぁ、宰相になれて悪い気はしないだろう?
尚書の時より発言力はかなり大きい物になるからねぇ・・・。君の夢にまた一歩近づける。」
「どちらへ?」

立ちあがって足取り軽く部屋を出ていく黎深に柚梨が声を掛けた。

「府庫vv」
「・・・また綺麗にシカトされても知らんぞ」
「兄上に限ってそんなことするはずないじゃないか」

そう言ってうきうきで出ていった黎深は、時期に鳳珠の言った事が現実になるとは知る由も無かった。
柚梨は苦笑して黎深の湯のみを下げる。

「・・・全く・・・。少しはあの目障りな仕事の山を消して欲しいのだが」
「まぁ・・・本人やる気無いみたいですし、特に害もなさそうですし・・・・。
そうそう、鳳珠。
くんと秀くんの戸部。本当に大変な事になってるみたいですよ。
先ほど、戸部の人達とすれ違ったのですが、本当に生ける屍って感じでした」
「・・・ の奴、はりきりすぎか」
「っていうか、私達が抜けた分大きいんですけどね」

鳳珠は苦笑した。しっかり教えすぎたのが逆に悪かったのかもしれない。

「同じ事をしろ。と言った覚えはないのだがな・・・
その人材に見合う分だけの仕事をすればいいものを・・・」

その台詞に次は柚梨が苦笑する。

「・・・昔の貴方と同じじゃないですか・・・
おっと、私はこれで」

睨まれる前に柚梨はとっとと退散した。
鳳珠はため息をついてから微笑した。


ノックと共に二人の官吏が入ってきた。
劉輝は視線をそちらに移す。

「絳攸か、思ったより早かったな。
・・・あぁ と一緒に来たのか」
「早くて悪かったな」

ふてくされたように絳攸が呟き、 が劉輝の元へと走る。

「王様聞いてくださいよ、吏部尚書がいじめていくんです〜っっ!!」
「全く、絳攸。
駄目じゃないか、女性を泣かしては」

王に、人事不足の事を嘆き始める をみて楸瑛が言った。
絳攸は同僚を睨みつけて言う。

「いや、今回は一般的に の方の言い分の方がおかしい。」
「何とかしてあげなよ。本当に戸部の人達死にそうでしたし」
「お嬢様に何かあったらどう責任取るつもりですか」

その声に真っ直ぐ机案に向かおうとした絳攸の足が止まる。振り向けば綺麗な笑顔を宿した静蘭の姿があった。
しかし、表面上の笑顔であるため、腹の底では何を考えているか想像もつかない。むしろ想像したくない。

「・・・何故、茈将軍がここに・・・?」
「藍将軍と今後の羽林軍について主上とお話をしていたところです」
「・・・そっ、そうか・・・」

逃げ腰の絳攸に静蘭が最後の留めを突き刺した。

「全く、お嬢様が紫州に帰ってきた途端、また四日に一度夕食食べに来てる分際で良く抜け抜けと大変な仕事を押し付けられますね。その神経を疑いますよ?」

・・・黒ッ!!

絳攸ばかりが楸瑛まで一歩引くほどの迫力である。
『分際』という言葉を使った時点でどんな敬語を使っていようと敬おうという意識がないのが取れる。
ちなみに、愛しの弟劉輝は の愚痴を聞いているのに真剣で静蘭の言葉など耳にも入っていないだろう。
本当に最強公子様だ。

やっと解放されて精神ダメージ瀕死状態の絳攸を残して静蘭は出ていった。

「・・・いやー、災難だったね。絳攸」
「今日は厄日だ」

これで本格的に人事案を作らなくてはいけなくなった。


王様に一通り愚痴を言いおわってさっぱりした を待っていたのは、生きた屍が走りまわっている光景だった。
の姿を発見した秀麗がすがり付いてきた。

「どうだった!?絳攸様っっ」
「えっ、あぁ・・・・。なんとか考えてくれるみたい。
とりあえず、決算は終わったしら」
「今日中に目処はつくわ」

グッと握りこぶしをつくる秀麗に頼もしさを感じながら は官吏達に指示を与えていった。
そういえば、絳攸と執務室にいた時間を考えると相当タイムロスしているようだ。

「・・・・はぁ、今日も残業か・・・・」
、少し休んだら」

首を振って は頭を押さえた。

「・・・なんか、進士の時期を思い出すわ・・・。
ほう・・・黄宰相は、私は休めっていってたけど・・・この仕事の溜まりよう・・・
今になって分かる。明日が不安でとても休んでいる場合じゃないわ」

進士の時はかなりどうでもいい雑用ばかりだったので、とにかくあのクソ官吏達を黙らせる。という名目でやっていたが、今はそれに責任もついてくる。
これを遅らせればどれだけの朝廷の仕事に支障をきたすか。
ちゃんと定刻通りに間に合わせなくては、いつか文句言いたくても言えなくなる。

「・・・まさか、こんなに戸部が忙しかったなんて・・・。
前はまだ良かったと思うけど・・・・」

秀麗は十年前の夏の事を思い出す。
は苦笑した。

「あのねー。何度も言うけどこの戸部三分の二以上を黄尚書と景侍郎で保たせていたのよ。
それが今抜けて大きな穴よ。・・・・頑張らないと」
「・・・黄尚書みたいに寝ないでね」
「・・・寝る?あの方が」

仕事中になんて信じられなかった。
倒れると言うのならあったが。

「うん、私そこの長椅子で寝てたのみたもん。
そういえば、あの人髪綺麗よねぇ。それで顔は醜いんだから本当に世の中うまくなってないのよね」
「・・・・あー、うん。・・・・そうよね」

正確には、上手くいきすぎて困っているのだ。と内心突っ込みたかったが彼の事については永遠に暗黙の了解にしておく。

「あっ、そうそう、影月くんと龍蓮から手紙が来たの。仕事が一段落したらよもっか。」

二つの手紙を懐から出しながら秀麗は楽しそうにいった。
もニコリと笑う。
影月と燕青は茶州に残り、今でも州牧と補佐を続けている。
龍蓮は変わらず各地を旅して回っているようだ。

「秀麗ちゃん、今日のお菓子なに〜?」
「桃饅よ。」
「あぁ・・・・絳攸様、本当に秀麗ちゃんと組ませてくれてありがとう。
超感謝」

さっきまで文句言っていたのと大違いだ。

「大げさな・・・」

秀麗は苦笑して自分の執務室まで戻った。


また朝廷に新しい風が吹く。
輝きを持った彩達の手によって。



ーあとがきー
サイト2周年記念で彩雲国の10年後を予想して書いてみました。
もう本編で大分ネタが明かされてきていますが・・・。燕青とか宰相とかその辺があれですね。
ちなみにこれは2005年3月のモノです。

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