誰もいない部屋で一人貴方の帰りを待つ
真面目な貴方の性格を知っているとはいえ、やっぱり心配するんですよ
そして、私の性格からしてじっとはしていられないのです。。


迎え


・・・・遅い。

結局綺麗にしてしまった主の部屋で家人のは落ちつかない様子で長椅子に座っていた。
基本的にここの主は帰りが遅い。
でも、今日はいつもにも増して帰りが遅かった。
そろそろまって二刻になる。
いくら何でも遅すぎだ。
仕事は家に持ち帰ってもやる人なのでたまっていても帰ってくるはずなのだが・・・。

勝手にお茶を出して頂いているが、どうも甘いものを飲んでもこのイライラと不安は取り除けないらしい。

「・・・・あぁ・・・・・駄目。
もう我慢できない。」

飲んだお茶の茶碗をそのままにして、は部屋を出ていった。
勿論行き先は・・・・・言うまでもない。

付いたのは朝廷の前。
適当に受付の方に顔を出してみる。

「すいません、黄戸部尚書の家人のものですが・・・・主様はまだこちらにおられますか?」
「戸部尚書・・・っと・・・。
あー・・・まだこちらにおいでますね。なにかご連絡でも?」
「いえ、確かめたかっただけですから・・・・。
お疲れ様です。」

やっぱり、ここだったか・・・・と顔に出さず、心の中でため息をつく。
本当に働き過ぎだ。

では、と受け付けを立ち去ろうとした時、後ろから声がかかった。
この穏やかで癒しも含んだ声の持ち主は私の知る中でも数少ない。

「おや、くんではないですか。」
「あっ、景侍郎様。」

一応、柚梨とはお呼びはしているが、流石に朝廷内ではそんなこともいかんだろう。
一目を気にして丁寧に話す。

「大変ですね・・・。
彼なら多分・・・今日は徹夜になりますね・・・。
今から帰られないということをそちらの家のほうに伝えようと思っていたのですが、遅かったようですね。」
「そうなんですか・・・
今日はこちらの方にお泊りの予定で?」
「えぇ・・・・
まぁ、とある方(吏部尚書)と熱心に長時間お話(くだらねぇ口喧嘩)していたら今日のノルマが終わらなくて・・・。」
「・・・それはそれは大変で・・・。」

本当の意味を汲み取ると本当にくだらなくて泣けてくる。

「最近、朝廷内の動きも不審な点が見られるらしく彼の方も気が張ってて大変なんですよ。
家に帰るときくらいゆっくりさせてあげてくださいね。
あの人、どうも休む事をしないから・・・」

ため息混じりにいう柚梨に私は同情した。
多分、彼の守り役は彼にしか勤まらないであろう。

「お疲れ様です。心中御察しいたします。」

いや、本当に。

「では、そういうことで私は先に帰らせていただくことに・・・・。
一番書類に埋もれて過ごすことはないと思いますが・・・・でもやっぱり心配です・・・。」

自分も付いててやりたいが、流石に体を壊すと戸部にとっては致命的な事になるのでそれは避けたい。
一晩徹夜して休みなしに仕事するくらいなら彼ならやりそうだ。
やりそうで怖い。
なんせ戸部は朝廷にいてやることがない時間はないという超ハード部署なのだから。

「・・・まぁ、ここは・・・彼を信じて・・・。
なんなら私がついていましょうか?」
「えっ・・・しかし・・・」

柚梨の言葉をは止めた。

「お任せください、黄戸部尚書の面倒ならもうしっかり見てますから。」

柚梨はなんとなく、察しがついた。はそういう奴だ。

「では、お任せします。
おやすみなさい。」
「は〜い。お気をつけて。」


柚梨を見送って、もいったん外に出た。
これからが彼女の本領発揮だ。
戸部の位置を頭の中で確認して、は別のルートで朝廷内に忍びこんだ。


夜の朝廷は人通りがなく、誰もいないかのように静まり返っていた。
外から見ても明かりの漏れているところは少ない。
回りを確認しながら進んでいく。

そして戸部の前までついた。
そろりと扉を開ける。作業場には誰もいないようだ。
奥の方に尚書の仕事場があるのだろうか。
は適当に探りを入れた。

ガチャ

「・・・・柚梨?」

突然扉が入って、戸部尚書の黄奇人、もといこう鳳珠は扉の方に目をやる。
いつもは目もくれないのだが、彼はさっき帰ったばかりだし今の時間に訪ねてくるものなど見当もつかない。
某尚書という可能性も否定できないが、彼のせいで今日は大変な時間を食ってしまいこれ以上邪魔をしようものなら殺してやる。という勢いであった、
しかし、今は誰もいないということで仮面を取っている。
素顔を知らない者だったら大変なことになる。

「あっ、鳳珠様。ここにいらしたのですね。」

予想はかなりはずれて目の前に立っているのは、家人の娘。
何故ここにいるのか、という疑問よりどうやってここまで来たか。の方が気になってしょうがない。

「・・・・・・
何故お前かここにいる・・・?」
「あまりにも帰りが遅いもので心配したんですよ。
で、朝廷の受付で柚梨さんに会ったので今晩鳳珠様の見張りをおおせつかりました。」
「・・・余計な事を・・・。」

鳳珠の呟きを聞き流しては尚書室に入っていく。
かなり書類が散らばっていて汚かった。
凄い綺麗な人なのにこんな汚いところで仕事していて良いのだろうか・・・。

は早速手伝いにかかる。
まず、この汚い職場を綺麗にする事から始めようではないか。

突然現れた家人を追い出す事もなく鳳珠はそのまま仕事を続けた。
別に邪魔になるようなことはあるまい。


鳳珠の予想以上にの働きは素晴らしかった。
まずは、部屋の片付けから始まった。
それもものの半四刻で終わり、まとめたゴミは袋にいれ隅にまとめる。
そしてボロボロになった筆は全て捨て、新しいものに交換。足りなくなった墨は直ぐに補充して足りなくなることはない。
まるで夏に秀麗達が手伝いに来てくれた時と同じように快適な作業場になった。
それだけではない。
全く指示もしていないのにいらなくなって無駄に積み重なっている本は本棚に戻し、出来て積みあがっている書類は部署ごとに種分け。
あとは勝手にお茶まで淹れてきてくれた。

「疲れが取れますよ。
後は眠気覚ましに・・・。」
「・・・あぁ・・・ありがとう。」

疲れているのか、あまり表情がよろしくない。
しかし、彼が真剣に作業しているのを目にすると本当に絵になる。
素晴らしく絵になる。
こんなんを仮面なしで見ていれば一同の手が止まり、見惚れてしまうのも判るような気がする。

ふと机案の上を見るとかなりの書類が減ってきている。
彼の仕事のペースはかなり速かった。
まだ終わっていない書類をその上にたした。

「・・・鳳珠様・・・これってまた各部署にもっていかなくてはならないのですよね。」

部屋の隅にはがまとめた書類がつみかさなっていた。
鳳珠は手を止めずに言う。

「あぁ・・・最後に持っていこうかと思ってるのだが・・・・。」
「私行ってきましょうか?」
「・・・・は??」

いや、流石にそれはまずいだろう。
はおもむろに鏡を覗きこむ。
そして言った。

「・・・・鳳珠様、少し小さめの男物の服あります?」

流石の鳳珠も何をしようとしているのか察しがついたため、手を止めずにはいられなかった。

「いや、・・・・流石にそれは・・・・。」

秀麗ならともかくに関してはバレバレなのではないだろうか・・・・。

「大丈夫ですって、人もあんましいないですし、暗くて顔もそんなに見えないですよ。」
「・・・・いや、そう言う問題では・・・。」

これ以上、彼女に迷惑を掛けるわけにはいかない。という気遣いからだったのだが、生憎彼女はそう言うところにはかなり鈍い人物であった。
彼女のもつ素晴らしい才能のかわりに大きく欠けたものが他人からの好意に対してとてつもなく鈍いところである。
本当に勿体無い。

「で、あるのですか?ないのですか・・・?
・・・ないのなら・・・。」

どこかから借りてくるしかないなぁ・・・。と、一人でぶつぶつ何かいいはじめる。
ここまで来た彼女を止める術は鳳珠には持ち合わせていなかった。
降参して扉の方を指す。

「いったん作業場に出て右手にある部屋に替えの服がある。
そこまで小さいものはないかもしれないが、多少の服はあるだろう。」
「そうですか?ではちゃっちゃと着替えて行ってきますっっ!!」

鳳珠は楽しそうに出ていくの後姿を見てため息をついた。
どうしてこう彼女は、そこまで人のために働きたがるのだろうか。
しかも、見返りを求めてこないから逆にこっちが悪い気がしてしまう。


が来て、当初よりかなり早く仕事が終わった。
作業もすんで鳳珠は立ちあがった。
ずっと座っていたので、少し腰の辺りが痛いだろうか。

「お疲れ様でした・・・鳳珠様。
あぁ・・・もう深夜になってますね。とりあえず、今日はお休みください。
・・・ってかどこで寝るつもりなのですか?」

特にこの辺には休むところは用意されていない。

「・・・あぁ・・・・この長椅子で寝るつもりだったが・・・・。」

というか寝ることははなから頭に残っていなかった。

な ん で す と ! !

は脱力する。
なんで、この人は贅沢するってことをしないと言うか・・・尚書様がお休みになる時くらいふかふかベッドで寝ても良いんじゃないですかねぇ。

「・・・・冗談だ。
その奥に宿直するための部屋がある。」
「・・・あっ、それは良かった。
では、絶対に寝てくださいね。
私は・・・どうしようか・・・・家に帰っても良いけどなぁ・・・。」
「なんなら泊まっていくか?」
「良いんですか!?」
「同じ部屋で寝ることになるが、それで構わんのなら・・・の話だが。」
「あっ、全然構いませんよ。
あー、今から家行くの面倒だし少し大変だなぁ・・・って思っていたんですよ。
じゃ、お言葉に甘えて・・・」

・・・・本当に冗談の通じない娘だ。
鳳珠はそのとき実感した。
というか、年頃の娘が男と同じ部屋に寝ることに抵抗感はないものだろうか。

すでにはその気らしく鳳珠は何も言わないことにした。


「・・・・そうだ。」

おもむろに鳳珠が話を切り出す。

「なんですか?鳳珠様。」
「今日はとても助かった。
まさか寝られるとは思わなかったからな・・・。」
「・・・・やっぱり寝ないおつもりだったんですね・・・。」

柚梨の苦労を心底痛感する。
彼が帰るのに抵抗感があったわけだ。

「なにか、褒美をやるぞ?良い働きをしてくれたわけだし、無償と言うわけにはいかんだろう。」

実際彼女は今部下にしているものたちよりも数倍良い働きをしてくれた。

「なにか、欲しいものはあるか?」

・・・・欲しいもの・・・。
なら貴方をいただきますっっ・・・・と言うのは冗談で。
は考えをめぐらす。
欲しいもの、というかお金で買えるものは一通りもっている。

今は特にないので・・・・。

「なら、次のお休みに一緒に町に出かけて見ませんか?」
「・・・・断る。」

未だに外に出るのには抵抗感があるらしい。
それでもはおしきって意見を通す。

「良いじゃないですか、欲しいもの言えっていったの貴方じゃないですか。
無料なだけ得だと思ってください。」
「それなら金五両ほどあげたほうがましだ。」
「いいえ、苦手なものは克服しましょう、鳳珠様。
外に出るくらいならなれればたいしたことありませんっっ!!
さぁ、レッツトライ!!」
「・・・・・分かった。」

鳳珠は降参して大きくため息をついた。
はガッツポーズをして喜ぶ。
そんなに自分と出かけるのが楽しいのであろうか。


そんなこんなで翌日。
目を覚ますと隣に寝ているはずの彼がいなかった。
いつものように自分より先に起きてしまっているのであろう。
は大きく伸びをして外を見た。
まだ太陽は昇ったばかりだ。
流石に、まだ誰も出仕してきてはいないだろう。
服をきて尚書室に向かう。
彼は机案についてまたいつものように本を読んでいた。
どこにいても変わらないんだなぁ・・・。としみじみ思いながら、そして今日こそ勝つ。という意気込みをもって、は挨拶する。
鳳珠の美しさに負けないようにとびっきりの笑顔で。

「おはようございます。鳳珠様。」

いつもより笑顔で挨拶してくれる家人に鳳珠少し目を丸くした。
そして、なんとなく趣旨を理解してはふと笑って言った。

「おはよう、。」
「・・・・・・・・・・・・っっ//////////。」
「・・・・どうした?」

・・・・負けました。やっぱり貴方には勝てません。

鳳珠の顔はすぐにいつもの無表情に戻ったが、挨拶した瞬間のあの顔だけはいつもの倍の笑顔だったため、意識が飛んでしまう。
毎日顔を見ていようとなれないものはなれない。
声も心なしか穏やかで美声。
これに耐えられる者がいれば見てみたい。
くそっ・・・・直視できない・・・・っっ。

「とりあえず、私は今からお屋敷に戻って、朝食を取ってくるつもりですが・・・鳳珠様は?」
「ここで食べていく。
気をつけてな。」
「はい。今日は帰ってきてくださいね。」
「・・・あぁ・・・・。」

そういって、は戸部を後にした。


「鳳珠、昨日くんに手伝ってもらったんですね。」
「・・・・何故・・・・それを・・・。」

次の日柚梨がとてもご機嫌そうに尚書室に入ってきた。
鳳珠の微妙な戸惑いを気づかない柚梨ではない。
仮面を被っていても、彼がどんな表情でいるのかは長年の付き合いで承知済みだ。

「見れば分かりますよ。
鳳珠がここまで部屋を綺麗に片付けるわけありませんしねぇ。
とりあえず、完成した書類を部署に届ける事はしますが、本は出しっぱなし、紙も捨てっぱなしの状態になってると思いますし・・・。
ご丁寧にゴミを袋に入れて隅にまとめてあるなんてことはありえません。
綺麗過ぎる部屋、洗った後のある2つの茶碗と、貴方が寝たことがなによりの証拠です。」

『・・・・・・。』

少し言いすぎではないだろうか、景侍郎よ。
なにも言えなくなった上司にさらに柚梨が言う。

「しかも一緒に泊まったのでしょう?この朝廷に。」
「・・・・・・。」
「う〜ん・・・・まだ若いっていいですねぇ。
せっかくの良い子で若くて可愛い彼女が鳳珠を想ってくれてるんですから・・・・
無理をさせてはいけませんよ。」
「別に私はなにもしていない。」
「なにも・・・って貴方、まさか・・・昨日の夜そのまま寝てしまったとか・・・?
くんと同じ部屋で寝たのに??」
「・・・・・。」
「・・・あぁ・・・・だから気づいてもらえないんですよ・・・・っっ。
大切にしているのは分かりますが、やる時にはしっかりやっておかないと・・・・」

流石の鳳珠もそろそろ耐えきれなくなってきたらしい。

「柚梨っ!
無駄なことをほざいていないで朝議に行くぞ。」
「はいはい、かしこまりました。
戸部尚書。」

こうして朝廷の朝は始まるのであった。


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