「『肝試し』と言うのは男女の仲を深めるために、誰もいないところを夜二人で回る事を言うそうだな」
王のこの一言が外朝に悲劇を呼んだ。
それは夏真っ盛りのある夜の話。
夏の風物詩は悲劇の予感?
今日も主上は、霄太師から教わった間違った知識絶好調だった。
霄太師もいい加減止めてほしいのだが、言ってもはぐらかされて終わりだ。
側近はいつもの事だとは何もなかったように無視しして仕事を続けていた。
しかし、劉輝は気にすることなくひとりごちる。
「よし、決めた。
秀麗と一緒に肝試しするのだ」
「・・・えっ?」
「おい・・・本気なのか?」
流石の側近達も反応せずにはいられなかった。
やっと側近が反応してくれたところで劉輝は嬉しそうに語る。
「肝試しと言うのは霊が出るとか言う恐ろしい場所であればあるほど、男女の仲が深まるらしい・・・・。
そうえいば、以前楸瑛達は府庫で幽霊を見たようだな」
そもそも『肝試し』っつうのは度胸があるかどうかを試すものであって、決して男女の仲を深める者ではない。
むしろ、一人が置いていった、置いていかれたで破局したとか言う節もありぶっちゃけあまり恋人と一緒にしたくないものだ。
何か突っ込むところがあるが、そこはあえて黙っておく。
「・・・えぇ・・・幽霊かどうかは分かりませんが、綺麗な女の方を・・・・」
「・・・ならば外朝が良いな」
「外朝だと、夜でも人がいるぞ」
阿呆な事は止めさせようと絳攸が口を挟む。
いつもならここで撃沈するのだが、今日の劉輝は少し違った。
顎に手を当て王の顔になる。こうなった劉輝はかなり期待できる。
絳攸は珍しく黙って劉輝の方を見た。
「・・・思うのだが・・・夜の外朝はほとんど人がいないくせに明かりがともっている。
それは無駄だと思わないか」
「・・・・確かに・・・・」
「九割方の官吏達が帰ってしまい外朝は蛻の殻。
だったら外朝の入り口付近に緊急用の官吏の待機場所を作ってあとは誰もいない状態にしてしまえばどうだろう」
「誰か侵入したらどうするんです?」
「明かりを持った兵士が見まわり・・・今と変らんがそれでいいだろう。
侵入する方も明かりがなければ困難になるし・・・。
そもそも暗い中明かりをつければ外に漏れ誰か気づくだろう。そこを捕まえれば良い」
『・・・・・』
なるほど。
今まで当たり前過ぎて気づかなかったが確かにそうだ。
これで燃料代もろもろういて他の所にまわせる。
残業が多い時期を除きそのような対策を取っても大丈夫なようだ。
「久しぶりに言い事いったな」
「むぅ、久しぶりとは失礼だな」
「で、外朝から人を追い出したところで肝試しをするんですね・・・」
「・・・・駄目・・・・か?」
これは側近の許可がなければ無理そうだ。
「では、この案を朝議で言って通りそうな段階まできたら許してやろう」
「本当かっ!?」
「あぁ、でも一人で頑張れよ」
そういって、絳攸は立ち上がって室を出ていった。
楸瑛もそれに続いて出ていく。
王は朝議のための準備をはじめたようだ。
「・・・よく許したね、絳攸」
「どうせ、外朝一周だろ。秀麗も実際回った事もあるし・・・。
そう騒ぎになる事はないだろう。衛士に一言言っておけば大丈夫」
「でも侮れないよ。色々幽霊の噂は聞くけどねぇ・・・
私達が見た以外に・・・」
「・・・そうなのか?」
「うん、えっと・・・なんだったかな・・・
夜うろうろ外朝をうろついている霊とか、なにか呟きながら移動する霊とか・・・」
思いっきり怪しいと言うか、そんな噂全く聞いた事ない。
「・・・えっと・・・・これは府庫でこれは絳攸様に書きなおしてもらって・・・これは・・・・」
『・・・・・・・』
外朝で唯二の女人官吏のうちの一人、戸部下官、が忙しそうに歩いていた。
今は、戸部尚書の雑用に終われているらしい。手には他の部署に届けるための書類が山のように抱えられている。
「えっと次は・・・・
あっ、絳ゆ・・・・吏部侍郎」
二人の視線には気づき一番上にある書類を視線で取るように促した。
絳攸が一枚取ると、それは先日戸部に出した報告書。
「・・・『詰めが甘い、書きなおし。これくらい馬鹿でも知っている。私が知りたいのはもっと詳しい現状だ』・・・だそうです。
明日までにお願いします」
上司に言われた事を一字一句違えず本人を目の前に言うは忠臣だろう。
というか、普通の人ならまず言えない。
軽く礼をしてはまた自分の仕事に戻った。
「・・・・ブツブツ呟きながら歩き回る霊って・・・多分彼女だね」
多分残業で黄尚書に付き合っていたのだろう。
そして、横で青ざめている同僚をみて楸瑛は心の中で思った。
多分、外朝をうろついている霊というのは、帰り道が分からなくなって迷子になっている絳攸であろう。
「・・・・で、本当にこうなるとは・・・・」
楸瑛が真っ暗になった外朝を眺め呟いた。絳攸は不本意のようだが、約束してしまったものはしょうがないの顔。
後日、宣言通り劉輝は節電ならぬ節蝋(蝋燭節約の略)の案を見事通したのであった。
そして秀麗と、珠翠、劉輝、絳攸、楸瑛、静蘭の七人は王の執務室前にいた。
珠翠は人数あわせということで来てもらった。それでも足りないが。
「・・・では、外朝の中心にある池の橋を渡ったところに片手で掴めるほどの玉がおいてあるのでそれをとってきてくださいね。
・・・・えっとペアはどうしましょう?」
王は勿論秀麗と組む気満々だし・・・・。
視線を巡らした楸瑛は珠翠と目が合いニコリと微笑んだ。珠翠の口元が引きつる。
「・・・では、お相手願えますか?」
「・・・なっ、何で私がボウ・・・藍将軍とっ!?」
「・・・・・・」
そういえば、珠翠から楸瑛への愚痴は毎晩のように聞いている。
劉輝はそんな二人に言った。
「良いんじゃないのか。じゃは・・・」
「・・・主上っ!?何故・・・・」
「では、主上の許可が出たという事で・・・」
楸瑛は笑顔で珠翠の言葉と止めた。
「あぁ、私は別に良いですよ。絳攸殿、行って来ては?」
「・・・なんで俺が・・・・」
「いんじゃない?に道案内してもらいなよ。もしかしたら方向音痴も治るかもね」
何故か彼女は外朝にやたら詳しかった。
「あっ、じゃ絳攸様一緒に行きましょうか」
の方は誰とでも楽しむ気満々らしい。
王同様、は庶民の遊びには疎かった。
そしてただ、夜の外朝一周のみ、しかけ何もなしという『肝試し』は始まった。
が・・・しかし、一番に出ていった劉輝と秀麗だがここまで走って戻ってきた。
手に持っている蝋燭はその速度で消えている。
「いやあぁぁぁぁっっ、静蘭〜〜っっ」
秀麗と劉輝が叫びながら静蘭にしがみついてきたのである。
何故か二人は震えてきて本当に幽霊でも見てきたような様子である。
「・・・どうされましたか・・・二人共・・・?」
どうしようもなく二人の頭を撫でたり、背中をさすりがなら静蘭は問う。
微かに震えて、動揺も大きい。
劉輝も震えているところから、秀麗にへんな手出ししてないようだ。
「聞いて!なんか庭に青白いのが・・・っっ」
「二人で確認した瞬間消えたのだっっ。絶対幽霊だった!!」
「・・・庭に・・・・」
「幽霊・・・」
その証言は今から向かう四人に少しの恐怖を与えた。
この二人が皆を驚かそうとして演技するなど、可能性としては考えられない。
「では、一応確かめてみましょうか。
行きましょう」
「・・・別に手などつながなくてもよろしいでしょうっ!」
伸びてくる手をパチッと叩いて珠翠は進み出した。
これでも元”黒狼”の暗殺者。夜目は相当なものだ。明かり無しでも進める。
楸瑛は肩をすくめて進み出した。
「あとで抱き着いてきても知りませんよ」
「誰が。貴方に抱きつくくらいなら幽霊に抱きついた方がマシです」
・・・凄い会話だと思う。
楸瑛達が出ていってしばらくしたとき、が絳攸に話かけた。
「・・・こっ・・・絳攸様・・・」
「何だ?」
服の袖を握ってきたに絳攸は首を傾げながらいった。
「・・・幽霊を見たというのは本当ですか・・・?」
「府庫でか?あぁ・・・女の幽霊を・・・。あとは白い服来た男の霊も見たな・・・」
そういえば、奴には饅頭に難癖つけらた・・・・・
まさかその白いのが後ろで静蘭にしがみついている王だとは思いもしないだろう。
「あの・・・私黄尚書の残業手伝ってる時府庫にも色んな所行ったんですけど・・・それらしきものは見てないです」
「あぁ、俺もそうだな」
は真顔で言った。
「やっぱり、幽霊は暗いところが好きなのでしょうかっ!?」
「・・・・・・・」
これに関しては絳攸も守備範囲外だ。確かに暗いところじゃないと出ないのだろうか。
絳攸は、の袖を持つ手が微かに震えている事に気づいた。
「大丈夫だ。
多分なにも出ないだろう」
「・・・・本当・・・ですかね?」
「ほら、あの二人が戻ってきた」
秀麗達とは違い、出ていった時と変らない様子の二人は全くの余裕の表情。
少しほっとしたが、なにも聞かないわけにはいかない。
「・・・どうでしたっ!?」
真剣に尋ねるに楸瑛は気づいたようだ。
笑顔での問いに答える。
「あぁ・・・確かに・・・変な光が見えたような・・・」
「はっ、どっかの兵士が見回りに行っていたのじゃないか?」
「青白い光が蝋燭の火に思えるかい?」
その言葉に二人は詰まった。
そして、仕方なく渡された蝋燭をもって暗い外朝に足を踏み入れたのだった。
「・・・・別に・・・・なにも見えませんでしたけど・・・・」
「ふふ・・・っ。そう言っておいたほうが楽しいじゃないですか。
絳攸も顔は冷静を保っていたけどあのようじゃ結構びびってたよ。
主上や秀麗殿、に感謝かな」
・・・しかし・・・・。楸瑛は少し謎に思う。
は、あの仮面の長官が怖くなく、何故幽霊が怖いのか。
あの長官の方が何倍も怖いと思うのだが・・・・。
「・・・・・?」
「どうした?鳳珠・・・・」
外朝の明かりを消されたせいで仕方なく府庫で残業してた黄鳳珠は顔を上げた。
劉輝がこのような案を言ったとき一番困ったのは彼である。
ほぼ、暗くなるまで尚書室にこもっている彼は明かりを消されるという案に真っ向から反対だった。
しかし、確かに蝋燭代も馬鹿にならないし、必要ないといわれれば確かに必要ない。
仕事に公私混同しない役人の鏡のような彼はあえて反対はしなかった。
・・・が、不便なものは不便である。
遅くまで残る羽目になるそもそも原因は目の前には同期の紅黎深である。
別に何も仕事はないが邪魔をするためかこんなに遅くまで残っているらしい。
目障り以外の何者でもない。
というか、昼間彼が無駄話を持ちこまなければ残業することもないのに。
「別に・・・・何もない。
・・・・・・あ・・・」
墨が切れてしまった。持って来た墨壷にもあと少ししか墨が入っていない。
チッと舌打して鳳珠は席をたった。
面倒だが、新しいものを取ってきた方がよさそうだ。
「墨壷を持ってくる」
「あぁ・・・いってらっしゃい。・・・そういえばは?一緒に残業じゃないのかい?」
「なら今この暗い外朝の中馬鹿と側近と秀麗達と一緒に肝試しだそうだ」
まさか明かりを消す理由の裏にこんなくだらない物が隠されているとは露知らず、今は反対しておけばよかったとかなり後悔している。
そんな鳳珠とは反対に黎深は面白そうに笑む。
「・・・へぇ・・・肝試しねぇ・・・・」
「変なことはするなよ」
燭台をもって鳳珠は府庫から出ていった。視界が悪くなるという理由で仮面は外している。
まぁこの暗い外朝の中いる人は肝試ししている数人だけだし、遭遇しなければいいだけだ。
残された仮面を手に取って黎深は背後に控える影に言った。
「・・・少し絳攸達にちょっかい出して来い」
面白いから。
そして黎深も仮面を持ちながら府庫から出ていった。
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