昼とは正反対に冷えた空気の流れる廊下。
いつもなら小さな灯りが行き先を照らしているのに今日はその光が無い。
静寂が立ち込めたその空間はいかにも『何か出そう』な雰囲気である。

自分達の沓の音しか聞こえない・・・はずだ。

「こっ、絳攸様。
そこじゃないですって〜っっ。。
勝手に灯り持って行かないでくださいっっ」

絳攸の腕を掴んでは正しい方向に引っ張る。
必死なところを見ると本当に怖いらしい。
絳攸はに引かれるまま歩いていった。
またタイミングが悪く、月が雲で隠れてしまっている。

「・・・もう、早く取ってきて終わらせましょう」
「・・そうだな・・・」

歩みがかなり速くなっているのは、日々朝廷を歩き回っているだけのせいではないだろう

しばらくして、闇にもなれて心拍数も収まってきた。
は無意識のうちに絳攸の腕にしがみついていたことに気づき、体が強張った。

「うわっ、ごごごごめんなさいっっ」
「・・・あぁ」

絳攸は複雑な顔でを見た。
なんか凄い今更なような気がする。

ガッ

「・・・・きゃっ!?」
「どうしたっ!?」

急に体のバランスが崩れて前にのめってしまう。
体から冷や汗が流れてきた。

動かないを不思議に思って絳攸がのところに行こうと一歩踏み出した瞬間何かに足を捕まれた。

「・・・うわっっ!?」
「絳攸様っ!?」

視線が合い、お互い黙りあう。

「・・・・あの・・・・今・・・」
「確かに・・・足に・・・」

一気に血の気が引いた。
あながちいないと言われていた幽霊だが本当にいるのかもしれない。
足を捕まれた感覚は気持ち悪いくらいにある。
・・・・冗談じゃない。

「急ぎましょう、絳攸様っっ。
こここ・・・こんなところいられたもんじゃありませんっっ」
「全くだな・・・。いつか払い屋にでもきてもらわねば・・・・」

本気でそんなことを考え始めたこの人達は時期この国を背負うだろう、超有能官吏。
蝋燭の炎が消えない程度の速さで廊下を歩く。灯りはが持って道しるべに。

反対側の渡り廊下にでて、先を急ぐ。
次の十字路を曲がれば目当ての庭にでられるはずだ。
二人は急ぎ足で角を曲がろうとした瞬間、
何か前にあるのを感じ、灯りを当てたら・・・

「ぎゃぁぁぁぁぁっっっ!!!」

二人は絶叫した。

暗い中ぼんやり映るのは妙な仮面をつけた人。
・・・人?

は本能的にヤバいと感じ、絳攸の腕を引いて後ろに走ろうとして、背後を見たが固まった。
後ろにいたのはとても美しいな人。腕には黒い髑髏を抱えている。
長い髪で顔半分しか見えないがそれでもその美しさは変わらない。
ぼんやりとした灯りが明暗をわけ、更に迫力を増す。
そんな二人に挟まれて二人は残った最後の道に走ることになった。

そんな二人を見送った二人は唖然とするしかなかった。

「・・・なんなんだ・・・・。あれは・・・・」

呆れを含んだ鳳珠の声はこのひんやりとした空気になじむ。
なにもしていない状態であれだけ驚かれると正直心外である。
前に垂れてきた髪を掻き揚げて鳳珠はため息をついた。

「・・・さぁ?
・・・本当は鳳珠を驚かそうとしたんだけどねぇ。
まぁ・・・面白かったからいいけど」

つけていた鳳珠の仮面をとって黎深が不敵に笑った。
嫌な顔をして鳳珠が黎深を睨む。

「くだらんことを・・・」
「それにしても確かに絳攸達の気持ちは分からないでもないよ。
顔は美白の超絶美麗。髪で顔半分隠れている上に、その墨壺、凹凸がありすぎて髑髏に見える」

鳳珠が光を当ててみてみると、なるほど、確かに立派な髑髏に見える。大きさもいい感じだ。
持ちやすい壺だったから持ってきたのだが・・・。悪いことをした。

ちなみに、と絳攸は錯乱しすぎていて幽霊が燭台を持っているという不自然なことにに気づいていなかった。


回廊を猛スピードで駆けたため、蝋燭の火は消えてしまった。
しかし、外に出たから何とか明かりなしでも足元が見える。

「・・・・絳攸様・・・これって・・・・本当にでるのでしょうか・・・
あの怪人仮面男と麗しい美人霊・・・」

息を整えながら、はどこかで聞いたような名を先ほどであった霊につけた。

「・・・本格的に供養が必要だな。
髑髏持ってたし・・・」

府庫で出会った霊は本当に普通の霊でよかった。
あんなのが来られたら正直困る。

「きっとあの美人の霊、刑部で誤審があって誤って殺された官吏の奥さんかなんかですよ・・・。
きっと巻き添えを食らって一緒に殺されてしまったとか・・・・」
「ありえるな。前まで戦乱の時代だったし、そのときの捕虜とかと言う線もありえる」
「うわー、考えたらきりが無いですね。
あぁ・・・・なんか寒気がしてきた」

さくさくと芝生の生える庭の真ん中を横切った。
池が見えてきた。あの橋を渡ったところに玉があるようだ。
幻想的な光景も今ではただ幽霊の出そうなポイントとしか見えない。

「・・・・ったく、あの馬鹿王・・・・。
あいつが肝試しするなんて言い出すから・・・・」
「本当にはた迷惑な兄・・・王様なんだから・・・・」
「・・・・・?」

バシャンッ

「ひっ!!」

池の鯉が跳ねただけらしい。
反射的に絳攸に抱きついてしまうのはもう今更なので何も言うまい。
絳攸も絳攸でかなりビビっている。

『・・・・・・・・・・・』

もう嫌だ。

「これじゃ、夜の外朝や外も歩けないじゃない・・・・。
うわー、最悪な精神的外傷(トラウマ)作っちゃったわ・・・」
「俺もだ」

これからは早く帰るようにしよう。
そう心に誓って、箱の中に入れてある玉を手早くとって、庭に戻る。
あとは、王のところまで戻るだけだ。
だいぶ夜目が利いてきたし、月がでてきたので灯りなしでも大丈夫だろう。
ふと、絳攸の歩みが止まった。

「・・・どうした・・・?絳攸・・・」

がふと庭の木の向こうを見ると何やらぼんやり青白い光が浮かんでいた。

『聞いて!なんか庭に青白いのが・・・っっ』
『二人で確認した瞬間消えたのだっっ。絶対幽霊だった!!』
『青白い光が蝋燭の火に思えるかい?』

皆の証言が脳裏をよぎる。

よく見ると、人の形をしている。
その霊と目があった。

『・・・・・・・・・・・・・』
「・・・・・・・?」

霊が喋った・・・・。

「いやぁぁぁ〜〜〜〜っっ」

ガサガサ・・・

「・・・・なっ」

冷静に見ていた絳攸も身構える。

ガサッ

木の茂みから二人の老人の霊が出てきた。

「ぎゃぁぁぁぁ〜〜っっ!!」

一目散に逃げ出したことは言うまでもない。


「・・・あの絳攸殿がここまで驚くなんて驚きだな」
「全く、何やっているんだ、あの王は・・・」
「そもそもお前が話すから悪いんじゃぞ、鴛洵。
そのままゆっくり消えていけばよかったものを・・・。わしらまで幽霊と勘違いされてしまったではないか」
「フン、貴様らも十分幽霊だ。
生きてるだけ性質が悪い」

いい月が出ていたので外で鴛洵(霊)と酒を飲もうをしていたところに偶然出くわしてしまったらしい。
秀麗たちが見たのおそらく鴛洵であろう。


「・・・・はぁはぁ・・・」

王の執務室前に来て、は脱力した。絳攸も同じくあがった息を整えている。
予想もしない二人の様子に全員が首をかしげた。何かあったのであろうか。

「どうしたんだい?君らしくもない・・・。
幽霊でも見たかい?」

幽霊の一言でと絳攸は楸瑛にしがみついた。

「そう、仮面と女の幽霊が・・・っっ!!」
「若い男の霊だったぞ。庭にいたのは・・・っ」
「あとじいさんも庭にいたわね・・・」
「あと足首つかまれたな・・・」
『・・・・え?』

あまりにも真剣な二人の物言いに楸瑛をはじめその場にいた人たちは固まった。
やっぱり出るのだろうか・・・・。
二人の言葉に落ち着いていた劉輝と秀麗がビクリと肩を震わせる。

たちも見たの?庭にいた霊・・・」
「見たわよ。若い男の人だった!!」
「仮面って言うのは黄尚書では・・・?」

静蘭がそういうがは大きく首を振った。

「一応黄尚書が帰ったところ見てますし、それに・・・髪の毛ちゃんと後ろでまとめてましたから絶対違いますっっ」
「・・・髪の毛?」
「あの人の髪さらさら過ぎて結べないんですよ!だから絶対ありえませんっっ」
「そういうもんか?」
「そういうもんですっっ
とにかく本当にヤバいんですから〜っっ」
「まぁとりあえず、落ち着いて・・・・
幽霊って言うのも多分見間違え・・・・・・・」

楸瑛の言葉が止まった。
他の人の目も達の背後に釘付けになっている。

「・・・・・?」

月の光が廊下に差し込む中、闇にぼんやり浮かぶものが、一・・・二・・・・・三・・・・・・・・・・
一気に体の体温が下がった。

「ぎゃぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」


「くくく・・・・っ」
「最低だな。お前・・・」
「当たり前だ。秀麗に怖い思いをさせる輩は私が許さんっっ」

影で薄く笑っている黎深を見て鳳珠がため息をついた。
あの影はいつも黎深の傍にいる影。
本当はこういうことをするためにいるわけじゃないのだが。

そして、彼は気づいていない。
確かに、相手に恐怖心を植え付けられているのにはもってこいだが、その中に秀麗も入っていることを。

「フフフッ、明日のあの馬鹿王の顔が楽しみだ」
「やっぱり、馬鹿だろ・・・」


「おはよう・・・・ございます」
「どっ、どうしたんですか?くん・・・。
大きな隈なんてつくって・・・」

柚梨に声をかけられが曖昧に返事をする。

「昨日、寝付けなかったもので・・・ははっ、大丈夫です」
「本当ですか?顔やつれてますけど・・・・。
少し休んできては?」
「大丈夫・・・・です」

よろよろと自分の席について仕事するはまさに生ける屍。

「・・・・何があったんでしょうね。鳳珠・・・・。
主上や吏部侍郎、藍将軍まで体調が優れないようで・・・」
「知らん、自業自得だ」

知らない、といいつつも自業自得と言うということは、鳳珠は何か知っているのだろう。

以後、節蝋の話は誰も口にしなくなり、一日だけの実施で終わった。
恐らく劉輝が王である限り実行することはないだろう。

その後、劉輝の部屋で皆一夜を明かしたが結局寝付けずそのまま朝を迎えた。
劉輝はまた別の意味で闇が怖くなったらしい。

そして、

「・・・絳攸様・・・。
あの顔が頭から離れません・・・・」
「いうな・・・今忘れているところだ」

肝まで冷えた一夏の体験談。。


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