それは偶然。風に飛んでいった
絢布を彼が拾ってくれた。
ただ、それだけがきっかけだった。


運命の導き


ふわりと風にのり、絢布は宙に舞った。
私と私に付き合っていた数人の侍女達は突然のことにただ絢布を見守ることしか出来なかった。

「・・・まって・・・」

私は一番早くその金縛りからとけ、絢布を追って走っていった。
後ろから侍女達の声が聞こえるが、気にしない。
私は内朝と外朝を分けている垣根を飛び越え、絢布を追った。
侍女達の悲鳴が聞こえる。
後で叱られる・・・と思いつつも、私は走っていった。

どうせ、誰にも見られなきゃいいんだし・・・。

着地も華麗に、私は絢布の行き先を見て瞠目した。
視界に一人の男が入った。

目が合った。全身がこわばった。

・・・最悪だ。

百歩譲ってお転婆を侍女達に叱られるのはまだ良い。
まさか外朝の男に見られるなんて・・・。

男のほうは驚いたようにこちらをみていた。
そりゃそうだ。走りもしない後宮の女官が走るどころか高い垣根を物の見事に飛び越えたのだから。
男は手に持っていた絢布を見比べ、納得したようにこちらにきた。
私はそのまま立ち尽くすしかなかった。
いけないところを見られた恥ずかしさ、それ以上に彼の容姿に思わず見惚れてしまった。

「・・・貴方の探し物はこれか?」

差し出されたのは、先ほど風に流れていった絢布。どうやら彼の元へ落ちたらしい。
私は、絢布を受け取った。
その間も心臓の鼓動はやむことは無かった。
彼の容姿は近くで見れば見るほど迫力を増し、声も耳に心地よいくらいの美声だったからだ。

「・・・姫・・・姫・・・っ」

侍女達がこちらへきたようだ。
男は侍女達の声を聞いて、驚いたように私を見た。

「・・・これは、とんだ失礼を・・・様」

男はすっと私に膝を折った。そして跪拝を取る。

「・・・次からは大風にお気をつけくださいませ。あと・・・あまり無茶はなさいますな」

彼の台詞には言葉に詰まった
やはり見られていたのか。
固まってしまったに軽く微笑を送り、男は侍女が来る前にその場を立ち去ろうとした。

「・・・あっ・・・あの・・・っ」

の体は自然に動いた。彼が行ってしまうのが無性に残念に思えた。
彼は止まり振り返る。
の頭は真っ白になった。何故引き止めたか自分でも分からない。

「・・・その・・・えっと・・・
名前を・・・・」

男は少し眉をあげたが直ぐに微笑した。

「黄鳳珠と申します。様・・・」
「・・・ほうじゅ・・・」

颯爽と去っていく彼をそのまま見送ってしまった。
そして、その後直ぐに侍女達がやってきた。

姫。全くはしたない・・・。
あれほどいいましたのに・・・」

は苦笑していった。

「・・・はい、あの方にもたしなめられました」
「・・・あの方とは・・・先ほどの・・・」

侍女はあまり良い顔をしなかった。

「黄鳳珠殿・・・
・・・何か知っていますか?」

侍女は少し考えてから言った。

「・・・そうですね・・・。
まだあまり名を聞かないところから、おそらくまだ下官でしょう。
しかし、容姿がとても美しいということを少し耳に挟んでおります」
「・・・うん、とても美しかった・・・。
羨ましいわ・・・」
「羨ましがらず、貴方は努力するべきです。
さぁ、戻りますよ。全く・・・何をお考えになっているのやら・・・・
貴方はこの国の姫ですよ・・・」
「・・・分かっているから・・・」

そう、私はこの国の姫。
どうあがいても、もうあの人には会えないと思っていた。

は定期的に王宮をこっそり抜け出し、城下に出ることが多かった。
の所業には侍女達も手を焼いていて、どれだけ見張っていても彼女は抜け出してしまう。
今日も新しく見つけた出口からは王宮を抜け出した。

「さて、今日はどこに行きましょうか・・・」

の足取りは軽やかだった。
町の賑わいが彼女の心を更に楽しくさせる。
姫ではなく一般人に生まれていたら絶対毎日楽しいだろうと、は思った。
色々な店で食べ物を買い、初めて会った町の人と適当に会話する。
空は晴天。

「・・・はぁ・・・幸せだ・・・」

甘味屋の外で茶をすすりながらは空を見上げた。
その時、の脇を誰かが通った。

「・・・あれ?」

はお茶を手に持ったままそのまま固まってしまった。
その綺麗な髪、容姿、忘れるはずが無い。
相手もに気づき立ち止まった。

「・・・・・・様・・・?」
「鳳珠殿っ!?」

なんて偶然っ。
は思わず手を叩いてしまいそうになったが、茶を持っていたため、行動にはしなかった。
でも、とても嬉しかった。その衝動は止められない。

「奇遇ですね、どうされたのですか?
甘いものはお好きですか?
よろしかったら一緒に・・・・」

鳳珠は口元に手を当て、苦笑した。

「・・・何をおっしゃっているのですか・・・。
その様子だとお一人のようですが・・・」
「えぇ、黙って抜け出してきたのですから」

当然、というようには微笑んだ。
鳳珠は大きな息をついて、の隣に座った。

「・・・どうせ貴方のことです。
無理矢理連れて帰ろうと思っても無駄でしょう・・・」
「うーん、そうねぇ。
日が落ちる前には帰ろうと思っていますけど・・・
あっ、何か食べます?」
「結構・・・」
「・・・では、鳳珠殿は・・・」
「流石に一人で歩かせるわけには参りません。
もし事件に巻き込まれたらどうするおつもりですか。
私が王宮まで送ります」

は驚いて鳳珠の顔を見た。
鳳珠が不振そうにの方を見る。

「・・・何か、ご不満でも・・・・?」
「・・・いえ・・・そういってくださったのは貴方が初めてだから・・・」
「・・・・?」
「いえ・・・あのっでは今日一日お付き合いいただけるのですかっ!?」

は笑顔で鳳珠の腕にしがみついた。
鳳珠は困惑した表情で言った。

「・・・え・・・?
・・・別に一日付き合うとは一言も・・・。
これを食べたら帰るのでは・・・?」
「まだまだ回りたりませぬ!
一人で回るのも楽しいですけど、侍女以外の誰かと回るのも楽しそうです。
・・・さて、早速行きましょう」

は手馴れた手つきで勘定を済ませ、店を出た。

「さぁ、鳳珠殿行きましょうっ」
「・・・えっ・・・あ・・・ちょっ・・・」

に引っ張られながら鳳珠は仕方なく彼女に付き合うことにした。

鳳珠はあまり買い物とかには興味がないらしい。が色々な店を回っていても、その外で静かに待っている。
欲しいものを聞いてみても『無い』の一点張りでつまらない。

「鳳珠殿、?」
「・・・別に・・・。家人に言えば大体揃う・・・」
「自分で買いたいとは思わないのですか?」
「・・・まぁ物によるが・・・。
でもそれも大して興味がなくなった。
今は・・・この国に興味がある・・・」

は驚いた。本気でそんなことを言う人がいるなんて・・・。
政治家達は皆金や地位が目当てで動いている人たちばかりだと思っていた。

「・・・素敵な事ですねぇ。
貴方みたいな方がいるからこの国は保っている・・・」
「別に、私みたいな下官では・・・」
「・・・いえ、案外上層部より下層部の方が国民のためになっています。
きっと貴方は国を動かせるようになります・・・」

その台詞に絶句した鳳珠をおいて、は走り出した。

・・・国民のためになるか・・・

そんなこと考えもしなかったかも。
ただ、自分の力で大きな事を成し遂げてみたかった。
人のために生きる、それも良いことかもしれない。

鳳珠は苦笑して彼女の後を追った。
自分も大分彼女に振り回されているようだ。


一日中歩き回ってやっと姫は疲れたようだ。
最後に誰もいない広場にやってきた。遠くに王宮が見える。
はその場に倒れこんだ。
こんなこと、絶対王宮では出来ない。
そう考えると、王宮に戻るのが億劫になってきた。
もっとこの広い世界を見てみたい。

「・・・姫、着物が汚れてしまう・・・」
「良いわよ、別に・・・。ねぇ、鳳珠殿・・・」
「・・・なんでしょう?」

鳳珠はに逆らうのを辞めたようだ。
大人しく隣に腰を下ろした。おそらく『帰ろう』といっても今でも大人しくは帰ってくれなさそうだ。
日は山にかかろうとしている。
昼間彼女が言ったことはもう果たせそうに無い。

「私は・・・もっとこの広い世界を見てみたい・・・」
「・・・それで?」

鳳珠は静かにの言葉に耳を傾けた。

「もっと遠くまでいって、色んな物に出会って人に出会って、最後に世界でもっとも美しいと思った場所で 死にたい」
「・・・なるほど・・・。そんな人生も悪くない・・・」

は流れる風に目を閉じた。
この広い大地にずっと寝転んでいたい。
作りものの世界なんて・・・もう飽きてしまった。

「鳳珠殿・・・頼みがある」
「・・・なんでしょう?」

鳳珠はの目を見た。
は鳳珠と目が合い、微笑した。

今胸の中に王宮に帰りたくない理由は二つあった。

「・・・私を世界の果てまで攫っていただけませんか?」

鳳珠は目を見開いた。
がふわりと笑む。そして鳳珠に手を伸ばした。

「・・・貴方となら飽きることなく、生きていけそうな予感がしたのです・・・・」

鳳珠は真っ直ぐに自分を見るにふっと笑みを返してその手をとった。

「・・・流石に・・・貴方一人を行かせるわけには行きません・・・
不本意ですが・・・世界の果てまで連れて行って差し上げましょう」

鳳珠はの手の甲に口づけをした。

「・・・鳳珠殿・・・」
「・・・闇に紛れて遠くまで行きますか?
貴方がいないことで騒ぎになるのは時間の問題・・・」

意外と本気で考えている彼に、は嬉しくなった。
彼は嘘をついていない。このまま私を王宮に帰したっていいのに・・・・
の目に涙がにじんだ。
・・・こんなに嬉しかったのは何年振りだろう・・・・。

「鳳珠殿、あそこに離れ馬がいますっ」
「・・・馬には・・・」
「大丈夫です、私を誰だと思っておりますか」

は楽しそうに馬に駆けていった。
鳳珠は苦笑しての後を追っていった。
目の前には鮮やかな夕日が沈むところだった。


そして姫がいなくなったと騒ぎになったのは次の日の話。


ーあとがきー

梨姉さま、誕生日おめでとうございますっっ。。
日頃の感謝をこめまして、月城から少女漫画並の甘さを誇る小説をプレゼントです。
なんかネタ的に梨さんの某小冊子と被ってしまうのですが・・・すいませ・・・。

誰にでも読みやすいようにおおまかな設定は省きました。
でも、違和感をもたれた人がおられると思います。まぁ微妙に繋がっていない部分は伏線だと思って・・・。

実はこれ一部の方に贈る小冊子の裏話になっておりますvv↑の舞台は彩雲国ではなかったり・・・。
彼の話の裏にはこんな物語があったんですよ!でもこの話には微妙に続きがあったり。
詳しくは小冊子を・・・って・・・。ここまで書いたら小冊子書かないと・・・(orz)

誕生日にこのような微妙なものを贈りつけてしまってなんか今更ですが申し訳ない気が・・・。
こんな奴ですがこれからもよろしくしてやってくださいませ。

2006 4.17  月城チアキ

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