新人研修は波乱のうちに


大堂には懐かしい顔ぶれが揃っていた。
、秀麗、珀明の三人は一番前の席を陣取り、話が終わるのを待っている。

「えぇ・・・」

魯礼部尚書の声が室内に響く。
たちは官吏になって一年が経つ。
その頃、官吏育成計画と題うって、新人研修が企画された。
文官が足りない今何とか経験値をつけてもらいたいという上層部の意向なのだろう。

大堂に集まったのは進士式以来の顔ぶれだった。
地方に赴任した人や辞めた者もちらほらいて当時より少し寂しくなっている。
尚書の話が終わると順に担当部署が振り分けられていく。
変わったのはそれぞれ官吏として仕事を持っている事。
少し官位が上がった者もいる。
それと国試上位者、女性官吏に不満を漏らす者は少なくなっていることくらいか・・・。

解散が告げられた。


「・・・ってか今更見聞を広げろということで、他の部署で働けとは・・・」

珀明もまではいかないが六部内の修羅場の部署にたらいまわしにされていた。
や珀明にとって本当に今更であった。
少し境遇は違うがありえない体験を一年でしてきた秀麗が苦笑しながら言う。

「でも他の部署も確かに気になるわよねぇ・・・。
私結構中央にいる時期少なかったし・・・。
普通のお仕事ってあまりした事無いのよね」

やっとまともな仕事にありつけそうで嬉しそうな秀麗にがボソリといった。

「今更どころの話じゃないわよ・・・。
今の部署割り聞いてると職場体験という名の修羅場救済対策じゃない・・・。
体のいい左遷よ・・・。良くて下官扱い。最悪侍僮ね・・・」

二人はその台詞を聞いて口を引きつらせた。
うすうす気付いてはいたが、気にしないでおこうと思ったのに!!

官位を貰った者にとっては最悪の研修だろう。
しかし、にとってそんなことはどうでも良かった。他人のことより自分の事だ。

は魯尚書に向かい合った。

「魯尚書」

魯尚書は無言でを見下ろした。
は礼をとる。

「・・・おそれながら・・・葵長官付きというのは・・・」
「指名だ」
「・・・。」

指名って・・・そもそも御史台に普通の官吏入っちゃ駄目でしょうに。
魯尚書に凄まれては下がった。
あの長官とは良い思い出がない。
沈むに秀麗がいった。

「なんか・・・黄尚書といいはいつも大変なところに誘われるわね・・・。
葵長官については・・・悪いけど庇いはできないわ・・・」

部下にまでそんな事言われて良いんですか、葵長官・・・。
は乾笑いで答えるしかなかった。

・・・絶望。


「失礼します。
これから半月研修をさせていただくことになりました、?です。
ご指導、よろしくお願いいたします」

ポン。

しん、となった室内に判子を押す音だけが空しく響く。
チラッと顔を上げると無表情で書類に目を通す皇毅の姿があった。
・・・無視か。シカトか。空気ですか、私はっ!!

指名されたからきてやったのに、なんだこの待遇は。
帰って良いですか。私戸部で仕事した方が精神的にも楽でいいのですが。

「・・・葵・・・長官・・・」
「なんだ」

やっと口を開いてくれた。
この機会を逃すまいとはさっと言った。

「仕事ください」
「条件がある」

は目を細めた。
何か嫌な予感がする。それも今更だが。

「御史台に入れ」
「嫌です」

室の中でと皇毅が睨みあった。

「もう卑怯な手には乗りません。
私みたいなの勧誘してる暇があれば書類の一枚や二枚片付けちゃってください」
「・・・。」

皇毅は脈無しと悟ったのか無言で引き出しを開けた。
そして紙の束を取り出し、に向かって放り投げた。

は受け取り、中身を確認した。

「・・・これは・・・」
「半月以内にこの案件の裏づけをして来い。
出来たら開放してやろう」

普通御史台に初めて来た人間に、丸々一つの案件が書いてある書類の束を渡さない。
さらに彼は、半月以内にこれを片付けて来いという。
どれだけ自分のことを調べられているのか、評価されているのか知らないが異例の大抜擢という事だけはわかる。
出来なかったら晴れての御史台入り。
出来てもそれは自分の実力を相手にみせることになる。
・・・心底止めて欲しい。

さすが御史台、鬼の長官葵皇毅・・・。
ここまで皇毅の考えを読みは内心苦笑した。
すでに戸部のクビはかかっているのでやるしかない。
は書類にざっと目を通し、言った。

「・・・葵長官・・・」
「なんだ?」
「・・・やっぱり御史台も修羅場なんですね」

少し自意識過剰かもしれない。
しれないが、仕事を渡したからにはそれなりの成果を期待できるから任せたのであって・・・。
このくらいの仕事もこなせない状態にあるというのは、やはり修羅場ではないだろうか。
皇毅の殺気を含んだ視線にもろあわせてしまい咄嗟に目をそらした。

・・・図星なんですね。

これ以上からかうと怖いのでは礼をとった。

「失礼します。必ずや良い報告を・・・」



空き室を使わせてもらったが、来訪者が必ず一回は訪れた。

来訪者その一。

「へぇ・・・どうやってその裏金の道筋を見つけられたか教えていただきたいものだね。
どうせ、良い盗み方じゃないんだろう?」
「企業秘密に来まってんでしょ。
っていうかなんで毎日毎日邪魔しにやってくるわけよっ!?
大事な案件がつい先日来たばかりの私に取られて悔しいわけ?
むしろ、私の多大なる才能に嫉妬?
・・・もしかして、秀麗ちゃんがいなくて寂しい?
・・・ププッ、焦らなくても半月後には戻ってくるわよ」

何故か毎日室にやってくる清雅を軽くあしらいながらは調べてきた事をまとめていた。
悔しいがこのような密偵もどき仕事は自分にあっているらしい。
色々証拠を集めてきて、真実に繋げていく・・・。
遊びではないがちょっとした遊戯だ。

清雅はの言葉に眉を潜めた。

「誰があんな女の事・・・」
「ふーん・・・なら・・・」
ちゃんのことが好きなんじゃないのかなぁ?」

いきなり聞こえた第三者の声にと清雅は肩を震わせた。
いつの間にか背後に晏樹がいる。ちなみに来訪者その二。

「何だい?二人共そんなに驚いちゃって。
まぁ扉叩かないで入っちゃったのは悪いけどさぁ・・・もしかして逢引のお邪魔だった?」
『誰がっ!!』

・・・声が揃ってしまったところがまた悲しい。
と清雅はふい、と顔を背けた。
晏樹はそんな二人をみてくすくすと笑うだけであった。
秀麗との掛け合いも楽しいがこの二人も見ていて飽きない。

「・・・余計な事かもしれないけど、結構噂になってるみたいだよ。
お二人さんvv
どこで知り合ったのかしらないけど随分仲良くなったものだよね」

冗官一斉処分の時絡まなければ良かったと、改めては後悔した。
清雅はもとより後悔していたので今更だ。
まさか噂にまでなっているとは・・・

「晏樹様、ご冗談は・・・」
「冗談だといいけどねぇ・・・知ってた?
清雅がこんなに生き生きと話すのって君と秀麗ちゃんくらいなの」
「・・・女性官吏じゃないですか。
・・・良い趣味してるわねぇ、・・・清雅・・・」

相手が晏樹なため強く出られない清雅を見てると少し清々する。
面白いものを見られたので今日はもうこれで満足だ。

「・・・皇毅も皇毅だけれどね。
まぁいいや。頑張ってね、ちゃん」

晏樹は机案に桃を一つ乗せて、室を出て行った。

「・・・そういえば晏樹様も良く来るのよねー。
暇なのかしら?」
「阿呆か、そんなわけないだろう」
「あれ、清雅も行くの?」
「お前見たいに一つの案件に集中すればいいわけではないからな」
「そうね、お偉い官吏様は違うわ。
・・・あっ、そうだ・・・。ここの間のお金の流れ教えてくれない?
先輩」

嫌そうに清雅か振り返った。

「・・・誰が」
「事実先輩じゃないのよ。年齢的にも御史台の官吏的にも。
長く御史台に務めていてこれくらいも分からないの?

挑発してきやがった・・・、
清雅はまた額に青筋が経つ。

「それくらい自分で調べろ」
「ふーん・・・秀麗ちゃんも言ってたけど清雅サマも大した事無いのね。
分かったわ、自力で何とかする」

コノヤロウ・・・。
殴りたい衝動をぐっと堪える。
なんで俺が・・・。

清雅が室から出て行くのを確認してはフフッと笑った。
清雅をからかうのも中々楽しいかもしれない。


「ねー、ここ教えてくんない?」

来た、来訪者その三。
清雅とすれ違うように入ってきたところをみるとどうやら機会を窺ってきたらしい。
秀麗がいないので蘇芳は分からない事があるとのところに来た。

「あの・・・私貴方の先輩でもなんでもないんですけど・・・。
むしろ貴方の方が先輩ですよね・・・」
「うん、そーなんだけど、どう考えても俺とあんたではあんたの方が頭良いから」

そんなことをさらっと言ってしまう蘇芳はの前に座った。

「こういう場合どうすればいい?」

正式な御史台官吏でもないのにさらりと仕事の書類を見せに来る。
皇毅の回し者か?と、思わずにはいられなかった。
初めは反論していたのだが、蘇芳のあまりの素直さにが折れる形となった。
彼はこれからも図太く生きるだろう。

「・・・こういう書類って書き方に一定の決まりがあって、その決まりにのっとって書かなくちゃいけないの。
・・・ご存知?」
「・・・・。
・・・そうなの?」
「そうなんです」

本当にこの人は今まで何の仕事をしてきたのだろうというほどの駄目っぷりであった。
金で官位をもらった人でもこれほどダメダメな人は見たことない。
まだ真面目にやろうとする気持ちだけは好感がもてるが。

は身近に合った紙を蘇芳に差し出した。

「これが見本。
これにそって書けばどんな人でもそれらしい報告書が書けると思うわ」
「ふーん・・・分かった。あんがとさん」
「いいえ〜。あとでお饅頭とか持ってきてくれると嬉しいな」

扉の取っ手に手をかけた蘇芳が苦笑した。

「あんた秀麗よりも手強いよ」
「お褒めの言葉ありがとう」



そんな毎日を繰り返して、半月後。
は皇毅に書類を提出した。

「・・・チッ」

あからさまに聞こえる舌打ちが聞こえた。
はフッと微笑した。
今回は我ながら上出来な仕事ができたと思っている。
これで認められなかったら嫌がらせとしか思えない。

「少々反則技も使いましたけど御史台の権限でなかった事にお願いします」
「・・・・」

皇毅がの書類に印を押した。

「大目に見る」

は胸が軽くなった。
これで心置きなく研修を終わる事ができる。

「・・・これで無事に御史台の研修、終わらせてくださいますよね」
「そうだな・・・」

皇毅は研修終了の書類に印を押した。

「持っていけ」

意外に素直に書類を渡され、は拍子抜けしてしまった。
もっとねちねちと言われることを覚悟していたのに、何もない。

そのまま書類を受け取った。
あとは家で報告書を書いて終わりだ。
毎日それなりに楽しくやっていたので少し心細くもある。
色々付きまとわれたが、悪い部署でもない。
上司が怖いのはどこの部署も同じであるし・・・

「半月お世話になりました。」

は丁寧に礼をとった。
正直、楽しかった。

「御史台では働けませんが、また人手不足の時は誘ってください」
「やはり・・・自覚したか?」
「・・・え?」
「お前は御史台向きだ。
戸部にいるのは勿体無い・・・」
「・・・・・。」
「激務あってのお前だ。
・・・仕事がなくなったら、お前の居場所はどこにある?」

は目を見開いた。
皇毅の口元にうっすら笑みが浮かぶ。
皇毅は、の手を取った。
動揺が彼に伝わる。

「御史台なら、所属するだけで他の官吏よりも地位が高くなる。
実力に伴って出世も可能だ。
・・・戸部でそれができるか?」
「・・・・」

かなり揺れる。
早く出世したいし、御史台の仕事に魅力を感じている。

「えっと・・・」
「答えは今でも構わない。
あとは私がなんとかする」
「・・・葵長官・・・。
お誘いはありがたいのですが、お断りします」

は優しく皇毅の手を離した。

「戸部でもっと色んな勉強して、もっと使える官吏になって、戸部に用がなくなったとき・・・またお誘いくださいませ」
「・・・どこまでも偉そうだな、貴様は」

和らいだ皇毅の目がまた戻った気がした。
どうやら言葉の選び方を間違えたらしい。
は苦笑した。

「言葉が過ぎました。
・・・では、失礼します」

改めて礼をとって、は御史台を後にした。

少しだけ転職してみてもいいかもしれない、と思った。


ーあとがきー

50万Hitリク企画 『彩雲国物語 皇毅夢』 でした。
緋奈様
リクエストありがとうございました。

・・・結局身内の多数決で御史台に入らなかった夢主。
やはりこのサイトでは鳳珠優勢だなと思いました。
頑張れ、皇毅。。

[★高収入が可能!WEBデザインのプロになってみない?! Click Here! 自宅で仕事がしたい人必見! Click Here!]
[ CGIレンタルサービス | 100MBの無料HPスペース | 検索エンジン登録代行サービス ]
[ 初心者でも安心なレンタルサーバー。50MBで250円から。CGI・SSI・PHPが使えます。 ]


FC2 キャッシング 出会い 無料アクセス解析