雪もたまにちらつく2月。
大学も無事合格した俺は、一人暮らしをするためにアパートを探していた。
部屋を探さなくてはと気持ちだけで、とりあえず不動産屋に足を踏み入れた。

新しく始まる日々に夢を求めて。


Weekl Mansion


今まで無縁だったその場所はなんとなく居心地が悪かった。
他に部屋を探す友達と来ればよかった、と少し後悔しながら壁にすみずみと貼ってある間取りをぼんやり見ながら、初めての一人暮らし像をなんとなく想像していた。
値段も何が一般的なのか分からない。
どんな部屋に住めば良いのか分からない。
壁に貼ってある広告は一戸建てから高級マンションから短期賃貸マンション、学生向けアパートなど様々だ。

「どんな部屋をお探しですか、お客さん。
学生さん?この辺の大学受かったの?」

50代の小太りのおじさんが話しかけてきた。
この店の店主らしい。
・・・まぁ、店主っちゅーか・・・この空間に彼しかいないというか・・・。
・・・客も俺だけだし。

「え、あぁ・・・そうです」

俺は曖昧に返事をした。
人間、自分のテリトリー以外は弱気になってしまうものだ。
しかし、俺は話しかけられて正直困っていた。
どうやって部屋を選べば良いか・・・全然分からない。
少しくらいは下調べくらいしておけばよかった、と今更後悔した。
だって、1LDKと1DKと1Kの違いは何だ。
1B、1KB、1MBくらいの違いなのか。
・・・いやそれかなり大きくね?1GBとかどうよ。相当大きな差じゃねーか。

脳内で一人でもんもんと考えていたらおじさんが奥のテーブルに座り、俺に席を勧めていた。
俺はその指示に従う。・・・なんか変なところ契約されなければいいんだけど・・・。
とりあえず怪しかったら『ワタシ、ブッケン、ゼンゼンワカリマセーン!』で逃げよう。そうだ、そうしよう。
おじさんは分厚いファイルを持ってきた。

「どこの大学?
1Kでいいよね?予算は?やっぱり新しい方がいいよね〜。
学生さんなら学生用のアパート借りれば安くなるしー」

慣れたようにスラスラと話していくおじさんに対して、専門外の俺にとっては『日本語でおk?』といいたくなる。
1K!?だから1Kってなんだよ。
そこを詳しく教えてくれよ。
・・・と思春期の突っ張りたい年頃の俺には、『素直に尋ねる』という選択肢はあるはずもなくとりあえずおじさんのいうことに頷いていた。
なんとなく1Kというのが『1つの部屋にキッチン、トイレ台所などが着いているアパート』ということを理解し俺はファイルに納められた物件を眺めていく。
おじさんは俺の学校から近い物件を色々ネットで検索してくれているようだ。
・・・といってもこの辺は学校も多いし候補は色々でてくるだろう。
俺はおじさんが落ち着くまでファイルをめくることにした。
どれも同じようなアパートで外見と中身だけではこれといって選ぶ決め手が見つからない。
やはり立地条件かー・・・。
なんとなく、考えもまとまりかけていた俺の目に他のものと違う雰囲気の物件が目に入った。

「・・・ん・・・?」

これ、・・・アパートだよな?
概観の写真はまるでヨーロッパに立っている豪華な住宅に見えた。
どうやら庭や門まである。
よく見てみれば新築で2Kで目の前にバス停、駅まで徒歩20分、さらに道を挟んだ向かい側にコンビニという素晴らしい立地条件のものだった。
スーパーやドラッグストアも近くにあるらしい。
なにより目を見張るのがその値段。
・・・2Kで、これだけ立地条件がよく新築で・・・5万円だと・・・ッ!?
敷金・礼金もその辺の学生向けアパートと変わらない良心的な値段。

「すいません、これもアパートなんスか?」

信じられなくて思わず聞いてしまった。裏に何かあるとしか思えない。
おじさんは、あぁ、とため息をついた。

「この物件に目を付ける学生さんは多いよ。
・・・でもこの物件はある条件があるんだ」
「・・・条件?」

外国風の建物だから、やはり留学生専用・・・とか?

「この管理人はちょっと変わった人でね。
名前に曜日の入った人、大学生、またはそれに近い年齢の人限定で貸し出すといったんだ」
「・・・曜日」

月火水木金土日・・・これだろうか。
俺は自分の名前を思い浮かべた。
途端に好奇心がうずきだす。
自分が何か選ばれた人間のような気がした。

「あ、あの俺『月』っていうんですけど・・・どうですか?」

おじさんは驚いたように月を見た。

「本当かいっ!?」
「一応学生証ありますけど・・・・」

学生証を見たおじさんは喜んで電話に向かった。

「その部屋が埋まってないか聞いてみる。
君は実に運がいいよ。こんな良物件中々ないんだ!!
いやー、私もここを勧めることができるとは思わなかったから・・・。
見なくてもきっと気に入るよ」

ここまで言って、おじさんはアパートの管理人と話始めた。

「え、本当かい?良かった。
・・・なぁ月くん。部屋はまだ空いているそうだ。
よければその物件今から見に行こうか。ここからそう遠くないから」
「いいんですかっ!?」

まさかここまで上手く話が進むとは思わなかった。

「あぁ、管理人さんも是非といっている」

まさかの急展開だが、願ってもいないチャンスに月は首を縦に振った。
ここからそう遠くないということは学校からもそう遠くはない場所なのだろう。
ますます安心した。
おじさんは店に鍵をかけ、月を乗せて車を発進させた。
店を閉めて大丈夫なのか?と聞けば、どうせ客なんて来ないさ。と軽い答えが帰って来た。
・・・それでいいのだか。

少しの不安を持ちながら月は見知らぬ町を車の窓から眺めた。


『Weekly Monsion』
それが今からいくアパートの名前だ。ウィークリーマンションといって『短期賃貸マンション』とは別物らしい。
曜日の名前を持つ人が集まるからそのような名前がつけられたらしいが・・・。
・・・なんかややこしい。
誰かに住所教えるとき変な顔をされそうだ。

10分くらい走ると車は止まった。
目の前に門が見え、その奥には写真でみた外国風の建物があった。
本当に新築で傷一つない。これがアパートなんて信じられない。
中に幾つも部屋が入っているから大きいのは当然かもしれないが、傍目から見れば大豪邸だ。

おじさんは門の隣のインターホンを押した。
すぐに女の人の声が聞こえる。

「先程電話した不動産屋ですが・・・」
「はい、お待ちしておりました」

その主が予想外に可愛らしい声で俺は驚いた。
そして建物から出てきたのはその声にあった、同じ歳くらいの女の子であった。
長いふわふわした髪に優しい笑みが似合っている。
思わず見惚れてしまった。

「こんにちは。彼が入居希望された『月』くんです」

おじさんの紹介を受け、彼女は俺を見てにこりと笑った。

「初めまして、ここの管理人代理をしています日環といいます」

ほのぼのとした雰囲気が俺を安心させる。
この子がいるだけで、俺、ここに決めても良いかもしれない。

「俺は月。
・・・本当にここアパートなのか?」

概観からはどう見ても一つの建物だった。

「はい、ちゃんと中で分かれています。玄関だけ一緒なのですが・・・。
とにかく見てみれば分かると思います」

庭には木が並んでいたり、花が少し植えてある。
ベンチや机もおいてあり、中々洒落ている。
・・・本当に『月』の名前をもつだけの俺がここに住んで良いのだろうか・・・ていうか、・・・俺に合うだろうかこんな素敵過ぎる家。
これも全て日環の趣味なのだろうか、それを想像するだけで何か楽しくなってきた。
あたりを物珍しそうに見渡している月と日環の目が合った。

「ここは私の叔父が私のために作ってくれた邸なのです。
一人暮らしの私が寂しくないようにこうやって他の人も住めるよう改造して・・・」

重そうな玄関の扉をあけた中は城のようだった。
十歩譲ってホテルだ。
大きくはないが、凝った装飾をされたエントランス。そして大きな階段。
日環は目の前の階段を上っていく。

信じられない、こんなところがアパート?しかも月額5万円っ!?
開いた口が塞がらない。
日環が階段の中腹まできて振り返った。

「・・・月さんの部屋は2階になります。
部屋の場所だけは指定させていただくのですが・・・よろしいですか?」
「・・・あ、うん・・・」

こんな立派なお邸だったらどこに住んでもかまわない。
未だに信じられない光景に目を疑いながら日環の後をついていく。
中腹の踊り場で階段は二つに分かれていた。
ここから左右に2つの扉がみられた。それが自分の住む場所なのだろうか。
左側の奥の扉には三日月の装飾がされていた。そこが『月』の名前を持つ自分の部屋なのだろう。

「こちらです。
中身は普通のアパートと変わらないのですが・・・」

鍵を開けて日環が扉を開ける。
小さな玄関にキッチン、壁についているのはトイレとバスルームだろう。奥に部屋があるようだ。
まだ何もおいていない真新しい部屋は先程のエントランスを見た後だと何か物足りない。

「部屋の内装にまでこだわればよかったのかもしれませんが、やはり好みもありますし・・・。
好きに見てくださって構いませんよ」

部屋にあがる。
窓からは先程通ってきた庭とその奥に住宅街が見える。
ここは少し土地が高いらしい。お陰で見える景色も中々良かった。

「凄いよ・・・本当にここに住んで良いのっ!?」
「はい、そうしてくだされば私も嬉しいです」

君の笑顔で即購入決定。

「決めた、おじさん。俺ここにするよ」
「分かりました。では、後日手続きをしましょうか・・・。
引越しは3月末でいいですね」
「大体そんな感じで」
「では、3月末からよろしくお願いします」

日環ちゃん、君の笑顔本当太陽みたいだよ。


日環は門まで見送りにきてくれた。

「では、月さん。またお会いしましょう」
「うん、・・・そういえば他の部屋は埋まってるの?」
「えぇ、ほとんど埋まっております。皆さん良い人そうですよ。
安心してきてください」
「そっか。ここに引っ越して来るのが本当楽しみだよ。
可愛い管理人さんにもあえたしね」

その言葉に日環はくすくすと笑った。

「私はあくまで『代理』です。
まだ建ったばかりで・・・管理人としてもまだまだ未熟なところはあると思いますが・・・」
「なるべく迷惑かけないように頑張るよ」

日環の笑顔に見送られ、月はアパートを去った。



「・・・へー・・・日環、あいつが新しい入居者?」

庭の向こうから犬を連れた青年が出てきた。
日環は振り返り笑顔で答えた。

「はい、月くんというそうで・・・。3月末から入られるそうです。
部屋も何とか埋まりそうで良かった・・・」
「ふーん・・・大学生?」
「私と同じ歳だそうです」

青年は詰まらなさそうに庭のベンチに座った。

「女の子なら良かったのにな〜」
「仕方ないじゃないですか。それに女の人ならもう2名入られてます。
綺麗な人達じゃないですか」
「うーん、綺麗過ぎて俺に構ってくれるかねぇ・・・」
「・・・貴方も十分つりあっていると思いますが・・・」

『ただいまー!!』

門が開き、二人の子供が勢いよく入ってきた。
二人共ランドセルを背負っており、学校から帰って来たばかりだ。

「日環姉ちゃんただいまー!」
「お帰りなさい」
「ねぇ、さっき車が出て行かなかった?新しい人っ!?」

二人が目を輝かせて日環に尋ねる。

「はい、月くんという人です。
貴方達のお部屋の隣になりますね」
「いいなー見たかったなー、かっこいい!?」
「えぇ、優しそうなお兄さんでしたよ」
「まぁ結構アホ面だったからな。良かったな、構ってもらえるんじゃないかチビ共」

青年の台詞に二人共頬を膨らませた。

「それより兄ちゃん構ってもらったらどう?兄ちゃんが友達といるところ見たことないし」
「そーだよ。ニート生活満喫してないでバイト見つけたら?」

小学生らしからぬ二人の発言に青年が眉をつり上げた。

「ばっ、俺はニートじゃねぇ。ちゃんと学生だ。
よーしそんな事言うんなら俺も黙っちゃいねぇ。
日環。こいつらのおやつ全部俺様に寄越せ」

日環は変わらないやりとりにクスリと笑った。
時間も頃合だ。

「では、皆さん手を洗っておやつにしましょうか。
ちゃんと手を洗ってくださいね」
『よっしゃ!!』

走っていく3人と1匹を眺め、日環も歩き出した。
もう少しで新しい日々が始まる。
たくさんの笑顔がこの庭に溢れますように。


 


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