WeeklyMansion その1




4月、それは始まりを表す季節。


躓きかけた月曜日


ここは『Weekly mansion』
概観は洋風の立派なお邸だが、中身は意外に普通のアパートと変わらない。
中には今年大学生になる学生5人と社会人1人小学生2人が住んでいる。
居住者の引越しも一段落した4月上旬
彼らの新しい生活が始まった。

「・・・ウゲッ、寝坊した!」

AM8時。
月は携帯の着信音で目を覚ました。
かけておいたはずの目覚まし時計はベッドから数メートル先に無残に転がっていた。
いつの間にか投げてしまったのだろう。
目覚ましの残骸に目もくれず、勢いよく月は起き上がりすぐに着替えを始めた。
最初の授業に遅刻するわけにはいかない。
高校生活も適当に過ごしてきた俺だが・・・大学もまぁそこそこ適当に遊んで過ごそうと思う俺だが、流石に初日くらいはちゃんとしたい。

洗面台で顔を洗い、自分の顔を見る。・・・うわぁ・・・寝癖ヒデェ・・・。
今日は一気に外に出る気が失せた。

・・・じゃねぇ・・・時間ないんだ。
手際よく髪型を整え、冷蔵庫へ向こう。
こういうこともあろうかと昨日用意しておいたパンとコーヒー牛乳を掴み鞄の中に詰め込んだ。
俺、なんという策士。昨日の俺超グッジョブ。

あとは鞄を掴んで部屋を出る。
鞄の中から携帯を取り出しイヤホンを耳に装着。すぐに音楽が耳に届く。
時計を見ると8時15分。よし完璧。
あとは走ればバスに間に合うはず・・・

「・・・ちょ、おいっ!!」
「・・・え?」

携帯とイヤホンから聞こえる音楽で前方不注意だった。
階段を下りていたところ前から来た青年と盛大にぶつかってしまった。

二人の鞄の中身が周囲に散らばる。

「・・・ゲッ」
「・・・チッ」

二人共時間がないのは同じらしい。文句を言う前に自分の荷物を拾い始めた。
そして大体片付いたところで同時に走り出す。
同じバスに乗る予定らしい。
月はチラリとぶつかった相手を見た。
スーツを着て、持っている鞄も営業用のものだ。
歳は恰好のせいか少し上に見える。
・・・顔はまぁ良い方だと思うが・・・なんか目つきが悪い。

「・・・あ?」

庭を早歩きしているとき、向こうがこちらを睨み・・・見てきた。
月は片方のイヤホンを外し、青年に話しかける。

「・・・あの、なんか・・・すいませんでした」
「どこ見て歩いてんだよ。お前と違って俺はパソコン持ってんだ壊れたらどうしてくれる」

・・・目つきだけじゃなくて性格も悪かったー!
新生活開始早々ついてねー。
何でぶつかるのがよりにもよってこいつっ!?
日環ちゃんとかじゃないの!?
しかもこっちが謝ってるっていうのになんだこの態度は。

「お前だってこっち見てたら避けれたはずだろ」
「あんなに勢いよく来られて避けれるかっつーんだ。
パソコン、壊れてたら弁償してもらうかな」
「はぁ?なんでそうなるんだよ!」

一発触発の睨み合いが続く・・・ように見えたが、二人の声と身体がその間に割って入った。

「遅いよ兄ちゃん達。バスは待ってくれないよー!」
「ここのバスは時間にはうるさいから、すぐに行っちゃうよー!」

ランドセルを担いだ二人は月と青年の間を駆けていく。
思わず二人の行き先を見てぎょっとした。バスが来ている。
これはもう喧嘩どころではない。
二人は小学生のあとから走り出した。



「おはようございます。月さん。朝から大変でしたね」

丁度乗り合わせた日環が月に話しかけてくれた。

「おはよう、日環・・・ちゃん」
「日環でいいですよ」

早速呼び捨てで呼べる日が来るとは!
やっぱり今日の俺ラッキーじゃん?あの目つきの悪いスーツ野郎はなかったことにしよう。

「じゃ、遠慮なく日環。
・・・本当に大変だったよ。俺8時に起きたんだぜ」
「8時・・・?・・・え、今20分ですよね・・・?・・・ご飯は・・・」
「持ってきた。
一人暮らしって凄い憧れてたけどやっぱり大変だな。なんかもうくじけそう」
「初めはそんなものですよ。
私もついうっかり高校の時1時間目まで寝過ごしたことありますから」
「日環がっ!?意外・・・ていうか信じらんねぇ」
「友達によくぼーっとしているといわれるんですけど・・・本当にぼーっとしているみたいですね」

バスが駅に止まる。
ここから電車に乗り換え、学校まで向かう。

「そういえば、日環は大学生?
どこの学校?」

・・・まさか行き先まで同じとは思わなかった。学部は違ったけど。
よし、毎日一緒に登校しよう。

なんという最高の学園生活。



・・・朝から最低なことばかりだった。
同じアパートの大学生に思い切りぶつかられるわ、鞄の中身をぶちまけるわ・・・
挙句の果てに昨日徹夜で仕上げた資料が入ったUSBが見つからない。
目つきの悪いスーツ野郎こと、木は会社の机で突っ伏した。
・・・あぁ、机の上で寝ることがこんなに気持ち良いとは思わなかった。できることならこのまま目を閉じてしまいたい。

「くそー、あのアホ学生一発殴りたい」
「誰を殴りたいって?」

後ろから声をかけられ、木はダルそうに身体を起こした。
声の主は同期で大卒の”センパイ”だ。
年上というだけで何故かセンパイ面されるが、働いた年数も仕事の能率も企画も何もかも木の方が優れている。と自負したい。
それなのに給料が向こうの方が良いというのは気に食わない。
部長、これからの時代学歴より能力主義ッスよね。

木はとりあえず振り返った。
これで無視でもすれば後に3倍ウザイ目にあう。

「今日のプレゼン企画今度こそ俺が取らせてもらうからな!」
「・・・えぇ、そうですね、期待してますよ”センパイ”」

気持ちのこもっていないこれでもかというくらいの棒読みで木は言う。

「今回の俺の企画は一味違う。何が違うかってまずは〜」
「ちょっと、センパイ。今から企画のこと話しちゃって良いんですか。
俺参考にさせてもらいますよ」

一度口を開かせると、別の用事ができるまで彼は話し続ける。
この数年間彼と付き合ってきて木は数パターンの回避の仕方を覚えていた。
面倒くさいがとりあえずセンパイの立て方も覚えた。
初めは実力差でコテンパンに踏みつけようと思っていたのだが、社会はそこまで甘くはないらしい。
”センパイ”の話を聞き流しながら木はプレゼンの資料をどうしようか頭の中で考えていた。
資料自体は昨日用意しておいたから問題ないがパソコンを使って説明できない。
・・・戻るか・・・。
午後からなので時間はあるが・・・

木は立ち上がった。

「すんません、少し外出てきます」

今日は部署内のほとんどが午後からの会議に集中していてみんなその準備に打ち込んでいた。
そのため今日の仕事はその資料を作る時間としてあった。
木は部長に資料を提出しスーツの上着を持った。

「余裕だな、木」
「えぇ、少し忘れ物があるので取りに行ってきます」



オリエンテーションを受け、休憩時間月は近くにいた青年達と話していた。
意外に地方から来た奴も多くみんな友達を求めていたらしい。
人と話すのは好きだから一気に話の話は月の席周囲に及ぶ。

「よーし、今からメルアド交換すっぞー!
俺の連絡先欲しい奴はよってこい!」
『おー!!』

一時のテンションもあり数十人が月の周囲に寄ってくる。
月も少し安心した。これで大学生活も楽しく過ごせそうだ。
メルアドの交換中月はちらりと奥を見た。
新入生一同でオリエンテーションは行われており、奥に日環が見えた。
同じ学部の友達と話しているらしい。
日環が月の視線に気付いたらしく、笑顔を返してくれた。
・・・なんという幸せ!!
少し日環の元に行きたい気もしたが、今はこっちだ。
帰りも一緒に帰れるといいなー。確か今日は説明を受けて終わりのはず・・・。

「なんだ月?芸術学部の方見て可愛い子でもいたか?
知り合いがいるなら紹介してくれ」
「それはこっちの台詞だよ」
「俺見たぜー。こいつ朝女の子と一緒に来てた」
「おっ、彼女かっ!!」
「なんで所見で俺のこと見てんだよ!」
「入学初日に彼女と登校するやつなんて目立ちすぎるだろ」
「・・・彼女じゃねーって・・・」

そうだったらどんなにいいことか。

ぎゃいぎゃい言い合っていたところに日環が寄ってきた。
男子ばかり月の周囲に集まっていたので少し遠慮していたが、最後にはっきり月の名前を呼んだ。
おー、と周囲から冷やかしの声があがる。
月も日環から声がかかるとは思わず驚いた。

「え、どうしたの?」

月が日環の傍に行くと日環は自分の携帯を月に差し出した。

「・・・えっと・・・電話です。木さんから・・・」
「・・・木?」

聞いた事がない。

「俺知らないんだけど・・・」
「木曜日の部屋に住んでいる方です。
えっと・・・あ、今日同じバスに乗ってました」

・・・あぁ、あの目つき悪いスーツ野郎か。
俺に何の様だろう。・・・え、まさか本当にパソコン壊れてたとか・・・。
一応言い返しておいたが、いざ現実になるとかなり緊張する。

日環の携帯を受け取り耳に当てる。

「・・・もしもし・・・」
『あぁ、お前か。朝ぶつかった奴だ・・・』
「うん、聞いた」
『お前、俺のUSB持ってないか?』
「・・・USB?」

声は変わらず無愛想だが、怒ってはないようだ。
月は少し安心して話を続ける。

『黒い・・・2GB入るやつだ。
もしかしたらぶつかった時にお前が持って行ったのかもしれない・・・』
「うーん、ちょっと待って。今見てみる」

月は鞄を取って中を見てみる。色んなものを適当に詰め込んであるから探すのに手間がかかる。
手探りで探すのを諦めて鞄を机の上にひっくり返してみた。
自分では見覚えのない黒いUSBが最後に転がり落ちてきた。

「・・・あ、あった」

電話の向こうで木が息をついた。

『・・・そうか、良かった。
今からとりにいく。お前今どこにいる?』
「はっ?いいよ帰ってからポストかなんかにいれておくから・・・」
『今いるんだよ』
「・・・大学・・・」
『どこにある?』
「電車で駅二つ。おりたら分かると思う」
『分かった。・・・抜けられそうか』
「・・・トイレとかいえば・・・大丈夫だと思う」
『お前の連絡先教えろ。』
「・・・うん・・・」

伝えた後に月の中に一つの疑問が思い浮かんだ。

「・・・てか・・・なんでお前が日環の連絡先知ってんの?」
『日環?・・・あぁ管理人か。
アパートに残っていたニートに聞いた』

・・・ニート?
後ろから『ニートじゃねぇ!』というツッコミが聞こえてくる。

『今から行く。携帯ちゃんと持ってろよ。
出てこなきゃ教室に乗り込むからな』

ブチっと携帯が消れた。
・・・乗り込むって・・・。奴がそこまで行動派だったとは意外だ。
周囲の目を気にしないタイプなんだろうか。

「・・・ったく・・・なんで俺が・・・。
いや俺が持ってきたのが悪いんだけど・・・」

日環に携帯電話を返そうと振り向いたら日環の周囲に先程月に群がっていた男達が群がっていた。
日環はそのような状況に慣れていないのか、あたふたとしている。

「・・・お前ら寄ってたかってやめろよ・・・。
日環もウザかったらウザいって言っていいんだぞ」
「・・・いえ・・・。
電話はもういいですか?」
「あぁ俺の連絡先教えておいたから大丈夫。
あ、ついでに俺も日環の連絡先知りたいなー・・・なんて」

外野の男達が騒ぎ始めた。
日環は気にした様子もなく小さな紙を月に差し出した。

「はい、困ったことがあったらいつでもかけてくださいね」

案外簡単にゲットできたなーと思いながら月は日環がくれた紙をみた。
・・・これアパートの管理人の名刺じゃん。しかも名前が・・・多分これ君の叔父さんだよね?
困ったことってそれ、アパート的な意味で、ですか・・・。

どこまでも天然な貴方が好きです。
・・・今度はちゃんとメルアド聞こう・・・。


オリエンテーションが長く話も聞き飽きた月は、うっかり眠りの国に旅出しそうになった。
うっつら頭が下がった瞬間携帯のバイブがなった。
知らない番号だが、おそらく木だろう。
月はゆっくり立ち上がって廊下に出た。
まだ学内の構造なんて理解していない。
月はとりあえず大学の入り口に向かって走り出した。

「お前、どこに行くつもりなんだ?」

てっきり校門にいると思っていたが木は勝手に学内に入ってきたらしい。

「・・・え、お前・・・どうやって・・・」
「門は開きっぱなしだし、部外者が入っても簡単には分からないだろうな」

木はそういって手を出した。
月はUSBを差し出す。

「・・・悪かったよ」
「・・・別に」

木は珍しそうに大学を見渡した。
いくつもの学部が入っているため建物は大きい。
・・・そんなまじまじ見なくても・・・

「どーせ馬鹿校だって思ってるんだろ。
お前とは違うよ」

木は眉を潜めた。

「さぁ?大学の基準なんて俺にはさっぱりわからん。
さらに言えば大学に進学するやつの気持ちがわからん」
「・・・え・・・お前大学行ってないの?」
「・・・お前、俺が大卒に見えるのか?」

てっきりスーツ着てるから大卒の社会人に見えた。
違うの?
だったら木は何歳なんだろう?
スーツって人の年齢をややこしくさせる。
専門学校卒業くらいだろうか。今年から社会人といってもスーツ着慣れている感があるし・・・。

「なんか勘違いされたままだと癪だから言っておくが・・・。
俺は今お前と同じ18歳。今年度19歳」
「嘘ッ!?」
「嘘じゃない。・・・なんだ、そんなに老けてみえるか?」
「・・・いや・・・高卒で就職なんて・・・珍しいな、と思って・・・」

知り合いでも数人しかいないはずだ。
はぁ・・・と木はため息をついた。

「さらに言えば大学どころか高校も行ってない」
「・・・は?中卒・・・っ!?」

初めて見た!
確かに高校は行かなくてもいいけどいかない奴なんてほとんどいないと思っていた。
月の中では絶滅危惧種だ。
珍しい物を見る視線に気付き木はまたため息をついた。
このような視線は慣れている。

「・・・大学って入って卒業するまで数百万かかるんだろ?
どーせ大したところに就職できないくせによく行くよなー。
働いて数百万稼いだ方がよっぽど有意義だ」

月に言われているようで少しだけむっとした。
確かに真剣で勉強しようと思って入ったわけではない。
全て親にお金を出してもらったから、親も進学を喜んで勧めたからそこまで深くは考えていなかったが・・・よく考えればそうなのかもしれない。
大金をはたいてまでここに通う理由が俺にはない。
かといって、何かやりたいことがあるわけでもないが。

「お前・・・」
「じゃ、俺は戻る。
午後から会議があるんでね」

そのUSBは会議に使うものなのか。

「・・・おう・・・」

木が急に遠く見えた。
ほとんど同じ時間生きて大きな差ができた気がした。
自分は今まで何をして生きてきたのだろう・・・。

月はもやもやとした思いを振り切り、講堂へ向かった。

  

++あとがき+++

月編始まりました。

簡易人物紹介

月(ツキ):大学1年生。経済学部。大学入学と共に一人暮らしを始める。これという特技なしの普通の人。
日環(ヒノワ):大学1年生。WeeklyMansionの管理人代理。月と同じ大学1年生。芸術学部。なんかほわほわしてる。
木(モク):中卒の社会人3年目。会社での成績は中々優秀。同期のセンパイが色々ウザイ。

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