「あー、楽しかった」
「月さん、お友達が多くて羨ましいです」
「そんなことないよ、日環も付き合ってくれてありがとう。
みんな喜んでいたぜ」

オリエンテーションが終わってから月の周囲の新入生達で早速食事会を開くことになった。
あまりにも野郎だけでは悲しいので、周囲に強く言われ日環とその周囲を誘うと意外にもついてきてくれることになった。
そんなわけで経済学部と芸術学部合同の新入生食事会となったのである。
登校初日から新しい出会いがたくさんあり、みんな満足したようだ。
中心となった月と日環は新入生達の間で有名になってしまった。

「まさか、こんなに1日でたくさん友達ができるとは思いませんでした」
「俺もだよー。
これから大変だな。お互いに」

すでに携帯に十数件メールがたまっている。
これを返信するとなれば相当の労力が必要だ。

「・・・あ、日環。
さっき名刺もらったけどさ・・・日環のメルアドも教えてもらってもいいかな」
「いいですよ」

二人で赤外線をあわせたところで電車が止まった。

「・・・お前ら降りないの?」

上から声がかかった。
聞き慣れた声だと思ったら木であった。

「・・・え、あら本当。
ありがとうございます」
「いいえ」
「・・・・。」

いいところだったのに木チクショー!!
3人は一緒に改札を出た。
このままアパートまで一緒だ。日環と二人きりが良かったが仕方ない。
日環との会話のネタにも尽きて、月は後ろを歩いている木に話しかけた。

「・・・こんな時間まで仕事か?それとも飲んできたの?」

木は意外そうに目を見開いた。
話しかけられるとは思ってもいなかったらしい。

「・・・あ?
・・・あぁ・・・仕事だ。
お陰様で会議で俺の案がとられたからな。その案を絞っていたらこんな時間になった」
「ふーん、木って何の仕事してんの?」

スーツにパソコンっつったら相当のやり手に見える。
会議で木の案が通ったというのだからやり手なのだろう。
俺と同じ歳なのに凄いよなー。

「俺の部署は会社向けの委託イベントを担当している。
その他にも色んな仕事に手を伸ばしているらしい」
「へー、よくそんなところに就職できたな」
「イベントの会場設置のバイトとかしてたら正社員に雇ってもらえた。
・・・で、気づけば企画考えるところまで出世した」
「すげー!」
「現実なんてそんなもんだ。結構甘くできている。
・・・・・ただ、やっぱり大卒の奴とそうでない奴の壁は取り払えないらしい」

月は目を細めた。
やけに大学がどうのとか言っていると思ったら会社でなんかあるみたいだ。
たしかに大卒とそうでないのと給料は違うらしいと聞いた事があるが・・・。
同じ仕事しているのに・・・なんか納得いかないんだろな。




なんとか目覚ましを放り投げる前に止め、月は大きく伸びをする。
一人暮らしもなんとか慣れてきて朝テレビを見る余裕まで出てきた。
テレビをつけると見慣れないキャスターの顔。
・・・あ、今日休みか・・・。
なんか損した気分になった。
もう一度寝ようか寝まいか迷っていたら庭に誰かが出て行くのが見えた。
ベランダに出てみる。
あのスーツ姿・・・・木か。

「いってらっしゃーい」

月の声に木が振り返った。

「・・・テメェ・・・嫌味か」

多分いつもより早い出勤時間にさらに今日休みの月に見送られたとなれば、怒るのも当然だろう。
まぁ気にしないが。
あ、そうだ。
月は一旦家の中に入り、冷蔵庫からリポDを取り出した。

「木ー!!」
「・・・あ?今度はなん・・・」

月が何かベランダから投げてきた。

「ファイトー!!」
「いっぱ・・・・・・って誰がやるか!!」

上手くキャッチし呆れたように月を見る。

「・・・落としたらどうすんだ」
「木が悪い。まぁそれ飲んで頑張れ★」
「・・・・」

木呆れて門に向かう。後ろ向きでも手を振ってくれたのが嬉しかった。
あれ以来、どこかで見かけたらちょこちょこ会話をするようになった。悪い奴ではないらしい。
そこまで物静かな奴でもないらしく話をするうちに同じ歳というのも理解してくる。
まぁ、向こうの方が考え方は大人だなーと思う時がちらほらあるけど。


「いってらっしゃい、木さん」
「・・・あんたもか」

庭を掃除していた日環も、木に声をかけた。

「・・・何となく、かけないといけない気がしまして・・・」
「・・・別にいいよ」

日環はポケットを探り、木の元へ手を差し出した。

「ファイトー!」
「・・・お前もか。・・・一発。」

木が手を出すと、日環は木の手の上に飴を乗せた。

「お仕事、頑張ってくださいね」
「・・・分かったよ。全くお人よしな奴ばっかだな・・・」

ますます仕事行きたくなくなったじゃねーか。


木が門の前のバス停に行くと先客がいた。
先客は木の顔を見ると少し笑って会釈した。
同じ歳くらいの、おそらく大学生の女だ。
俺の部屋の隣、水曜日の部屋に住んでいる。
日環とは違うタイプの綺麗さがありスタイルが良い。
髪の毛を高いところでまとめており、活発なイメージを漂わせる。

「おはようございます、隣人さん」

今日は向こうから話しかけてきた。
このアパートの住人はどうやら話し好きが多いらしい。

「あぁ、おはよう・・・」
「今日もお仕事ですか?」
「・・・あぁ・・・。
・・・お前は・・・旅行にでも行くのか?」

彼女は大きなキャリーバックを持ってバスを待っていた。
彼女は一拍止まったあと笑顔で返した。

「いえ、・・・ちょっと荷物が多いので・・・」
「・・・ふーん・・・」

それから車が二人の前を数台通り過ぎていく。

「・・・仲がいいんですね、管理人さんと・・・月くんでしたっけ?月曜日のところの・・・」
「別に、二人共たまたま知り合っただけだ」
「そうですか。
・・・月くん、可愛いですよね」
「・・・は?あいつが?」

信じられない、といった顔で木は水都を見た。
水都は笑顔で言った。

「えぇ、そう思いませんか?」
「・・・・全然」

あれが、可愛いのか・・・。女ってのはいつになっても理解できない。

「仲良かったら紹介してください」
「・・・紹介するほどの仲じゃねーぞ。
それに毎朝顔合わせるじゃないか」
「月くんはバスの出発ギリギリに来るし、いつも管理人さんとお話してるから間に入れないです」
「・・・なら普通に家に訪ねていけばいいんじゃないか?
大抵夜は家にいるぞ、あいつ」
「・・・・・・詳しいんですね」
「たまたま帰りが同じなだけだ」

・・・何故か知らないが、帰りも月と一緒になることが多かった。
自分は気付かないけど向こうから絡んでくる。
知らないうちに自分の中にいりもしない月の情報がたまっていることに気付いた。
なるほど、リポD貰える仲になるのも同然か。

そうこう話しているうちにバスが来た。

「私、お隣さんには負けませんよ」

先にバスに乗った水が木に言う。

「・・・冗談じゃねーよ。そこはせめて日環にしとけ」



木を見送ったあとベランダから日環が木に何か渡しているのを目撃して月はかなり凹んだ。
チクショー!!何貰ってんだあいつ!!
貴重なリポDあげたのにっ。お前なんかチロルチョコで十分だっ!

気を取り直して日環に声をかけようとしたら下から日環を呼ぶ声が聞こえた。
聞いた事のない男の声である。
月はまた庭を見た。

白い大きな犬が庭を走って日環の元にいく。
犬の鳴き声がたまに聞こえると思ったらあいつだったのか・・・。てかここ、犬飼えたんだ・・・。
日環に懐いているので日環の犬だろうか。と思ったら後から短髪青年が出てきた。
雰囲気なんか木を明るくしたような青年だ。

「おっはよー、日環。今日も早起きさんだねぇ〜。
休みの日くらいゆっくり寝てればいいのに」
「あ、おはようございます、土」

うっすら二人の会話を聞いた月は愕然とした。
お互い・・・呼び捨てだと・・・っ!?
ていうか、あの男なんなんだーっ!?日環に馴れ馴れしく!

「じゃ今からこいつと散歩いってくる〜」
「はい、いってらっしゃい」
『いってらっしゃい、ニートの兄ちゃん』
「だからニートじゃないっていってるだろうが、チビ共っ!!」

また下から小さな子どもの声が聞こえる。
そしてアパートから小学生ほどの子ども2人が走ってきた。
そういえば、小学生が住んでいたんだっけ?

子供たちは日環と土に向かって突進していった。
・・・なんだろう、この微笑ましい構図は。凄い、家族に見える。年齢的に考えて無茶があるとはいえ。
別に、羨ましくなんか・・・ないんだからな。
そう思いながらベランダの柵に寄りかかったとき日環の声が聞こえた。

「おはようございます、月さん!」
「・・・えっ、あぁおはよう日環!!」

土と2人の子どももこちらを見てきた。

「へー、あれが月の兄ちゃんかー」
「月の兄ちゃんの方が土よりモテそうじゃない?」
「んだとコラ。俺の方がモテる」

・・・その言い合いには参加したかったが、生憎、即答できるほどモテた記憶もない。
それからいくつか言葉を交わして月は部屋に入った。
どうやらこのアパートの住人、曲者が多い・・・気がする。
・・・そういえば、前に木の言ってたっけ・・・。
日環の番号を『ニート』に教えてもらったって。あの男がそうか・・・。

むむむ、前途多難。
日環攻略のためにはあの土ってやつをなんとかせねば・・・。
ていうかあいつ何者?ニートで終わるには大きすぎる存在なんだけど!

朝食をこさえるため、月は冷蔵庫を開いた。
・・・ヤベー・・・食べ物、何もない。



月は食料調達がてら街に繰り出すことにした。
適当にファーストフードで朝食は済ませ、まだ慣れない市内を散策する。
勝手が分からず午前中は市内を歩くだけで終わってしまった。
しまった、誰か地元民に連絡を取ればよかった。

そう思って携帯を開いた。着信が1件。
月は首をかしげた。番号は知らない人からだ。
大学に入り知り合いが増え、知らない番号からかかってくるということは最近よくあった。
また大学の誰かだろうか。
しかし知らないところにリダイアルするのもどうかと思ったので、月は無視することにした。
何か用があるんだったらまたかけてくるだろう。そこまで大事な用でもあるまい。
携帯のアドレス帳から地元民を探していると電話が掛かってきた。
先程の番号だ。月は電話を取った。

「・・・もしもし?」
『・・・あれ、男?』
「・・・もしもし・・・?誰お前・・・」

携帯の奥でなにやら数人で会話がしているのが聞こえる。
ただのいたずら電話だろうか。

『お、おい・・・お前、木を知っているだろう』
「・・・木?・・・まぁ・・・知ってるけど・・・何?」

いたずら電話ではなかったようだ。しかし何かがおかしい気がする。
木の知り合いが何故俺の携帯電話にかけてくるんだ?

『俺は木の会社の者なんだが・・・木がどうやら忘れ物をしたらしいんだ』
「忘れ物?・・・んな事いったって俺はどうすることもできないぞ」
『・・・えっと・・・ほら、弁当』
「弁当?そんなのその辺のコンビニで買えるじゃん」

大体、木が弁当を忘れたくらいでそこまで大騒ぎするやつだとは思えない。

『・・・ほら、あれだ。今木イベントの仕事で忙しくてよ、手が放せないんだ』
「・・・・・・。」

そういえば、この前企画が通ったとか言ってたっけ?
そのイベントだろうか。

『悪いけどお前適当に買って持ってきてくれないか?』

状況はよく分からないが、木の仕事しているところも見たくなってきた。
月は軽い気持ちで返事をした。

「・・・別にいいけど?まぁ場所にも寄るけどね・・・。
あまりにも遠かったら行かないぞ」
『本当かっ!?じゃあ場所は・・・』


・・・本当にここでイベントやってんのか?
休日のオフィス街の人通りは少なかった。
指定されたビルの周囲には人一人いない。というか・・・人のいる気配がしないのだが。

「えーっと・・・屋上に行けばいいんだよ・・・な?」

知らない会社の中に入るのは気が引けたので隣にあった非常階段の鎖を越えて月は屋上へと昇っていった。

6階ほど登ったところでやっと屋上についた。
しかし人一人見当たらない。

「・・・うげー。もしかして騙された?
しかし木の名前を使ってまでたいそれたことするよなー」

手の込んだいたずらに、怒りを通り越して関心してしまう。
・・・いや、そこまで手はこんでないか。普通怪しいと思うよな。
騙された俺が馬鹿だったのか。

今日はたまたま暇だったし、相手の暇つぶしにつき合わされてもそこまで怒りは感じなかった。
しかし、残念だったのが木の仕事っぷりを見られなかったことである。
同じ年数を生きたのに、すでに木は3年分の仕事経験を積んでいる。
その差がどれだけ出ているかこの目で見たかった。

丁度昼ご飯を食べてなかったので木に渡す分を食べようと思った。
屋上からの景色は他の大きなビルに囲まれてあまり良くなかったが空が少し近くなった気がした。
こういうところで食べる飯もオツだよなー。

コンクリートの地面にそのまま座りフェンスを向かいにコンビニの袋を開きにかかる。
とりあえず俺のチョイスでおにぎりとか買ってみたのだが・・・どれから食べようか。
やっぱり自分の食べたい物を選んでおいてよかった。

梅とツナで迷っている月の背後からなんとも抜けた声が聞こえた。

「今だー!!かかれー!!」
『うおぉぉぉぉ!!!』
「・・・は?」

それからのことは良く覚えてない。
男二人にのしかかられ、一悶着あったあと月はお縄にかかってしまった。
こんな縄に縛られて捕まるのって、漫画だけの世界だと思っていた。
見上げればスーツの男3人が月を見下ろしている。
歳は二十代後半といったところか。同じスーツ姿でもやはり彼らと比べれば木の方が若々しい。

「よーし、これで人質は完璧だ。
あとはこいつの携帯電話で木を呼び出すだけだな!」
「女の子じゃないのが残念だけどな」
「・・・ていうか・・・月って女じゃなかったのかよ・・・」

・・・なんか超失礼なこと言われているような気がするんですけどー!!

「ざけんなよ。
なんで俺の名前が女にみえる」

月の言葉を無視して3人は続ける。

「だよなー。あの木が女の名前登録しているわけないよなー」
「えー・・・流石に日環はしてんじゃないの?」

女の話題になると食いつきが良かった。
現金な奴ら。いや俺もだけど。

「日環っ!?誰だよそれ。木彼女いんのかっ!?」
「いや、日環って名前なかったぞ・・・」
「・・・断じて彼女じゃねーよ。俺が認めねぇよ」
「いや、今はそんな事を話している場合じゃない!
さっさと木に脅迫電話をかけるぞ!」

そういうと男達は月の鞄を探り始めた。

「おまっ・・・勝手に荷物に触るな!!」
「携帯見つけましたぜ!」
「よし、木にかけろ!!」

月は3人の行動をみて唖然とした。
なんとなく今の状況が理解できるような・・・できないような。
・・・むしろ、こんな自体が現実に起こるなんて理解したくなかったというか・・・。


  

++あとがき+++

ネタに詰まってこんな展開になるなんて私が理解したくなかった!!
本当はもっと青年不良漫画風の捕らわれ方でも良かったんだけどね。ここは平和的にいこう・・・と。

簡易人物紹介。

火乃(ヒノ、カノ):小学3年生の双子。火曜日の部屋に住んでいる。仲が良い。
水都(ミズト):大学1年生。某有名大学文学部。美人。え?休みの日にカート引いて出かける女の子の行き先なんて決まっているじゃないか。
土(ツチ):通称『ニート』。いつも愛犬『陽(ヨウ)』と一緒にいる。


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